二次創作小説(紙ほか)
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.138 )
- 日時: 2018/03/13 22:32
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
日が傾きかけていたころ、怪我の治療を受けるツバキの下に、マトイは現れた。
「姉さん!・・・怪我は?」
「平気、ツバキが守ってくれたんだものね?」
マトイはにこりと笑い、ツバキを見る。
「はあ、でも情けない弟だよ・・・
姉さん一人すらまともに守れないんじゃあ・・・」
「そんなことないわ、あなたがいなかったら私、今頃さらわれてたもの!」
ツバキはまたため息をつく。
よそ者と嫌っていた奴らに助けられ、自分は何もできず
満足に姉一人助けることすらできなかった。
情けない。
そうツバキはため息を何度も吐いてしまう。
「もう、ツバキ!ため息ばっかじゃダメよ!
にっこりと大笑いしなきゃ、助かったんだから!」
「あんまり名前を連呼しないでよ姉さん・・・
俺、「ツバキ」なんて名前、嫌いだ・・・・」
ツバキはがっくりとうなだれて泣きそうな声を出す。
ツバキとは、サザンカによく似た花で、赤い可憐な花である。
つぼみが膨らみ、花開き、散るまで美しい。
しかし、ツバキの花は花弁が個々に散るのではなく、
多くは花弁が基部でつながっていて萼を残して丸ごと落ちる。
その様子はまるで首を落とされた騎士のようである。
そしてツバキには香りがなく、陳腐であるとツバキは思う。
だが、マトイの意見は違った。
「何いってるの!ツバキって名前とっても素敵じゃない!
だからそんなこといわないで、ね?」
「だけど・・・」
「だけども神曲もないわよ!
お母さんがつけてくれた名前なのよ、そんなこと言ったらお母さんが悲しむわ!」
マトイは珍しく怒っている様子であり、その様子にツバキもたじろいだ。
「ご、ごめん・・・」
「それでカグラ殿、お話とは?」
テオドールは再びカグラに呼ばれ、カグラの屋敷へと訪れていた。
「うん、テオドール殿・・・相談があってね。」
「相談ですか?」
ああ、と頷くカグラ。
「昼間のワイバーンを操る魔道士と騎士の正体が分かった。
魔道士の方は「ソル・ラーミス・ガーレイ」、
騎士の方は「エイト・レーザー・グレイグ」。
どちらも連合王国で暮らす民間人らしい。」
テオドールは驚いて目を見開く。
「なぜ民間人がこの里を・・・!?」
「事情を聴いてみたが、「記憶がない」の一点張りで、話にならない。
おそらくどこかの魔道士にでも操られていたと睨んでいる。」
カグラはキセルを口にしてふうとため息をつく。
「操っている術者がもし、テオドール騎士団が狙いだったとすれば・・・
この先君たちの旅は、困難を極めることだろう。」
「・・・・それでも、私たちは進まねばなりません。姉上のためにも。」
テオドールはまっすぐカグラを見つめる。
カグラは無言で茶を湯呑に入れて、テオドールに差し出した後・・・
にっと笑う。
「君たちの意思はわかった。
・・・マトイを連れていってやってくれないか。」
「マトイ殿を?」
カグラは頷く。
「聞くところによると、マトイとルーネさんは仲がいいみたいだね。
それにマトイも良い年頃だ。
僕もマトイぐらいの時にティル・・・あいや、五人の英雄たちと
人助けの旅に出ていたもんだよ。」
遠い目で語り始めるカグラは、すぐにはっとしてキセルを灰皿の上にトントンと叩いた。
「まあ、マトイには明日出発の旨を伝えておく。
・・・マトイを雪里の使者として、よろしく頼むよ」
「・・・・はい。」
テオドールはそれを聞いて、短く返事をした。
翌朝、先行隊は里を出る際に、
マトイと、エイトとソルを連れていた。
「あいや、まさか自分でも知らない場所に来てるとは思わなかったぜ。」
ソルは笑いながら頭をぼりぼりとかく。
「・・・・うむ。」
エイトもそれに頷く。
操られていたとはいえ、彼らもかなりの手練れであろうと、
ディーノは頷いた。
「テオドール様、この先からは下り道ですので、
雪に滑らないようにご注意ください。」
マトイは下り坂を指さして説明する。
テオドールは頷いて騎士団たちに「防寒を怠るなよ」と指示を出した。
「姉さん!」
ツバキが里からマトイを呼び止め、マトイは振り向いた。
「無事で帰って来いよな!」
「ええ!またね、ツバキ!」
マトイはツバキに向かって親指を立てた。