二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.160 )
日時: 2018/04/14 23:43
名前: テール (ID: lQjP23yG)

第十一章 砂塵の司祭


大陸歴983年3月11日

当初の予定より早くアンヘル砂漠へとたどり着いたテオドール騎士団。
ここから野営を挟みつつ、2か月ほど歩けば、
ディクシィ帝国にたどり着ける。

しかし、アンヘル砂漠は、昼夜の温度差が激しい上に、
生物が生きていくには厳しい環境であった。
オアシスを探しながら渡ろうと思えば、かなりの日数がかかるのである。

しかし、テオドール騎士団は進むしかない。
ここを乗り越えなければ、姉を助けるはおろか、祖国へ帰ることすらできない。

テオドールはそう思い、皆に声をかける。

「皆!ようやく帝国が間近に見えてきた!
 だが油断するな、この砂漠は生物が暮らしていくには厳しい環境だ。
 心して進むぞ!」

騎士団は各々返事をして、テオドールはそれを確認する。


アンヘル砂漠は、元は広大な草原だったという。
しかし、邪竜ヒュドラの呼んだ冥竜ヴァイスの穢れた血が草原を穢し、焼いたため、
草原は焼け野原になり、そのまま命の恵みが実ることなく、砂漠化してしまった。
かつてここを守っていたクラシオンドラゴンはそれを嘆き、
この土地を離れてしまった・・・・という話をシーナはテオドールに説明する。


「「シェイミ族」は、かつてはたくさんいたんだけど、
 「災禍の時代」にほとんど殺されて、生き残りはほとんどいないんだ。
 その結果、この大陸は荒野ばかりの荒れ地になっちゃったんだって。」

アクライはうつむきながら語る。
それを聞いていたディーノは、無言でアクライの頭をなでる。

「!?・・・ディーノさん?」
「寂しくはなかったのか?」

ディーノはそう尋ねる。

「寂しい・・・シーナが一緒だったから、寂しくはなかったよ。でもさ」
「・・・?」

アクライは顔に影を落とす。

「皆を殺した邪竜は許せない。
 だから、邪竜を復活させるクラウスって人を、なんとか止めないと。」
「・・・・そうだな。」

ディーノは静かに同意をした。

ふと、ディーノはマトイを見る。
顔を真っ赤にして、汗をだらだらと流し、目は虚ろになっていた。

「マトイ」
「ど、したんですか、ディーノさ、ん」
「顔が真っ赤だ、調子は?」

マトイは精一杯笑う。

「だ、いじょう・・・ぶ」
「全然大丈夫じゃないよ!無理しちゃだめだって!」

アクライはマトイに肩を貸す。
おもむろにディーノは自分の着ているフードをマトイにかぶせた。

「王子!」

ディーノはテオドールの下に走っていった。

「ま、マトイさん、すごい熱ですよ!?
 どこかに教会とかは・・・」

シーナは慌てて周りを見る。
ルーネもマトイの様子に気づき、近づく。

「マトイ!・・・ちょっと待ってくださいね。」

ルーネは青い宝玉が埋め込まれた杖をマトイにかざし、回復を試みる。
しかし、マトイの表情は変わらず、呼吸が荒くなっていった。




「あそこに修道院があります、ひとまずあそこにマトイを!」

アルトが皆にそう伝令し、マトイを連れて修道院まで急いだ。

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.161 )
日時: 2018/04/16 21:50
名前: テール (ID: LAu9zylb)

修道院へとやってきた、テオドール一行。
修道院を管理する司祭は、テオドールたちを温かく迎えた。
事情を話すと、司祭の妹であるシスターが、マトイを連れて、
地下の涼しい部屋へ案内した。


「司祭様、ありがとうございます。」
「いえ、これも神竜アナンタのお導き・・・
 それに、人を助けるのは、私たち神官の務めです。」

司祭の「アルマ・グラーティア」はにこりと笑う。

緑の整った短い髪、白いマントの下に、緑色のケープ、白い服と
清楚な神官だと言う事がよくわかる。
瞳は赤く、丸いので、女性のようにも見える。


「先ほどユキメノコのお嬢様を診させていただきましたが、
 どうやら熱中症のようですね。
 あの方はどちらの出身で?」
「雪里ツワブキです。」

テオドールは答えると、アルマは頷く。

「なるほど、慣れない環境に来てしまったので、
 多分身体に大きく負担がかかってしまったんでしょう。
 3、4日程休めば、よくなると思いますよ。」

アルマはそういうと、笑顔を見せる。

「どうぞ、お嬢様の体調が整うまで、ご滞在くださいませ。」
「ありがとうございます、司祭様。」
「アルマで構いませんよ。」

アルマはそういうと、そこへアルマと同じく緑色の短い髪の少女が
部屋へと入室する。

「お姉ちゃん、マトイさんの容体が安定したよ。」
「ああ、「カーディ」。ありがとうございます。
 ・・・・ですが、私は男だと何度も・・・」

アルマは困ったように笑いながら「カーディ」を見る。

「・・・男性の方ですか?」

テオドールは驚いて尋ねる。
アルマはあははと力なく笑った。

「はい、顔と華奢な体つきのせいで、女性と勘違いされるんですよ・・・」
「なるほど・・・確かに、お美しい見た目ですし・・・」
「恐縮です・・・。」

アルマは照れながら笑った。














「なあ、ディーノ・・・ついでにジーヴァ。」
「ついでってなんでござるか」

ディーノは黙ってアッシュを見て、ジーヴァは半ば怒りながら返事をする。

「あのアルマさんって人・・・綺麗だよな。
 ・・・・付き合ってる人とかいるんだろうか?」

アッシュは顔を赤らめながら呟く。

「アッシュ、あの人は」
「はあ〜・・・こんな場所であんな花のような人に出会えるなんて・・・
 幸せだ・・・実に幸せだ!」

アッシュは目を閉じて空を見上げていた。
ジーヴァも呆れて頭を抱える。

「ディーノさん、真実を伝えるべきでござろうか・・・」
「ああなったら誰の声も届かん、黙るべき。」

ディーノは心底呆れている様子でため息をつく。
アッシュは空に向かって叫んだ。

「アルマさぁん!マイラーブ!!」










「ん?何か声が聞こえたような気がするけど・・・」
「?・・・私には何も聞こえませんでしたよ?」

ベッドに横たわるマトイの言葉に、首をかしげるルーネ。

「ああ、でも・・・ありがとうルーネ。身体もだいぶ楽になってきたわ。」
「だけど無茶はダメですよ、マトイ。
 あなたは雪国から急に降りてきて、この辺にはまだ慣れてないんですから。」
「あはは・・・」

マトイは苦笑いをしてごまかす。
ルーネはふうっとため息をつき、水の入った革袋をマトイに渡す。

「水分補給しないと、熱中症がぶり返しますよ。」
「ありがとう、ルーネ。」

革袋を受け取り、水を飲むマトイ。
身体は少し良くなり、起き上がれるようになったが、
これでもまだ立ち上がるとふらつくのである。

「でも、あと3、4日、皆さんにご迷惑をおかけするなんて、
 本当に申し訳ないって思う。」
「だったら、今は休んでくださね!」

ルーネは意地悪な笑顔を見せ、マトイの手に触れる。

「・・・・・はい。」

マトイはため息交じりに返事をした。

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.162 )
日時: 2018/04/16 22:26
名前: テール (ID: LAu9zylb)


「なあ、リース。」

ゼウラが作業中のリースの下へやってくる。
リースはちょうど銀を使ったお守りを作っている最中であった。

「ああ、ゼウラ・・・どうしたんだい?」
「あんたの「魔導球オーブ」をちょっと見せてほしいんだ。」
「・・・?」

リースは作業の手を止めて、ゼウラを見る。

「これのことかい?」
「それそれ、球体の中に魔力が入ってるなんて、初めて見たぜ」
「そりゃそうだよ、私が造ったからね。」

リースは笑いながら魔導球をゼウラに渡す。
魔導球は透明な球体の中に、炎が燃え続けている、なんとも不思議なものであった。

「すごい・・・これ、どういった技術でできてるんだ?」
「うーん、原理は魔導書と変わらないんだよ。
 ほら、魔導書は術のルーンが本に描かれていて、
 そのルーンの力を使って魔術を放っているだろう?
 それと同じで、魔導球は予めルーンを刻んだ・・・・」



そして、小一時間後・・・

「という感じで魔導球は、魔導書と同じく魔術が使えるというわけだが・・・
 ついてこれたかな?」
「ああ、すごい勉強になったよ・・・ありがとう。」

ゼウラがリースの話を聞いて目を輝かせていた。
リースもそれを見て笑う。

「君くらいさ、私の話を聞いて寝てなかったの。」
「確かに、興味がない人からすると眠くなるよな・・・・」

ゼウラは呆れて肩をすくめた。

「どうかな、ゼウラ・・・魔導球を造ってみないか?」
「えぇ!?できるのか!?」
「当然、開発者は私だしね。
 扱える者はいないが、一から作ってしまえば、簡単に扱えると思うよ。」

リースはそういうと、水晶玉と彫刻刀をとりだした。

「これとこれをこうして・・・」
「ふーん・・・」

リースとゼウラは、魔導球を作り始めた。















「よし、完成だ。」

ゼウラは喜びの声を上げた。
手に持っているそれは、風の力が渦巻く球体・・・魔導球であった。

「うん、いいカンジだ。
 ああ、でも、どういった魔法なのかわからないから、試してみよう。」

リースはそういうと、外へ出た。
ゼウラもそれを追いかける。




「あれに向かって魔術を放ってごらん。」
「あの、サボテンか?」

リースが指さす方向には、2m越えるだろう、巨大なサボテンがそびえたっていた。

「でかいな・・・」
「練習台には申し分ないさ。」

リースがそういうと、ゼウラは頷いて魔導球を天に掲げる。
風がゼウラの周りを渦巻いて、びゅおぉっという風の音が響く。


「マイトアトラス!」

ゼウラは脳裏に浮かんだルーンの情報を口に出し、魔術を放つ。
すると、サボテンの足元から巨大な竜巻が巻き起こり、天高くに渦巻いた。

「うおぉ!?」
「あれは調整ミスだな・・・クラルの改造魔術よりも強力だ。」

竜巻が止むと、サボテンは粉々に切り裂かれて、無残な姿になっていた。
そして、ゼウラの持つ魔導球も、バキっという音と共に、粉々に砕け散った。

「こ、壊れた・・・」
「うーん、多分強力な魔術のルーンに、水晶玉が耐えきれなかったんだろう。」

リースは唸りながら腕を組む。

「てことは、クラルの改造魔術って、ルーンを書き換えてるのか?」
「そうだね・・・だが手順を踏まないと自らの身を滅ぼすから、
 書き換えはお勧めしないよ。技師クラスの技術だからねあれは。」
「ちなみに、身を滅ぼすってどういった?」

ゼウラの質問にリースは肩をすくめる。

「例えば炎の魔術なら、身体が自然発火して、瞬時に灰になるし、
 氷の魔術なら、身体が凍り付いて粉々に砕けるよ。」
「・・・・・なるほど。」

リースの説明に、身震いするゼウラ。
リースがその様子を見て笑った。

「まあ、クラルにやり方を教わって手順を踏めば、
 ゼウラもできるようになるよ。」
「そのうち、クラルに教わるよ。この旅が終わったらゆっくりね。」

ゼウラは、はははっと笑った。