二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.181 )
日時: 2018/05/01 21:38
名前: テール (ID: AuRKGmQU)

第十四章 姉と弟


決戦直前、天幕にいたルカはタロットカードをさばいていた。
アリスはそれを見届ける。
ルカはタロットカードを10枚並べ、アリスに1枚引くよう促す。
アリスは言われたとおりにカードを一枚引いた。
そして、裏返す。

「死神の正位置じゃな。」

アリスはそうつぶやくと、カードをルカに渡す。

「もしかすると、この戦い・・・」
「いえ、所詮は占い。結果は神竜に祈るしかありませんよ。」

アリスはルカの言葉に「はっ」と笑う

「神など、所詮人間どもの事など気にかけてはおらんよ。
 奴らも自分のことしか考えぬ利己主義者じゃからな」

そして、アリスは半目で外を見る。

「王子よ・・・残酷な現実を受け入れられるか、お前さんに・・・・」









大陸歴983年6月26日

陽が沈み、月が地上を照らす。
月は鮮血のように染まり、深紅の光で全てが真っ赤に染まっていた。

「まるで災禍の再来ですね・・・」

アルトは辺りの景色を見てそうつぶやく。
邪竜がこの大陸を襲っていたときは、このような景色であったのだろうか・・・
テオドールも息をのむ。

テオドール騎士団は、帝都の城目前まで来ていた。
門の上にはバリスタ兵が待ち構えているが、こちらを見つけても攻撃をしようとしない。
それもそのはず、アリスの部下たちが既にバリスタ兵を制しているからである。
門も、テオドールの指示で即開ける様に手筈を整えていた。


「王子、こちらの準備は万事OKじゃよ。
 ・・・・火急だが、兵士を2万程集めることができたぞ。」
「十分です、ありがとうございますアリス殿。」
「・・・・いいのです、テオドール殿。
 これも帝国の安寧を願ってのことです。」

突然、アリスの口調が変わり、驚いて彼女を見るテオドール。
しかし、すぐにいつもの調子に戻る。

「そろそろ処刑の時間じゃ、急ぐぞ!」

アリスはそういうと指を鳴らした。
箒が飛んできて、地面に刺さる。

テオドールはそれに驚くが、表情を一変させ、剣を抜いて天に掲げた。

「騎士団諸兄姉!これより「帝都デュンケルト」に攻め込む!
 そして我らレヴィア王国国王セリカリーズを救出する!
 ・・・・全員、生きて帰るぞ!進軍開始ッ!!」

テオドールの宣言に、騎士団全員が咆哮を上げ、進軍を開始した。
テオドールは城を見る。
見上げると、断頭台が設置しており、その傍らに黒い魔道士と白いフードの女、そして・・・

「姉上!・・・今そちらに向かいます!」
「門を開けよ!戦の始まりじゃっ!!」

テオドールの渾身の叫びを合図に、アリスも門にいる兵士に合図を送り、
門が重く低い音を立てながらゆっくりと開き、
そこへ騎士団はなだれ込むように走り出す。




「国王陛下、あなたの弟君がこちらへ向かってくるようですよ。」

白い髪、青い瞳でテオドールたちを見下ろす黒い魔道士・・・
クラウスが、隣で兵士に取り押さえられているセリカに声をかける。

セリカは髪がほつれており、かなり汚れた姿であった。
生気のない瞳で、テオドールを見据える。

「テオ・・・・」

セリカはそうこぼした。


「ルル、奴らの足止めをしろ。」
「は・・・」

フードを深くかぶった女・・・ルルは感情のない声で返事をすると、
その場から猛スピードで走りだした。


「さて、君はどれほど私を楽しませてくれるかな?」

クラウスはテオドールを見て笑った。



Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.182 )
日時: 2018/05/01 22:10
名前: テール (ID: AuRKGmQU)


戦いは始まる、帝都の民たちは王国軍と帝国軍の戦いを見届けていた。
テオドールは先陣を切り、走っている。
その後ろには、ルーネも走っていた。

「テオ、私も行きます!」
「・・・わかりました、離れないでくださいね!」

テオドールはルーネにそういうと、全力で走る。





「行かせませんよ、テオドール殿下!」

そこへ、金髪と赤い瞳を持つ騎士・・・マグニスと
鋭い眼光でこちらを見る、鮮血のような赤い髪の騎士、シミターが
テオドールの前を立ち塞がる。

「てめえにゃ恨みはねえが、皇帝の命なんでな・・・
 ここで死んでもらうぜ。」
「どいてくださいっ!!」

テオドールは手にオーバカトラスを持ち、二人に切り込む。
だが、シミターがテオドールの剣を受け止め、その隙にマグニスが後ろをとる。

「っ・・・!」
「もらいました!」


ガンッと金属がぶつかる音が鳴り響く。

「久しぶりだな、お前ら。」

マグニスの剣を受け止めたのは、ヒスイであった。


「光の女神メリュジーヌよ、光彩を彼の者に放て!」

シミターに光彩が広がるが、シミターはそれを避ける。
その隙を狙い、テオドールはシミターに剣を斬り込んだ。
シミターはテオドールの剣を弾いて、後ずさった。

「殿下、ここは我らにお任せを!」
「兄様と私がいれば、ここを凌げます。陛下を・・・セリカをお救いください!」

二人は、テオドールの前に立ちふさがり、テオドールとルーネに前に進むよう促す。


「わかりました、ここは頼みます、ヒスイ!コハク!」
「お願いします!」

テオドールとルーネはそういうと、セリカの下へと走り出した。


「お久しぶりですねヒスイ殿。
 ・・・・あなたにお会いしたく存じておりました。」

マグニスはそういうと、腰から下げていた剣を抜く。
その剣は、明らかに膨大な雷の魔力が流れていることがわかる。

「・・・・「召雷剣ルベライト」か・・・!」
「ご名答、以前はこちらを使わずに申し訳ありませんでした。
 騎士として・・・いえ、私個人として・・・
 本気でお相手いたしましょう。」

マグニスの放つ殺気は、先ほどまでのものとは別物であった。
ヒスイはニィっと笑い、聖剣ウイルメックを構える。

「おもしれえ!」

コハクも魔導書を開いて、構える。

「俺もいることも忘れんじゃねえぞ・・・
 最近血に飢えてて仕方なかったんだよ・・・
 ヒャハハハハ!てめえの脳みその色を確かめてやるぜ!」
「なんと外道な・・・!」

シミターも剣を両腕に構え、戦闘態勢に入った。











テオドールとルーネはセリカの下へ向かい、階段を駆け上がる。
目の前に誰かが立っていた。

「・・・!ルル!」

ルーネがそう叫ぶと、ルルはテオドールに向かって突進する。


しかし、テオドールの前に、灰色のマントを翻した金髪の少年が
ルルの剣を受け止めていた。

「・・・ルクス・イルミナル・・・!」
「テオドール殿!早くセリカ殿の下へ!」

ルクスの喉が張り裂けんばかりの怒声に、テオドールは頷いて、
ルルとルクスの横を通り抜け、再び走る。


「行かせん!」

ルルはそう叫んで、テオドールに向かって短剣を投げつける。


しかし、短剣は投げつけられたピラムによって地に落ちた。

上空から青い鱗の飛竜・・・マリーに乗ったラーマがピラムを投げつけたのである。

「・・・ルル・・・!?」

ラーマは声を漏らす。
しかし、ルルは首をかしげる。

「誰だ、きさ・・・・っ!?」

ルルは突然頭を抱え、苦しんでいる様子であった。

「が・・・・ッ!!な、なん・・・・だ!?」
「こ、これは!?」

ルクスもその様子に驚く。
悲鳴を上げ、ルルが苦しみ始めたのである。
しかし、苦しみながらも、ルルはルクスに剣を向け、振り上げた。

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.183 )
日時: 2018/05/03 06:41
名前: テール (ID: xV3zxjLd)


アリスは箒に乗り、城の上空から天に手を掲げて、膨大な魔力を集めていた。
大地が震え、地鳴りが響き渡る。


「きひひっ・・・わしがなぜマジカルスターを名乗っておるのか・・・
 貴様らひよっこに教えてやろう。
 ・・・・それは、わしがこの大陸で一番の大魔法使いだからじゃよ!」

アリスはそう叫ぶと、背後から、空を覆い尽くすほどの星がゆっくりと迫ってきた。

「あ、あれは・・・!?」
「アルト、知ってるの?」

アルトは驚嘆の声を上げ、目を見開きそれを見る。

「「妖星の魔術プリズミックスターズ」ですよあれ!」
「なんかすごそうね・・・」

エルドゥは感心しながら、それを見る。


そして、星が落ち、帝国軍の兵士たちは悲鳴を上げて爆風で吹き飛ばされる。
不思議なことに、あれだけの大きな星が落ちたというのに、
クレーターどころか、地面には何一つ傷がなかった。


「ふん、一人も耐えられんとはな・・・ん?」

アリスはふと下を見る。
イアンとアイスの二人組と対峙しているテオドールの姿があった。

「ったく、まだあそこにおったんか・・・
 さっさと任務完了しろというに・・・」

アリスはため息をつくと、イアンとアイス、そしてテオドールの下へと降りた。








斧と剣がぶつかり合い、音を立てる中、
アイスの魔術によって、横から氷の塊が飛んでくる。
テオドールはそれを避けるが、疲労もあり、避けきれずに腕に命中し、
血が噴き出す。

「くっ・・・」
「ふん、この程度かレヴィアの王子よ」

イアンはかかっと笑う。
アイスは無表情で魔導書を開き、手を当てる。


「まったくじゃよ。」

呆れかえった声と共に、上空からアリスが降り立った。

「・・・!」

アイスはその姿を見た途端、青い顔をする。

「ったく、王子。さっさと国王を助けに行かんか!
 兵士を無駄に消費させるつもりか、このアホ!」
「す、すみません!」
「・・・・こやつらの相手をすればいいんじゃな?」

アリスはそういうと、箒の上であぐらをかく。

「星の神子よ、さっさと王子を連れてゆけ!
 こやつらの相手など、わし一人で十分じゃわ。」

アリスがルーネに向かってしっしっと手を振る。
ルーネは困惑していたが、

「は、はい!」

すぐに頷いて、テオドールを連れて走る。


「さて、と・・・・・
 あなた方は、名将「イアン・ラージェス・レイ」とその側近である
 「アイス・ラージェス・レイ」ですね?
 かつて立派な将軍と軍師であったあなた方がなぜこのような真似を・・・」
「・・・・誰かと思えば、アリスドール王妹殿下か。
 国を捨てた者が今更何の御用ですかな?」

イアンは鼻でアリスを嗤う。

「・・・帝国に安寧をもたらし、この聖戦という名の戦争を終わらせたいからです。
 私たちの敵はレヴィア王国やルフト・ド・ドレール連合王国ではないはずですよ。」
「・・・・知らんなぁ。俺の望みはただ一つ・・・この渇いた身体を血で潤すことよ!」

それを聞いたアリスは鋭い目つきでイアンを見る。
そして、手には開かれた魔導書があった。

「・・・・・時間の無駄じゃったわ。貴様、すまんがわしは今から怒るからのう・・・」

アリスは怒りを露わにしていた。
そこへ、階段を登ってきて、息を切らしている司祭が現れた。
アルマである。

「アリス殿・・・私も助太刀いたします。」
「よい、邪魔じゃ。」
「いいえ、私は彼を止めねばならない義務があります。」

アリスはそれを聞くと、はあっと心底面倒くさそうなため息をつく。

「しょうがあるまい、邪魔だけはするでないぞ」

アルマはそれを聞くと、魔導書を開き、キッとイアンとアイスを睨みつける。
イアンもそれを見て今まで以上に笑う。

「フハハハッ!面白い・・・・貴様らを嬲り殺してから、王子の相手をするとしよう。」

そういうと、イアンは斧を構えて、足を踏みしめた。
アイスも魔導書を開いて、二人を睨む。















テオドールとルーネは断頭台がよく見える場所まで走ってくる。
そこには、黒髪の紅い角のような髪飾りをつける、
青いマーメイドドレスを着た魔術師が二人の前に立ちふさがっていた。
魔術師は、赤紫色の瞳を持ち、白い目が黒く染まっていた。

テオドールは剣を握りしめる。

しかし、魔術師がそれを止める。


「待って、王子様・・・この先は罠があるの。」

魔術師の言葉に二人は驚く。

「・・・!?」
「あたしを信じて、こっちへきて。」

魔術師は手招きをして二人を誘う。


「テオ・・・あの方は信じてもいいと思います。」
「・・・?なぜです?」
「彼女、とても悲しそうな瞳でいましたから・・・」

ルーネがそういうと、魔術師の方へと急ぐ。
テオドールもそれについていく。




「こっち。」

魔術師に案内された場所は、断頭台の死角であった。
魔術師とテオドール、ルーネはその場にしゃがみ込む。


「二人とも、よく聞いて。
 まもなくセリカ陛下は断頭台に立たされる。
 そして、処刑人が二人ほどやってくるわ。
 ・・・その時がチャンス、あたしの魔術で処刑人を倒すから、
 その間にセリカ陛下を救出して。」

魔術師がそういうと、ルーネは尋ねる。

「あの・・・えっと・・・」
「あたし、「ベルダ・リベリア」。」
「ベルダさん、なぜ、私たちの手助けをしてくださるんですか?」

ルーネの質問に、ベルダはうつむく。

「・・・この戦争を終わらせたい。
 帝国の民は皆そう思ってるけど、それを口にすれば即処刑されるのが、
 今の帝国なの。
 あたしは・・・もう、あのクラウスとかいう男の傀儡になっている
 今の帝国が嫌なの・・・みんなきっとそう思っているわ。」

ベルダは、拳を握りしめる。
テオドールはベルダの拳を手に取って、彼女の目を見る。

「・・・終わらせてみせます、必ず。」

ベルダは慌てて手をひっこめた。

「・・・・て、手筈通りにお願い、ね。」


ベルダは明らかに動揺している声で後ろに向いてしまった。


Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.184 )
日時: 2018/05/03 23:16
名前: テール (ID: X9g0Xy3m)

「いくよ、「業雷ヘイルスパーク」!」

クラルは馬に騎乗し、魔導書を開いて、凄まじい稲妻を放つ。
そこをクララは、馬で駆け巡り、手に持つルーンランスで帝国兵たちをなぎ倒していった。

リースも魔導球を取り出した。

「アブソリュート!」

魔導球を天に掲げると、空気中の水分が凍り付き、巨大な霜柱を作る。



「奴らを叩け!これ以上好きにさせるな!!」

上空から黒竜に乗る騎士と、黒い翼を持つグリフォンに騎乗する騎士で編成する部隊が、
クラル、クララ、リースを狙い、急降下する。

「バリスタ、アーバレスト、撃ち方始め!」

その掛け声とともにバリスタ兵はバリスタから矢を乱れ撃ち、
アーバレスト部隊もアーバレストで竜騎士と鳥騎士を狙う。


「・・・・!?おのれぇ!!」

まだ撃ち落されていない竜騎士の隊長は、バリスタ兵を狙い急降下した。

「何っ!?」
「死ねぇ!!」

竜騎士が斧を持ってバリスタ兵を叩き切ろうと振り上げる。
しかし、その斧を風をきって放たれた矢が弾き飛ばす。
ルカが弓を放って巧みに竜騎士の武器を撃ち落したのである。

「油断は禁物ですよ。」

ルカはそういうと、竜の翼に矢を放ち、撃ち落した。









ウラノスネーバ隊は、別動隊の竜騎士と鳥騎士の舞台と交戦中であった。
空での戦いは激しく、どんどんと翼をやられ落ちていく騎士たち。

「皆!殿下達の下へと絶対に行かせるな!」
「はいっ!」「了解です!」

ファラの叫びに返事をする隊員たち。
より一層激しさを増す、空での戦闘。




「すまんな、元仲間たち」

地上にいたディーノは、物陰に隠れてウラノスネーバ隊を援護していた。
流木で作られた弓を引き、次々に矢で竜騎士と鳥騎士達を撃ち落す。
ウラノスネーバ隊に当てぬように気を付けながら、
自慢の視力を生かし、矢を放つ。


「スナイパーか!?」
「隙ありですよ!」

竜騎士がディーノの矢に気を取られている隙に、サラは斧を振り上げて、竜騎士を狙う。
竜騎士は槍でその斧を防いだ。

「小娘がっ・・・!」
「小娘ですけど、信念があるんですからっ!!」

サラに気を取られ、ディーノの矢が近づいていることに気づかず、
竜の翼に矢が刺さり、竜が墜落した。

「うおぉーっ!」

「ありがとうございます、ディーノさん・・・・」

サラは、ディーノがいそうな場所に頭を下げた。
ディーノはそれを見て、木陰から指を立てる。











状況は騎士団が優位に立っていた。
帝国軍は騎士団の圧倒的な力に押し負け、制圧も時間の問題であった。


「・・・・やはり、帝国軍など所詮この程度か。」

クラウスはそう笑うと、セリカの方へと振り向いた。

「陛下、そろそろ時間です。
 そうですね、命乞いの時間を差し上げましょう。
 ・・・・存分に騎士団の連中と帝国の民に聞かせて差し上げてください。」

クラウスはセリカにそう囁く。
セリカは兵士におされて、断頭台の目の前まで歩み寄る。
そして、帝都が一望できる場所で、下で戦う騎士団と帝国軍を見据える。

セリカは、すぅっと息を吸い込んだ。





「皆さん、聞いてください。」


「・・・・姉上?」

テオドールはセリカの声を聴いて、物陰からその様子を見る。
既に断頭台の前に立っていたセリカが、帝都に向かって訴えているようである。

「・・・まだ、好機ではないわ、陛下のお言葉が終わってから、
 あたしが合図を送る。」

ベルダがそういうと、テオドールは頷いてセリカを見る。






「皆さん・・・・聞いてください。」

セリカは、先ほどよりもゆっくりとした口調で、帝都を見下ろす。
帝都の民たちは、断頭台の前に立つセリカを見る。
騎士団も帝国軍も、セリカに気づいて戦っていた手を止めた。



「セリカ殿・・・?」
「・・・・?」

ルクス、ルルも打ち合っていた剣の手を止めて、断頭台を見上げていた。
ラーマもマリーも、静かにセリカの方を見る。

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.185 )
日時: 2018/05/04 11:11
名前: テール (ID: X9g0Xy3m)


セリカは、帝都全体に響くような声量を出す。


「かつて、私たちレヴィアとディクシィは、聖戦の名の下、
 長い戦いを繰り広げてまいりました。
 ・・・・なぜでしょう?

 私たちは同じ人間であり、同じ時を過ごしている同じ「人間」です。」

帝国軍はそれを聞いて、剣を振り上げる手を止めた。
そしてセリカの方を見る。

「皆さんには共に笑い、泣き、悲しみ、喜べる時間があったはずです。
 親切にしてもらった事とか、一緒に物を食べたりとか・・・
 私の知っている友達は、傲慢だけど心優しく、文句を言いながらも
 誰かのために戦うんです。」

ティシャルは弓を引く手を止めて顔を赤らめる。

「皆さん、思い出してください。
 私たちは姿は違っていても、楽しい時は笑い、悲しい時には涙を流します。
 それはなぜか・・・私たちは姿は違っても同じ人という種族だからです。」

セリカは瞳を閉じ、深呼吸をする。

「私の命で、この悲しい戦争が終わるのであれば、
 私はこの断頭台に喜んで立ちましょう。
 ・・・・ですが、最後に皆さんにお願いがあります。」

セリカは決意に満ちた表情で、宣言した。


「これ以上、戦争を続けないでください。
 私の命が、この戦争の最後の犠牲として・・・
 この戦争を終わらせてください。」



セリカがそう言い終えると、クラウスは右腕を掲げる。

「陛下を断頭台へ。」

兵士が二人現れ、セリカを断頭台へ連れていく。


「蝕を知り来れ、死を纏う冥府の使者!」

ベルダはテオドールに合図を送り、魔導書を開いて魔法を放つ。
黒と紫が混じりあう大鎌を持った、ボロボロのフードを羽織る骸骨が現れ、
鎌を振り上げた。

「何っ!?」

兵士は驚き、骸骨を見る。
テオドールはそこへ剣を持って二人の兵士に斬り込み、なぎ倒す。

「ぐわっ!」「ぎゃあっ!」

ベルダは魔導書を閉じて、ルーネの手を引く。


テオドールは、セリカを断頭台から引きはがした。

「姉上!」

セリカを立たせ、瞳を見る。
セリカはテオドールを見据え、安堵の笑みを浮かべた。


「テオ・・・よく無事で・・・!」
「姉上、よかった・・・怪我は?」
「大丈夫ですよ」

テオドールは剣を使い、セリカの手枷を叩き割る。
そこへ、ルーネも走ってセリカに抱き着く。

「お姉さま・・・・!よかった、無事で・・・本当に!」
「ルーネも、心配をかけましたね・・・」

テオドールはセリカの手を引く。

「みんな姉上の帰りを心待ちにしております。
 共和国や連合王国、帝国の有志が協力していただいたんです。」

セリカはそれを聞いて、下を見下ろす。
セリカを待つ兵士たちが、今かと待ち構えていた。

「行きましょう!」

テオドールはセリカの手を引いて、階段を下りる。
ルーネもベルダもそれについていった。




「く・・・・くく・・・逃がさんぞ・・・・」

クラウスは黒いフードで顔を隠す人物に手をかざし、
その人物は魔導書を取り出し、開く。









「陛下!」
「よくご無事で!!」

テオドールがセリカを連れて騎士団の元まで戻ってくる。
アルトとエルドゥが迎え入れてくれた。


「ふん、やーっと戻ったかえ。」

アリスは腰に手をあててふんっと鼻息を吐く。

「そうと決まれば長居は無用じゃ!」

アリスは軍に大声で撤退を呼びかける。




「テオ、危ない!」

セリカがそう叫んでテオドールを思いっきり押し倒す。
テオドールは一瞬何が起きたか理解できず、セリカを見る。


「え・・・・っ」

テオドールは返り血を浴びる。
その場にいた全員が、その光景を見る。
テオドールは、その光景を見て、全身を大きく震わせた。

セリカの身体が、大きな氷の槍で貫かれていたからだ



「あ・・・・あ・・・・・・っ・・・・
 姉上ぇぇぇぇーーーーっっ!!」