二次創作小説(紙ほか)
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.186 )
- 日時: 2018/05/04 18:19
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
第十五章 戦いの終わり
騎士団は、アリスのアトリエがある村まで戻ってきていた。
王国軍はというと、セリカを失い、声を押し殺して泣いている者がいた。
アルトは涙を服の袖で拭い、エルドゥはアルトの肩を優しくたたく。
声をかけられず、自分も泣きたい気分ではあったが、
アルトは軍師という責任と、使えるべき主君を守れなかった悔しさから、
涙を抑えきることができずにいる。
その様子を見て、無言でアルトの傍にいてやることしかできないでいた。
「う・・・ぐぅ・・・陛下・・・・ううっ・・・」
アルトは大粒の涙をこぼし、軍師としての責務を全うできなかった自分に悔しさすら覚えた。
「アルト・・・」
エルドゥはただ悔し気に涙を流すアルトを見守ることしかできない自分に、
自分を騎士に選んでくれた恩を返せなかったという後悔と共に、
腹が立った。
リースは一人、ベッドの上に座り、窓から差し込む深紅の月光に照らされていた。
リースは手に持っている金でできた指輪を見る。
「・・・・結局、渡せなかったな。」
リースはそうつぶやくと、指輪を握りしめ、額に当てる。
「ごめん、セリカ・・・」
リースはそうつぶやいて涙を一筋、流した。
「失敗じゃよ、セリカリーズ陛下を助けれなんだわ。」
アリスは、壺にある水に映るルーレフと会話をしていた。
水に念を送ることで、鏡のある場所と通信ができる魔術である。
<・・・セリカの最後は?>
「弟を守って死んだ。・・・あんな大きな氷の塊がぶっ刺さったんじゃ、
まごうことがあるまい。」
アリスはふうっとため息をつく。
<すまんな、重荷を背負わせて>
「重荷・・・そうじゃな、弟にとっては重荷じゃろうよ。
まだ17歳の少年で、肉親が全員死んじまったんじゃ。
・・・・気をしっかり持てなど軽々しく言えんよ。」
アリスは、顔に影を落として、低い声でつぶやく。
<そうか・・・そうだな。
ティシャルにも、弟君を責めないでやってくれと伝えてくれ。>
「あの青髪の貴族かえ?・・・よかろう。」
アリスがそう返事をすると
「聴こえているぞルーレフ。」
ティシャルがその場へ割り込んだ。
<おう、ティシャル!元気そうだな。>
「俺はティラトーレの公子だ、死ぬわけがない。
・・・・弟を責めても、セリカは戻ってこない、それくらいわかっている。」
ティシャルはそういうと、ため息をつく。
「だが、弟を守るために自分が死んでしまうなんて・・・な」
「・・・・ルーレフや、誰を責めても解決にはつながらんよこんなもん。」
<俺は大丈夫さ、割り切ってはいるからな・・・・ただ・・・・>
ルーレフは今迄誰にも見せたことのない暗い表情でつぶやく。
<もう一度会って話したかったよ、昔みたいに釣りに行ったり、
かくれんぼしたり、一緒に飯食ったり、剣の訓練したりさ・・・。
悔しい・・・・なあ・・・・>
「殿下・・・」
コハクが心配になってテオドールの部屋の前に来ていた。
テオドールは、目の前で姉が殺され、放心状態になっていたからである。
「コハク」
ルーネがドアの前にいるコハクに声をかけた。
「ルーネ様・・・」
「私、テオのためにおにぎりを作ってきました。
・・・・コハクもお姉さまのことがありますし、ゆっくり休んでください。」
ルーネがにこりと笑う。
瞼は赤く腫れていたので、きっと泣き明かしたんだなと悟る。
「わかりました、ではお願いします。」
コハクはそういうと、頭を下げ、その場を離れた。
そしてルーネは、テオドールの部屋のドアをノックする。
「テオ、夜食を持ってきました。・・・・開けてください。」
ルーネはそう声をかける。
しばらくして、中からテオドールがドアを開けた。
「ルーネ・・・」
「テオ、夜食を作ったんです、食べてください。」
「・・・・。」
テオドールの表情は、何とも言えないものであった。
怒りたい気持ちと、泣きたい気持ち、苦しい気持ち・・・すべてが混じったような表情である。
ルーネは、テオドールの部屋に入ると、テーブルにおにぎりをおいて、
部屋を出ようとした。
「待って・・・っ!!」
「えっ・・・?」
テオドールに、背中から抱きしめられ、驚くルーネ。
テオドールの身体はガタガタと震え、ルーネに伝わる。
「このまま・・・おねがい・・・ひとりにしないで・・・・」
テオドールは振るえた声でルーネに抱き着く。
ルーネはテオドールの腕に手を触れて、頷いた。
「・・・・はい、気が済むまで。」
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.187 )
- 日時: 2018/05/05 21:54
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
そして長い夜が明け、朝日が昇った。
「どんな夜も、必ず朝が来るもんだな。」
ジョリーは朝日を眺めて腰に手を当てる。
隣にいたフィーも腕を組んだ。
「そうだな・・・・これからどうすんだろうな、この騎士団は。」
「・・・・そりゃ、王子が決めることだ。
俺達は待つことしかできんよ。」
ジョリーはふうっとため息をつくと、くるりと回って歩き出す。
「どこ行くんだ?」
「朝飯作ってくるだけだ。」
ジョリーはそう笑うと、ゆっくりと歩いて厨房に向かった。
フィーは再び朝日を眺める。
「・・・・俺と同じ穴に落ちるなよ、王子・・・」
アリスは、テオドールの部屋にやってくる。
テオドールは着替えが終わり、アリスに深く頭を下げた。
「王子、これからどうするんじゃ?
・・・・復讐しにいくか?」
テオドールは無言で首を振る。
「復讐などに意味はありません。
・・・・姉上は最後にいっておられました。
「戦争を終わらせてください」と。
今日は、皇帝陛下にこのくだらない戦争を終わらせるように交渉します。
でないと、私のような人間が増えてしまいますから。」
アリスは黙って聞いていた。
そして、頷いてニッと笑う
「いいでしょう。私もあなたに協力いたします。
現皇帝「ベリスデイン・ジ・ディクシィ」と会談し、
この戦いを終わらせましょう。」
「はい。」
テオドールはそう返事をすると、部屋から出ていく。
「セリカ、あなたの弟は・・・もう立派に育っていますよ。」
アリスは窓から見える空に向かって、そうつぶやいた。
そして、陽が高く上った頃・・・
騎士団は少数名で再び帝都の城までやってきていた。
そこにはアルト、エルドゥ、ラーマ、そしてルーネがいた。
門番の兵士二人は、昨日のことがあってか、警戒する。
「テオドール殿下・・・・あなたがここにくるということは・・・」
「私たちは皇帝陛下と会談をするべく参りました。
戦うつもりはありません、武器をお納めください」
門番二人は互いの顔を見合わせる。
「・・・・少々お待ちください。」
門番の一人がそういうと、どこかへ去っていった。
しばらくして、兵士が戻ると、門がゆっくりと開く。
「陛下からの伝令です。
陛下自ら、殿下にお会いしたいとのことです。
どうぞ中へ。」
騎士団は、兵士の案内のまま、中へと入っていった。
謁見の間に案内され、紫の髪の皇帝が王座に座る。
顔は幼いが、テオドールと同年代であろう、若い皇帝であった。
紫色の髪を中分けし、額に金色のサークレットをつけている。
赤い瞳は凛々しいが、幼さも感じる。
高貴なマントに高貴な服・・・まさに皇帝と呼ばれるにふさわしい身なりであった。
テオドールは跪いて、首を垂れる。
「お初にお目にかかります、「ベリスデイン」皇帝陛下。
私はレヴィア王国第一王子「テオドール・ルツ・レヴィア」と申します。
此度は謁見のお許しを頂き」
「いや、固くならなくていい、楽にしてくれ。」
ベリスデインはそういうと、テオドールの前にゆっくりと歩み寄り、膝をついて頭を下げた。
「陛下!?」
「謝罪するのは、私の方ですテオドール殿。
・・・・私は君の姉君をこの手で殺してしまった罪がある。
なんと詫びればよいか・・・」
テオドールはそれを聞いて驚く。
「く、詳しく教えてください!」
テオドールはベリスデインの肩を掴んですごい勢いで揺さぶる。
ベリスデインは頷いた。
「・・・・あの「クラウス・アイン・フェルマー」は、
実は私が正式に宮廷魔術師として任命したわけではないんだ。
私は宰相に紹介され、クラウスの目を見た途端、意識がなくなり・・・
あとははっきり覚えていないが、クラウスに操られていたんだと思う。
・・・・君の姉君に魔法を放った時点で、私は正気を戻し、
君が姉君を血まみれになり抱きしめているところをみて、
・・・・本当に、なんと詫びをすればいいかわからない・・・・
だが、本当に・・・申し訳ありませんでした。」
ベリスデインは再び、謝罪する。
テオドールは首を振って、ベリスデインを見る。
「いいえ、誰に何を言われても・・・・姉上は戻ってはきません。
もちろん、私がこの手で殺めた帝国の兵士たちも・・・」
「それは・・・」
「だからこそ、私はここにきました。」
テオドールはベリスデインの目を見る。
「この聖戦という名の残酷な戦いを終わらせましょう。
「ベリスデイン・ジ・ディクシィ」皇帝陛下・・・・。」
ベリスデインはテオドールの言葉を聞いて
「・・・・わかりました。
これを以って、我がディクシィ帝国は他国への刃を納め
レヴィア王国、ルフト・ド・ドレール連合王国・・・
そしてディーテ共和国との同盟を結ぶことをここに宣言する!」
ベリスデインの言葉に、兵士たちは歓喜の声をあげた。
「・・・テオドール殿、あとでお話があります。
使用人に案内させるので、すぐには帰らないでほしい。
・・・それから、戦争終結を記念に、披露宴を開こうと思う。
君の部下たちもぜひ参加してくれ。」
テオドールは頷いて、騎士団に伝令した。
アリスはその様子を見て、にーっと笑う。
「ふん、バカ息子のくせにやるではないか♪」
そして、テオドールは侍女に案内され、ある部屋へと入る。
そこにはベリスデインがテオドールを待っていた。
「陛下、お話とは?」
「うん・・・・実は、まあ、その・・・」
ベリスデインは顔を赤らめてもじもじし始める。
そして、決意したかのようにテオドールの目を見る。
「その・・・僕と友達になってくれないかっ!」
「・・・・・えっ」
テオドールは唐突のベリスデインの願い出に、驚いて間抜けな声を出す。
「・・・・僕は友達がいなくて、ずっと父上の傀儡として
皇帝になるための勉強をしていたんだ。
・・・・「友」など不要だとか、「他人」は帝国の安寧のための道具だ
・・・・そうやって教えられたけど、僕は違うと思ったんだ。
信じる友達がいないから、クラウスに簡単に操られたり、
帝国を明け渡したような状態を作ってた。
君は、僕にないものをいっぱい持ってるし、
僕より立派に兵士を引っ張ってる。
だから、君にいっぱい教えてもらいたい。
「仲間の大切さ」「勇気」「信じる心」っていうのを・・・
だから・・・だから、まず第一歩に、友達から始めたい!」
テオドールは黙ってそれを聞いて、ベリスデインの手を握り、
握手を交わした。
「当然だよ、友達になろう、ベリスデイン殿。」
「・・・・「ベリス」って呼んで、長いだろうし。」
「・・・・ベリス!」
「はい!」
ベリスとテオドールは顔を見合わせると、
ははははっと大笑いをした。
「僕も「テオ」って呼んでくれ・・・・
僕には何もないけれど、君の力になれるなら・・・・」
「ありがとう、テオ・・・」
テオドールとベリスが微笑みあっていた。
「男二人でにやついて・・・気味が悪いなぁ」
ドアの隙間からその様子を見て一言こぼしたのは、
こっそりついてきていたメルであった。