二次創作小説(紙ほか)
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.191 )
- 日時: 2018/05/07 20:51
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
第十六章 闇の胎動
「テオ〜!」
テオドールの名を呼ぶのは、ニナであった。
長きに亙った「大陸聖戦」が終結し、大陸の関係性は思ったよりもすんなりと
外交問題は解決していった。
そしてかつてのように、全ての国を渡れる連絡船が通れようになり、
貿易などの商業も諍いなく進めることができた。
テオドール騎士団はというと、披露宴に参加した後、
それぞれの故郷へと戻り、自分たちの仕事を為している。
騎士団へと正式に加入した兵士たちは、レヴィア王国の騎士として
立派に責務を果たしていた。
ニナはというと、ラーマの養子という扱いで騎士団の手伝いをしている。
だが、まだまだ子供のため、王都ナーガラージャ内の学校に通って、
勉学に励む毎日であった。
そんなニナは、今日は休みであり、テオドールに勉強を教えてもらおうとやってきていた。
「テオ、勉強を教えてほしいのです。」
「うーん、今日はちょっと・・・」
テオドールは口をつぐむ。
ニナはその様子を見て首を傾げた。
「なんでです?」
「今日は任務があってね。・・・・最近、精霊の森近くで、
黒い魔道士を見たという情報を・・・あっ」
ニナがぽかんとした顔をしているので、テオドールは慌てた。
「と、とにかく!大事な用事があるから・・・っ
今日は教えてあげられないんだ・・・ごめんね。」
「・・・・わかったのです、だったらルーネに教わるのです♪」
ニナはそういうと、ルーネの部屋へと駆けていった。
「・・・・さて、任務に行かなくては・・・。」
テオドールはそういって、足を急がせた。
精霊の森・・・
生命の乙女「フローラ」が守っているといわれる広大な森。
年中花と木々がすくすくと育ち、そこでしか見られない花などが咲いている
大陸で唯一の生命溢れる森林である。
そこに最近黒い魔道士がいるのを見たという情報を得て、
レヴィアの騎士たちは精霊の森へと調査に来たのである。
「殿下・・・今のところは異常はありません。」
「油断するな、相手は幻惑魔術を得意とする魔道士だ・・・」
テオドールは皆にそう伝える。
王国軍や連合王国の民間人、帝国軍の騎士達を手玉に取るほどの男だ、
下手をすれば仲間が敵となり、牙をむくことは十分にあり得る。
「皆、気を引き締めるんだ!」
各々返事をして、前に進む。
ふと、花畑へとやってきた。
テオドールは、騎士達の足を止める。
「ここは、乙女の領域だ。・・・足を踏み入れることはない。」
テオドールは皆に引き返すよう伝え、今日の巡回はここで終わった。
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.192 )
- 日時: 2018/05/07 21:28
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
巡回から戻ったテオドールは、すぐさま次の軍議を執り行うため、
会議室へと向かっていた。
「ああ、殿下。もどっておいででしたか。」
テオドールを呼び止めたのは、アルトであった。
アルトは、前の紫紺色のローブを脱いで、
頭には天使の翼を模ったサークレット、純白の鎧を着て、純白のマントを纏った聖騎士の姿であった。
体型がはっきりと見えるため、テオドールは今迄男性だと思っていたので、
当初は驚いていた。
「アルト、どうかしましたか?」
「いえ、とくには。・・・・あれからもう二か月たったんですね。」
アルトは窓の外の空を見上げる。
テオドールもつられて空を見上げた。
「そうですね、早いものです。」
「そういえばご存知ですか?
メルシアとゼウラ、ジョリーがハイランド公国を復興しているらしいんですよ。」
テオドールはへーっと感心する。
「ハイランド公国が復興した暁には、殿下をお呼びすると便りに書いてありました。
・・・・あとですね、ウラノスネーバ隊からも便りが来ています。
それから・・・」
「アルト、そろそろ軍議が・・・」
テオドールの言葉に、アルトははっと気づいて慌てた。
「あ、そ、そうでした!・・・・会議室に向かいましょう。」
軍議が終わり、日もすっかり暮れていた。
「戦争が終わっても、やることは山積みですね。
殿下がいつしか正式に戴冠する日まで、僕・・・えと、私・・・えと・・・」
「今まで通りでいいですよ、アルト。」
「あ、はは・・・」
テオドールの優しい眼差しに、アルトは照れながら笑う。
そしてそこへ、エルドゥとラーマがやってきた。
エルドゥは、将軍の鎧をまとい、かなり動きにくそうではあったが、
エルドゥは特に支障がないようにも見える。
ラーマは、右肩に垂らしていた髪を後頭部から下げ、
鎧も銀色に光る、まさに竜騎士団団長にふさわしい風貌であった。
「殿下、お疲れ様です!」
「これからお休みになられるので?」
ラーマの質問に、テオドールは首を振った。
「いえ、休んでいる暇はありませんよ。
・・・・正式に国王になる日までに、この国の政治を善くしていかなければ。」
テオドールは拳を握りしめる。
エルドゥは慌てて手を振った。
「いえ、殿下!そんな切羽詰まってたら、国民まで険しい顔になっちゃいます!」
「今日は我々が殿下の仕事を受け持つんで、どうか殿下は休まれてください。」
ラーマがそういうと、テオドールは慌てる。
「いや、そういうわけには・・・!」
「嫌って言ってもダメです、殿下はここ1か月ご多忙じゃないですか!」
「そうそう!・・・てことでアルト、エルドゥ、いくぞ!」
3人はそういうと、歩いて立ち去って行った。
一人残されたテオドールは、ふふっと笑う。
「ありがとうございます、3人とも。」
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.193 )
- 日時: 2018/05/09 11:43
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
一方、ルーネの部屋では
ニナとルーネが勉強をして、休憩をしている最中であった。
「ルーネには、ママやパパはいないのです?」
ルーネは仰天して目を見開いた。
「・・・ど、どうして?」
「だってルーネって、ママやパパの話をしないのです。」
「うーん、誰にもいう必要がないからかな・・・」
ルーネは困ったように笑った。
「聞きたいのです、聞かせてくださいです!」
「・・・あんまりいい話でもないんですけどね」
ルーネはニナに押し負けて、話し始めた。
「そうですねぇ、私はネフィーア領のネフィーア伯爵の娘だったんです。
あ、ネフィーア領はこの王都ナーガラージャのすぐ隣にある領地で、
今は領主の席が空いている空っぽの領地なんです。」
「誰もいないのですね!」
「誰もいないってわけじゃないですけど、上に立つ人間がいないだけですね。」
ルーネは手を振って笑う。
「私は10歳になって、ファータ教国で5年間神子の修行をしていました。」
「みこのしゅぎょー?」
ニナは首をかしげて尋ねる。
「ニナは竪琴の練習をしますよね。私たち伍色の神子も修行をして、
邪竜を封じ込める力を強めるんですよ。
そしてその一生を賭けて、邪竜を封じ続けていくんです。
そして私たちが死ねば、次の聖痕を持った神子が生まれてくるんです。
・・・ですが、聖痕を持った神子はすぐには生まれてこないんです。
早くても1年以上はかかってしまうんです。」
「どうしてですか?」
「うーん、まあ勉強の一環として教えますね。
私たち人間はそれぞれ魂を持っているんです。
魂は消えることはなく、この世界を回り続けます。
魂を授かり、この世に生まれ出で、人生を送り、死して魂は天に還る。
そして還ってきた魂は、神様たちが記憶ごと浄化します。
浄化された魂はまた別の人間に授けられ、別の人生を歩みます。
これが「輪廻転生」と呼ばれるものですね。」
ニナは「へぇ〜」と声を出して関心を持つ。
ルーネは人差し指を立てる。
「この「輪廻転生」で次の神子が生まれてくるのが遅くなるんですよ。
だからこそ、神器が必要なんです。
正確には神器に埋め込まれている宝玉が現存していれば、邪竜は不完全なんです。
そして、神子の力というのは、人々を正しく導いていく力、
神竜から授かった光の力なんです。
神聖魔法とは違う、神竜そのものの力と言えますね。」
ルーネはふうっと一息ついて、笑う
「かなり脱線してしまいましたが、まあ、15歳になるまで私は修行をしていました。
・・・15歳になって故郷に戻ってみると、父様と母様は亡くなっていまして・・・
私は、食べ物がのどを通らないほどのショックを受けてしまいました。」
ニナはそれを聞いて、うつむく。
「ニナ、と、一緒です・・・」
「ううん、そんな私に手を差し伸べてくれたのが、セリカお姉さまとテオなんですよ。
・・・二人がいなければ、私は・・・・」
ルーネは首を振って、ニナににこりと笑って見せる。
「まあ、概ねこんな感じのお話ですけど・・・
つまらなかったでしょう?」
「ううん、ルーネの事をより知れたのです!
それに、いっぱい勉強になったのです、ありがとうです!」
ニナはにっこりと笑って両手を広げた。
ルーネもつられて笑う。
「・・・杞憂だったか、もうなかよしだな。」
テオドールがルーネの部屋の前で聞き耳を立てて安心したように
ふっと笑っていた。
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.194 )
- 日時: 2018/05/09 13:48
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
次の日の朝・・・
「やっほ、テオ。」
テオの部屋に入ってきたのは、メルであった。
前のローブとは一変し、賢者の聖衣を羽織っていた。
「メル!・・・・その聖衣は「アークセイジ」のものだね?」
「そうなんだよ〜」
メルはにこりと笑う。
メルは披露宴の後、一旦ファクトライズ公国へ戻り、
弟プラタの手助けをした後、ファータ教国にて「アークセイジ」の叙勲を受けた。
その後、ズィルバー領へと戻ってきたのである。
「いやぁ、2か月って早いね。
・・・・セリカ姉も今のテオを見たらきっと、喜んでたと思う。」
「よしてくれ・・・まだ姉上には及ばないよ。」
「ははは、君らしいや」
そしてメルはふと真顔になる。
「テオ、ファータ教国で耳にしたんだが・・・」
「どうしたんだい?」
「いや、あの、アタール閣下の息女のシアンが、誘拐されたって・・・」
「!?」
テオドールはメルの肩をつかみ、揺さぶる。
「どういうことだ!?」
「お、落ち着いてテオ!・・・今ルクスって人が助けに行ってるらしいんだよ!」
「・・・ルクスが?」
テオドールははあっとため息をついて、メルを放す。
「でも油断しない方がいい。
・・・嫌な予感がする、何か悪いことが起きなきゃいいんだけど・・・」
メルは顔をこわばらせた。
テオドールも頷いた。
「殿下ッ!!」
そこへ部屋に傷だらけの兵士がなだれ込む。
傷口から血を流し、荒く安定しない呼吸で膝をついていた。
「どうした、その傷は・・・!?」
「し、侵入者が・・・ルーネ様の部屋に!!」
テオドールは驚き、すぐさま部屋を出ていき、走る。
「ちょ、テオ!」
ルーネの部屋へと来る途中、兵士達の首元には矢が深く刺さっており、
血を流して倒れていた。
テオドールは爆発しそうな焦燥に胸を押さえつけ、荒い呼吸でルーネの下へと急ぐ。
テオドールがルーネの部屋を勢いよく開けると、
そこはもぬけの殻であった。
「る、ルーネ・・・・っ・・・」
テオドールは目を見開いてその場に座り込む。
全身がガタガタ震え、力が入らなかった。
まるで、セリカが目の前で死んでしまった時のような・・・・
「はっ・・・はっ・・・・」
呼吸ができないでいた。
- Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.195 )
- 日時: 2018/05/09 21:13
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
テオドールは目を覚ます。
「・・・ここは・・・・」
「よかった、テオちゃん・・・」
クララがにこりと笑ってテオドールの顔を覗き込む。
テオドールの私室で、クララが介抱してくれていたようである。
「・・・・ルーネ・・・そうだ、ルーネは!?」
「落ち着いてテオちゃん!
・・・今、騎士団が捜索をしているわ。」
「・・・・私も・・・・っ!」
テオドールは起き上がって、ベッドから降りて走り始める。
「ちょっと、王子様!いきなり走ったら・・・・・!」
そこへ部屋の前に待機していたクラルがテオドールを止める。
しかし、テオドールはクラルを押し退けて走ろうとする。
「ルーネは・・・ルーネは僕が守らないと・・・!!」
「落ち着くんだ、殿下。」
そこへ、リースも現れ、テオドールを落ち着かせようと、両肩をつかむ。
「冷静になれ・・・君がそんなことでは、騎士団も気が気でない。
君はセリカリーズ国王陛下の弟であり、今は国王代理なんだ。」
リースはそういってテオドールをなだめる。
「・・・・・。」
テオドールは、深呼吸をして落ち着こうとした。
今レヴィア王国の国王の席は空席となっている。
それは、テオドールが国王になるのはまだ早いという判断の下、
宰相が「国王代理」という立場を提案し、それを受け、
テオドールの今の立場は、「国王代理」なのである。
「すみません、リース」
「いや・・・・君の気持ちは大いにわかる。
大切な人が急に居なくなると、どうしていいかわからなくなるからね。」
リースはそう笑みを浮かべると、テオドールも安心したかのように、
リースの顔を見る。
「・・・・ルーネ殿を連れ去った人物の目撃情報が入った。
これは騎士や侍女、大勢の人間がその人物を見たというから、これは確定だと思う。」
リースはそういうと、ふうっと息を吐く。
「ねえ、兄ちゃん・・・誰なの?」
クラルはリースの様子に心配そうに尋ねた。
「・・・アリスドール・ジ・ディクシィ王妹殿下は覚えているな?」
「はい。」
リースは少し考え、決意した表情で口を開く。
「アリス殿の弟子、「ルカ・アストロロージア」が、ルーネ殿を連れ去った可能性が高い。」
「ルカ殿が!?」
テオドールは驚いて一歩後ずさった。
「・・・黒髪の弓兵だったと聞いたからね・・・間違いはないと思う。」
「それは本当ですか!?」
突如天井から声と白い何かが落ちてくる。
「うわっ!?」
クラルが驚いて、その白いものをよく見ると、マトイであった。
マトイは叙勲式を終えた後、雪里ツワブキに戻り、
旅での経験を生かして、村の発展に役立てたりしていた。
そんなマトイがなぜ今ここにいるのか・・・
「マトイ、なぜ君がここに?」
「いえ、ルーネに会いに来てて、忍者らしく天井から降りてきてびっくりさせようと思ったんです。
・・・・ルーネが攫われたって、本当ですか!?」
マトイはリースの両肩を掴んで、顔を近づける。
「本当だよ。・・・部屋はもぬけの殻だった。」
「・・・・ルーネ・・・」
マトイはうつむいてしまった。
「なんでルカちゃんは、ルーネちゃんを連れ去ってしまったのかしら?」
クララはそうつぶやいて頬に手をあてると
「ルカがクラウスの内通者だったんじゃよ」
突然、アリスが廊下を歩いてやってくる。
テオドールは驚いてアリスに迫った。
「な、なんですって!?」
「奴はわしを監視するためにわしに近づいてきたスパイ。
・・・・村を滅ぼされて何もかも失っていた奴を拾ったんじゃが・・・
多分、そこからだったと思う。」
アリスはため息をつく。
「なぜ彼を野放しに!?そこまでわかっていたのに・・・!」
「捕まえても、クラウスの尻尾を掴めるとは思えなかったからじゃよ。
・・・・・クラウスは平気で人を捨て駒として扱う外道じゃ。
ルカを捕まえたところで、何も変わらん。」
アリスは顔を険しくさせた。
「そんなことより王子、早くファータ教国に向かうぞ。
・・・・わしの推測が正しければ、ファータ教国にクラウスは向かっておる。
バカ息子にも協力を促した。
さっさと行くぞ!」
アリスはそう叫ぶと、廊下の窓を開ける。
「わしは先に行く、連合王国、共和国にも協力を促さねばならんからのう!」
アリスはそういうと、窓から飛び降りてしまった。
落ちた先に浮いている箒に着地し、猛スピードで空の彼方に消えていってしまった
「王子様、僕たちも・・・!」
「そうですね、今は教国に一刻も早く向かいましょう!」
テオドールはそういうと、アルトの下へと足を急がせた。