二次創作小説(紙ほか)
- グリンゴッツ魔法銀行は顧客満足度が低い? ( No.5 )
- 日時: 2018/03/27 09:32
- 名前: 未碧 (ID: eD.ykjg8)
ミス・マコグナガルは裏庭に来ると言った。
「さて。ミス・マーガトロイド、横丁へはこう行きます。このレンガ壁を、右に二つ、下に一つ。杖で三回叩くと、入口が現れる仕組みになっています。分かりましたか?」
アリスは返事する。
「ええ。」
「よーし、よく見ておくんだぞ、ハリー」
ハグリッドがハリーに言っている。
ミス・マコグナガルがレンガを杖で叩く。壁が歪んだかと思うと、アーチ形の穴ができ、中からは威勢のいい声がしていた。
「さあ、ニンバス社が発売した最新型の箒、ニンバス2000はどうだい?」
通りを歩いていた主婦の一人が愚痴った。
「信じられない。ドラゴンの肝も、毒ツルヘビの皮も、高すぎるわ!」
アリスはあまり人混みが好きではないため、眉をひそめてミス・マクゴナガルの後をついていった。
「まずはグリンゴッツへ参りましょう。グリンゴッツは子鬼が経営する魔法界の銀行です。お金は持っていますか?」
魔法界には独自の通貨があるとは聞いていたけれど、今は無一文ね。紫に聞きましょうか。アリスは耳元で揺れているイアリングを見た。ミス・マコグナガルが見ていないことを確かめてサファイアを押す。ごそごそと物音が聞こえてきて、紫の声がした。
「こんにちは、アリス。何か御用かしら。__藍、藍、来て頂戴。貴方の式が___」
アリスはイアリングから聞こえてきた声に顔を顰める。
全く、紫ったらイアリングで通信中だというのに。忙しない。
「ええ、今はグリンゴッツ、という所へ向かっているわ。私は魔法界の通貨を持っていないのだけれど。」
紫は言う。
「__ごめんなさいね、騒がしくて。そう、本当は子鬼に頼めば両替してくれると思うけれど、幻想郷の通貨はあまり外に持ち出して存在を知らせたくないのよ。だから617番金庫を私の名前で借りているから、そこから取って頂戴。」
そこで、通信が途切れたかと思うとミス・マコグナガルが言った。
「着きました。ここがグリンゴッツです。子鬼は少々神経質ですので、くれぐれも無礼の無いように。金庫の鍵は私がミス・ヤクモから預かっています。どうぞ。」
銀色の何の変哲もない鍵を受け取ると、ミス・マコグナガルがグリンゴッツに入っていく。
扉に何か書かれていたのだけれど、何だったのかしら。別に、質問するようなことでもないわね。放っておきましょう。
グリンゴッツはとても珍しい銀行だった。幻想郷は通貨が統一されているため、両替商などは居ないけれど、ここでは硬貨をを天秤で測ったり、交換している子鬼達がいた。
銀行内は大広間の様で、白いホールは広々としていた。店内のデザインは悪くは無いわね。ミス・マコグナガルが言った通り、子鬼たちは神経質そうにしているけれど。
背の低い子鬼の係員がミス・マクゴナガルの元に来た。
「今日は何の御用でお越しになられたのですか?」
子鬼がキーキー声で聞く。
「こちらにいるミス・マーガトロイドがミス・ヤクモから鍵を預かっています。617番金庫を開けたいのですが。」
子鬼はお辞儀すると言った。
「こちらのボグロッドがご案内します。」
ボグロッド、という子鬼は鳴子を持ってトロッコへ向かう。
ミス・マコグナガルは言う。
「グリンゴッツの守りは固く、金庫破りに成功した者はいません。扉の文字は見ましたか?」
アリスは首を振った。
ミス・マコグナガルはボグロッドに聞く。ボグロッドは不愛想に暗唱した。
「見知らぬ者よ 入るがいい
欲のむくいを 知るがよい
奪うばかりで 稼がぬ者は
やがてはつけを 払うべし
己のものに あらざる宝
我が床下に 求める者よ
盗人よ 気をつけよ
宝のほかに 潜むものあり。」
魔理沙が聞いたら余計にグリンゴッツに侵入しそうな言葉ね。アリスは心の中で笑みを浮かべる。
ボグロッドはそのままミス・マクゴナガルやアリスを見もせずに近くのトロッコへ乗り込む。
「乗ってください。」
どうやら金庫までトロッコで行くらしい。穏やかな道のりだといいけれど、とアリスは思う。弾幕ごっこで飛ぶのには重力のかかり具合も慣れているのだが、アクロバット飛行をする魔理沙の箒は正直、あまり好きになれない。
ボグロッドはトロッコを制御する。トロッコはガタン、と時々大きく揺れながらくねくねと走っていく。今度はほぼ垂直な降下だ。アリスは一瞬浮遊感を味わった後、車輪の激しい音を聞きながら高速で走るトロッコを心配した。
毎回こんなに高速で走れば銀行からお金を引き出すのを躊躇う人もいると思うのだけれど。でも魔理沙の猛烈な縦回転に比べたらましかもしれないわね、とも思う。
エネルギーは何を使って走行しているのかしら。子鬼が手を添えれば発進した事からすると、子鬼の魔力かしら。もしかしたら子鬼は妖力も持っているのかもしれないわね。
車輪が摩擦で減らないのかしら。見た所ゴムの類は無いけれど。乗り心地はお世辞にも良いとは言えないわ。顧客満足度が低そうね。
いろいろなことを考え、車輪の音にうんざりしていた頃、やっと617番金庫に着いた。
「こちらで宜しいですね?」
ボグロッドが聞く。ミス・マコグナガルは頷いた。
さっき渡された鍵を使って扉を開ける。カチリ、と音がして重々しい扉が開いた。中を見て驚く。
直に貴重品を入れておく物なのかしら。床には金貨が散らばっており、銅貨や銀貨が入り混じっている。
ミス・マコグナガルは言った。
「まだ硬貨についてお話していませんでしたね。金貨がガリオンです。銀貨がシックル。17シックルが1ガリオンに当たります。1シックルは29クヌートです。」
覚えにくいわね。十進法で換算すれば良いのに。せめて素数で換算するのではなく、5の倍数で換算できるようにすれば良いと思うのだけれど。
アリスは本の冊数と他の教材費を合わせていくらになるかを素早く計算した。こういう能力は人里で人形用に様々な物を買う時に重宝する。
見た目は捨虫の法で11歳でも、経験は1000年を超えているもの。魔法界にも捨虫や捨食の法の様な魔法はあるのかしら。目分量で硬貨を掴み取るとアリスは鞄に仕舞い込む。
重さからして純金でガリオンを作っているのね。ポンドに換算しても金の価値が低いと思うのだけれど、まあ、いいわ。
また行きと同じくトロッコに乗り込み、アリスはまだ体験したことのない魔法界の魔術に思いを馳せるのであった。