二次創作小説(紙ほか)
- オリバンダーの杖店 魔法史と道具熱? ( No.7 )
- 日時: 2018/03/27 10:55
- 名前: 未碧 (ID: eD.ykjg8)
ミス・マコグナガルは店から出てきたアリスを見て言った。
「早かったですね、ミス・マーガトロイド。さて、次は杖を買いに行きましょうか。ダイアゴン横丁ではオリバンダーの店が一番です。」
アリスはミス・マコグナガルに着いていきながら考える。
純血主義であり権力者の息子と見られるドラコ・マルフォイ。過激な純血主義者を破った「生き残った男の子」、ハリー・ポッター。あまり仲が良くなることは期待できないわね。どちら側に着くべきかしら。
アリスの思惑はすぐに途切れた。ミス・マコグナガルが厳格そうな顔で話題を振って来たからだ。
「ミス・マーガトロイド。一つ、質問しても宜しいですか?」
何かしら。漏れ鍋を出る直前に紫から出来るだけ幻想郷について言わないようにと言われているから質問によっては答えられないけれど。
「これは、私が個人的な興味を持っているだけなので、答えたくない場合は答えなくて結構ですが。貴方の操る魔法について伺ってもいいですか?」
難しいわね。何から答えましょうか。人形について話しましょうか。一番目につきやすいもの。ただ弾幕ごっこなどの戦闘などでは相手に手札を明かすと不利になるわね、あまり話せないかしら。ミス・マコグナガルとは純血主義に味方して捜査した場合敵対するかもしれないもの。
「そうね...この世界では杖を使って魔法を使っていますが、私は杖を一切使いません。また、ラテン語を用いた呪文詠唱ではなく、呪文名を言う事で発動します。魔法族の用いる魔法とは全く理論が異なりますから。」
ミス・マコグナガルは頷いて眼鏡を押し上げると、言った。
「なるほど。実に興味深い話をありがとう、ミス・マーガトロイド。着きましたよ、ここがオリバンダーの店です。」
オリバンダーの店、紀元前382年創業。魔法史という歴史の教科書も手紙のリストに載っていた気がするから、後で紀元前何年に魔法使いが現れたのか見ておきましょうか。魔法族の様な杖に頼って魔法を使っている人達も、案外歴史は長いのかもしれないわね。私はパチュリー程本好きではないけれど、教科書を買うのが楽しみね。費用が余れば呪文集でも買いましょうか。
一通り思考に区切りが着いたところで店のドアを開ける。埃っぽい店内にアリスは顔を顰めた。パチュリーの図書館を狭くして、本を杖の箱に変えたみたい。
すると、老人が箱を避けながら歩いてきた。
「ああ、よくいらっしゃった。お名前を聞いても宜しいかな?」
アリスは老人を見た。この人がオリバンダーかしら。
「アリス・マーガトロイドよ。」
老人はアリスに椅子を示すと自分も椅子に座った。
「オリバンダーの店では主に3種類の芯を使って杖を製作しております。また、それぞれ芯や長さ、材木が違います。ですから一人ひとりに合う違った杖を使う必要があります。他の人の杖では自分の力も半分ほどしか発揮することができませんのじゃ。また、杖は選ぶのは人ではなく杖が人を選ぶのじゃが。」
興味深い話ね。幻想郷では大抵自分で武器を作るもの。使う魔法にも影響するのかしら。この話しぶりは霖之助さんの道具好きに似通っているわね。
オリバンダーは巻き尺を取り出した。
「はてさて、では杖腕は?」
杖を持つ腕かしら。人形は場合によって違う腕で操るもの。それに、杖を使わずに魔法を使っているけれど、両利きかしら。
アリスは困ったように言った。
「両利きだと思うけれど。」
オリバンダーはアリスのガラスの様な青い目を見て言った。
「ほう、実に面白い。では両方の腕で使えるものと言う事ですか?」
オリバンダーが巻き尺を取り出すと巻き尺は自動的にアリスの両腕を測りだした。首回りに巻き付きそうだったもの、捕まえたけれど。
「ほう、ほう。マーガトロイドさん、ではこれをお試しください。柊の木にドラゴンの心臓の琴線、14センチ、固い。絶対の忠誠心。」
アリスの腕に触れるまでもなく、オリバンダーは杖を取り上げた。
「ほう、では次。胡桃の木にヴィーラの髪の毛、27センチ、柔らかい。臨機応変で妖精の呪文に適切。」
アリスが軽く振ると、店の箱が飛び回り始めた。杖は冷たいままだ。
この杖は使いやすいけれど違和感があるわね。
「これも違いましたか。では次。檜の木に一角獣のたてがみ、18センチ。凡庸性が高く、全ての魔法に均等。」
アリスが手を伸ばした瞬間、杖は勢いよくどこかへ飛んで行った。
「実に難しい。では次。白樺の木にユニコーンの毛、32センチ、非常に柔らかい。忠誠心が強く、光の魔法に最適。」
アリスが振ると、3番目の杖よりは手に馴染んだ気がしたが、違和感を主張する様に窓が粉々に割れた。
まだ駄目ね。見た目が11歳より少し上くらいなのに、中身が1000歳以上だからかしら。
その後も52本の杖を試し、いい加減アリスが杖を持つこと自体に呆れてきた頃。オリバンダーは何かを思いついたのか苦い顔で聞いた。
「誠に失礼を承知していますが、マーガトロイドさん。ご年齢を窺っても宜しいでしょうか。」
何才だったかしら。捨食と捨虫の法を習得してから日は浅いけれど、1030歳くらいにはなったかしらね。
「1030歳くらいだと思うわ。詳しくは分からないけれど。」
オリバンダーは暫く固まっていた。
「...少しお待ち頂けますか。」
オリバンダーは小走りで店の奥へ行った。暫く音がしなくなる程奥まで行ったみたいね。
20分程経った頃、やっとオリバンダーは帰ってきた。
「この杖をお試しください。この杖は初代オリバンダーが賢者の為に作ったものと言われております。錫と銀の棒に七色の宝石、1メートル37センチ。丈夫で不屈。如何なる論理も証明できる。」
複雑な幾何学模様と宝石で装飾された細い銀の杖を持ってきた。アリスは立ち上がると、掴み上げる。直径は1センチ弱程。
その途端、手の中には大量の人形と魔力で繋がったかのような暖かい感触が流れ込んで来た。
冷たい銀色の見た目とはとても思えない暖かさね。不思議な気分よ。
アリスが杖を振ると、七色の弾幕の様な光が店の中一杯に広がり、漂った。
「ブラボー!いやはや、まさかこの杖に選ばれる人が私の代で来るとは思ってもいなかった。」
喜んで蘊蓄を話すオリバンダーを見て、アリスは思う。
本当に霖之助さんにそっくりね。
杖の値段を払い、店を出るとミス・マコグナガルは唖然とした顔で杖を見た。
「こんなに長い時間杖を選んでいた新入生は初めて見ました。金属製の杖に選ばれた人を見るのも初めてです。おまけにとても長い。」
店の外、グリンゴッツ近くにまで虹色の光が漂っているのが見えた。