二次創作小説(紙ほか)
- 種の無い手品 ( No.12 )
- 日時: 2018/04/11 19:07
- 名前: 未碧 (ID: eD.ykjg8)
紫と珍しく自ら出て来たパチュリーに見送られ、アリスはスキマからキングズ・クロス駅へ着地した。辺りは11時という微妙な時間にも関わらず混み合っている。
「先に行きなさい、フレッド!」
「そりゃないぜママ!俺はジョージだぜ?」
「ごめんなさい、ジョージ!パーシーも!」
「冗談だ!、俺はフレッドさ!」
「茶番もいい加減にしなさい!さあ、急いで!」
燃えるような赤毛の家族が忙しなく叫んでいるのを冷静に観察しながらアリスは考える。
あの家族は服装からして魔法族ね。カートや鳥籠も担いでいるもの。さて、どこからプラットホームに行くのか確かめましょうか。それにしても騒がしいわ。彼女は好きになれそうにないわね。
すると人混みに飲まれそうになりながら小柄な黒髪の少年が赤毛に近づいた。
「すいません!僕、どこからホームに行くのか分からなくて。」
あら、ハリーね。そういえば彼は非魔法族の社会で育ったと書かれていたわ。本で読んだ方が本人に聞くより手っ取り早いなんておかしな事ね。そんなにヴォルデモートが脅威なのかしら。理屈が妖怪退治よりも理不尽よ。
「あら、お坊ちゃんもホグワーツ?うちの子もそうなのよ。行き方が分からないのね?実は簡単なのよ。そこの柱と柱の間を通り抜ければもう着くわ。怖いのなら目を瞑っておけばいいわ。さあフレッド、お手本を見せてあげなさい。」
フレッドと呼ばれた少年はふざけた仕草で敬礼すると荷物が山積みのカートを押して柵に突っ込んだ。そのまま少年の身体は柵をすり抜け、消えていく。
イアリングから魔理沙の声がした。
「私でも分かるくらい大雑把な幻術だな。それと人避けの簡単な応用か?なんだか、期待して損したぜ。」
パチュリーが興味無さそうに言う。
「魔理沙でさえ見限るくらい、魔法族っていうのは酷いみたいね。どうやら研究もせずに魔法を道具として見ているみたいだもの。なんて嘆かわしい、魔法使いを名乗る者として恥じゃないのかしら。」
魔理沙が憤慨したように言う。
「魔理沙でさえっていうのは頂けないけど、本当に酷いもんだぜ。」
アリスは人混みの中を縫うように歩き、最後尾まで来てやっと開いているコンパートメントを見つけた。思わずほっと溜息をつきたくなる。
主に人形たちの入ったトランクを棚に上げ、アリスはドレスに仕舞っていた上海人形と蓬莱人形のメンテナンスを始めた。分解して、部品の位置を確かめ、丁寧に磨き、時々油を差して、最後に魔法の糸の魔力の通じ具合をチェックする。
試しに上海に杖を媒体にして魔力を送ってみましょうか。
「そういえば、こっちの魔法は呪文がいるのね。」
アリスは呟いて杖を手に取った。
その時、ガラッと勢いよくコンパートメントのドアが開いた。豊かな栗毛色の髪に少し出っ歯の少しきつめの顔つきの少女が立っている。
「こんにちは。ここ、良いかしら。魔法を使うのね、見せてくれる?私、マグル生まれなの。だから沢山本を読んで勉強したわ。勿論教科書も全て暗記しているし。それだけで足りるかしら、とても不安だけれど楽しみにしているの。何しろ私にとって魔法って全く新しい分野だもの、頑張らなくちゃね。貴方は見た所魔法族の様だけれど、魔法はどれくらい使えるの?あら、貴方の杖ってとても長いのねえ、おまけに金属製だわ。杖が短い人には何かが足りないそうだけれど、貴方はとても満ち足りているのね。すごいことだわ!金属と、芯は何なの?とても綺麗だけれど、持ち運びにくそうね。私、杖についてもかなり本を読んだの。それぞれに合う杖があるってとても素晴らしい事だわ。そう思わない?」
「ラテン語ね...ヴェイーグプーパ!」
アリスは早口で自慢と取れるような長ったらしい言葉を無視し、呪文を唱えた。
上海が杖の動きで操れるようになったわね。だけれど直接操った方が効率的だしタイムラグも無く簡単ね。やっぱり期待外れだわ。この理論を根っこから変えないと魔法技術が停滞したままの理論では同じことをしても非効率なだけだもの。
「ねえ、貴方、聞いているの?無視するのはいくら何でも失礼なんじゃない?」
アリスは無表情のまま心の中で呆れていた。彼女は少女の態度に怒ることさえしない。ただ彼女らの間には圧倒的に経験の差が有ったというだけ。第一アリスはあまり感情の起伏が激しくない性質なのだ。
「じゃあ聞くけれど。ノックもせずにコンパートメントに押し入って居座り、自己紹介もせずに人に文句をつけることは失礼じゃないのかしら。貴方は他人には文句をつけるけれど自分は何をしても良いと言うのね?」
少女は苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「だって貴方...私はハーマイオニー・グレンジャーよ。貴方は?それと人形を使って何をしているの?」
アリスはすぐに大して反論もしないハーマイオニーに興味を失ったが、丁寧に答える。
「私はアリス・マーガトロイドよ。勘違いをしている様だけれど、私は魔法族ではないし、マグルでもないわ。今は杖を使って人形を操ろうとしているの。」
ハーマイオニーは興味を持ったのか目を輝かせた。
「その呪文、何に載っているの?ヴェイーグプーハなんて聞いたことが無いのだけれど。」
アリスは冷めた態度で言った。内心、質問の多いハーマイオニーを招き入れたのは失敗だったと後悔している。
「それはそうね。私が作ったもの。」
ハーマイオニーは首を傾げて言った。
「あら、貴方魔法族でもマグルでも無いんでしょう?どうして魔法が作れるのよ?魔法を作るにはかなり知識が必要なはずよ。」
アリスは苛立っていたが、無表情のまま言う。
「私が何年魔法を研究していると思っているの?私は魔法族よりもずっと魔法を心得ているわ。」
ハーマイオニーは不服そうに言った。
「貴方がそんなに賢いと言いたいのならどうしてどこにも載っていないのよ、おかしいじゃない。近代で一番偉大な魔法使いだと言われているのはアルバス・ダンブルドアの筈よ。」
「忙しないわね。私はダンブルドアと違って彼が有名になっている間も魔法の研究を続けていたの。偉大な魔法使いは自分の魔法の知識を大っぴらに見せないもの。彼は魔法の真理ではなく名声や、教育者としての道を選んだ、ただそれだけ。彼は偉大でも何でもないわ。魔法使いとしての本分を発揮していないもの。」
ハーマイオニーは怒っていた。
「貴方はたかが11歳じゃない。ダンブルドアよりも偉大だなんてあり得る訳ないわ!貴方はダンブルドアを侮辱しすぎよ!私、出て行くわ。ネビルの蛙を探す約束をしているの!」
そう言うとハーマイオニーはぷんぷんと怒りながらコンパートメントを荒々しく出て行った。
「人の探し物をする約束をしておきながら、コンパートメントで呑気に話しているなんてとんだ魔女ね。彼女、どうやら見栄っ張りの様だったし。私たち魔法使いとは合わないわね。」
パチュリーが魔法使いの本分を理解しない彼女に怒っているのか辛辣な口調で言った。
「全く嵐の様な奴だぜ。私たちは伊達に魔法使いをやってる訳じゃないんだ。それにあいつはダンブルドアとやらばかり信じすぎだ。いつかきっと痛い目に合うぜ。見れば、ダンブルドアってのは偽善者で、称えられてるけど若い頃は随分と滅茶苦茶じゃないか。」
魔理沙がパチュリーに賛成した。
「その言い方だと、私の家からまた本を盗ったわね?調査用に読んでいるのだから、返して頂戴。」
アリスはそのままホグワーツに着くまで3人で話し続けた。