二次創作小説(紙ほか)

回想と孤独 ( No.10 )
日時: 2018/03/30 21:33
名前: 未碧 (ID: eD.ykjg8)

耳の煙が無くなったころ、あの女性は名前を名乗った。
「ポピー・ポンフリーと言います。初めまして、ミス・ブランドン。」

一通りの挨拶を終え、健康状態を確かめた後、やっとクレアレネッサは解放された。
「フランス、ツィトリナ孤児院在中、ミルドレット・マデリラ・アールチェ、11歳、女性。これで良い?」

彼女がこの狂った学校で使う偽名だ。ダンブルドアは頷いた。

「それから、念のため学校内では変装するわ。紅い目は目立つから。これも良い?」

ダンブルドアはまた頷いた。マクゴナガルは言った。
「着いて来なさい、ミス・ブランドン。塔まで案内します。」

暫く複雑な廊下を歩いたが、階段が蠢くのを見てクレアレネッサは道順を覚える事を放棄した。
「着きました。読みたい本等がありましたら、しもべ妖精のアルジーに言いなさい。」

クレアレネッサはマクゴナガルが退室するのを見届けた途端、古風な天蓋付きのベッドに倒れ込んだ。
医務室で睡眠を採ったとはいえ、日の高さからしてあまり時間は無かった様だ。そのまま彼女は眠りに引き込まれる。

___クレアレネッサは冷たいコンクリート製の部屋に倒れていた。身体が血だらけなのは分かる。でも痛みは無かった。これは、6歳の時の記憶だ。趣味の悪い茶色の高級そうなスーツの男に鞭打たれている様だ。
そうだ、確か私は奴隷だったのだ。何かをして、罰を受けている。何かとは、何だろう。

景色が変わって今にも崩れそうな小屋の中になった。3メートル掛ける3メートルほどの広さの部屋に六人でぎりぎりベッドに収まっている。ふと、誰かの首筋が見えた。
記憶の自分が首筋に尖った歯を当てる。誰かが悲鳴を上げ、私はまた罰を受ける。いつも、そう。

そうだ、私は吸血鬼だったんだっけ。クレアレネッサは、何かを諦めたように思った。___

そこで、悲鳴を上げてクレアレネッサは目を覚ます。見ると、小さな窓から見える景色が暗闇に包まれていた。随分と長めの仮眠だった様だ。

不意に、思い出したくない事を夢で思い出した気がして、クレアレネッサは眉を顰めた。
むしゃくしゃした気持ちを収めようと、ナイフでも投げようかと思う。

我ながら物騒な趣味だと、クレアレネッサは乾いた笑い声を漏らした。何でも無いような表情をしているが、スラムの夜の煩さが実はかなり恋しいらしい。

ああ、武器は全て取り上げられているんだった。アルジーとやらを、呼ぼうかしら。

「アルジー!」

何となく、試しに声を上げてみる。魔力酔いのせいか、まだ微かに眩暈がした。ゆっくりと立ち上がる。

いきなりベッドと椅子、テーブル以外に特に何もない部屋にバチン、と大きな音がした。警戒して振り向くと、クレアレネッサは思わず後ずさりする。

「何者?」

何処から来たのか、という疑問を飲み込み鋭く尋ねると、アルジーは戸惑ったようにテニスボールのような大きな目を瞬かせて言った。

「アルジーでございます、お嬢様。何をご要望でしょうか。」

「ナイフ。それとぬいぐるみ。」

即答すると、アルジーは微妙な顔をして後ずさった。
「申し訳ありませんが、ご主人様に武器の持ち込みを禁じられておりますのです。」

「なら、小さめのぬいぐるみと針。」

またもや即答するとアルジーは大きく頷き、バチンという音を残して消え去った。あれも魔法だとしたら、杖を使っていないのは何故だろう。クレアレネッサはベッドに倒れ込むと、長い溜息を吐いた。

またもやバチンと音がする。アルジーは裁縫針やまち針の入った箱と、両手に乗るくらいの小さめのテディベア。
クレアレネッサは髪を跳ね除けて立ち上がると箱とテディベアを受け取った。
「ありがとう。」
アンジーはクレアレネッサが怖いのか逃げるようにバチンと音をさせるとすぐに消えた。

「一本目。」
クレアレネッサはテーブルを引きずり、テディベアを部屋の出来るだけ遠くに置くと自分は壁に付くほど後ろに下がった。針を取り出し、構え、勢いよく投げる。

暫く針を投げ続け、テディベアの心臓に当たる部分が針だらけで綿がはみ出している光景を眺める。
また針を投げていると部屋のドアが開いた。集中していたため、クレアレネッサは気づかない。

最後の針をテディベアの眉間に投げると、クレアレネッサはやっとスネイプが不機嫌そうにドアの前で立っているのに気が付いた。訓練中を見られていたと気づき、思わず苦い顔になる。真剣だった事もあって、若干恥ずかしいのだ。

「夕食だ。」

スネイプはそれだけ言うと、ドアの前でじっと立っていた。着いて来いということだろうか。