二次創作小説(紙ほか)
- 組み分けの儀式 ( No.14 )
- 日時: 2018/04/16 18:53
- 名前: 未碧 (ID: KpEq4Y5k)
クレアレネッサはどうやら体質が問題らしい魔力酔いが嫌だった。
スネイプが酔い止めの錠剤を作ってくれたが、あまり飲むと副作用で精神が疲弊してしまうようなのだ。
先日、学用品や家からの荷物がクレアレネッサの元に届いたが、彼女は杖の箱を開けようともしなかった。ただ、素材に含まれる魔力量の少ない魔法薬を選んで繰り返し作る練習をするだけだ。
クレアレネッサは若干失望していた。
そのまま今まで、何日経ったかも分からない日々が続いていた。
「来い。」
スネイプが驚いた事を隠すように短く告げると、クレアレネッサはロボットの様にぎこちない動きで座っていたベッドから立ち上がった。
敵対する組織に捕らえられることはよくあったが、相手は一瞬で身体を固めたり、気絶させることができるのに。
自分は全くの丸腰で、武器さえ満足に持っていないもの。あるのは護身用に鞄に潜ませていた予備の拳銃と刃物類だけ。
前に教師と対面した大広間の前に辿り着いた。中からは騒がしい人の声がしている。クレアレネッサはスネイプの後に続いて恥ずかし気に俯いて歩いて行く。
「アールチェ・ミルドレット!」
マクゴナガルに名前を呼ばれ、目が合うとマクゴナガルは大きく目を見開いて驚いた。
それはそうだろう。そこに金髪に紅い眼のクレアレネッサ・ブランドンは居なかった。いるのはダークブラウンのボブヘアに大人しそうな茶色の目をした少女だ。
クレアレネッサの頬にあった長い切り傷は消え、周りを拒絶するような少女ではなくただの緊張した新入生がそこにいた。勿論、全て演技だ。クレアレネッサの冷たい目が大人しそうに打って変わっているのも、全て演技だった。
今は魔法薬で疲弊している今でさえ、彼女にはまだミルドレット・アールチェを成りきる強い意志が残っていた。
ボブヘアはかつら、茶色の目はカラーコンタクト、消えた切り傷は化粧、性格や雰囲気、仕草や目つきまでもクレアレネッサは変えて見せた。
一方、周りはアールチェ、つまりAであるにも関わらず全ての組み分けが終わった後に教師同伴で入って来た生徒に注目していた。何故か彼女を見て全教員が唖然としているのも周りの好奇心を煽り立てていた。
クレアレネッサ、もといミルドレットは恥ずかしそうに、緊張に身を強張らせながらマクゴナガルの元へ歩いて行った。実際には精神の疲労と幽閉による運動不足で身体がぎこちないだけだったが。
何かしら、この帽子は。汚らしい。これがダンブルドアの持ってきた本「ホグワーツの歴史」に出てくる組み分け帽子な訳?
ミルドレットは首を傾げて大人しく椅子に座った。その態度にダンブルドアまでが衝撃を受けていたが、彼女の知った事では無い。彼女は今、ミルドレットであってクレアレネッサでは無いのだ。
マクゴナガルに帽子を被せられると帽子の思考がクレアレネッサになだれ込む。
(ふーむ、実に難しい。勇敢で、狡猾さが強い。強い意志と、目的のためならば並ではない忍耐力と、精神力がある。だが悩みも抱えているようだね。君は今何かに成りきろうとしているのか。)
「そうですか?」
(知恵も申し分ない。だが求めるのは必要のみ。騎士道や誠意よりも狡猾さを選ぶ。...と、君には二つの意思があるようだが。)
「無いわ。」
ここばかりはクレアレネッサに戻ってミルドレットは即刻否定した。
しかし、彼女は実際もう一人の意思を聞いていた。
(私たちを不幸に陥れたあいつを必ず壊すわ。壊して、二度と治らないようにするのよ。)
(君は野望を選ぶかい?それとも目的...を達成し、悩みを解決するのにはグリフィンドールをお勧めしよう。君はスリザリンとグリフィンドール、どちらを選ぶ?)
「御節介。...悔しいけれど、そうします。」
クレアレネッサはミルドレットをもう一度演じ始めた。
(ならば...成功することを祈ろう。)
「グリフィンドールッ!」
全教員が驚きを現した。ダンブルドアは開いた口を一度閉じ、スネイプは目を見開いて顔を顰め、マクゴナガルは手を口にやり、フィリットウィックは椅子から滑り落ちた。