二次創作小説(紙ほか)
- 地下室の記憶 ( No.21 )
- 日時: 2018/05/20 22:27
- 名前: 未碧 (ID: KpEq4Y5k)
「木曜日はグリフィンドールとスリザリンの合同飛行訓練だってさ。最悪だ。マルフォイの奴、絶対自慢して来るぜ。」
ロンが談話室の掲示板に貼られた羊皮紙をを忌ま忌ましそうに睨みつけている。
やはり彼らは純血主義者とは合わない。マルフォイといえば苛烈な純血主義で権力が集まる名家。でもグリフィンドールに入った以上は役立たないわね。残念だわ。
「朝食に行きましょう、ミルドレット。」
ラベンダー、ハーマイオニーと廊下を歩きながら今後誰を見方につけるべきか考える。
まずハリー・ポッターと友人のロン・ウィーズリーは必須。それから同室のラベンダーも女子の友人として不自然にならないように。ハーマイオニーは聡明だけれど自分を通すから暫く様子見。ネビル・ロングボトムは優しいティーンエージャーを演じるのにはいても良いけれど足手まといかもね。
「スネイプ先生はスリザリン贔屓らしいよ。フレッドが言ってたんだ。」
ネビルが小さく呻いた。
「我らがスネイプ教授はグリフィンドールに厳しいからな。あまりトラブルを起こすなよ。」
フレッドかジョージ、どちらかがおどけて言った。ハリーは憤慨している。
「僕はトラブルなんか起こしてるつもりはないよ。」
ハーマイオニーが立ち上がる。ミルドレットは固いパンを飲み込んだ。
「行きましょう。地下牢教室は結構潜るみたいよ。」
ミルドレットは頷く。そしてハーマイオニーに咎められないように魔力酔い止めの錠剤を服用した。
教室に行くには石造りの冷たい階段を降りなければならない。同じような廊下を延々と歩いている内に、ミルドレットはクレアレネッサとしての過去を思い出した。決して思い出したくなるような物ではない。
石造りの廊下は過去を思い出すのに余りにも役立ちすぎる。ミルドレットとしての顔が剥がれ、クレアレネッサになりそうになるのを抑えながら、ミルドレットは口元を引き攣らせた。
自然と繕っていた笑みが崩れて来た。顔から表情が失せて行き、目の光が陰る。幸いハーマイオニーは気付かなかった。ミルドレットの横顔が限りなく冷たい事を。
「さあ、着いたわ。時間通りよ。」
ハーマイオニーがミルドレットを振り向いた時にはミルドレットは元の無邪気過ぎる笑みを浮かべていた。
「うん。今日は何を調合するのかな?」
時間になった。バンッと扉を開け放ち、教室が静まり返っているのを確かめながらスネイプが入って来る。ハーマイオニーが緊張して息を飲む。
ミルドレットは内心の動揺を悟られない様に俯いた。半開きになった教科書からはトリカブトの写真が覗いている。夕べ投げナイフに塗る毒を物色していたのだが、折り目が付いたままだった様だ。
スネイプはハリー・ポッターを嘲り、出欠を取りながら教壇に立つ。
「魔法薬学では、杖を振り回す様な馬鹿げた事はやらん______貴様らが去年の生徒の様なウスノロ共よりもましであればの話だが。」
演説を聞き流しながらミルドレットは心を落ち着かせた。
「ポッター。アスフォデルの球根にニカヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
演説とは打って変わり、ハリーの名を怒鳴ったスネイプが聞く。
何とも意地悪な質問ね。生ける屍の水薬は他にも材料が幾つか必要になる。しかも厳密には球根ではなく球根の粉末。そして載っているのは五年生指定教科書。
「分かりません。」
ハーマイオニーが手を高く掲げた。
またもやスネイプが意地悪く質問する。ハーマイオニーを無視し、執拗にハリーだけを狙っている。
「分かりません。ハーマイオニーが分かっているみたいですから、彼女に聞いたらどうですか?」
苛立ったハリーが言い返す。
「我輩は貴様に聞いているのだ。グレンジャー、手を下げろ。英雄様はどうやら見た目だけの様だ。グリフィンドール、十点減点。」
冷たくスネイプが言うと、ハーマイオニーが不服そうに手を下げた。
「アールチェ。全て答えろ。」
私に回す訳?意図が分からない。
「一問目は、何も出来ません。生きる屍の水薬が近いけど、他にも材料が要ります。二門目の、ベアゾール石は山羊の胃に出来ていて、正確には石じゃないですし。三門目は、二つの名称に違いは無く、どちらもトリカブトです。」
「アールチェ。さては教科書を見たな。カンニングとしてグリフィンドール十点減点。」
結局は減点をする意図だったらしい。半開きの教科書が目に入ったのだろう。
「諸君、何故今のを書き取らない?教科書を見たのだから、当然正しいというのに。書き終わった者から調合に移れ。」
スネイプが嘲りを含めながら言うと、教室内は羽ペンが羊皮紙を擦る音で満たされた。黒板に並んだ調合の手順を一瞥し、ミルドレットは一応書き取り始める。だが、かなり不服だった。思考が脳内を渦間く。
問題の答えは「薬草ときのこ千種」、昨日変身術の前に読んでいた数冊の本の中の一冊に載っていた物もあるのだが。
ロンには本気でカンニングだと思われているらしい。小声で怒ったように言われる。
「ハリーは正直に答えたのにカンニングするなよ。」
弁解するか考えているとスネイプが言った。
「我輩は集中して調合するように言った筈だが。授業中の無駄な私語にグリフィンドール十点減点。」
ロンが睨んで来た。話しかけたのは自分なのに、随分と不服そうだ。ミルドレットは気付かないふりをして蛇の牙を砕く。
結局弁解のチャンスはネビルの調合失敗で失われた。溶けた大鍋の処理やおできが吹き出た生徒の処理にスネイプが終われている内にあっという間に授業が終わり、ロンは怒ったまま出て行った。
追いかける訳には行かない。成分を簡単に分析した結果、材料は判明したためスネイプに酔い止めの調合比率を聞いて置かないといけない。茹でた角ナメクジだけで錠剤一錠では酔うことが分かったのだ。
これからの授業では更に酔うだろう。一刻も早く量産出来るようになる必要がある。ミルドレットはハーマイオニーに断って教室に残った。