二次創作小説(紙ほか)

血に飢える ( No.26 )
日時: 2018/07/02 19:44
名前: 未碧 (ID: KpEq4Y5k)

吸血鬼。クレアレネッサのトラウマに近い壮絶で難解な過去に付き纏う、厄介な存在。
クレアレネッサにとって吸血鬼とはそういうものだった。

自分は半吸血鬼でしかない、中途半端な立場だもの。「帯には短し、襷には長し」が正に当て嵌まるわね。

筋力は人間より強いが吸血鬼や人狼よりは断絶弱く、使い道は余り無い。魔力は豊富だが、そもそも使えば魔力酔いを起こしてしまう。再生能力や免疫力はあるが、味覚が人間の為に、吐き気のする思いで血を摂取しなければ、軽い風邪でも死ぬ。

「ほら、今も血を求めているもの。」

クレアレネッサは変身術でミルドレットになった後、寮で変装しながら呟く。その後教科書を纏めて小走りに大広間へ向かうミルドレットは、動く絵画に胡散臭そうに見送られた。

「遅かったじゃない、どうしたの?寮にも居なかったし。」
パーバティが肩を竦めてミルドレットを見やると、ラベンダーが言った。

「時間割変更があったんですって。本当は魔法薬学は金曜日らしいけど、昨日の呪文学と入れ替わっていたそうよ。」

ミルドレットは気怠い様子を隠して驚いた様に首を傾けた。
「そうなの?」

喉が渇いたわ。数杯のアールグレイでトーストを流し込む。追加で二杯、紅茶を飲む。まだ喉は渇いたまま。

「ええ。それで、どうして居なかったの?」
パーバティが核心突いて来る。

用意した言い訳が通じると良いのだけれど。それにしても、やけに喉が渇いているわね。ミルドレットはまた紅茶を口に含んだ。

「早起きして、先に教室とか場所を覚えようと思ったの。でもさっぱり分からなかった。それで、迷子になって、絵画に道を聞いて来たのよ。」

ラベンダー特に疑う様子も無く頷き、ベイクドポテトを頬張っている。パーバティにも上手く騙し通せた様で良かったわ。それにしても今更偽物の友人に嘘ついた所で何も思わないけれど、隠蔽が面倒なのは確かね。

…喉が渇いたわ。それにやけに周りの人間に惹き付けられる。思考に違和感が有るわ。…人間?妙な事を考えるのね、私は。吸血鬼という事を自覚させられたからかしら。

誰かの腕が切り落とされたら良いのに。目の前にいるパーバティの頸動脈を掻き切れば、どれだけの規模で血の海ができるのか?ラベンダーの首が飛べばさぞかしダンブルドアは驚くでしょうね。ハリー・ポッターはどう?自分の立場を良く理解していない英雄様を傷つければ、このホグワーツも退学にしてくれる筈。

ああ、血が飛び散る所が見たい。

「どうしたの、ミルドレット。大丈夫?凄く、その、怖い顔になってたけれど。」
ラベンダー・ブラウンに
「折角の朝食が楽しめないわよ。」
パーバティ・パチルに

ホグワーツの生徒に

教員に

地獄を見せて

血の海が出来て

「ううん、何でもないわ。ちょっと緊張しちゃって。」
おかしい。幾ら自分が殺人鬼だろうと、こんなにも残虐な思考はしていない筈。これが自分が吸血鬼という事を自覚した弊害だとしたら、純粋な人間で有りたいと願うのは当然だとも思える。

それとも、血が足りないのだろうか。一体何時、自分が血を飲んだのは何ヶ月、何年前だったのか。

ミルドレットの吸血鬼としての目覚めは少なくとも本人にとって最悪だった。