二次創作小説(紙ほか)

「魔女」と「人間」 ( No.2 )
日時: 2018/04/05 18:18
名前: マスカット (ID: eD.ykjg8)

私は今、杖を作っている。「新月の誕生の杖」、という名前の杖らしい。黒檀を使っているけれど、本当に新月の空みたいな真っ黒だ。とても丈夫で、決まった魔法を使うのには最適だって聞いた。

それを聞いた時、ちょっとだけ安心した。まだ魔法が上手く使えない間は、固い木材の杖の方が使いやすい。柔らかい木材は、融通が利く分使い手によって魔法が変わりやすいらしい。

私は先生に言う。
「魔法を練習するには、使える魔法が決まっている方が楽だと思います。下手に魔法を変えて、先生に迷惑でも掛けるのは嫌ですし。」

先生は普段は優しい人だと思うけれど、魔法に関しては厳しい。

「何を言っているのです。人に迷惑が掛かるとか、そういうことを気にしなくても良いのですから、もっと自由に魔法を表しなさい。第一、楽を求めるのは駄目ですよ。経験や勘をもっと大事にしなさい。」

先生に手順を時々質問して杖を作っていると、見本では簡単そうに見えても杖を作るのはいつも難しいということが分かる。

まず黒檀をすべすべになるまで磨いて、一方の端を細く、もう一方を太くする。これは均一に太さを変えるのが大変だった。

次に、杖に模様を刻む。円が複雑に絡まった眩暈がするような模様は、固い黒檀にはなかなか滑らかな円が刻めない。炭で下書きをするのも、大変だった。

苦労して杖に模様を刻んでいると、もうお昼になっていた。先生がパンとスープを出してくれる。二人で食べていると、ふと疑問が沸き上がって来た。

「先生。どうして魔女は悪評が強いんですか?」
聞くのは失礼かと思ったけれど、先生は悪人とは思えなかった。人の事を傷つけたりもしないのに。

先生からの返事は無かった。怒っているのかと思って、不安になったけれど、違うみたいだ。
先生は考えながら言う。
「そうですね...。貴方が自分の持ち物を盗まれたとします。そして犯人の候補は見知らぬ泥棒と親友です。エスティルはどちらが犯人だと思いますか?」

それは泥棒だと思う。いつの間にか知らない人物に盗まれていた方が納得できるし、親友が盗ったとは信じれないし、疑いたくない。

「見知らぬ泥棒の方が可能性としては高いですよね。知っている人が盗んだとは考えられませんし。」

先生は諦めたように言った。

「そういうことです。自分たち「人間」を疑いたくない、それよりも魔法という得体のしれない力を使う「魔女」が全て悪い。そういう風に人間にとって都合が悪い事実はどんどん「魔女」の仕業になるんです。理不尽な事ですが。」

「疑いを晴らそうとはしないんですか?」
お互いに歩み寄って疑いを晴らそうとはしないのか、不思議に思って聞く。

やっぱり先生は諦めた様に言った。
「そもそも「魔女」は魔法の真理を研究する事が目的です。ですからあまりそういう人は居ませんね。稀にいても全ての事例で失敗しています。」

その話を聞いてから、エスティルの気持ちは晴れなかった。