二次創作小説(紙ほか)
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.8 )
- 日時: 2018/05/03 15:40
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
>>06の続き
ザビニは、いまトロスト区の市街地を歩いている。
ザビニは、第104期訓練兵団の一員だ。所属の訓練兵団は、このトロスト区にあり、市街地から離れた場所には、ザビニが3年間の訓練所があった。
ここトロスト区は、人類防衛の最前線である、第二の壁〈ウォール・ローゼ〉最南端にあたる。区ごとに8つ存在するといわれる訓練兵団のなかでも、最精鋭であると自負していた。
5年前の惨劇を、ザビニは思い出す。ーー100年の平穏を破り襲撃した巨人によって、第一の壁〈ウォール・マリア〉は破壊され、人類の生存領域は大きく後退し、その人口の2割が失われた……。
当時は子どもだったザビニが、志願し訓練兵となったのもそれが理由だ。
訓練は辛く厳しかったが、同期生はいい連中ばかりだった。
巨人を駆逐すると息巻く熱血な少年エレン。飛び抜けた身体能力の少女ミカサ。身体は細いが頭がいい少年アルミンや……。温厚で気配りのできる少年マルコ、頼もしい兄貴肌の少年ライナーは、みんなから信頼されていた。無口な少女アニはとっつきにくいところがあったが兵士として優れていた。同じ部隊になれると嬉しいだろう。
おバカなコニーや、食い意地をはったサシャも面白いヤツだった。誰にも優しい可愛いクリスタや、背が高いけれど気の弱いベルトルト……みんな、どこの兵団を希望するだろうか。
意地の悪いジャンや、いちゃついてばかりいる恋人同士のハンナとフランツには辟易したものだが……これで別れ別れになると思うと、少し寂しくもある……。
ザビニたちは、3年間の長く苦しい訓練過程を終え、先日解散式を迎えたところだ。
明日には配属兵科の希望を申請し、いよいよ正規兵となるのだ。
壁のなかで人々を守る『駐屯兵団』、王都と内地を警護する『憲兵団』、そして、壁の外に遠征し巨人と戦う精鋭『調査兵団』ーー。
ザビニは、どこへの配属を志願しようか考える。あるいは、同期の仲間たちはどこを希望するのだろうか、と。(もっとも憲兵団は、選りすぐりの狭き門だ。成績の上位10人以内でなければ事実上配属されることはあり得ない)
ともあれ、現在、ザビニたちは同期生と共に、ここトロスト区市街地にいた。
駐屯兵団の指揮下での哨戒任務(敵襲に備えた見張り)や武器装備、雑用も命じられているが、日課の訓練もいまはなく、比較的自由に市街を歩くことができた。正式な配属前に、少しは息抜きをさせてやろうというという計らいだろうか。同期生たちも、任務の合間に街に繰り出しているようだ。
ザビニは市街を見渡す。3年前にこの地来たときに比べても、街路は活気があるように思えた。
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.9 )
- 日時: 2018/04/23 09:25
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
川べりを歩いていると、訓練兵仲間のアルミンを見つけた。
座って本を読んでいるようだ。彼は頭がいいが、禁制品の本を読んでいるとかいう噂もあった。
ザビニが話しかけると、アルミンは笑った。
「禁制品の本なんかじゃないよ。さすがにそんなのを街中だ持ち歩くほど、僕は酔狂じ
ゃないさ。小さな子どもじゃないんだから」
そう言って、読んでいる本を見せてくれた。技術書だ。そういえば彼は訓練所時代にも、兵法や技巧の講義以外でも本を読んでいて勉強に熱心だった。訓練過程もこなしながら大したものだ。頭もいいが、努力家でもあるのだろう。
「でも、きみも、そういう本ーー『外の世界』の話なんかに興味があるのかい?」
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.10 )
- 日時: 2018/05/03 15:42
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
ザビニが興味を持っているとわかると、アルミンは話しはじめた。
「僕が子どものときに読んだ本の話さ」
それは「壁の外」の話だった。「炎の水」とか「氷の大地」とか「砂の雪原」とか……そんなものがあると、その本に書かれていたらしいい。「海」という聞き慣れない言葉をアルミンは口にした。
運河よりもずっと大きな、水の溜まった場所という。壁の内側よりもずっと大きくて……いや、むしろ逆で、外の世界の大半は「海」であって、地面はそこから盛り上がった場所だそうだ。でも、その「大半ではない地面」でさえ、この壁の内側の全部より、ずっとずっと広いのだとか……。「海」はつまりそれほど広くて、その水は塩水だけど……塩商人がいくら汲み出してもなくならないぐらいの、すごい量があって……。
まるで想像もできない。おとぎ話……というよりホラ話のような内容だ。
ザビニは、いまもそのことを信じているのか聞いてみる。アルミンは苦笑した。
「さすがに頭から信じてはいないよ」
そう言った。本当かもしれないし、ザビニを信用しきっていないのかもしれない。何しろ「壁の外」に興味を持つことすら一般には禁忌とされていた。訓練兵団においては、禁じられているわけではなかったが、それでもいい顔をされる話題ではない。
「でも、その本のおかげで、僕が『外』に興味を持ったのは本当だ」
アルミンはそう言った。言葉は選んでいるが、その目の輝きは隠せないようだ。
「そんな夢みたいな話じゃくても、きっと、壁の向こうには、ずっと広い世界があるんだと思う。……それを確かめてみたい」
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.11 )
- 日時: 2018/04/26 17:46
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
別の訓練生がやってきた。エレンとミカサだ。
エレンは、嬉しそうにザビニに話しかけてきた。
「おっ。ザビニもアルミンの話を聞いたのか? よしっ、じゃあオレと調査兵団に入らないか?巨人を駆逐して、一緒に外の世界を見ようぜ!」
アルミンのほうは、エレンの様子を見て静かに微笑んでいる。
ザビニは思い出す。そういえば、彼らは巨人に襲撃されたシガンシナ区の住人だった。
この3人は同期生のなかでも何か特別な絆を持っているように見えていたが、幼なじみだとか、共に生き延びたとういうだけでなく、そんなことも3人をつないでいるのかもしれない。
ミカサのほうは、何やら険しい目でザビニのほうをにらんでいる。
彼女がどこへの配属を選ぶつもりかたずねてみても、
「あなたには関係ない」と言われてしまう。
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.12 )
- 日時: 2018/05/03 15:42
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
川べりの薄暗い裏通りだ。歩いていると道端に新聞が落ちていた。ここよりも内地、ウォール・シーナ東部のストヘス区で発行されている『ベルク新聞』だ。
拾って読んでみる。こんな記事が目に入った。『人類の希望・調査兵団、第56回壁外調査へ出発』『第104期訓練兵団、いよいよ正規兵へ。人々を守る若い力が期待される』
ザビニたちのこただ。少なからず、誇らしい気分になる。
すると……。ふいに横から、乱暴な声がした。
「けっ。新聞なんかウソばっかりだぜ」酔っぱらいの男だ。
「4年前のウォール・マリア奪還作戦だって、作戦なんて名ばかり。養いきれない人間を減らすための棄民政策だった。そんなことは子どもだって知ってるのに、記事にはならない」
それから、ザビニを指して、こう言った。
「訓練兵か。お前らだって、お上に都合の悪いことになったら、新聞で何を書かれるかわからんぞ」
そこへ別の男がやってきた。ザビニに詫びると、酔っぱらいを引っぱっていく。
「酒の上でのたわごとだ。気にしないでくれ」
それから男に向かっていっている声が、ザビニにも聞こえた。
「滅多なことを言うんじゃない。そんなことを言いふらしたら、憲兵団につれていかれるぞ……」
- Re: 進撃の巨人 もう一人の人物 ( No.13 )
- 日時: 2018/04/28 08:10
- 名前: けんぬん (ID: Do1fG5Tg)
- プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12230
ここは活気がある街の大通りだ。石畳で覆われた広い街路の両側には露天商の屋台が並び、買い物して歩く街の住民も多い。馬車や荷車も時おり行き交っている。
ザビニと同じ訓練兵のエレンと、フランツとハンナの姿があった。
「南端の最前線だけど、ずいぶん活気が出てきたね。」
「5年前とは違うよ」そんなことを、明るい声で話しているようだ。