二次創作小説(紙ほか)

Re: 【終わりのセラフ】——君ニ染マル—— ( No.4 )
日時: 2018/06/09 14:41
名前: 無印 (ID: a0p/ia.h)

 私の世界は、彼により——いや彼等により構成された。だからこそ、それ以外は、無価値であった。

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 私には記憶があった。うっすらとだが、自分ではない人の記憶。名前はわからず、性別もわからない。しかし、確かに自分以外の人が、自分の中にいる。気味が悪い。

 幼かった私には、分別がつかなかった。気味が悪く。ただ、誰かに話したかった。楽になりたかった。だからこそ、他者に話していい内容の区別がつけられなかった。それゆえに、安易に喋った。喋ってしまった。今、思えば純粋すぎたのだろう。その結果、実の親に捨てられた。

 その後は、ある施設で育った。親はさすがに道端に私を捨てることなく、また、殺すことなく、施設に置いていった。幸運に思わなければいけない。彼等が私に手を出さなかったことを。施設での私は、喋らなかった。幼心にあれはいけないことだと理解したからだ。だが、何をすればいいか、何を話せばいいか分からなかった。ゆえに、周囲に馴染むことが出来ずに、ただ、時だけが流れた。

 その結果、無表情で何を考えているかわからない子供——すなわち、私ができた。

 私の判断は、また間違えたと理解したのは施設の人間に捨てられた時だった。

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 目の前の青年は、ニコニコと楽しそうに笑う。

 捨てられた私は、ある青年に拾われた。青年は若い見た目だが、ずっと年上らしい。んで、吸血鬼らしい。吸血している姿は見たことがない。でも、八重歯があるし、多分本当のことなんだろう。はじめは、非常食あるいは、常備食の為に連れてこられたのかと思った。

 何が楽しいのかは、よくわからない。私がボーとしてようが、黙っていようが、楽しそうに私を眺めていた。何が楽しいのだろうか。

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 何か会話があるわけもなく、ただ時だけが静かに、穏やかに流れていった。

 そんなある日、青年は二人の青年を連れてきた。

 多分、同族。いわゆる、吸血鬼。そして、ふと思った。青年が三人になってしまった。と

 今まで、この空間は青年と私しかいなかった。だから名前を必要としなかったのだ。

 「君達が来たいと我が儘を言ったから連れてきたんだ。おいたは、しないでくれよ」

 青年は、そう連れてきた青年二人に告げ、私を紹介しようとして、黙り混む。

 そして右頬を右手で掻きながら、私に振り向き言った。

 「名前なに?」と。

 だが、この言葉に私は返す言葉がなかった。

 ただひとつ言えたのは、黙っていてはいけないということだった。

 青年は、焦らさず待っていてくれた。

 「…………ぃ」
 「ん?」
 「…………ない」

 私の言葉に青年は「ナイちゃんか」と笑う。違う。そうではない。いや、私の言葉がいけなかった。

 「名前、ない」
 「ん?」
 「名前、知らない」

 長年、会話を拒み続けていたからか、上手く言葉が見付からずに、たどたどしくなってしまう。

 それでも青年は、私に近付き目線を合わせた。

 のちに、この時の事を聞けば、私は泣き出しそうになっていたらしい。

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 青年に抱き抱えられ、そのまま椅子に座る。

 正直、はじめてのことである。

 「さすがに、イオ君のお気に入りを殺すバカいないって」

 向かい側に座った、一人の青年の言葉に納得した。青年達は男で大人で吸血鬼である。確かに、私を殺すのは簡単だろう。

 だけど、ズルい。そこまで、考えて私は考えるのを止めた。私はズルいと思った。でも、なんでズルいと思ったのか、よくわからなかった。

 そもそも、会話をしなかったのは私が悪い。だから、名前を知っているのをズルいと考えるのがオカシイのだ。

 「名前がないのは、不便だよねぇ。どうしよっか?」

 首をかしげて、覗きこむようにされ、思わず仰け反る。だけど、よく考えたら抱き抱えられているわけだから、あまり意味はなかった。それどころか、先程よりずっと距離が近付いた気がする。実際、むぎゅーっと抱き締められていた。

 青年は気にすることなく、ブツブツと呟く。

 確かに、不便ではある。青年と私だけなら問題はなかった。それもそれでどうかとは思うが、問題なかったのだ。

 ふわりとした浮遊感。青年にぞくにいう、高い高いをされたと理解した時には、地面に下ろされていた。

 「リーフェってどうかな?」

 意味は、わからなかった。いわゆる、名前の由来というもの。でも、不思議と嫌ではなかった。それは、名前が気に入ったからか。青年がつけてくれた名前かはわからなかったが。

 のちに青年に、名前の由来を聞いた時、やはり青年は変わり者だと確信した。

Re: 【終わりのセラフ】——君ニ染マル—— ( No.5 )
日時: 2018/06/14 18:45
名前: 無印 (ID: 9AGFDH0G)

 あれから、彼等はイオさん——あの後、無事に青年の名前を聞いた。名前はイオリス・ガーディアンというらしい——がいないときも、部屋に訪れるようになった。

 何が楽しいかはわからない。一喜一憂している。いや、一憂はみていないから一喜だけかもしれない。

 ポニーテールの銀髪イケメンのフェリドさんと、三つ編みイケメンのクローリーさん。

 どちらかと言うと、フェリドさんにクローリーさんが巻き込まれている感が凄いある。来る比率は圧倒的にフェリドさんが多いし、クローリーさんが単体で来ることはまずない。大抵、フェリドさんに連れて来られている。

 事実、今日もフェリドさんに連れて来られたみたいだった。

 ただ、私は二人——いや二吸血鬼のことが嫌いではなかった。彼等の怖いところを見たことがないからか、あるいはイオさんが連れてきたからか、あるいは彼等の事を気にせずに過ごしていても問題ないからか。

 「にしても、いつにもまして小難しい本を読んでいるねぇ」

 私は普段、本を読んで過ごしている。私は人間である。貴族のイオさんの庇護を受けていても、吸血鬼の住処を歩き回るのは危険であるから、一緒でないと出歩けないと昨日聞いた。もっとも、言われるまで外出のことなど考えていなかったが。

 本に栞を挟み顔をあげたら、隣に乱雑に積み上げていた本をフェリドさんが眺めていた。クローリーさんはソファーベッドで、自分の家のように寛いでいる。

 今、読んでいる本のシリーズは中々に興味深く面白い。犯罪心理学から、死の定義やら、考えさせられる内容である。また正解が一つだけではないのがいい。複数の視点から考察しているのだ。

 「そうですか?面白いですよ」

 人の感情ほど、分かりにくいものはない。笑っていても、逆の事を思っているかもしれない。いや、これは人に限った話ではないけど。でも、正直に言えば吸血鬼の方が、分かりやすいかもしれない。

 一つに執着を見出だす種族、貪欲に複数の執着を見出だし執着されたい種族。どちらがいいかは分からないが。

 その事を、淡々と告げればフェリドさんに頭を撫でられた。

 皆、撫でるというか触れ合うのが好きなのだろうか。フェリドさんはよく撫でてくるし、クローリーさんは高い高い、イオさんはぎゅーと抱き締めてくる。とはいっても、関わっている吸血鬼は変わった吸血鬼だからなんともいえないが。

 あ、

 「幾つか、御伺いしたいことが」
 「ん〜?」

 私が、気になっていたことを聞けば、フェリドさんは楽しそうに笑い人差し指を口許に持っていく。

 「時が来れば分かるよ。きっとね」

 この時の私は、フェリドさんの言葉を文字どおりの意味で受け取っていた。しかし、私は本当の意味で知ることとなる。

 薄々と、手引きをしたのはフェリドさんではないかと思う。けれども、不思議と怒りや怨みは湧き出てこなかった。

 ただ、必要なことを行ったのではないか。それこそ、呼吸するかのように。