二次創作小説(紙ほか)

[復活]兎角言わずにたんと召し上がれ  ( No.1 )
日時: 2019/01/26 17:43
名前: エノキ (ID: UeLkOLiI)

※オリキャラ中心で進みます

1話/①
[兎角言わずにたんと召し上がれ]


今から3年前のことだ
10代でスイスに来て名のある時計職人の弟子になった俺は、人よりもかなり器用な手先とたゆまぬ努力で10年で時計職人として認められた。10秒で折り紙の鶴折れる特技がある。
そして、やべー依頼を請け負って“邦人男性、交通事故に遭い死亡”と新聞の一面を飾ったことがある。勿論死んじゃいねぇ、だって今こうして喋れてるわけだしな。
実はやべー依頼というのは、マフィアの重鎮が所有してる腕時計の修理。
本当は機密情報を隠すために時計に仕込んでたチップを見つけてしまい、苦労しつつも無事取り出して

「こんなものが入ってたんですけど、純正品なら、数年しないうちに壊れてしまうところでしたよ」

と呑気に依頼主に報告してしまい、この男は生かしてはおけないということでパスポートを盗られ、俺の店を打ち壊された。
更には、俺によく似た俺じゃない男の死体を使って死者偽装をしてまで俺という存在をこの世から抹消される始末だ。
日本大使館にいって事情を話して何とかなるんじゃないか、だって現代は世界はグローバルみんな友達なんだから。

って思うだろ?


残念ながら、最後に時計修理の報酬の代金を持ってきた男が、俺を誘拐して見知らぬ土地に捨てた挙句

「チクったらお前さんの家族友人諸共の命はないと思え、いいな?」

と、日本語で、脅してきたので無理だ。
それに、代金はこちらが報酬として提示した額よりも少なかった。一週間食っていけるか怪しい。
さてどうしたものか、と適当に目に付いた裏路地に座り込んで考えていると、ピアスをバチバチにつけたスキンヘッドの野郎に声をかけられたのだ

「お前観光客か?」
「あ、俺イタリア語わかんないっすドイツ語いけますか」
「あードイツ語ね、自信ないけどまあいけるぜ。で?ここでどうしたんだ、スリに荷物盗られたのか」
「まぁそんな感じ…。スイスで時計職人してたんだけど、やべー依頼受けちゃって相手の機嫌損ねて、店とかもろとも、うん…」

ここまで話すと、スキンヘッド野郎は納得のいった顔をして
「うちならしばらく面倒見れるぜ。お前みたいに戸籍のないガキばっかだし成人男性が1人ぐらいきても大丈夫だし」
とお誘いを頂けたのだ
勿論その誘いに乗ったさ。お先真っ暗だったけど死ぬつもりはなかったから、1日でも生き延びるために。

[復活]兎角言わずにたんと召し上がれ ( No.2 )
日時: 2019/01/26 17:45
名前: エノキ (ID: UeLkOLiI)

※オリキャラ中心で進みます

1話/②
[兎角言わずにたんと召し上がれ]


スキンヘッド野郎はマフィアのお偉いさんの息子らしくて戸籍のない元一般人の俺も難なく泊まらせてもらえた
連れてこられたのは大きな屋敷で、2人の男の銅像と土台にはイタリア語の文章が刻まれたプレートが初めに俺を出迎えた。
それから、お世辞でもかっこいいとは言い難いこの屋敷の主人、あるいはスキンヘッド野郎のファミリーで位の高い役職と思われる男たちが何人かいた。
他には絶えず周りを気にしてキョドキョドしてる若い男たちが沢山。
まるでガキ大将と金魚のフンみたいな大人の男たちだ。あとは屋敷で働くハウスキーパーが何人か。
そこだけみると、まぁ映画で見るマフィアよりカッコ悪いがマフィアなのは間違いない。

しかし、こいつらがマフィアだと言うには躊躇うようなものが多数存在していた。
10代前後の子供たちが、大人に玩具のように扱われていたのだ。そんな異常な光景が当然のように、客人の俺の目すら気にせずに行われていた。

「まー……言いたいことはわかってる。お前が気にすることはない、イタリア語がわかんねーならそのままでいろ」

スキンヘッド野郎は吸っていたタバコを消して、他の男と同様に子供を弄んでいた壮年の男性に近寄った
遠目に2人が話しているところを眺めていると、壮年の男性がふとスキンヘッド野郎の身体を触り、それに対して怯えた様子で反応したスキンヘッド野郎は足早に男性から離れて戻ってきた。

「空いてる客室があるから、しばらくはそこで。今は誰もお前に興味示してないが……まあゆっくりしてってくれ」

そういうスキンヘッド野郎の顔はすっかり生気が無くなっていた。まるで、今も遊ばれてる周囲の子供たちのように。
大の大人が怯えるくらいなんだから、あの男性はスキンヘッド野郎の父親だろうな。
実の息子といえど、自分に逆らわないものは玩具なんだろうなと、ふと思った。
客人でドイツ語は喋れるものの、言葉どころか銃を持ってる男に叶うわけないので俺は黙って従った。

2、3日は何事もなかった。その間にスキンヘッド野郎が俺のパスポートやらなんやら探ったのだがどうしようもできないという。
つまり、俺は二度と表社会に戻れないわけだ
どーしたものかと悩んだものの解決は早かった。同じ建物内にいたけど全く関わらなかった子供たちと、スキンヘッド野郎を助けようと思った。
俺は、あんな酷い有様を見せつけられておいて無視できるほど人ができてない。
ということで、4日目の夜にスキンヘッド野郎と相談した。あいつは
「そんなのぜってぇ無理、無理だって」
と根拠もなく無理無理を繰り返してきた。

「どーして無理なんだよぉ」

ちなみに、この時2人とも酒飲んでて酔ってた。俺の相談内容を聞いたスキンヘッド野郎が持ってきたのだ、ちゃんと話聞くつもりあんのかこんにゃろう。

「だってよぉ、俺だってよぉ最初は頑張ったんだぜ…。でも無理だった、なーんもかも、無理だった」
「何があったんだ…」
「俺の企みがバレて親父にこっぴどくやられたんだよ。もー腹が立ってスキンヘッドにしてピアスバチバチにしたんだけど、ぜーんぜん効果ねーや!はーくそ!」
「おん?……何に腹立てたんだよ」
「あ?だってそら……」

そう言って、スキンヘッド野郎は固まった。酔いで理解ができない、というよりも理解ができてしまい酔いが急に冷めた顔付きだった。

「とにかく……ヒック、おめぇは手出しすんな。母国にかえりてーならな」
「そりゃ帰りたいよ。でも無理だ、バレたら俺だけじゃなく家族や友達が殺されんだ。なら悔いのないように生きさせてくれや」
「……どうすんだよ」

グラスの中の酒をグイッと一気に喉に流し込み、スキンヘッド野郎の目を見据えた。

「俺もマフィアになる。んで、ここを変える。老害どもをぶっ潰してやる」
「ロウガイ…?なんだその単語。ていうか、お前がマフィア?!はっ、笑わせてくれるなぁ!」
「俺にはもう何もないんだ。俺の骨はここで埋めるしかねーんだ。弱みのない人間以上にやべー奴がどこにいる?」

スキンヘッド野郎は顎に手を当て考えるそぶりを見せた

「お前……本当にそれでいいんだな?酔った勢いっつって言い訳しねーよな?」
「おう」
「わかった。明日の……夕方がいいな、食堂に集合だ」
「おう。……食堂で何すんだ?」
「あー、あれだよあれ、日本の映画まで見た……ケジメってやつやんだよ」
「へー」
ここまでくると酔いでスキンヘッド野郎の言葉にツッコミを入れる気力すらなかった

[復活]兎角言わずにたんと召し上がれ ( No.3 )
日時: 2019/01/26 17:48
名前: エノキ (ID: UeLkOLiI)

※オリキャラ中心で進みます
※人が死ぬ描写があります

1話/③
[兎角言わずにたんと召し上がれ]


酒の席は終わり、午前中は二日酔いで潰れて、約束の夕方に食堂に入った。
中では、おそらくファミリーのメンツが全員揃っていた。机は隅に追いやられ、手錠と猿轡をかまされた男が取り囲まれている状況だ
出入り口の近くにスキンヘッド野郎が立っており、手には拳銃が一丁。

「既に、お前がファミリーに入る決意はしたと説明してある。あとはそこの捕虜を、この銃で撃ち殺せ」
「……それだけでいいのか?」
「嗚呼。今や我がファミリーは臆病どもの集まりだ。銃を扱えて、人を殺しただけで一躍有名になれる」
「有名ねえ」

有名になるのはまあいいとして、人を殺すってのは……これから目指す道に相反するのではないかと思ったが、マフィアになると言った手前逃げる真似はしない。
スキンヘッド野郎から拳銃を受け取る
重かった
安全装置の外し方を教えてもらい、部屋の中央で俺を胡散臭い目で見てくる捕虜に歩み寄る。
どうやって殺せばいいのか悩み、とりあえず一撃で苦しみなく逝ってくれればと思い、捕虜の猿轡を外した。
すぐに、男がイタリア語で叫ぶ。
なんて言ってるのかわからない。
客人の時はイタリア語はわからないままでいいと言われたけど、マフィアになれば勉強しなければ。
唾を飛ばしてまで叫ぶ口に銃口を突っ込む。空いた手を男の後頭部に当てて角度を保つ。
引き金を引く前に、男の耳元に唇を寄せた。

「恨むなよ」

最後に発した日本語は一発の銃声でかき消され、俺の耳にすら届かなかった。



それから、どれくらいの時間が経ったのかわからない
体感だと1時間以上たった気がしたが、食堂の窓から差し込む夕陽の色が変わっていなかったので、数分なんだろう。
スキンヘッド野郎が高らかに叫ぶ。イタリア語で分からないが、スキンヘッド野郎に続いて周りの男たちも声を挙げた。

「立て。お前はファミリーに認められた」

気づけば膝をついて死んだ男を抱えていた俺は、スキンヘッド野郎に腕を取られて立ち上がった。
ごとり、と中身のある、柔くて重い物体が落ちる音がした。

「演出は悪くなかった……むしろ、ちょっとやりすぎたか。まあいい。これでお前は晴れて、我がカルリファミリーの一員だ」

周りは興奮の声を上げている。目の前にいるスキンヘッド野郎の声すら遠くに聞こえるようだ。

「名前…」
「名前?ああ、お前盗られたもんな。そうだな、何がいい?」
「なんでも…」
「ええ…」

今いるここが、あまりにも現実味がなかった。ぼんやりとスキンヘッド野郎を眺めた

「えーと、じゃあ、あれ、お前が暇つぶしになんか紙で工作してんじゃん。あれ日本の伝統だったろ、形の一つ一つに名前があるよな」
「そうだな…」
「一番よく作ってたのは鳥みたいなやつだったな、あれにするか」
「鳥?……鶴のことか?」
「ツル、うん、そんな名前の作品だったな。俺映画で見て知ってた」

にしてはすぐに名前出てこなかったじゃねーか

「あ、お前の名前教えてもらってないぞ」
「あーそーだったな、じゃあ……ハゲタカでいっか」
「じゃあとは何だ、じゃあとは。ていうか本名じゃないだろそれ」
「俺の二つ名だから俺の名前だろ。あとお前の発音だと別の単語に聞こえそうだし。
というわけで、よろしくな、ツル」
「おう、よろしく。ハゲタカ」


3年前、日本人の俺は死んだ。
そして、カルリファミリーの一員、ツルが生まれた。