二次創作小説(紙ほか)

[復活]食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ ( No.4 )
日時: 2019/01/29 19:41
名前: エノキ (ID: xrNhe4A.)

※オリキャラ中心で進みます

2話/①
[食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ]前半


3年前、文字通りふつうの一般人だった俺がマフィアになってから色々あった。とにかく色々だ
ドイツ語以外にも他の言語を覚えたり、射的の練習したりと、やることが沢山あったが3年間かかさずに筋トレはしている
20代と三十路は気持ちも身体的にも大きく違うが、ヨーロッパの人間にはこれっぽちも分からないらしい
髪が白かったらジジイ、そうじゃないなら子供か若い奴のどっちかに見えるという。びっくりするくらい極端だ
だから少しでも筋肉をつけて見た目で舐められないようにしなきゃいけない
一応実務の経験はある。ブツのやり取りや侵入者の始末といった細々とした作業だけど

しかし、そんな日々ともおさらば
今日から晴れてハゲタカの直属の部下に任命されることになった
研修期間が終わって給料が増える!そのお金で炊飯器と日本米買っておにぎり食べる!ひゃっほい!

「熱心にカタログ見てるところ悪いけど、うちは成果で給料決めるからな。先に任務の下調べしてくれ」

日本の電化製品のカタログを熱心に読んでいると、ハゲタカに取り上げられて書類を渡された
内容は全てイタリア語で書いてあった
ハゲタカの指導のもと、イタリア語は読み書きも会話も習得済みだ
普段はドイツ語でやり取りしてるが、任務のときはイタリア語で言葉を交わすようにしている

「今回の任務は潜入調査だ。うちのシマで闇オークションがあると噂があってな、お前にはオークションの運営状況を調べてもらう。あと、できれば顧客の情報も欲しい」
「オークションの従業者にでもなりすませばいいのか?」
「いや、客の方がすんなりいけると思う。アジア人で小綺麗な身なりしてりゃ、あっちは絶好のカモだって油断するだろ。必要なものはアタッシュケースに入れておいた。服はこないだ届いたオーダーメイドのスーツにしろよ」
「わかった」

数ヶ月前にハゲタカに連れられて、イタリアの有名スーツ店で2着ほど作ったのだ
今でも思い出せる、店員が揃って微笑ましげに採寸してきたことを……
思わず「七五三か」ってツッコミしちゃってハゲタカに笑われたことも覚えてる。こいつ中途半端に日本の知識あるんだよな
代金はハゲタカに持ってもらったから文句言わなかった俺を褒めてくれ、誰でもいいから

[復活]食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ ( No.5 )
日時: 2019/01/29 19:41
名前: エノキ (ID: xrNhe4A.)

※オリキャラ中心で進みます

2話/②
[食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ]前半


書類に目を通し、オーダーメイドのスーツを着て髪を整えて、指定された場所へ向かう
拠点から車で1時間ほど離れたとこにある地方都市で、観光者向けに色々と活動している

イタリア語の実践練習で数日ほど滞在したときに飲食店や娯楽施設に顔を出したので、俺が何者なのか、それとなく知られている
マフィアがそんなんでいいのか?って思ったし、途中まで観光に付き合ったハゲタカにも言った。そしたらこう返された

「カルリファミリーは元は自警団で、その自警団も元は衰える一方だった田舎を救った兄弟に倣って創立したんだ。シマの人間を守るのも立派な役目だぜ、守ってくれる奴がどんな人間なのか知ってもらうのも大切だからな」

このとき初めて、ほんの少しだけカルリファミリーを尊敬した
回想終わり


車をパーキングで停めて、途中で見つけた小売店でタバコを買うついでに最近何か変わったことがなかったか尋ねると

「……お前さんとこのジジイどもがお気に召すような催し物なら知ってるよ」

随分と俺のことを見下すような口ぶりで答えられた。どうやらカルリファミリーの怠惰っぷりはシマ中で有名なようだ
今回の潜入調査で得た情報をどうするのか聞いてない
ぶっちゃけこの店員のように、俺も上層のご機嫌取りなんじゃないかって気がしてる
礼を言って、話に出てきた店に足を向ける
一応書類には闇オークションの候補地がいくつかリストアップされていた
今から行くところも書いてあった
ハゲタカのコメントで、地下がある建物だと可能性が高いらしい
まあ地下ならバレなさそうだもんな


しばらく歩いて、大通りから少し奥まったとこにあるパブに着いた。
時刻は夕方で、遠くに宵の明星が見えた。
オークションは大体7時ぐらいに始まるから、それまではパブの方で時間を潰すことにした
ドア前のプレートが開店アペルトになってたので店に入る
店内はまあまあといった感じ。立ち飲み用の机がいくつかあるスペースと、スツールが5つ設置されたカウンターがあった。
立ち飲みスペースは仕事終わりの客たちで賑わっていた
カウンターの方が空いてたのでそこに座り、軽いカクテルを頼む
パブのマスターが注文に応じて作ってくれた。

[復活]食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ ( No.6 )
日時: 2019/01/29 19:42
名前: エノキ (ID: xrNhe4A.)

※オリキャラ中心で進みます

2話/③
[食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ]前半


「アンタ、カルリんとこの新人だろ」

そんな言葉とともに、小さくくびれのついたグラスにビター・カルアミルクが注がれ、つまみと一緒に出された
このマスターとは初対面だが、英雄と自警団由来のマフィアにプライバシーはないようなもんだ
会釈のつもりで店長の顔を見て小さく笑う
マスターは頬をかきながら苦笑を浮かべた

「日本人の笑顔ジャポーネ・ソッリーソは可愛いけど、何考えてんのかさっぱりわからんから困るなぁ」
「俺だってわかんねーよ。けど、とりあえず笑って会釈しときゃなんとかなる」
「そんなものなのか。まぁ……今日ここに来たってことは仕事なんだな。なんだ、その、頑張ってくれ」

そこでマスターから紙を何枚か渡された
何も書いてなくて首を傾げているとマスターが説明してくれた

「カルリの新人はただの紙切れから見事な作品を作るって聞いててな、折角だし何か作っといてくれ」

俺が言い返す前に、来店した客が俺の隣に座ったので、マスターは会話を切り上げた
俺の折り紙がそこまで有名になっていたとは思わなかった。どうしたもんかとしばし考えて、黙って折り鶴を量産することにした
だって俺、鶴の折り方しかわかんねぇし

[復活]食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ ( No.7 )
日時: 2019/01/29 19:43
名前: エノキ (ID: xrNhe4A.)

※オリキャラ中心で進みます
※原作キャラ出ます(変装中)

2話/④
[食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ]前半


「こんばんは、お兄さん。鶴折るのすごい上手だね」

もらった紙がすべて鶴に生まれ変わったところで、隣の客から声をかけられた。
久しく聞いてなかった日本語で
驚きと戸惑いで黙ってしまう。だって有名な観光地でもない場所で日本人を見たことなんてないし、日本人の俺は3年前に死んだことになってんだ
黙って相手の顔を見ていると、その客は慌てた様子で、イタリア語で俺に話しかけた

「ごめん、折り鶴を作ってたから日本人かなって早とちりしちゃった」
「あー、いや、俺日本語わかる……というか昔日本に住んでて、長いこと日本語喋ってなくてびっくりしただけだから。気にすんなって」
「そうなんだ、ああよかったぁ……」

気が抜けたように肩の力を抜いて笑う客は、黒髪で黒い目の日本人の顔だ。年は俺より大分年下で、20代後半ぐらい。
とくにこれといった特徴はないのが特徴のようだ

「オレ、観光でここに来たんだ。君は?」
「仕事の用でな、時間までここでヒマ潰してた」
「折り鶴で?」
「マスターに頼まれたんだ。他所の店で作ってるところを噂で聞いて、んで作っって欲しいって」
「へーそうなんだ。すごいね……これめちゃくちゃ小さい……あ、お兄さんの名前聞いてもいい?」

大中小極小と並ぶ折り鶴をまじまじと眺める仕草に、三十路の俺を「お兄さん」などと呼ぶ姿を見ていると毒気を抜かれていくようだ
人懐っこいというか、カリスマとは別の魅力がある
日本人の謙虚さとイタリア人の口説きをいいとこ取りしたような感じは、見ていて好感が持てる

「俺の名前はツルだ」
「下の名前?」
「苗字とか下の名前とか関係ないんだ」
「へぇ…?」

男はイマイチ理解してないような顔だった

「じゃあ、オレのことはツナって呼んで」
「おう。よろしくなツナ」
「よろしく、ツル」

ツナと握手を交わし、手を離したその瞬間、ツナの着ている服の袖からちらりと見えた時計を見てしまい、静かに息を飲んだ
俺が表社会から消え去った事件の……時計の修理で引き受けたものと同じモデルの時計だった
単なる偶然だろう。上流階級の紳士向けに展開しているモデルだから、マフィアだとか関係なく手に入れられる時計なんだ

いや、まてよ
20代のツナが高価な時計を身につけるほどの金持ちなのか?
改めてツナの格好を見ると、俺と同じスーツだが一目でわかるほど良い質のものだ
特徴のない顔は小綺麗で手入れもちゃんとしているのがうかがえる
ただ裏社会の人間によく見られる擦れた雰囲気や警戒心といったものは一切見受けられない
ツナ自身が無害だったとしても、あの悲惨な出来事を思い出してしまって身構えてしまう

[復活]食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ ( No.8 )
日時: 2019/01/29 19:44
名前: エノキ (ID: xrNhe4A.)

※オリキャラ中心で進みます
※原作キャラ出ます(変装中)

2話/⑤
[食わず嫌いはちゃんと直さなきゃ]前半


落ち着くために酒を舐めるように飲んだ
そんな俺を不思議そうに見ているツナに向き直って適当に世間話を始めた
大通りに出てる食堂のランチが美味しいとか、ここの都市出身の無名の芸術家が長年かけて描いた教会の絵がすごいとか
そういった話をしていくと、ツナとかなり打ち解けているような気になる
たぶん、ツナのいい塩梅の魅力のおかげだろう。いや魅力に塩梅とかないと思うけど
でも、こちらを気遣っているのがなんとなくわかる
ツナから聞く話はほとんどがドジってえらい目にあった自虐話なんだけど、どの話も誰かしら他の人がいて、その人たちのことを大切にしてるんだろうなってのもわかってきて、こっちがこそばゆくなってくる
なんというか……包容感があるような感じだ

ツナって不思議だなあと酔い始めた頭で考えていると、ふと後ろから声をかけられた
そいつは中年の太った男で、正直にいうと不快感のある笑みを浮かべながら両手をさすっていた
聞いたことのない訛りのイタリア語で
「当店自慢のショーがこれから始まるので、ぜひ見てって欲しい」といった
出席するなら前金を支払ってくれと言われた。
値段は10万ユーロ
ハゲタカから渡された書類に書いてある通りの値段だ
酔った頭が一気に醒めた
そうだ、俺は任務で闇オークションの潜入調査をしないと

アタッシュケースから前金代を入れておいた包みを渡す
その光景を見て驚いているツナを横目に、日本語で話しかける

「このデブの言うショーてのは、見ていて気持ちいいもんじゃない。……俺の用はこれだから。話、付き合ってくれてありがとな。楽しかったぜ」

ツナは少し考えるそぶりを見せて、

「今日のショーは何をするの?」
「たいそう元気のある子供達の“劇”ですよ」

と中年デブ野郎とやり取りしたかと思えば

「オレも参加する」と言って中年デブ野郎にクレジットカードを渡した
今度は俺が驚く番だった

「ツナ、いいのか?言っておくけど非合法のショーだぞ、子供のかあいらしい劇とは正反対だ」
「わかってるさ。オレ、観光の他にも目的があるんだ」

そう言うツナの顔には覚悟が秘められていた
クレジットカードの支払いを済ませた中年デブ野郎がこっちに戻ってくるのを横目に、小さな声で問う

「……目的って?」
「人探し、さ」




後半へつづく!