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4話『仄かな気持ち』

その女は、俺の手を取り、こう言った。
興奮しているのか、まるで今にも泣き出しそうな勢いだ。

『ねずみ男さん…!!ありがとうございます…!!』

ーなんだよ。

俺の気持ちを察しているのか察していないのか、突然上目使いでこちらを見上げてきた。

『そうだ。私、齋藤 梨緒 です。〝梨緒〟って呼び捨てしてください』

梨緒、か…。
人間界では普通の名前なのかな…。

ふと目をやると、女…梨緒は腕時計をしきりに気にしていた。

『ごめんなさい。仕事遅れちゃう…！行ってきますね!!』

そして、梨緒は向こうへたたた、と数歩駆けていき、今までより少し大きな声で、
『明日もここに来て、いいですかー？』と言った。

俺は知っていた。
拒否権なんてないってことを。

だって、俺は、彼女に初めての『恋』をしてしまったかもしれないのだから。