二次創作小説(紙ほか)
- 第39話「刻羽睦彦」 ( No.184 )
- 日時: 2020/05/24 08:53
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
—五年前 睦彦・11歳—
俺の実家は神社だ。
神社と言っても、拝殿と本堂があるだけの小さな神社だけど。
母さんが死んでから、三歳上の兄ちゃんと親父との生活。
親父は社務所に詰めていて、毎日掃き掃除を俺たちに強制させた。
めんどくさいことが嫌いだった俺は、よく掃除をサボっていた。
【とある夏の日】
光彦「あ、父さん。今仕事だろ、どうしたの?」
父「睦彦の奴が、また掃除サボって逃げたんだ!」
光彦「アイツ…またサボってんのか。分かった、俺が探しとく」
父「助かる。見つけたら尻叩いて説教してやってくれ」
光彦「はいはい、じゃ、仕事頑張って」
・・・・・・・
光彦「おい睦彦、バレてんぞ」
睦彦「(茂みの中から)やりー。ありがと兄ちゃん」
光彦「別に助けたわけじゃないからな。お前にはちゃんと掃除をしてもらう」
睦彦「マジかよ! な、今回は見逃して…」
光彦「そうだな。確か倉庫に干し柿があったはずだから見てこい」
睦彦「やったぁ!」
【倉庫】
睦彦「えっと、干し柿。干し柿……アレ、ないけど」
父「睦彦、お前どこをほっつき歩いてたんだ!」
睦彦「親父!!(ギク)」
父「ついてこい! 説教だ!(睦彦の首元を掴んで)」
睦彦「はめたな兄ちゃんっ」
光彦「この俺が大人しくお前の言うこと聞くと思ったか。悪いのはお前だ」
睦彦「チックショウ…」
兄ちゃんは頭の回転が早かった。
俺のウソはすぐに見抜くし、すぐ俺を見つけて親父のとこへ連れて行かせる。
兄ちゃんのことは好きだった。好きだったけど、こういう所は嫌いだった。
父「全くお前って奴はいつもいつも……(以下略)」
睦彦「……ごめんなさい……」
父「光彦を見習ってちょっとは素直になれ!」
ブンッ
睦彦「…ギャア! ちょ、大人が子供に向かってそろばん投げつけんのかよ!」
父「光彦、早くこいつつれて掃除してこい! 逃げたら捕まえろ!」
光彦「はいはい」
早い話が、二人から逃れられる術はなかった。
【夕方】
睦彦「………(箒サッサ)」
光彦「おい、昼間のこと気にしてんのか? 気にするなって」
睦彦「掃除なんて誰が好きになるんだよ。兄ちゃんもそう思わない?」
光彦「正直言うと、俺も掃除は嫌いだ」
睦彦「やっぱり」
光彦「『あの親父、また掃除押し付けやがって』くらいは思ってる」
睦彦「一緒だ。じゃあ何で言われるがままにやってんだよ」
光彦「いいか、睦彦。カッコよく目立て」
睦彦「目立つって、悪い言葉じゃん。あんまいい意味でつかわれないっていうか」
光彦「それは違う。確かに、悪い意味で目立ったらいけない。今日のお前みたいに」
睦彦「兄ちゃん!!」
光彦「ぷっ。あはははは。だけど、いい意味で目立つのはいいだろ」
睦彦「例えば?」
光彦「親の手伝いをする。自分のすべきことをしっかりする。それだけでもいい」
睦彦「でも、今の俺がそんなことできるかな」
光彦「出来る。だって睦彦は俺の弟だから」
睦彦「………兄ちゃんみたいに頭良くねえよ」
光彦「それを言うなら、俺もお前みたいに不器用じゃねえ」
睦彦「それ褒めてなくない!?」
サッサッサ
睦彦「こんなに落ち葉溜まった…。畑にやってくる」
光彦「おう。そろそろ家に帰って晩飯のしたくするか」
睦彦「そうだな」
客はいつも少ないし、収入も決して多いわけではないけれど、幸せな毎日だった。
俺の幸せが壊れたのは、それから二日後。
二日後のことなんてその時にわかるはずもなく、俺は落ち葉を畑に移して夕食を食べ、
布団にもぐりこんだ。
父「提灯消すぞ。早く寝ろ。寝ないで起きてると掃除時間増やすぞ」
睦・光「………悪い大人だ」
父「じゃあな。早く休め」
睦彦「おやすみ、兄ちゃん」
光彦「はいよ、おやすみ」
ネクスト→睦彦がいつも着ている袴は、母親の形見でした。
次回もお楽しみに!