二次創作小説(紙ほか)

第39話「刻羽睦彦」(6) ( No.193 )
日時: 2020/05/29 17:46
名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)


 睦彦過去編も今回で最後になりそうです。
 長かったな…でも次の仁乃編も長いので、時間があるときにゆっくり見て下さいね。


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 【最終選別】


 〈藤襲山〉



 睦彦「うわ、こんなに藤の花が…。時期じゃないのに」



 
  山の上にある鳥居まで、数百段ある階段を上った。
  これくらい、元々実家が神社だったのでほぼ余裕である。

  鳥居の前まで歩いて行くと、おかっぱ髪の着物の子供が提灯を手に立っていた。


 黒髪「ようこそお越しくださいました」
 白髪「時間にはまだ早いので、ゆっくりなさってくださいませ」
 二人「それでは失礼いたします」



 睦彦「え、あの、人は?」
 白髪「先ほど一人入山なさいました」
 黒髪「探してみるのもよろしいかと思われます」


  俺が二人に近づく度、二人は少しずつ離れていく。
  ………地味に傷つくので、それ以上質問はしなかった。
  二人は俺に軽く会釈をし、準備の為に階段を下りて行った。



 睦彦「まだ来たの一人だけ? 早く来すぎた〜」
 ??「あはははっ」




 睦彦「誰だ?」
 ??「やだなー。前会ったのに忘れちゃった?」



  そう言って現れたのは、小さな女の子だった。
  年のころは十歳前後。身長は平均よりもずっと低く、俺とニ十センチは違う。
  紫色の羽織を着ており、茶色の髪はツインテール。



 睦彦「……どこかであったか?」
 ??「お金、くれたのは君だよ?」
 睦彦「……金? 俺が赤の他人のお前に?」
 ??「本当に覚えてないんだ」



 仁乃「くるみざわ、にの。私の名前も忘れちゃったのかな」
 睦彦「……あ、ああー!」
 仁乃「お、思い出した?」
 睦彦「あの時の万引きのガキ!」
 仁乃「まぁ大体正解。約束通り、最終選別で会えたねっ」


 睦彦「雰囲気全然違うから誰かと思ったぜ」
 仁乃「あ、あれね。悪口ばっか言われてたからグレてやったの。今は大丈夫だよ」
 睦彦「そうか」



 仁乃「はい、これ(お金を差し出して)。返すよ」
 睦彦「……はぁ? お前にあげた金だぞ」
 仁乃「うん、大丈夫。実際には、まだお金あるんだ。盗まれなかった分ね。ちょっとだけど」
 睦彦「なら尚更だ。持ってけよ」


 仁乃「もらうのはいいの。返せる自信がないから、いらないの」
 睦彦「じゃ、返すのは選別受かってから返せ。自分のお金でちゃんと」
 仁乃「君はお人好しだね」
 睦彦「悪いか。嫌だったらその金は俺が貰ってやる」
 仁乃「ありがとう。えー—ッと」


 睦彦「睦彦だ。刻羽睦彦」
 仁乃「むつひこ…。むっくんか!」
 睦彦「勝手に変なあだ名つけるなよ」

 仁乃「変じゃないよ。むっくんって呼びたいの」
 睦彦「やめろ。お前、図々しいったらないぞ」
 仁乃「じゃあ、選別後にお互い生きてたら、呼んでいい?」



   そんなの、お互い生きたいから頑張るしかないだろ。


 睦彦「……ずるいぞお前!!」
 仁乃「あはははっ」




 ??「うわ、もう人いるのか。俺すぐに死にそう」
 ??「こんなのカンタンだ。すぐに終わらせてやるぜ」




 睦彦「人、来たみたいだな」
 仁乃「そうだね」




 黒髪「今宵はお集まりいただきありがとうございます」
 白髪「鬼殺隊・最終選別にご参加頂き、感謝申し上げます」


 黒髪「この山には、鬼が苦手な藤の花が多数生えております」
 白髪「ですがこの先、藤の花はありませんので鬼が出ることになります」

 黒髪「皆様には鬼を狩っていただき、七日生き延びてくださることが条件になります」
 白髪「条件を満たした者は、鬼殺隊として採用されることになります」



 二人「それでは、行ってらっしゃいませ」






  俺はこの日胡桃沢仁乃に会った。
  彼女は笑った。
  俺を『むっくん』などと呼んだ。




  彼女の笑顔はあったかかった。
  彼女の声は陽だまりの色をしていた。
  親も兄弟も失った自分にとって、唯一の心の支えだった。




  その笑顔をもう一度見たかったから。
  もう一度、「むっくん」と呼んで欲しかったから。




  俺はためらわずに、彼女を守った。
  右足がズンと重くなって、激痛が走った。



  みんなが唖然として俺を見ていた。
  俺は出来るだけ笑って皆を見た。

 

  例え右足がなくなろうが、俺はずっと俺だ。
  刻羽神社の次男に生まれ、三歳上の兄と父親を亡くしたただの人間だ。


  俺は強いって虚勢張って、
  カッコつけたがったのだって全部、自分の弱い心を守るためだった。
  でもずっと前に胡桃沢が言った。


  「むっくんは、ありのままのむっくんでいてね」


  

  俺はこれからも、刻羽睦彦を演じ続けていく。






 【出張編:大正コソコソ噂話】
 今日の大正コソコソ噂話:次回予告


 むう「私、気づいちゃったのです」
 無一郎「今度は何に気づいたの?」
 むう「このコーナーで次回予告すればいいじゃないか」

 蜜璃「パンがないなら何たらかんたらってやつね」
 伊黒「マリーアントワネットだな」


 むう「というわけで次回予告だっ」
 しのぶ「次は仁乃さんの過去のお話らしいですよ」
 義勇「睦彦から語られなかった、最終選別後のお話だそうだ」


 実弥「ちょっと待った。俺が胡桃沢を刺したシーンはカットしろォ!」
 宇髄「派手に反対する! そこはカットしちゃだめだろ」
 煉獄「そうだな! というわけで作者、よろしく頼む!」

 むう「了解!」
 悲鳴嶼「何と哀れな子供だ…南無阿弥陀仏」



 全員「次回・『胡桃沢仁乃』お楽しみに!」
 むう「次回も執筆がんばります♪」