二次創作小説(紙ほか)

「恋ゴコロ」(2) ( No.255 )
日時: 2020/06/24 16:26
名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)

 〈仁乃side〉




 あれは、一年前。
 私がむっくんと一緒に、鬼殺隊本部へ連行された後のことだった。
(詳しくは>>194からの仁乃編へGO!)

 私が不死川さんに刺された時、大声で怒鳴ってくれたこと。
 私を『自分の大切なもの』だといってくれたこと。
 その感謝を込めて、私はむっくんを浅草の商店街へ案内した。


 睦彦「………え、これ、全部人の数?」
 仁乃「そうだけど。もしかして、都会来るの初めて?」
 睦彦「うん、ちょっと今ドキドキしてる」

 
 子供っぽい感想を述べる彼が可愛くて、私もつられて微笑んだ。
 しばらく二人で店舗を眺め歩いていたけれど、髪飾りを売る店の前に来た時、むっくんがチラリと一瞬こっちを見た。


 仁乃「どうしたの?」
 睦彦「胡桃沢って、何色が好きとかあるのか」
 仁乃「紫かなぁ。なんかオシャレで素敵だと思わない?」


 好きな色は何かと聞かれるので、いつも身に着けている羽織の色が好きだと答える。
 むっくんは「そっか」と呟いたあと、店の前で何やら店員さんと話していた。
 

 そして、彼がこっちへ帰ってきたとき、その手には金属製の髪飾りがあった。
 紫色の桜型のもので、ピンとして使うものだった。

 その時はまだ、むっくんのことは名前くらいしか知らなかった。
 ……自分用、ではないだろうから、知り合いにあげるのかなと思っていたら。


 なんと、むっくんはその髪飾りを無造作に私に差し出したのだ。
 俯いて、顔を紅潮させるむっくんを、私はまじまじと見つめたっけ。



 睦彦「やるよ、それ」
 仁乃「私に? 他に、あげる人とか、いないの?」
 睦彦「………お前の方が似合うと思うよ」



 照れて不愛想に返事をする彼を、私は好きになった。
 だから今日、みんなで市場へ買い物に行くとき、その髪飾りをつけていこうと思ったんだ。
 むっくん、これを見てどう思うかなってワクワクしながら。


 でも、彼は、これを昔私にあげたことすら忘れているみたいだった。
 私の髪飾りを壊してしまったことを悔やんでいるみたいだった。それは当たり前だと思う。
 でも、「新しいのを買ってやる」って言ったのが何より腹が立った。


 私にとっては、あの髪飾りは好きな人がくれた、一番の宝物だったのだから。
 新しく買った他のモノとは価値がまるっきり違うのだから。



 でも……私もあそこまで言うことはなかった。
 人は、忘れる生き物だし。
 実際むっくんは、あの髪飾りを私みたいに、すごく大切だとは多分、思って…ないだろうし。



 仁乃「随分、遠いとこまで来ちゃったな…何もそこまで慌てて走ることないのに」


 やっぱり私はいつも、むっくんに何かさればかりの受け身状態だ。
 彼が私をかばって右足を失ったのも、先にあっちから告白されたのも、
 ……髪飾りをもらったのも。



 仁乃「………っ。うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 ??「………いきなり何泣いているの?」


 仁乃「………へ? (声がした方を見て)きゃああ!」
 無一郎「ひとの顔見て悲鳴を上げるなんて、失礼だね」
 仁乃「え、何でこんなところに。って言うかいつからいたの?」
 無一郎「ずっと、いたけど」
 仁乃「うそ! わ、私ったらなんて恥ずかしい…」



 無一郎「ずっと、声かけてたけど聞こえないなんて、耳悪いの?」
 仁乃「……あはは、そうかも…」
 無一郎「早く医者に行かないと、そのうち聞こえなくなるよ」



 時透無一郎くん、同年齢の霞柱。
 彼もまた、私に深く関係のある人物だ。
 本部へ私とむっくんを連行した張本人であり、胡桃沢仁乃という人間の血鬼術を見た人物。



 無一郎「君こそ何でこんなところにいるの? 一人でワアワア喚いてみっともない」
 仁乃「みっともなくない! いや、みっともないけど…」
 無一郎「僕は用事があるから、あまりここにはいれないからね」


 
 あまりここにはいれないからね=話は早めにお願いね。
 彼はわざとそう言う言い方をするのだ。



 仁乃「……むっくんと、ケンカしちゃって…」
 無一郎「振ったの?」
 仁乃「人聞き悪い! ただちょっと…小さなことなんだけど…(説明)」


 私は、ケンカの理由をかいつまんで彼に説明した。
 むいくんは、何も言わずに話を聞いてくれた。




 無一郎「ふぅん…で、胡桃沢さんはもう帰るの?」
 仁乃「……今、帰っても何て言われるかわかんないし」
 無一郎「僕んちに来るなら、前もって連絡くれないと困るよ」
 

 仁乃「……え?」
 無一郎「さっさとついてきなよ、はぐれるよ」
 仁乃「……ちょ、ちょっと待って!」



 スタスタと先を歩くむいくんを追いかけて、私は走り出した。
 何だかかの言いつつ、結局は心配してくれているんだよね?
 


 むっくんは私を許してくれるかな。
 意外にちょっと気難しい所があるから、すぐに仲直りは難しいだろうけど。
 私だって、好きであんなこと言ったんじゃないよ。
 ただ、……私の好きな物を、むっくんにも好きでいて欲しかっただけ。


 それは、そんなに変なことかな?


 胸が痛い。
 ……会いたいよ、むっくん。また『胡桃沢!』って呼んでほしいよ。
 ごめんね、むっくん。


 


 初めての、ケンカ。初めてのスレ違い。
 私たちの、どこかずれた恋ゴコロ。



 ネクスト→一方睦彦は、寧々と葵に協力してもらってアクセサリー作り!
      二人の恋路やいかに? 次回もお楽しみに!