二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.112 )
日時: 2022/05/15 14:04
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ShMn62up)

第十章 ヒュウ ~海だ!春だ!夏じゃねぇのかよッ!〜

「わぁ、海だねぇ」

エイトが笑いながら手を叩きながらゆったりと笑う。俺は赤白セキシロ 陽佑ヒユウ ヒウオギシティから旅に出た駆け出しトレーナーである。そして今はエイトとツバキと旅に出ている。

「心地がいいな。」

俺は潮風を肌で感じながら言った。海は幼い頃数回家族としか行ったことが無いな。親無しで海に来るのは初めてだな。

「ママンボッ〜!」

するとママンボウが海で跳ねている。他にもマンタイン、ドククラゲ等が海を泳いでいる。

「あーカフェがある!海辺のカフェでゆっくりお茶…いいよねぇ」

エイトがカフェを指さして言う。行こうよとツバキが微笑みながら俺に言うが、俺は絶対嫌という顔をしてやった。

「海見れただけでも十分だろ。ほら、次の町カゴメタウンに行くぞ。」

「えぇー!ヒユウ!行こうよぉ!」

エイトが口を尖らせる。俺はいち早くバッチを集めて強くなりたいんだ。こんな所で時間を食ってる暇はない。

「あっ、レイナ」

ツバキが海を指さして言う。え、レイナも来ているのか?!俺は条件反射でキョロキョロした。

「ん"ん"……ぶはっ……!」

するとツバキが下を向いて吹き出している。その瞬間。俺はツバキにからかわれたことに気づいた。そして顔が火照るのを感じる。

「ヒユウは本当にレイナが好きだねぇ」

エイトはからかいはしないものの、俺の心を抉ってくる。コイツは幼いから悪意なく言ってるのが余計タチ悪い。

「そんなんじゃねぇよ。行くぞ。」

俺はツバキとリンドウの襟を掴んで引っ張ってく。ツバキとリンドウはなにかギャーギャー言ってるが、俺は無視する。

「痛いっ!痛いヒユウ君おしり痛いって!」

ツバキが叫んでいる。いつものやり返しと思えばスッキリするな。俺は悪い気もせずにズルズルと2人を引きずっていた。そしてブティックの前に通りかかった。その中には…レイナ、トモバ、マツリ、サツキ、シアンが居た。
なるほど、トモバが居るということはめんどくさくなるということだ。ガッツリ無視してやった。

「おーい!トモバぁ!マツリもサツキもシアンさんもいるー!」

エイトがニコニコしながら女性陣を呼ぶ。こいつ、引きずられたくないから助けを求めたのか…?いや、幼いから悪気ないな。悪気ないから余計タチ悪い……

「あっ!ヒュウじゃーん!」

トモバは持っていた商品を元に戻して店から出てくる。あぁ…見つかった。俺はある種の絶望を覚えた。

「わー!ヒユウ君だー!」

そしてマツリも続いて出てくる。俺は額に手を当てた。ツバキとリンドウはチャンスとばかりに俺から抜け出して女子陣に入り込む。

「あ、ヒユウじゃねぇか!」

するとカシワも出てきた。するとセブンとムスカリーも店から出てきた。セブンは俺と同じような嫌々な顔をしている。ムスカリーは「あはは」と苦笑いをしている。何故トモバチームとレイナチームがブティックにいるんだ…

「今から海で遊ぼうと思ってさ!ほら!ヒュウ達も水着選ぼうよ!」

トモバがそう言うと俺の手を掴んで店に連れていく。

「アホか!今春だぞ!海の季節じゃねぇっ!」

俺はそう言いながらトモバと反対方向に引っ張るが、目の前にレイナが出てきた。

「ヒュウ…もう、諦めよう。」

そう死んだ目で俺の事を見てきた。レイナはトモバの被害に俺を巻き込もうとしているようだ。そうしてレイナは俺の手をとると怪力で俺をブティックに連れていった。

「わーい!海だ海だー!」

エイトがわーいとはしゃぎながらブティックの中へ入っていった。ツバキもニコニコとして入っていった。俺は未だ嫌々な顔をする。するとセブンと目が合った。

『諦めろ』

そう言われた気がして、俺はもう諦めた。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.113 )
日時: 2022/05/14 21:12
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ShMn62up)

「……今…春だよな。」

俺は死んだ目で皆を見つめる。どうやら4チーム全員集まっていたらしく、幼馴染のマオ、同じチームのツバキと、エイト、そして他チームのセブン、ムスカリー、カシワ、シイナ、リンドウは男子水着売り場で集まっていた。

「寒いならぁ、上着買えばいいよぉ!」

リンドウが上着を持って笑う。皆は気が進まないながらも各々が水着を選び始めた。
と言っても、男の水着はパンツ一丁だ。デザインなんてそんなにない。俺は無難に紺色の水着を選んだ。

「えぇ、ヒユウそんな地味なの選ぶの~?」

ツバキが俺の後ろからひょこっと出てきた。地味って…元々選ぶデザインないだろうが。

「モテるならばこのマイクロビキニぐえっ」

俺は真顔でツバキにゲンコツを食らわせてやった。ツバキはマイクロビキニを落とした。元に戻せその水着。
そういえば女性陣は遅れそうだな。まあ、ゆっくり待つか…
ん?まて、レイナが…レイナが!

「レイナが!」

俺はそう言うと水着を着たまま急いで女性陣へと走ってしまった。その様子をみたほとんどはその様子に疑問を覚えたが特に気にする様子もなかった…が、

「え、あれ不味いんじゃない?」

シイナがその様子を見てゾッとする。それに同感したのかツバキも追いかける。

「ちょっ、追いかけよう!エイト行くよ!」

「え?!何何?!」

ツバキは何故かエイトを無理やり連れてヒユウを追いかけた。女性陣はすぐそこのため3人はすぐ追いついた。

「レイナ!大丈夫かっ……」

ヒユウは我を失い何も考えずに女性の試着室を開けてしまう。ヒユウは開けてから気づいた。
『俺変態じゃねぇか』
と。今ヒユウは水着一丁。そのまま女性の試着室を開けてしまった。完全に第三者からみたら変態である。通報案件である。
しかし、

「あれっ、どうしたの?レイナ?」

試着室の前に立っていたのはレイナで、試着していた女性陣からみたら、レイナが試着室を開けたように見えた。何故だろうか?
理由は簡単である。レイナが力づくでヒユウを女性陣から見えない死角に移動させ、自分がさも試着室を開けたかのように見せたのだ。

「…なんでもない」

そう言ってレイナは試着室のカーテンを閉めた。

…助かった…
俺は周りの目がこれから変態を見る目に変わるよりかは、レイナに力づくで移動させられて痛い目を見る方が断然良かった。

「ヒユウ!あぁ…間に合わなかったか…」

「審判もビックリするほどのセーフだよ。」

ツバキがわざとらしく俺に嘆きかけるのでそれをスパッと一刀両断にしてやった。エイトは今状況に気づいたのか青ざめた顔をする。

「ヒ…ヒユウ…女子に嫌われても…僕は味方だからね…!」

「だからセーフっつってんだろ!」

エイトはキョトンとするとツバキが笑う。それにつられてシイナも笑いだした。エイトは本気で心配してくれてたようでほっと胸を撫で下ろしている。こいつがあの、セブンの弟なんて考えられねぇな…

「で、何の用。」

レイナが俺に聞く。

「そういえばレイナはなんで着替えてないの?」

シイナがレイナのご法度に触れるようなことを言ったため、俺は睨んでやった。シイナは悪気がないのに俺に睨まれたため、「理不尽だ…」と呟いた。

「あぁ。それは…」

俺はそのレイナの口を塞いだ。レイナは抵抗しようとはせず、されるがままである。トモバの事件に巻き込まれもう諦めたようである。

「…まんへふちふはふの」

レイナはモゴモゴしながら小さい声で言う。伊達に幼馴染じゃない。言いたいことぐらいすぐ分かった。「なんで口塞ぐの」とレイナは言っている。

「立派な女性が言うものじゃない。」

俺はそう叱るように言った。レイナは不服そうな顔をしたが、俺は無視をした。エイトとシイナは疑問を浮かばせるが、ツバキはまたからかうネタを見つけたようだ。

「いいねぇ。熟年夫婦みたいだよっ。」

ツバキはケラケラと笑う。俺は顔の全体が熱くなるように感じるが、レイナは無表情であった。

「あっ、レイナ?レイナが着れる水着見つけたから着てみて!
って、4人とも?どしたの?」

トモバが試着室から顔だけを出して言う。すると俺、ツバキ、エイト、シイナがいた事に驚いていたが、俺らは特に何も言わなかった。

「…気が進まない」

「良いからっ!」

トモバはそう言って別の試着室へとレイナを連れていった。トモバは何回もレイナを着せ替え人形のように遊んでいる。そのためレイナの「アレ」も知っているのだ。

「…俺達も戻るか。」

俺が言うと皆は頷き、男性水着売り場へと戻って行った。
春に海に入りたくねぇ……
俺は心の底からそう思った。

ーーーーーーーーーーーーー
~???~

「バカンス…ねぇ」

白髪に薄い紫色の髪をした少年がそう呟いた。その後ろで、腕を組む茶髪にプラズマ団の服を着た少年。

「はい。もうすぐ計画が始まりますし。人員のケアの1つです。」

金髪に青い細長い髪が頭を1周している変な髪型に、白衣を着た人物がそう言った。白髪の人物と茶髪の人物は顔を見合した。

「…俺はともかく、何故派遣のトゥエルブスまでバカンスなんだ」

「まあ良いでしょう。楽しいですし。それに…もしあの人の計画が成功すると、しばらく海なんて見れないかもしれませんよ?」

白衣の人物が言うと、茶髪の人物は心底嫌そうな顔をするが、諦めた。

「派遣の身で休暇が貰えるなんてありがたいっす。ありがたく行かせてもらいますっす。」

トゥエルブス。そう呼ばれた白髪の人物はそう言って、早速部屋から出ていった。茶髪の人物はまだ不服そうだ。

「アラシも行ってきなさい。」

「…わーったよ。」

そうして、2人は束の間のバカンスを無理やり楽しもうとした。そうして、サザナミタウン。

「「げっ、レイ レイナ。」」

2人の声が重なった。そこには春なのに水着を着た集団の中に、マリンスーツを着たレイ 麗菜レイナの姿があった。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.114 )
日時: 2022/05/18 17:05
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: DT92EPoE)

《トゥエルブス》

そこには春なのに水着を着てはしゃいでる謎の集団とその中にレイ 麗菜レイナが居た。いや、居るのはいいんだ。いいんだが、前にあんなことがあった手前軽々しく前に出ることが出来ない。というか完全敵対勢力がバカンスに敵に顔出すとかなんの冗談だよ。しかし…まぁなんという偶然… いや、偶然じゃない。あのアクロマは確実に確信犯である。
まあ、会わなければ良いのだ。レイ 麗菜レイナと、一緒に旅している人にだけに会わなければ正体を知られるわけでない。普通に楽しもう。
……こういうことなら施設の図書館で過ごした方が有意義だ。

「……これも仕事の内なのかよ」

アラシがすっごい嫌な顔でいう。しかし格好はトロピカルな水着にサングラス、海をモチーフとした上着。完全に楽しむ気マンマンである。
呆れた。俺は黙ってそこら辺をうろつくことにした。

ーーーーーーーーーーーーー

俺はいつものフードコートを脱いで、施設特有のシワシワな薄黄色のシャツと半ズボンでそこら辺を歩いていた。

「あの、すみません。これ落ちましたよ。」

すると後ろから声をかけられる。ハリーセンのような頭にクマが酷い目。中学生ぐらいと思われる身長。
あぁ。苦労人か。
瞬時に俺は分かった。ハリーセンのような頭は寝癖。そして、クマを見た限りかなり無理を幼い頃からしてきたのだろう。こいつの苦労を否定する訳では無いが、他にも苦労して死んできたやつは星の数ほど見てきた。
その少年が持っていたのは赤黒いタオルだった。それは。昔施設の仲間と『お揃い』と言って持っていたやつだな。こんな大切なものを落とすだなんて、俺も疲れてるのかもしれん。

「あぁ、ありがとう。」

俺はそう言ってタオルを受け取った。少年は俺の姿をまじまじと見る。なんだ?何か変な格好か?
……施設での格好のまま仕事してるから結構変だな。
薄黄色のシャツと半ズボンは…まあ100歩譲ってよしとしよう。"100歩"譲って。そして俺の服は黒ずんでいる上にポケモンや人の返り血まみれになっている。
確実に変質者だ。

「あの、もしかして……」

少年が訝しげに言う。
バレたか?いや、そんなわけが無い。
というか、表世界の人々は裏世界のことなんて知らないはずだ。バレてない……

「あの、イッシュの南西出身ですか?」

……バレてないようだ。いや、当たり前だ。
いっしゅの南西…といったらヒウオギシティがある場所か。あそこはイッシュでも治安が悪いと有名だ。このみすぼらしい服装で貧相層出身と思われたようだ。

「いや、俺は別地方出身だ。」

「えっと、あっすみません…」

気を使わないでくれ。こっちがなんか気まづくなる。

「あっ、俺赤白セキシロ 陽佑ヒユウで、トレーナーです。」

「あっ、あぁ。えっと…俺は…」

名乗られたら名乗り返すのが表世界の礼儀だそうだ。俺に名前はあるが、『ドク』『クローバ・ナーヴァ』『リーダー』『トゥエルブス』等色々ある。そりゃ裏の世界で色々やらかしてるからな…

「……レイ。」

自然と口に出てしまったのはこの名前だった。いっ、いや!仕方ないだろう!レイのことしか考えてないんだから!いやっ、レイの事しか考えてる訳じゃない!自然と出てしまっただけ!そうだ!

「レイ…さん?俺の知り合いにも同じ名前の奴がいるんですよ。レイ 麗菜レイナって奴で…あ、すみません身内話で。」

そのレイ 麗菜レイナってやつガッツリ知ってます。というかめちゃくちゃ親密な仲です。

「いや、大丈夫だ。そのレイ 麗菜レイナを大切にしてやってくれ。俺はもう行く……」

「あっ、良ければ……」

するとセキシロが俺の手を掴んだ。なんか、哀れられているような気がする…まあ、休暇だし付き合ってやるか。

「なんだ?」

そう言ってセキシロはライブキャスターで誰かを呼び始めた。

ーーーーーーーーーーーーー

「キャー!誰このイケメンッ!本当に私がコーディネートしてもいいのっ!」

「あぁ。頼む。」

セキシロが呼んだのは金髪に髪先が赤色の髪で、赤いカチューシャをつけている少女。この人は俺でも知っている。というか、プラズマ団の仕事で直接会っている。この少女は統治トウチ 共羽トモバ。表世界の心臓とも言える財閥の一人娘。扱いを間違えたら俺は二度と表世界に出ることは出来ない……

「あっあっ、私統治トウチ 共羽トモバって言いまふ!あっ、ちょっとイケメンを前にすると……キャー!」

……こいつ結構変わってるんだな。所謂『めんくい』って奴か。レイが俺にこんな対応を取ってくれれば俺は死んでも良かったかもしれない。しかし、こいつのようなロリは対象外だ。

「…すみません。こいつちょっとこういう所があるんですけど、綺麗な服は選んでくれるんで。あ、お代はこちらで持ちますよ。」

セキシロがそう説明する。もしかして俺貧困で困ってる哀れな人だと思われてるんじゃないのか?!
……まあいいか。休暇で暇だったし付き合ってやるか。それに貧困と思われても別に問題ないし。

「すまないな。」

俺が言うと2人はニッコリと笑って俺をブティックまで引っ張って行った。まあ何なあったら全部ぶっ壊すか。いや、統治家の財閥に目をつけられたら俺でもさすがに死ぬ。これ結構ヤバイ場面じゃないのか?
俺はその瞬間悪寒を背筋が走った。

ーーーーーーーーーーーーー

「キャー!やっぱりカッコイイっ!」

トウチが俺の姿を見て悶えている。俺はこの統治トウチ 共羽トモバプロデュースの元試着している訳だが…なんだこの服。
全身真っ白で無駄にピチピチしている。ツルツルもしてるし、腰にはフリフリが着いている。スーツか?いや、スーツにしては派手すぎる。

「……トモバ。これアイドルが着るやつじゃねぇか。」

「カッコイイでしょ?!」

そう言ってトウチがゴツイ大きなカメラを取り出すと俺を撮ろうとする。不味い…!裏世界の住民が表世界で写真として記録される訳には行かない…!

「…写真は控えてくれないか。」

俺はいつの間にか本気で移動してしまい、一般人から見たら試着室からトウチの元へ瞬間移動したように見えただろう。トウチは顔を真っ赤にすると。

「おっふ……ちょっとイケメンパワーを間近で食らうとオーバーヒートしそうなんで。ヤダカッコイイ…」

こいつ本当に気持ち悪いな。色んな生物の中身を見てきた俺でさえも引きたくなるような気持ち悪さだ。もう帰りたい。派遣に休暇なんて与えるなよアクロマ。

「トモバ。レイさんが呆れてるから、そろそろ真面目に服選んでやれ。」

トウチはハッとすると写真に俺を収められないのを悔しみ、カメラをしまうと真剣に服を選び始めた。

「あいつ本当に変態…変なやつだけど、ちゃんとする時はちゃんとするんですよ。」

セキシロがトウチをフォローするが少し呆れている。その水着もあのトウチのせいで着ているとか…そんなはずないか。

「レイさん!これ着てみてくださいっ!」

するとトウチが服が入ったカゴを差し出してきた。今回は…まともそうだな。というか表世界のマトモが分からないため今のこのヘンテコな服を着てしまってるわけだが……
今回はまともであることを祈るばかりである。
試着室のカーテンを閉じると俺は丁寧に今来ている服を脱いだ。正直破って脱ぎたいが売り物のため丁寧に脱ぐことしか出来ない。上半身が露出する。鏡を見るとかなり俺の体はがっちりとしていて、脂肪何てものが無い。そしてボディの真ん中に大きな傷がある。俺はレイとは違い、純粋な人間のため傷は中々治らない。
裏世界に鏡などあまりないためまじまじと俺の身体と顔を見ると、着替え始めた。白い黒のラインが書いてあるシャツに濃い緑の上着、チェック柄の長ズボン。
この服は何か着やすいな。ちゃんと着れた後に、試着室のカーテンを開ける。

「キャァァッ!カッコイイ!」

「おお。トモバにしてはちゃんとした服だな。」

トウチが悲鳴をあげるのは慣れた。そして、セキシロがまともと言うのならばまともなのだろう。表世界の潜伏のためにもこの服は買っておいた方がいいかもな。

「このまま買おうか。」

そう言って薄黄色のシャツポケットからお金を出そうとするが…

「待ってください。私に出させてください。」

トウチが財布を取り出し、俺が何か言う前に会計を済ましてしまう。なんか申し訳ないな。まあ、タダで手に入ったのだからこれから有効活用しよう。

「トモバ、ヒュウ、何して…」

するとブティックの扉が開く、そこには濁った瞳にサラサラな黒髪のレイ 麗菜レイナが居た。

「「あ。」」

ガッツリ気まづい。めちゃくちゃ気まづい。レイナはパタンと扉を閉める。特に見られたからと言って悪いことは無い。無いはずなのだが…無性に追いかけたくなる。

「すまない。用事を思い出した。今回の恩は忘れない。」

俺はそう言ってブティックから飛び出してしまった。セキシロとトウチには悪いことをしてしまったかもしれない。いや…これからプラズマ団の計画が成功したら二度と顔を合わせないかもしれない。
……とりあえず今はレイ 麗菜レイナを追いかけよう。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.115 )
日時: 2022/05/20 06:55
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: DT92EPoE)

流石…というか、やはりレイ 麗菜レイナは早い。すぐ近所の森へ入るとポケモンや草木をかき分けながらレイ 麗菜レイナは逃げている。しかし、全力ということでもない。全力なら俺はまず追いかけることすら出来てないだろう。裏世界だったら確実に見失ってた。表世界様々だ。

「っ!」

するとレイ 麗菜レイナが声に出ない声を出す。その先は崖だった。崖と言えど、前のストレンジャーハウスのように禍々しい雰囲気の場所でなく、海や建造物が見える綺麗な場所だった。もう飛び降りたり…しないよな?
レイ 麗菜レイナは警戒しながら俺が1歩でるとレイ 麗菜レイナが1歩下がる。
このまま近づいたら本当にレイ 麗菜レイナは飛び降りてしまう。いや、これぐらいの高さならレイ 麗菜レイナは傷1つ負わないだろうが、そうなると俺が追いかけられなくなる。俺は人間だ。さすがにこの崖から飛び降りたら足がジーンとして少し動けなくなる。

「に、逃げないでくれ。話を…話をしよう。」

俺はなるべく穏やかにそう呼びかけた。レイ 麗菜レイナはキョトンとした顔をした後、何か安心したように警戒を解いた。あぁ。俺はレイ 麗菜レイナから見たら仕事中に見えたのかも知れない。警戒されるのも当然である。

「……何?」

「落ち着け。俺は今日休暇だ。」

そう言いながらレイ 麗菜レイナの横に座る。レイ 麗菜レイナも落ち着いたのか体育座りをする。

「休暇って…派遣にも休暇あるのね。」

「まあな。」

「……」

「……」

「で、なんで追いかけてきたの?」

「逃げられたら追いかけたくなるだろ。」

「……」

「……」

「その服。似合ってないわね。」

「本当はカッコイイとか思ってるんじゃないか?」

「……まあ、少しはね。」

そんな他愛もない話をする。大体の話は一言二言で終わるが、水平線に沈みかけてる太陽を見ながらレイ 麗菜レイナと話すのは、人生の中で一二を争うほど楽しかった。
俺も10年振り近くリラックスをしていた。すると空気が変わる。なにかピリピリしたものだ。
あぁ、ここで俺の休暇は終わるんだな。
そう察してしまった。

「プラズマ団の目的って何。」

「知ってるんじゃないのか?」

「…イッシュの支配…だっけ。」

「ご名答。」

ここでレイ 麗菜レイナはプラズマ団について切り出してきた。正直霊レイ 麗菜レイナに何かポロッと零さないかと、ヒヤヒヤしている。レイ 麗菜レイナの前だといつも何か零してしまう。しかし、俺は派遣の身だ。その上幹部クラスの情報を持っている。ちょっとでも零したりしたら、ピラミッド本部から首チョンパにされてしまう。

「……なんで私を殺さなかったの?」

レイ 麗菜レイナ……レイが俯く。ライモンシティで再開してからというものの、レイは表情を変えない。自害しようとした所を見ると、この旅でかなり追い詰められているな。その原因は…『幸せ』だろう。
レイは今この場に居ていいのか、居たいけど罪悪感で押しつぶされそうなのか……

「俺は、お前を殺してやりたいと思ってる。」

『分からない』そんな適当なことを言って誤魔化そうかとも思った。けれど、ポロッとこぼれてしまった。もうこうなったらヤケだ。

「…そう……よね。」

「折角屍を超えて楽園である表で過ごせるようになったと思ったら、罪悪感で自殺…昔からお前は人の情に対して弱いのが笑えるよ。」

俺は小馬鹿にするようにレイにそう言った。レイは何も言えなくただずっと下を見ている。
罪悪感罪悪感罪悪感罪悪感罪悪感
レイの胸はそればかりで溢れかえっているだろう。人のことをここまで深く考えられる悪役もここまできたら笑えるな。

「けどな…今のお前は、俺らが望んだ姿でもあるんだ。レイの心情を汲み取るならいっそ殺して楽にしてやりたい。俺も、ライモンの時はそう思ってた。」

レイが顔を上げる。しかし、瞳は奥の奥まで濁ったままで、見ているだけで俺も底へと連れていかれそうなため顔を背けた。

「お前にあんな仲間が出来てから余計幸せになったろ。それで余計死にたくなったかも知れないが、俺らにとっては泣いて内蔵支払うぐらい価値がある光景だ。」

すると俺らの後ろ。森の奥の奥から風が吹いてくる。その風が俺らの髪をサラッとくすぐり、俯きかけてたレイの顔が完全に見える。
その顔は俺の知ってるレイじゃなかった。瞳は濁り、表情筋はピクリとも動かず何考えてるか分からない顔。裏世界には自分の感情を隠すためにずっと微笑むポーカーフェイスが居る。俺もそうである。そういう人も何考えてるか分からないため怖いが、レイへの恐怖は自分の深層心理をぐしゃぐしゃにされるような恐怖が盛り上がった。
こいつはもう俺の知ってる「アイツ」じゃない。レイ 麗菜レイナだ。

「……そう。でも、次会った時は本気で来るんでしょ?」

レイ 麗菜レイナは興味なさげに俺の言葉を受け流す。そして、俺の仕事のことを心配した。もう、俺には興味無いんだな。俺にはもう、あんな笑顔を投げかけてくれないんだな。

「そうっすね。今回の仕事は俺がピラミッドに…いや、裏世界で立っていられるかどうかの大切な仕事っす。残念ながら手抜きなんてしないっすよ。例え世界が滅びようとも……」

そう仕事口調で言うと、どこからともなくコートフードを取り出した。レイ 麗菜レイナは何も表情を変えずにただ景色を見ている。
変わったな。俺も、お前も。
そんなこと言える度胸なんて持ち合わせていないため、そのまま全速力で去っていった。
俺が駆ける森は太陽の光なんて入らずどんよりとジメジメした景色で俺を飲み込んだ。頬につたる1粒の汗なんて、気にならなかったよ。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.116 )
日時: 2022/05/26 16:46
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: h4V7lSlN)

《マオ》

「ちょっとマオ〜?楽しんでる?」

俺が海沿いのカフェで座っていると、ビショビショで、めちゃくちゃ楽しんでますと分かる格好をしたシイナが俺の横を通ってくる。

「…楽しめねぇよ。」

この前の事があったのだから。前にレイナに暴言を吐いて以来、レイナとは関わっても無いし、関わりたくない。

「…マオ前のPWT事件から怖くなったよねぇ」

俺と一緒に旅をしているリンドウも来る。リンドウは結構天然な所がある。そして無自覚で人の嫌なことをしてくるから良く嫌われる。まあ俺も学校の嫌われ者だったから許容してるが。
俺は母の探偵業を継ぐつもりで勉学に励み、進学するつもりのため色々と教育は施されてきた。しかし、PWTで『レイ』と名乗るレイナにそっくりな人物に会ってから母に全て聞かされた。もしかしたらそれも氷山の一角かもしれない。それでも、全て話された。『裏世界』というものを。そして、『レイ 麗菜レイナ』という物を。
それからどう接していいか分からない。最初は感情に任せて幼馴染を手にかけようとしたが、後々ミツキさんに叱られ我を取り戻したは言いもののどうすれば良いかも分からない。
そんな中いつものトモバが皆を巻き込み海で遊ぶ事になる。ということはだ、レイナも居ると言うことだ。事実レイナとは何回か目が合ったが、特に関わっていなかった。

「…ほっとけ」

俺はぶっきらぼうにそう言った。シイナとリンドウは困った顔で見合わせると、奥から誰かがやってきた。

「マオ。もう少し考えを広げてみましょう。」

その人は黒髪に赤メッシュの男性がこちらに来た。シックスパックが綺麗でかなりの体術の持ち主だということが分かる。実際、俺がレイナに暴言を吐いたあと、『何をやっているんですか!』と言われながら巴投された。それは常人ならぬ動きであったことが分かった。

「…考えを広げるって…どうやって…」

俺は不貞腐れながらミツキさんをジロッと睨みつけた。ミツキさんは大した事を考えていなかったようでうーんと手を顎に当てると、ポンッとて手を叩く。

「マオ!立ち会え!」

「は?」

ミツキさんが勢いよく言った。俺は訳が分からずにそう発した。

ーーーーーーーーーーー

ミツキさん、シイナ、リンドウ、俺のチームの他にもヒュウ、ツバキ、エイト、セブン、カシワ…がワラワラとやってきた。なぜなら…

「出来ました。相撲場です!」

ミツキさんは流木や葉を使い円を描き、相撲場を作っていた。嫌な予感がする。その予感は的中し、ミツキさんは上着を抜くとパンツ一丁…じゃなかった、水着だったな。それで相撲場へ上がる。『立ち会え』そういうことだろうな。
皆が俺を見る中、俺も上着を脱いで水着のままで相撲場に入った。
するとシイナが自然と俺とミツキさんの中央に立ち、腕を下げる。

「よぉーい、のこった!」

するとミツキさんが思わぬスピードで俺の水着の裾を掴む。そして、俺の片足を払うと俺は勢いよく投げられる。俺は受け身をして頭は死守したが、それでも体の節々が痛い。
分かってた分かってたぞ。ミツキさんと戦うとどうなるかなんて。引きこもりの俺が敵うわけないだろ…

「…相撲に投げ技はアリなのか。」

「相撲と言ってもおふざけ組合だからアリなんじゃない?」

ヒユウとツバキのそんな会話を聞きながら俺は投げられた状態で居た。

「…これが考えを広げると何の関係があるんだよ…」

「運動をした方が思考は広がるものですよ。さて!次の相手は誰でしょう!」

俺が立ち上がるとミツキさんが両手を腰に当てながら堂々と言った。いや、これの思考広げるための物なのに他の人ともやるのかよ…

「ルールは勝ち抜き戦!勝った人は王様!負けた人はチャレンジャーに戻ります!1度勝つと王様になれてそれからチャレンジャーと挑むことになります!ということでマオは最後尾に」

ミツキさんが説明すると皆が順番に並び始める。いや、お前らも参加するのかよっ!

ーーーーーーーーーーー

「おわっ…!」

ヒュウがミツキさんに投げられる。いや、この人に勝てるやつ居ねぇだろ!剣道とか柔道とかやってる上に黒帯の記憶あるぞ!
他の人もミツキさんに1度も勝てずに疲れて倒れている。

「ヒユウはこの中で1番才能がありますね。飲み込みも早いですし、純粋な力も強い。10歳で高校生並みの体力があるので努力すれば世界取れるかもしれません。」

「俺は世界取るつもりなんてありません」

ヒュウが投げられ、背中に着いた砂を払う。そして痛そうに立ち去りすぐそこの椅子に座る。俺はもやしのためこの場のメンバーでいち早くぶっ倒れた。
ミツキさんに勝つなんて…無理だろ。

「……なにやってんの。」

すると後ろから聞きなれた冷たい声が聞こえた。マリンスーツを来ているレイナである。
嫌なタイミングで会ったな。正直対面したくねぇし話したくもない。とりあえず寝たフリしとくか。

「そういえばホドモエでヒュウが暴れた時一瞬で止められたよねレイナちゃん。」

「PWTでプラズマ団基地に行ってた時もお前大人を一瞬で気絶させてたよな。」

ツバキとセブンがレイナの常人ならざる経験談を言う。暴れたヒュウを抑えてるのは分かるがプラズマ団を抑えた時は流石の俺も引いたな。
セブンとツバキの体験談を聞いたカシワとシイナがレイナにジリジリと近づく。

「え、何。何。」

レイナは少しずつたじろぎながらも今の状況説明を求めている。シイナとカシワはレイナの両手をガシッと掴むと相撲場へ連れてきた。

「ちょっと、僕でも流石に女の子相手は…」

「レイナは強いですよ。ミツキさん程かは分かりませんが」

ヒュウは苦笑いしながらミツキさんに言う。「それなら…」とミツキさんも構える。しかしレイナはまだ訳が分からず周りをキョロキョロしている。

「取り敢えずミツキさんをぶっ飛ばしてくれ!」

カシワが何回挑んでも勝てなかった恨みでレイナを盾とする。レイナはようやく状況を察せられたようで構える。

「…え、これ相撲?」

「なんでもありの相撲だよぉ」

「相撲じゃないじゃない…」

リンドウがケラケラと笑いながら言うとレイナが突っ込む。その通りであるが、何気にこのルールはの方が楽しいのである。男の戯れだ。

「のこった!」

ツバキが手を上げるといつもの様にミツキさんが素早い動きで中腰でレイナの片足を掴もうとする。
女相手でも容赦ないなこの人。まあレイナも頑丈だから投げ飛ばされても大丈夫だろう…
そう思っていたが、レイナは即座に足払いをする。ここで反撃を出来たのはレイナが初めてである。ミツキさんはよろけそうになるが側転をしてなんとか持ちこたえる。
そして2人の睨み合いが始まる。レイナは特に何も思っていないような無表情で、ミツキさんは汗を流しながら楽しそうにレイナを睨みつけている。
するとレイナが仕掛けた。ゆらりと動いたと思うと一瞬でミツキさんの間合いに入り込んで右ストレートを食らわせる。

「ぐはっ」

うっわぁ。痛そう。レイナの右ストレートはそこら辺の木をぶっ飛ばすぐらいの威力がある。流石に手は抜いているだろうが、流石にこれはミツキさんもノックアウトだろう。
しかし、ミツキさんは殴られるも両足で持ちこたえる。

「少し本気を出しましょうか。」

ミツキさんが心底楽しそうに呟くと素早い突きを何度も何度もレイナに食らわせる。しかし、レイナはかすりもせず交わし続ける。素早すぎて目に見えなくミツキさんの手が何本も見える。
いや、本気出しすぎだろう!国際警察の名は伊達じゃないようだ。がしかし、相手は10歳の女だ。女相手にここまで本気出す必要はあるか?

すると急にレイナがしゃがむと、両手で体をささえ何回もミツキさんの胸を蹴る。最初ミツキさんはそれをモロに食らうが、途中から両手をクロスしてしっかりと防御に徹する。そして、また微妙な間合いが生まれる。
すると、またレイナが一瞬で間合いを詰める。今度のミツキさんは対応が遅くなり、レイナはミツキさんの足を払うと胸ぐらを掴み、ミツキさんを投げ飛ばす。

『おぉ~』

その美しい流れを見て俺達の他にも通行人が呟いた。一部の人はパチパチと手を叩いている。
レイナは汗ひとつかかずにミツキさんから離れる。レイナは強いことは知っていたが現役国際警察より強いだなんて知らなかった…というかそこまで行くと化け物だろレイナ。

「あんまり本気出せなかった…」

レイナは楽しめなかったようでつまらなそうに言った。国際警察相手にその対応は本当に人間離れしていると思う。

「いてて…結構強いんですねレイナ」

「えっと、まあ。」

ミツキさんは何かを暴くような視線でレイナに言った。レイナは少しビクッとするも、すぐ落ち着き素っ気なく返す。

「型に囚われない野生のポケモンのように自由な戦いでした。」

「逆にミツキさんは型に囚われすぎですよ。」

ミツキさんがレイナに探りを入れるもレイナはすらりとかわす。かわした上にアドバイスもする。たまにレイナは本当に10歳なのか疑いたくなる。

「という訳で、次の王様はレイナです!皆さん!頑張って勝ちましょう!」

『え?』

レイナはミツキさんに王様の座に立たせる。レイナも「え?え?」とキョロキョロするが男子たちが並び始めた。

「私より強いとなれば…皆でかかりましょうか。」

ミツキさんは負けたのが悔しいのかニヤニヤしながらレイナの前に男子たちが並び始める。
俺とセブン、カシワを覗いて。他は負けると分かっていても面白そうだから参加してる物や大勢なら勝てるだろうと思ってるものもいる。

『よーい、のこったぁ!』

そう男子たちが叫ぶとレイナに突っかかり始めた。

「…どうなるんだろうな。」

「流石にレイナ負けるだろう。」

俺は「ハハハ」と笑いながらもセブンが涼しい顔で言った。カシワも同意見なのかうんうんと頷く。
俺は…どうだろう。ミツキさんに勝てたとはいえ、ミツキさん、シイナ、リンドウ、ヒュウ、ツバキ、エイトVSレイナ
要するに男子6人VSいたいけな幼い女子1人だ。
流石に勝てないだろ。
とか思ってたらレイナは涼しい顔で皆を蹴散らせ始める。
レイナって結構強いのか。幼馴染のつもりだったが旅に出てからレイナの知らないことがどんどん出てくる。

「……俺飲み物買ってくるわ。」

「あっ、マオ。俺様サイコソーダ。セブンは?」

「…おいしい水でいい。」

「ついでに俺をパシらせるな。」

カシワがケラケラと笑いながら俺に注文してくる。セブンもそれに乗って注文する。というかおいしい水て…無難すぎるだろ。何でもいいが。
まあ金はたんまりあるから良いんだがな。俺は少し文句をつけながら自販機へと向かった。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.117 )
日時: 2022/06/05 09:03
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: AuOiXVj/)

俺が近くの自動販売機に行くと、紫がかった白髪の青年が自動販売機の前でウロウロしていた。手にはお金が握ってある。自動販売機で何かを買おうとしてるようだが…何してんだ?
 声かけるか?いや、若干コミュ障の俺が赤の他人に話しかけるなんてできる訳が無い。どうしよう…どうしよう…

「あの、少しいいか?」

「あ"?」

 すると相手から話しかけられた。俺はビクッとするも、失礼と思い平穏を装うが、なんせ目付きが悪いから睨みつけてるように見える…し、『あ"?』と言ってしまった!故意ではないのだ!びっくりして状況反射で声が出てしまったのだ!どうしよう、これで怖がらせてしまったら申し訳ない。

「実は、自動販売機の使い方が分からないんだ。」

 白髪の青年は俺の心配を他所にそう言った。よかった、あまり気にされてないようである。というかその歳で自動販売機の使い方を知らないって…おぼっちゃまか?
 昔親に無理やり連れていかれたセレブの集まりで大体の金持ち、権力者は頭に入ってるつもりだが、なんせ途中から探偵志望に切り替えて家に引きこもってたからな。情報が古い。
 もしかしたら新しく食いこんできた金持ちか、権力者かもしれない。にしては服はラフだがな。

「えっと…これ…を、こう…」

 俺は自分のお金でカシワとセブンに押し付けられた分の飲み物と、俺の分の飲み物を買う。
 青年は関心したように俺の事を見る。

「面目ない。ありがとう。」

 そう言って青年は自動販売機にコインを入れ始める。俺は少しいいことをしたと鼻をならし、みなの所へ戻って行った。

ーーーーーーーーーーー

「なんだよ…これ。」

 俺は皆が取っ組み合いをしている所へ戻り早々絶句していた。土表(?)の中にも外にもレイナに挑んだ奴が伸びていた。ミツキさんでさえもだ。その中央に立っているのは無傷で汚れひとつないマリンスーツを着ているレイナだ。

「お!マオ遅かったな。あっ、サイコソーダもーらいっ」

「俺も頂く。」

 するとカシワとセブンが俺の腕の中にあるサイコソーダとおいしい水を取り、飲み始めた。その横では苦笑いしたヒュウが座っていた。

「状況説明を頼む。」

 俺はこの地獄絵図のような様子の説明を求めた。それはいつの間にか外野に混ざっていたヒュウが説明した。

「いや、レイナ強すぎてさ。見たまんま皆伸びちまって…俺は端からレイナに勝てるなんて思ってなかったから途中退場した。」

 さすがヒュウだ。幼馴染のなかで1番投げ飛ばされたり蹴られたり止められたりしてるだけある。するとレイナがこちらに近づいて来た。待て待て待て!俺とレイナは今かなり険悪な関係だ。ここで顔を合わせる訳にはいかない。
 それに、レイ 麗菜レイナは、誰もが許せない程の大罪を犯している。俺はまだ弱い。だからレイナなんかに敵わないが、精神的攻撃だけはできる。俺とレイナは幼馴染。きっと俺に少なからず情があるはずだ。それを…それを利用して。

「あっ、レイナ!俺様のサイコソーダいるか?あの人数相手はきつかったろ。」

「…遠慮なく。」

 基本こんな親切をレイナは受けたら無視するものなんだがな。短時間でも一緒に旅をしていたからか、または学校にいた頃、俺たちの知らない所で一緒に遊んでいたからか、どちらでもいい。レイナはカシワに心を少しだけ開いてるようだ。
 レイナは飲みかけのカシワのサイコソーダを荒々しく受け取ると一気に飲み干す。

「おいおいおい!全部やるとは言ってないぞ!」

「こっちは運動して喉乾いてるの。」

 カシワが半笑いしながら怒る。レイナはそれを軽く受け流しサイコソーダの残り1粒まで飲み干す。お互い満更でも無いようだ。で、なんで横のヒュウは固まってるんだ。

「どうしたんだヒュウ」

「…関節…キス…」

ヒュウが
 ……?
本当だ関節キスじゃねぇか!いやっ、違う。別に関節キスしようがレイナの勝手だ。いや、幼馴染というか、レイナの保護者的立ち位置からして許し難いというか、というか俺は幼馴染という立ち位置を利用してレイナに精神攻撃をしようとしたわけで…!いやっ、なんで俺が慌ててるんだ!思春期真っ盛りのトレーナーか!いや、思春期真っ盛りのトレーナーだったわ!
 落ち着け…俺、落ち着つけ。レイナが誰と関節キスしようがキスしようが‪‪✕‬✕✕をしようが俺には関係ない…関係ないはずなのに。なんだ、この心二残る違和感。不快感。

「お前らそれ関節キスだろ。」

 セブンが涼しい顔でレイナとカシワに言う。2人は一瞬ピタッと止まりセブンのことを見る。ヒュウはなにか後ろからゴゴゴと音が出ているようなおどろおどろしい雰囲気が出ている。ヒュウってレイナの色恋になるとめちゃくちゃ怖くなるよな。

「いつもしてるから気にならなかったな。」

「言われてみれば。」

 レイナとカシワは意識していなかったようでキョトンとした顔をしている。セブンはその様子を見て呆れ、ヒュウが物凄いオーラを纏っている。今ならミツキさんに勝てるんじゃないか?雰囲気だけ。
その様子をみてセブンはニヤリと笑う。

「カシワとレイナは良く遊んでたらしいからな。キスもっそれ以上も…フフッしてるんじゃ…ブフッないか?」

セブンが笑いを堪え、所々吹きながらそう言った。全然笑えねぇ。確かにレイナは学校1の美少女と謳われ、カシワもモテキングと言われるほどのイケメンだ。お似合いではあるが、何故かとても不服である。

「ABCどこまで進んだ。」

 俺は不意にそう言った。知識がネットと親からのものしか無いため古い知識が不意に出てしまうところがあるが。もうなんでもいい。この消化できない感情をどうにかしたい。

「お前…なんでジェネレーションギャップある単語知ってんだよ。」

 ヒュウが俺の発言で頭で冷えたのか冷静に俺にツっこむ。いや、ツッコミどころはそこじゃないだろうという気持ちもあったが抑えた。

「待て待て待て俺らはそういう関係じゃねぇぞ?!」

「まずABCってなんだよ。」

 カシワが慌てて取り消し、セブンが疑問を抱く。そうだよなその歳で普通はABC以前にキス以上の事なんて知らねぇよなっ!そうだよなチッシショウ!
あとカシワとレイナはそういう関係では無いらしい。ってことは…

「レイナは本命じゃないってことか…?」

「いやいやいや?!俺様彼女居たこと無いし!レイナも友達だって!怖いんだよマオ!」

 いつの間にか俺もヒュウのようにカシワを睨みつけていたようだ。やはり人生の6割を一緒に過ごしている幼馴染の色恋沙汰には敏感になってしまうようだ。
 というかイケメンのカシワが彼女居たことないなんて意外だな。女の1つや2つ引っ掛けてると思ってた。

「…10歳とは思えない言動よマオ、カシワ、ヒュウ」

 レイナが呆れたように言った。確かに、俺らは10歳にしては性の知識に関して敏感で博識かもしれない。けど仕方ないだろう!俺ら思春期だぜ?!他のやつみたいにsixって単語聞いて後ろ向いてニヤニヤするような底辺じゃないだけマシだろ!てか、なんでそれを聞いて慌てないでいるんだよレイナとセブンは?!
 いや、セブンはキョトンとしてるから知識はあまり無いのだろう。性格は悪いが純粋でいいと思うぞ。俺は。

「…レイナもだろう。なんでそんな知識あるんだよ…」

 俺は少し恥ずかしくそう言った。だってそうだろ?異性にこういう話をするのはとても恥ずかしい。しかも家族と似たような幼馴染にだ。それにしても俺の心臓活発過ぎやしないか?トモバ相手ならこんな話呆れながら相手をできるが、レイナには何故か小っ恥ずかしくなる。

「…まあ仕事で。」

「嘘言え!お前仕事なんてポケモントレーナー意外やった事ねぇだろ!」

 俺はいつもの調子でレイナにツッコんだ。そして、話が話であるためいつもより大きな声でいってしまう。一見したら不良が美少女に悪絡みしてる様子だろうが、俺自身頬が照ってるのが分かるためレイナ達からみたら滑稽だろう。

「…ヒュウのベットの下にそういう本が…」

「待て待て待て!」

 レイナが少し考えるとヒュウを指さして涼しく言った。ヒュウは完全外野だと思い込んでいたようでいきなり自分に矛先が来て焦っているようだ。

「お前俺様ほどでは無いがモテるよなと思ってたんだが…マジか。」

「…え。」

 カシワが本気で引き、ようやく話を察す事が出来たセブンも引いている。かく言う俺も引いている。いや、思春期健全男子なら誰でも有り得る話だが、ヒュウがそんなことするイメージがなかったため引いてしまった。

「まてっ!待て待て!違う!違うからなぁッ!」

 ヒュウがめちゃくちゃ焦って訂正を始めるが、その焦りが余計言い訳っぽく感じてしまう。

「まあまあ、健全男子には誰にでもある事なんですから」

 そんな落ち着いた声が聞こえるとヒュウよりも背の高い誰かがヒュウの頭に肘を着いてニヤニヤしていた。
 ミツキさんだ。他のみんなはまだ伸びてるのに…さすが国際警察。体も頑丈なようで、他の人より早く意識を取り戻している。

「ミツキさんもう大丈夫なのか?」

「えぇ。お陰様で。久々に体を動かしてつりそうですよ…」

 カシワが聞くとミツキさんは体をグルグルと回す。大丈夫…じゃなさそうだが、大した怪我はしてないようで良かった。それよりレイナの怪力が怖い。

「さて、マオ君。レイナとの仲直りのチャンスだよ」

 するとミツキさんが俺の耳に囁く。
レイナとの仲直りって…コミュ障の俺がどうしろと?!それに感情に任せてあんな暴言も吐いちまったし、レイナと話すのが怖い…
 怒られるのが怖い。暴力を振るわれるのが怖い。冷めた目で見られるのが怖い。


 ー嫌われるのが怖いー


 あぁ。そっか。俺はレイナが昔どんな残酷非道なことをしようと、俺はレイナの事が好きなんだな。レイナとずっと一緒にいたかったんだな…
そりゃそうだよな。ずっとレイナと過ごしてきたんだ。レイナに救われて、レイナが居るからここに俺が居るんだ。

「さて、ヒュウ、セブン、カシワ。用事があるから来てくれませんか?」

「え、良いですよ。」

「え、なんで俺が…」

 ミツキさんが不服なセブンを半強制的に連れていきカシワとヒュウもそれに続いた。しかし、そんな事は気にならなかった。
 まず、レイナへの好きは『Love』ではなく『like』の方であって、別に付き合いたいとかそういう感情じゃなくてだな…そう、家族と似たような感情で好きなんだ!まず大前提としてな…

「…マオ?」

 不意に声をかけられハッと元に戻る。横を見るとレイナが下から俺の顔を覗くのうに見る。
…可愛い。まつ毛が長くぱっちりとした目。ぷるぷるな唇にあどけない堂顔。目にハイライトがない部分が不気味に感じるが、それが逆に魅力的に見える。

「あっ、いや…えっと…」

 俺はどもった。何を言えばいいか分からない。そしてとても気まづい。俺はこの前レイナに何といっただろうか、『お前なんて死んでしまえばいいのにっ!俺たちを...ずっとずっと騙してた!皆思ってる。お前のことが嫌いと。死ねばいいと思ってる!』今思い返すとひっでぇ内容である。ずっと騙してた…レイナは騙してた訳ではないがずっと一緒にいた幼馴染にずっと隠し事をされていたのは不服である。『皆思ってる。お前のことが嫌いと。死ねばいいのに。』か。レイナの過去は本当に酷いものだった。世界中を敵に回すような事だ。けど、俺は知っている。今のレイナを。不器用で人を見下し、冷たい言葉を放っている。セブンに似通っている部分ばかりだが、本当は誰よりも人を見ていて、誰よりも人を思う気持ちがある。冷酷な性格になりたいのだろうが、人を思う気持ちが透けて見えてしまっている。実際昔俺とトモバの事を何回も助けたのだから。
 言うことは決まった。いや、最初から分かっていた。言うのが怖かったんだ。

「…私のどこまでを知ったかは知らない。けど、それを知って私のことを嫌いになるのはマオの自由。私を殺したって構いやしない。」

 レイナが俯いてただ砂浜を見つめている。その様子は絵になるように美しかった。しかし、口が一の字になり、少々シワが寄っている。一見無表情に見えるが俺には分かる。すごく、辛そうである。

「俺は、レイナがどんな残酷非道なことをしていたとしても、レイナの味方だ。」

 俺はそうレイナに向かって言った。レイナは俯いているため目なんて合わせられない。けれど、俺はレイナの目を見たかった。レイナに向き合いたかった。30秒ほど、沈黙が続く。なんか恥ずかしいことを言った気がして少しづつレイナから目線を逸らしていく。少しカッコつけすぎたか…?

「これから。私がどんなことをしても、私の味方?」

「それは無い。お前がこの先悪いことをしたら探偵見習として敵となる。」

 俺はそこはキッパリと断った。流石に探偵を目指す者として犯罪は見逃せない。レイナは俺がそう言うとパッと俺の顔を見る。

「…そこは、マオっぽいわね。」

 レイナが少し口角を上げた。あ、笑ってる。レイナが口角をあげるなんて年に数回見れればいい方だ。その顔をみて俺はかなり高揚する。いや、今は見とれてる場合じゃない。

「レイナが今までやった事は変えれないし戻せない。けど、俺が聞いたレイナと今のレイナは全く違う。だから、だから、お前が犯罪まがいのことをしない限りずっと、レイナの味方だ。例えレイナ以外が敵になろうと、ずっと、ずっと。」

 少しブルーな気持ちになりながらも、レイナのくすんだ瞳を見つめた。その瞳は俺の顔が綺麗に映っており、俺の事をちゃんと見てくれてるんだということが分かる。そうなると照れくさい。その前に…

「…ちょ!今のなし!なしなし!」

 俺は赤面しながら腕をブンブンと振るう。なんか長文過ぎてかっこよくなかった気がする。すごく恥ずかしくて何も無かったようにしようとするがこれ以上言葉が出てこない。なぜならレイナが犯罪を犯したら敵になるのだから。あれ、味方って言ってるのに矛盾してないか?余計かっこ悪いじゃねぇか!

「…それでも嬉しいから。ありがとう。」
 
 レイナは笑わない。しかし、その顔はとても美しく、清々しく見えた。レイナは悪いことをした。その事は紛れもない事実である。しかし、俺はそれを許したい。誰もが敵になろうと味方になりたい。これが探偵志望だなんて笑えるよな。けど、俺はレイナに笑顔になって欲しいんだ。朗らかに笑うような。昔は冷酷非道って聞いて笑うかなんて知らないけどな。俺もレイナの過去の全てを知ってるわけじゃない。いつかそれを知る時が来ても、俺は、レイナの味方でいたい。
 俺らは沈みかけてもう濃い青色になりかけている空を見上げそれからは他愛もない話を始めたのだ。
 旅で何があったか、どんなことをしたか。主に俺からのカシワについての質問だったがな。それでも。楽しかった。

Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.118 )
日時: 2022/06/08 15:44
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: iXLvOGMO)

ー裏施設ー
《ドク》

 疲れた。本当に疲れた。精神的に。まさかあのレイ 麗菜レイナと話すことになるとは…その上トウチに絡まれ…本当に休んだ気が無い。
 俺はいつもの図書室に帰りいつもの日記帳を開いた。いつもの不格好な文字に見るだけで気分が悪くなるような内容。それを黙々と読み進める。

「休暇は楽しめたかい?ドク君っ」

 俺の目の前には俺と同じ紫がかった白髪に、ポニーテールをした少年が立っていた。こう見るとレイ 麗菜レイナと髪型が似ている。

「…お前は誰だ。」

「皆大好きダミ君だよー?」

 ダミはニッコリとして両頬に指を当てる。可愛いとでも思っているのだろうか。シュウほどではないが可愛いとは思うがな。さすがダミだ。そこまで計算してるとは。
 今はそんなことを考えてる場合ではない。ダミと面を合わせるなど中々出来ることじゃないため少し緊張しているようだ。

「そういうことじゃない。成功作か失敗作かを聞いているんだ。」

「ダミ君が生きている選択肢は?」

「ない。」

 ダミはむすーっとした顔で俺の事を見る。こういうめんどくさい性格も修正して欲しかったものだ。しかし流石にダミ相手に手帳を読む事はできないため手帳を閉じる。まあ考えると成功作は"あの部屋"から出る訳が無いため消去法で失敗作の方であろう。外見が似すぎていて分からなくなる。

「……で、何の用だ。」

「休暇の感想を聞きに来たよ」

 俺はそこで読めてしまった。今回休暇を出したのはアクロマでなくダミだということが。
 一体ダミは何をしたかったのだろうか。いや、多分霊レイ 麗菜レイナと対面させて困らせたかっただけに見える。この、愉快犯が。

「疲れた。」

「けど満更でもなさそうじゃないか。」

 俺は俺の本当の気持ちにすぐ気づくダミに嫌気がさす。確かに満更でもなければ、レイ 麗菜レイナと話せる機会が出来てラッキーとまで思っている。

「まあ、スイやアーボ、ダミへの良い土産になりそうだよ。」

 俺は空を見上げた。見上げても天井しか見えなければ、ここは地下であるため青い澄んだ空なんて見えっこない。ダミ、スイ、アーボ。あの世で元気にやっているだろうか。

「何もうすぐ死にますみたいなこと言ってるのさ。」

「実際その通りだろう。今回のプラズマ団からの依頼が失敗すればダミが俺の首を切るだろう。物理的に」

 俺がはぁとため息を吐きながらダミをジト目で見てやった。ダミはさっきまで薄い感情が顔から滲み出ていたが今やすっかりテンプレのような微笑みを浮かべる。肯定も否定も来ない。

「なに依頼の失敗前提なのさ。」

「相手は統治家と、ムスカリー、シアン、ミツキだぞ。殺すことなら出来るが守る事になると無理だ。」

「それでもドクなら出来そうな気がするけどねぇ〜」

 ダミはニヤニヤとしながら俺の事を見る。コイツはどこまで俺の事を見透かしているのだろうか。その通りである。守るだけならば多分…出来る。けどな。

「あと、レイ 麗菜レイナがいるんだぞ。」

「はっははは!確かに、それは無理ゲーだね!」

 ダミはお腹を抱えながら笑い始める。最初から知っていたくせにわざとらしい笑いは癪に障る。さっきからダミの手のひらで転がされてばかりに感じていい気分でない。

「まあ、ご愁傷さまだよドク君。昔の仲間がまた居なくなるのは寂しいものだね。」

「スイにもフジにもアーボにもレイにも、お前会ったことないだろ」

「記憶はあるから良いんだよっ!」

 ダミは最後の最後まで俺の事をからかいニヤニヤとしていた。全く…俺はピラミッドの一兵卒であってお前の玩具じゃないっての。

「リーダーァァァァ!またタツナとミソウとレイがぁぁぁぁぁ!」

 すると廊下からシュウの泣き叫ぶ声が聞こえる。またか…3日に1回はレイと双子がドンパチやり始め、こうやってシュウからヘルプがやってくる。他の3柱は大人しいのに何故レイはこうも好戦的で沸点が低いのだろうか…なまじ力があるため止めるのにも一苦労である。

「という訳だ。俺は仕事してくる 」

「リーダーも大変だねぇ」

 ダミはケラケラと笑いながら俺の事をからかう。もう何言われようと今は何も考えたくない。とにかくレイが施設を壊す前に止めることが先決だ。

「…レイに比べたら全然楽な仕事だよ。」

 俺はそう言うとフードコートを図書室にかけ、本気でダッシュをし始めた。シュウが来てから本当にヒヤヒヤされてばかりである。表ではトウチが旅をし始めてから仕事が山盛りである。本当に…休む暇なんて無い。

「レイ…か。僕はあんな聖人にはなれないね。」

 ダミがボソッと呟く。その声は誰にも届くことは無かった。


       終