二次創作小説(紙ほか)
- Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.125 )
- 日時: 2022/09/29 16:09
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 5VUvCs/q)
第十二章 〜終わりの始まり〜
暗い暗い暗闇の中。でも、絵の具のような綺麗な黒じゃなくて、3色の絵の具で素人が作ったような、様々な色が溶け合った不格好な黒。それが一面に流れていて、距離感も風も何も掴めない。
「あっ、久しぶりー! 元気にしてた?」
目の前には、黒髪を腰まで伸ばしパッチリとした目に大きなアホ毛をした幼女がいた。一挙一動が美しく鍛えられていると分かる。笑顔がとても眩しくて浄化されてしまいそうである。
「……ぼちぼち」
「あいっかわらずの無表情! 私それ嫌い!」
彼女はプクッと薄黄色で所々赤黒く汚れたぶかぶかなシャツを翻した。
私はひとつ、ふたつ呼吸をして彼女の前に立った。彼女は首を傾げて私を見上げる。しかし、それだけで腰が抜けそうなほどの恐怖が襲ってきた。
「貴方が居るってことは……」
「うん! レイナちゃんの感情がとても動かされてるってこと!」
幼女はとても嬉しそうに暗闇をくるくると回る。彼女が私の前に現れる時は、現実でなにか感情が動かされた時だ。嬉しさ、悲しさ、苦しみ……ストレスの時もあるが、今回は違うだろう。多分。
「早く夢から覚めたい……」
「えーなんでー! 私の事嫌い?」
私は困ったようにため息を履いてそういうと、彼女は悲しそうに、そして大袈裟にそう言った。
「貴方……自分で何したか分かってるの?」
「……」
私が彼女に言うと、今までキラキラした目であった彼女のハイライトが消え、一気に瞳が絶望色に染まる。その様子を見て、ただ私は怯えるしか無かった。
「ねぇ。レイナ。あの時私はどうすれば良かったのかなぁ?」
視点が定まらない不気味で美しい瞳を私に向けながらゆらゆらと彼女が近づいてくる。私も下がろうとしようとするが体が思い通りに動かない。
落ち着け、これは夢だ。目の前の彼女は『ホンモノ』じゃない……私の夢だから。覚めたら、覚めたら
「どうすれば? どうするば? ねぇ。なぇねぇねぇ……教えてよッ!」
どんどん声ボリュームが大きくなってついには私より体が大きくなって私の肩を掴んでいる。最後の声は彼女……『2代目レイ』の声じゃなかった。男の人や女の人の声も混ざってて……
「ねぇ教えてよ……私は……」
「貴方は……もう死んでるのよ」
私は何故か動いた両腕でレイの両肩を掴む。そして、力を全力で入れる。
「ねぇ?」
「ねえ?」
「ねえ?」
「ねぇ?」
『どうすれば良かったの?』
私たちの声は誰に問いかけるつもりもなくただ、自分自身に問いかけていたような、答えのない答えを無意味に求めていた。
お互いの顔がどんどんぼやけて言って、何も分からない。分からない。分からない。
ーごめんなさい
◇◇◇
《サツキ》
私は今、カゴメタウンとソウリュウシティの間にあるビレッジブレッジを渡っていた。
「ここめっちゃ綺麗っ! およぎたぁい!」
一緒に旅をしているトモバが橋の上から川を見渡し目を輝かせる。
ここは巨大な橋の上に民家が立っており、橋の下は綺麗な水として、有名である。絶滅危惧種のラプラスも生息してるとかしてないとか……
「ソウリュウシティまでもうすぐだねっ! ワクワクするよ!」
茶髪ツインテールのマツリが両手を振りながらワクワクの度合いを示している。相当楽しみなのだろう。ソウリュウシティは歴史ある街ということは知っている。そして、7つめのジムがある場所だ。ここのメンバーはポケモンリーグを目指しているため、皆バッジを集めている。
シアンがふとスマホのメッセージを見る。そしてしかめた顔をして、立ち止まり考える仕草を始めた。私達は何事かと立ち止まった。
「どうしたの? シアン」
「いや、ちょっとムスカリーとミツキから連絡があってな……」
トモバが聞くとシアンが口篭りながらそう言った。レイナ、セブン、カシワと一緒にいるムスカリー。マオ、リンドウ、シイナと一緒にいるミツキとシアンは仲が良いようで度々連絡を取り合っている。
たまに真面目な顔になるのが気になるが、私達には関係が無いのだろう。
ピロピロピ-
自分の腕首から振動を感じる。反射的に腕首を見ると、ライブキャスターが鳴っていた。相手は霊 結香さん。レイナのお母さんだ。
もうそんな時間なのかと驚く。
「ごめん……電話」
「あ、またレイナのお母さん?」
「……うん 」
私が一言いうと、トモバが聞き返してくる。その質問に肯定すると、トモバは『いってらっしゃい』と、手を振ってくれた。
私が声を出しても皆が聞こえないだろう場所に移動し始めた。
逃げたい。今すぐこのライブキャスターを切って、霊家から、小野寺家から逃げたい。
トモバに言ったら匿ってくれるかもしれない。それでも、私は、小野寺 皐月は同じ境遇であるレイナを放って置くことなど出来なかった。
◇◇◇
私こと霊 麗菜はPWTから一緒に旅をしているムスカリー、カシワ、セブンとソリュウシティに来ていた。
ソリュウシティでジムバッジを手に入れるためなのもあるが、伝説のポケモンについて詳しいシャガさんに話を聞くためでもあった。
プラズマ団の目的。イッシュ地方の支配。それが伝説のポケモンと関連があるというのがアララギ博士の考察である。
そして、私達はついにソリュウジムに来ることが出来たのだが……
「伝説のポケモン……ワタシに勝ってから勝ち取るのだ」
ソリュウジムの前。高い迫力のある塔がジムのようで、入口の前に仁王立ちしている髭の生えたダンディなおじさんが立っている。
「なら、俺がバトルを……」
「うむ。お前さんは若いが他の3人の方がよっぽど若い。その3人でないと認められないな」
この中で1番強いムスカリーが手を挙げるがシャガさんに一喝される。ムスカリーは頭をかきながら私たちの方を見る。
どうせソリュウジムに挑むのだから誰が挑もうが変わらないと思うが……
私もカシワとセブンを見る。カシワとセブンも私含めお互いのことを見つめあっている。
しかし見つめあってるだけでお互い何も言わない。けれど何となく、3人ともバトルはしたいが譲り合っている感じがする。
「なら、俺様がいく!」
カシワが大声で勢いよく手を挙げた。シャガさんはニヤリと笑いながらカシワを見る。
「勢いがある若者はワタシは好きだ。ついてきなさい」
そう言うと、シャガさんは私達に背中を向けてジムの中に入っていった。カシワはその背中をステップしながら追いかける。
私達も歩きながら2人について行った。
私が一番最初にバトルしたかったんだけどなぁ……
カシワの行動力は相変わらず高い。
◇◇◇
バトルフィールドは薄黄色のサラサラな土で作られていて、ポケモンセンターや学校でよく使われるバトルフィールドと同じだった。
私、ムスカリー、セブンは伽藍堂な観客席で、バトルが見えやすい中央に座った。
バトルフィールドにカシワとシャガさんが立ち、バトルフィールドの中央に審判が立った。
いつものジム戦の光景である。
「カシワのバトルが終わったあと、私たちはどうするの?」
「俺もバトルしたいんだが」
私とセブンがムスカリーに尋ねる。この旅では自然と最年長のムスカリーが仕切っているため、ムスカリーは少し考えた。
「プラズマ団がいつ何をするか分からないからね。
2人のバトルは置いといて、シャガさんから話を聞いた方がいいかもしれない」
その言葉を聞いた後、セブンは明らかに不快な顔をした。
私も嫌ではあるが、ムスカリーの言う通りで、プラズマ団が今でも行動を起こしそうな時のため、少しでも早く情報は集めといた方がいい。
「これより、チャレンジャー・カシワ対ジムリーダー・シャガのジムバトルを開始します。ポケモンの交代はチャレンジャー認められます。バトルは3対3どちらかのポケモンが戦闘不能になったらバトル終了です。」
審判がいつもの決まり文句を言い始める。このセリフを聞くと、今ジムにいるということを実感できる。
カシワがポケットからモンスターボールを取り出し、大きくする。
シャガさんは元々持っていたボールを持ち、構える。
「それでは……初めっ!」
◇◇◇
《シアン》
『やあ。お疲れ様2人とも……ムスカリーは?』
ライブキャスターの向こうから飄々とした低い声が聞こえる。赤髪に袴を着ている男性と、黒髪に赤メッシュの男性が居た。
カゲロウさんとミツキである。
「急に呼び出して何の用だカゲロウさん」
『ちょっと緊急なんだけど……ムスカリーが来ないなぁ』
カゲロウさんは『困ったなぁ』と頭の後ろをかく。そんな余裕そうな様子で言われても緊急味がわかねぇぜカゲロウさん……
『なら、私からムスカリーに伝えておくので内容を教えて頂けますか?』
『……ミツキがそう言うなら』
ミツキは国際警察官だ。こういう時の頼りがいは半端ない。俺だってトレーナーとしての実力なら負けてないつもりだけどな。
『多分。今日プラズマ団が動くと思う』
「またかよぉ、どこでですか?」
俺は呆れたようにそう言った。だってさぁ、PWTの件とか、ライモンの件はあったけどよ、一向にその『イッシュの支配』なんてする動き見えねぇんだもん。
アイツらそんな動く気ねぇんじゃねぇか?
『ソリュウシティだね。今回は今までの物よりかなり重要だ』
『……というと?』
『今回プラズマ団はソリュウシティで保管されている"遺伝子の楔"を奪うつもりだ』
「そりゃまた強引な。アイツら脳筋なのか?」
電気の時も資金の時も詐欺とかじゃなくて実力行使なんだよなプラズマ団。あんまし頭良くねぇのかな?
『シアンがそれを言うのか……』
「それどういう意味だミツキぃ」
『別に、なんでもありませんよ』
俺はたっぷりと含んだ声で画面越しにミツキを睨みつけるが、ミツキは『ハハハ』と爽やかな笑顔で俺の言葉を流した。
『んー、いつもならここで俺もふざけ始めるんだけど、本当に緊急だからすまないが話を進めるよ』
「ふざけてねーよっ!」
俺は叫んで訂正するが、シアンとカゲロウさんが思いの外真面目な顔をするので、俺も表情筋を固めた。
『遺伝子の楔に手を出し始めるということは……ここからイッシュ支配が始まる』
「その、遺伝子の楔ってなんだ?」
『あ、それ私も思ってました』
俺が質問をすると、ミツキも同じことを思っていたようだ。遺伝子ってあれだよな。なんかぐにゃぐにゃした変な形の奴。の、楔? 全く想像がつかねぇ
『楔の見た目をした物でね、レシラムとゼクロムに関係した……めちゃくちゃ凄いものだ』
「めっ、めちゃくちゃ……凄いもの……」
なんか、すげぇ凄そうだ! これはプラズマ団に取られたら不味い! 絶対に阻止しなきゃいけねぇ!
『抽象的過ぎますカゲロウさん。凄いってどのぐらいだとか……レシラムとゼクロムがどう……』
『話すと長くなる!』
「なら仕方ねぇな!」
ミツキは呆れたような、少しイラついてるような表情を浮かべる。しかし、こっちは大真面目だ。すげぇもんなら奪われたらダメだし、話すと長くなるなら話に時間をさくより行動した方がいい!
『カゲロウさん。少しはこちらにも情報を下さい』
『まあ、それがプラズマ団の手に渡ったらイッシュ支配されると思っていいよ』
『……比喩ですよね?』
『残念ながらガチの話』
比喩じゃなくてイッシュ支配されるって……どんだけ力を秘めた道具なんだ。というか、プラズマ団はどうやってイッシュを支配するんだ?
まぁ……
「とにかくソリュウシティの楔を守れば良いんだな!」
『あくまで君達の第一目的はトモバ達を守ることだ。それを忘れないように』
「分かってるぜカゲロウさん」
俺達が雇われている理由は若手トレーナー達を守ることだ。金払われてるから意地でもやり遂げるが……何故カゲロウさんはそんなことを指示したんだ?
愛娘と愛息子がいるからっていうなら腑に落ちるが、関係ないトレーナーも庇護下に置いてるし、まず毎年のように駆け出しトレーナーをベテラントレーナーが守るように仕向けてんだよなこの人。
イマイチカゲロウさんの考えてることが分かんねぇ。
『カゲロウさん。今回の相手の戦力とか分かります?』
『ピラミッドは確実に一人来るだろうね。多分ガエリオ。後は幹部が数名』
「んぁ、トゥエルブス来ねぇの? 楽勝じゃん」
『……それだけ、本気と言うことだよ』
カゲロウさんが声のトーンを落としてそう言った。本気……? トゥエルブスのようなイカれた野郎を出さないのに本気……?
あー! 難しいことは考えられねぇ! いや、考えようも思ったらできるけどめんどくさいからやりたくねぇ!
「トユーカ。毎回思うんだがカゲロウさんのその情報のソースってどこなんですか?」
『ですよね。毎回予想も当たってますし……一体何を?』
俺とミツキがカゲロウに問う。プラズマ団の情報ならともかく、ピラミッドの情報までたまに抜き取ってるからなカゲロウさん。
統治グループの会長だから……って理由な訳が無いんだよな。何故なら国際警察でさえ最近ピラミッドの存在を掴めたんだから。
『目には目を歯には歯を……だよ』
『……どういうことですか?』
カゲロウさんはさっきのふざけた飄々とした表情ではなく、氷のように表情を固めて言う。しかし、意味が分からなかったのかミツキが聞いた。
けど、俺は何となく分かった。目には目を歯には歯を……
「ピラミッドには、ピラミッド……」
『なっ、カゲロウ……さん?』
俺が言うとミツキが目をまん丸にさせて途切れた声でカゲロウさんに問いかけた。カゲロウさんは氷った笑みを浮かべる。
『悪いことはやってないよ?』
『貴方は……どこまで知ってるんですか? ピラミッドも……"レイ"のことも』
『そぉんなことよりもプラズマ団の事だよ』
するとカゲロウさんの表情が溶けて先程の飄々とした態度に戻った。『レイ』裏のヤツらが良く口に出してるが、何者なんだ?
『君達、今どこにいる?』
「ビレッジブレッジを渡ってる所だ。そろそろソリュウシティに着く」
『私はソリュウシティに着いたところで、ポケモンセンターに居ます』
『ということは、ムスカリーチームはジム戦かな? 通りでライブキャスターに出ないはずだ』
ミツキとムスカリーに進度数で負けているのは悔しいが、これは俺がトモバ達を丁寧に強くさせてるからだ。うん、仕方ねぇ!
それより、皆ソリュウシティに着きそうならプラズマ団の阻止には間に合いそうだな。
「ヒユウチームはどーしたんだ?」
『あー、あの子達ならセイガイハイシティに居るだろうね』
「随分ジム巡りが早えな。ヒユウって奴もかなり強くなってるし……」
『はい。私達程に強くなってるかも知れません。彼も戦力に入れれば良いのに……毎回頑なにヒユウをプラズマ団に関わらせようとしませんよね、カゲロウさん』
ミツキが確信を迫るようにカゲロウさんに聞く。カゲロウさんは表情一つ変えない。
『赤白 陽佑を裏に近づかせてはいけないよ』
「そ、それってどーゆ……」
『あと、今まで通り"イッシュ支配"の件はトレーナー達に知らせてはいけない。分かってるね?』
『分かっていますが、ムスカリーチームは……』
『あそこはアララギが話しちゃったからなぁ。まあ"アイツ"がいるから大丈夫大丈夫』
カゲロウさんはさっきから俺らの言葉をスラスラと返しているが、カゲロウさんしか分からないことだらけで俺らには何も伝わらない。
これはカゲロウさんが会話が下手な訳ではなく、意図的に俺らに伝えようとしていない。
俺らじゃ役不足ってか? 俺は悔しさと怒りがフツフツと湧き上がっていた。けど、こういう時のカゲロウさんは絶対話さない。だから悔しいがここで引き下がるしかない。
『私達がカゲロウさんが知ることを、知れる日は来ますか?』
『そんな日が来るのは、きっと世界が滅びる時だろうね』
「ああぁぁ! カゲロウさんばかりなんでも知りやがって!」
『シアン君。知らぬが仏という言葉もあるのだよ。とゆーわけで頼むよ、皆』
ブツッ
そこでカゲロウさんは勝手に切ってしまった。
なぁにが頼むよ皆だ。結局人任せじゃねーか!
と、先程のイラつきをぶつけた。
『シアン。君はどう思います?』
「あぁー? 何が」
『何が……いや、まぁ疑問点は大量にあるのですが』
「そーなんだよなぁ。カゲロウさんは意味不明な事しか言わねぇしよぉ」
『まあ、それはまた問い詰めることにしましょう。今回はプラズマ団に集中です』
「あぁ。ソリュウシティで会おうぜ」
俺はそう言うと、ライブキャスターを切った。遺伝子の楔……なんかすげぇ道具……これだけ聞いたらふざけてるようにしか聞こえねぇけど、あのカゲロウさんの圧は、マジでヤベェやつかもしんねぇ。
プラズマ団の手に渡ったらイッシュが支配される……
とりあえずソリュウシティに行かなきゃ話になんねー!
俺は顔を上げてトモバ達の元へ戻ろうとするのだが、視界の端に見慣れた人物が一人。
「……サツキ?」
「あっ...ごめんなさい。聞いちゃってた」
「すーっ……何時からだ?」
「『やあお疲れ様2人とも……』からです」
「初めから聞いてたのかよ……」
俺は口の端をピクピクとさせながら苦笑いをした。これ、カゲロウさんにバレたら殺されかねねぇ……どうしたものか
「大丈夫。誰にも……言わない」
「助かるぜサツキ!」
俺は首の皮1枚繋がったと言わんばかりにサツキに飛びつき頭をガシガシと撫でながらトモバ達の元へと戻った。
それより、サツキに違和感を感じる。なんか、他の人がサツキに手を出すと怯え出したり、体を異様に見せたがらないし頭を触る時はたんこぶのように膨らんでたり、凹んでたりする。
まさか……な?
それよりまずはプラズマ団だ。
俺は今日一真面目な顔でサツキと一歩づつ前に踏み出し始めた。
- Re: ポケモン二次創作 裏の陰謀 ( No.126 )
- 日時: 2022/11/02 21:09
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: M0NJoEak)
《レイナ》
ソウリュウジムにカシワが挑んだ。結果は見事勝利し、私たちはドラゴンポケモンの話を聞くためにシャガさんのお宅へお邪魔していた。
「負けかけてたな」
「か、勝ったからいーだろ!」
セブンが鼻で笑うとカシワは綺麗な顔を歪ませて言った。ムスカリーがそれをなだめ、私は微笑みながら見ていた。
「オッホン」
するとシャガさんがわざとらしく大きな咳をする。私たちは黙ってシャガさんの方に視線を移した。
「では話そう。心して聞いて欲しい」
シャガさんの真面目な顔に思わず息を飲む。声色から事の深刻さが伺えて私は右手を握りしめた。
「二年前の事だ。ドラゴンポケモンが二匹目覚めた。真実を求め新たなる善の世界へ導く白きドラゴンポケモン『レシラム』
理想を求め新たなる希望の世界へ導く黒きドラゴンポケモン『ゼクロム』」
二年前……と言うと私は八歳である。
今まであまり新聞もテレビも見なかったためそんな大事があったなんて驚きだ。
「レシラムとゼクロムは元々一匹のポケモンだった。なぜ分かれたか?
ドラゴンポケモンは二人の英雄を助けイッシュに新しい国を造ったが双子の英雄はそれぞれ真実と理想を追い求め、どちらが正しいか決めるべく国を二つにして争い始めた……」
昔話か作り話? いや、その二匹のドラゴンポケモンが二年前に目覚めているのなら本当の話なのかもしれない。けど、私達が確かめる術はない。今はこの話は本当という前提で聞くことにしましょう。
「この時だドラゴンポケモンが白と黒の二匹にわかれた!
真実と理想は必ずしも対立するものではないのに……」
「真実と理想……」
するとムスカリーがボソッと呟いた。ムスカリーが何を思ったから分からない。けど何か考えさせられるものがあった。
けど、今は関係ないわね……
こんな所で難しい考えはしたくない。
「実はこのときもう一匹のドラゴンポケモンドラゴンポケモン『キュレム』が生まれたのでは?と推測している。
その証拠となるのが代々我らが一族に伝わる遺伝子の楔という宝だアララギ博士の調べではリュウラセンの塔と同じ時代の成分が計測出来たらしい。」
「その、遺伝子の楔はどこにっ?」
私は少し嫌な予感がして焦り気味にシャガさんに聞くが、動じずシャガさんは答えた。
「ああ、遺伝子の楔は大切に保管している。
道具としてどのような力を秘めているか分からぬのでな」
私を含め四人はホッとした雰囲気に包まれる。なら取られることはそうそう無いわよね。けど、プラズマ団の事だから何かしらの方法で奪いに来そう……
「ただし…………
もう一匹のドラゴンポケモンがいるのか?
キュレムが本当にいるとしてもどんなポケモンかは不明だ。
そもそもあれほど強大な二匹のポケモンに分かれたのだ。いたとしても抜け殻ではないか? そんな風にも考えたりする…………」
キュレムは居る。その時何故か私は確信していた気がする。
ただの勘なのだけれど、外れることは少ないためそれが私の不安を煽る。
……ぶぅん!
すると、外から地響きのような大きな音が鳴った。
「うおっ、なんだ?!」
「大丈夫だ。取り敢えず落ち着こう」
カシワが体をビクッとさせて驚くが、ムスカリーがカシワの肩に手を当てて落ち着かせる。
この話の流れだと……
「嫌な予感しかしないな」
セブンが呟いた。私も同意見である。
「はて……なんの音だ?」
シャガさんも同じことを思っていたようで顔のシワを増やして走って家の外へ出てしまった。
私達も様子を見るために外へ出る。
いつの間にか夜になっており月光と街灯で辺りが照らされている。夏間近でジメジメとした暖かい気候だったのに何故か今は肌寒い。
「なにごとだ……?」
シャガさんが周りをキョロキョロと見ながら呟いた。街の景色に特に変わった所はない。なら先程の音はどこで……?
ふと私は上をむく。
「あっ……あれ」
そして、思わず呟いた。他の皆も私の視線の先に注目する。
「あれは……!」
シャガさんが震えた声でいった。
巨大な『何か』が空を泳いでいる。飛行機でも無ければヘリコプターでもない。巨大なゆりかごのような物に帆が着いている。
私は自分の目を疑って一度目を擦り、もう一度空を見た。
飛んでいる。ちゃんと空に飛んでいたのだ。
ーー海賊船が
「船……が飛んでる?」
セブンも信じられなかったようで口に出す。
すると船首が開き、そこから大きな銃口のような物が伸びてくる。
何をするかは分からない。けれど確実に悪いことが起こることは分かった。
「伏せろっ!」
ムスカリーの叫びと共に銃口から何か白い物が私達の目の前に落ちてくる。そこから『ビキビキ』という音とともにビル二階程の高さの氷柱が生まれる。
一体何が……
そんなことを考える暇は無く、次々と船首の銃口から白い玉が街中に落ちていく。水分が氷に変化する音とともに町中が氷に包まれていく。
「何がっ……!」
「落ち着こう。まずは攻撃がなり止むまで待つんだ」
鳴り止まない氷の音に痺れを切らしたカシワは怒りと恐怖を混ぜた言葉を発するが、落ち着いているシャガさんは私達を諭すように言った。
シャガさんの言う通りに私達は船からの攻撃がなり止むまでその場でしゃがみ待っていた。
音がなり止んだ後、シャガさんはゆっくりと立ち上がる。
「この氷の世界は…… オノノクス!」
するとシャガさんは相棒であるオノノクスをモンスターボールから繰り出した。
出てきたオノノクスが吐く息は白く生暖かさが私の方まで伝わってくる。
「ドラゴンテール!」
「グワゥッ!」
シャガさんが張った声で言うとオノノクスが勢いよく回り氷を尾で叩く。
ドシン! という音が聞こえるが、氷は傷一つついていなかった。オノノクスのドラゴンテールは見てるだけでも強いことが分かる。なのに傷一つついていないなんて、氷の強度は並大抵出ないことが分かる。
「……よくやったオノノクス」
シャガさんは氷の強度を確認してオノノクスをボールに戻した。
「それにしても壊れないどころか傷一つつかないとは……?」
「氷だよなこれ」
シャガさんが口元に手を当てて考える仕草をし、カシワは訝しげに氷の柱を見つめる。この大きな柱が町中に立っており、地面も氷っている。
寒い。とても寒い。夏間近のこともあり私は半袖半ズボンで余計寒かった。
「そうでしょうとも」
すると老人の声がした。口ぶりからしてこの氷を作った犯人であろう。
すると目の前の大きな氷柱の後ろから四人ほどの人物がやってきた。一人はホドモエシティで会ったロットさんと色違いの紫の服を着た老人。
他三人はプラズマ団の服を来ている。その内の一人は、私の従兄弟アラシである。
「お前らはプラズマ団の……」
「プラズマ団大幹部七賢人の一人。ヴィオだ」
シャガさんはこの老人を知っているようで睨みつける。老人の名前はヴィオという名前出そうでプラズマ団の大幹部…… 確実にこの人物が今回の犯人で、遺伝子の楔を奪いに来たのだと容易に分かる。
「それにしても寒い。ワタシは震えている。苦しいが生きておる」
「お前がやったんだろ! 自業自得じゃねぇか!」
「ぶふっ……」
ヴィオが白い息を吐き、震えながらも嬉しそうに言ったのだが悪気は無いであろうカシワのツッコミに私とセブンとムスカリーは笑ってしまった。
声に出さないように三人とも堪えていたつもりだが吹き出してしまった。
「それこそが生命の実感!
それこそが存在の証明!」
ヴィオは自分の世界にのめり込んでいるのか私達の事を無視して熱く話し始める。
「さて、これらはプラズマ団の技術で生み出した特殊な氷!
アイツを捕えている限り溶けたり砕けたりしないのだ!」
「アイツ……まさかさっきの」
セブンが信じられないと言った顔をする。さっき話してもらったばかりの『キュレム』
もしかしてプラズマ団は既にキュレムの存在を知り、コントロールしている? 思っている以上に自体は深刻なのかもしれない。
「要件を伝えよう!
シャガ殿遺伝子の楔とやらをよこせ。このソリュウは過去と未来が絡み合う街。分かれたポケモンを繋げる楔があるに相応しい場所」
分かれたポケモンを繋ぐ? 『楔』ってそういう意味だったの?
それにやはりプラズマ団は楔を奪いに来た。しかも『キュレム』を捕らえ圧倒的な力を持った状態で。
「ずっと昔からプラズマ団の悪行を知っている人間が素直に渡すと考えるのか?」
それはここに楔があると認めることになってしまいますシャガさん!
プラズマ団側はニヤニヤしながらシャガさんを見ているがバレてるなら隠す必要は無いとシャガさんは堂々としている。
「ふむ、想像通り。本来であればもう一度氷を打ち込むと脅したいが……」
「なんだって?」
ムスカリーが怒りをあらわにするがヴィオはそれを嘲笑う。
とても不愉快だこのヴィオという老人。私は音を立てずにバレないようにボールを取り出す。
「残念だ。あれはしばらく使えぬのだ。
寒い中煩わしいが探すとするのだ……!」
ヴィオはそう言うと足早に去っていく。そんなことさせるわけがなく、私は追いかけようとするがアラシが立ちはだかる。
「そこをどきなさい」
「させると思うか? 余所者」
私が怒りながら言うがアラシは全く動じず嘲笑うようにこちらを見下す。
「おい! お前……レイナの従兄弟なんだろ? なんでプラズマ団に居るんだよ!」
カシワが言う。というか何故アラシと私が従兄弟である事を皆が知っているのだ。トモバが広めたな……
「お前は知らないのか霊家を、鷲山家を、小野寺家を。あの虐待一家をーー」
「アラシ!」
アラシが思わぬことを口にしたため私は声を張ってその続きを言わせなかった。アラシはこちらを睨みつけるが鋭すぎて私はとても見つめ返せなかった。
「お前はいいよな。余所者だからネグレクトだけで済んで」
「うるさいっ」
私はアラシを突き飛ばした。その手が震えている。それでもアラシの目が冷たい。
ただ、アラシがプラズマ団に入る理由は分からなくも無かったのだ。
「まあいい。どちらにしろ遺伝子の楔は我々プラズマ団が貰う。カイリュー!」
アラシが持っていたボールを投げてカイリューを繰り出す。
私も持っていたボールを投げる。私が繰り出したのはケンホロウだ。タイプ相性は微妙だが元々の強さはかけ離れておりこちらが不利である。
「カイリュー十万ボルト!」
「ッ!」
カシワがカイリューに指示をする。ケンホロウはひこうタイプ。電気技の十万ボルトは効果抜群だ。
「チルタリス! コットンガード!」
すると聞きなれた少女の声がして、ケンホロウの盾になるようにチルタリスが現れた。
チルタリスは体の綿をもくもくと増やして防御耐性に入る。
「そしてワンダールームっ!」
その声と十万ボルトが放たれたのはほぼ同時だった。
チルタリスはほぼダメージ無しでカイリューの十万ボルトを受けきった。
「おいお前ら大丈夫か!」
「……シアン?!」
高い声で男口調。声がする方向を見るとトモバ、マツリ、サツキ、シアンが走ってきていた。
ムスカリーは驚いて声を上げる。
「レイナ大丈夫?! チルタリス、ワイルドブレイカー!」
するとトモバが私の前に立ってチルタリスに指示をした。このチルタリスはトモバのポケモンのようだ。
シアンは鬼の形相でムスカリーにタックルして両肩を掴みブンブンと振っている。
「おいムスカリー! カゲロウさんから連絡あったろ! なんで出ない!」
「えっ、マジで? ほんとだ、ジム戦だったねその時は……」
「バッカ! 遺伝子の楔はどうなった!」
「なんで遺伝子の楔をーー」
「話は後だど・こ・だ!」
「まだ奪われてないけど、プラズマ団がソウリュウシティに散らばって探し始めてる」
「ちょっと遅かったか……」
トモバがアラシと交戦している間にムスカリーとシアンの会話が聞こえる。カゲロウというトモバとマオの父親の名前が出て私とトモバは反応するが、とても詳しい話を聞ける状況じゃなかった。
「クッ……すまないがトレーナー諸君。街中にいるプラズマ団からこの街を一緒に守ってくれないか?」
「当たり前よ!」
「おいマツリ……」
シャガさんが苦い顔で私たちに頼み事をし、マツリが元気よく返事をする。しかしシアンは焦ったようにマツリを止めた。
「いやシアン。ここは人数が多い方がいい。ミツキチームも来るんだろ?」
「ムスカリーあのなぁ ーーイッシュ支配の件はトモバ達に知られちゃいけねぇ」
「……マジ?」
シアンが耳打ちして周りに聞こえないような小声で言ったが、私は耳が良いため聞き取れた。
私達に知られては行けない? それならもう手遅れで私達のチームは全員イッシュ支配について知っている。
そのためムスカリーはギョッとした顔で声を出した。
「けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう!
シャガさんご協力します。セブン! カシワ! レイナ! あのヴィオってやつを探せ!」
私たちはもうイッシュ支配のことについて知ってしまってるし、シャガさんから話も聞いてしまった。これはどうしようもないと思ったのかムスカリーが私達に指示を出す。
「命令するなよ……」
「当たり前だろっ!」
「分かった」
セブン、カシワはそう言うと巨大な氷柱の横を通って走って行った。しかし、私はトモバが心配のため返事をするだけでその場に留まっていた。
「おいムスカリー何を考えてんだよ!」
「話しは後だ……けど、プラズマ団を倒すぐらいならいいんじゃないかな? シャガさん行きましょう」
シアンが焦っているがムスカリーは動じずにシャガさんと走り去ってしまった。
「クソ……しゃーねぇ。サツキ、マツリ。行けるか?」
シアンさんは頭をかきながら二人に声をかけた。サツキもマツリも強く頷いて走り去ってしまった。シアンもそれに続く。
「トモバ! お前はソイツを頼めるか!」
「大丈夫! こんなん蹴散らしてやるわ!」
「いい顔になったな」
シアンはトモバの威勢のいい返事に笑って去ってしまった。そのトモバの態度がいつもの頼りない、芯のないような物でなく、堂々と自信に溢れかえったような……
カゲロウさんみたいだ。
「レイナも、ここは任せて!」
「でもトモバ……」
「いーからっさ!」
トモバは私の背中を押して笑った。今のトモバは頼もしく任せても大丈夫な気がして、私は走った。
「あの弱虫お嬢様が俺に勝てるとでも?」
「舐めないでよねっ!」