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「宅配…」

センチュリースープを探すことになった三人は酒場にやってきた。そこでノアは友人から

送られて来た物を確かめる。それは水色に白のラインが入ったジャージだった。その名も

ライタージャージ、極寒の地に耐えきれる素材をふんだんに使った服。

「ジャージ?」

小松とトリコも首を傾げている。不思議そうにしていたとき、大富豪カーネル・モッコイが

現れた。

「センチュリースープを見つけた奴には100億をやる。挑む奴は全員ついて来い!」

そう言い放ったのだ。それだけ言って彼が姿を消した。その後、酒場のマスターはトリコら三人を

呼んだ。アイテム売り場。

「酒場にこんな場所があるんですねぇ」

「あぁ。っと、よかったらサインくれないか?ファンなんだ」

「え!?そうなんですか?嬉しいです!」

ノアは彼の持つ本にサラサラとサインを書いて返した。一つ、グルメスティックというアイテムを

貰って三人はカーネルが用意した船の元に行き乗り込んだ。目的地はアイスヘル、そこにある

グルメショーウィンドーの食材が溶け出し一つになったものがセンチュリースープだという。

話が終わった後、全員にライタースーツが支給された。

「あれ?ノアさんは着て無いんですか?」

「うん。友達に着ない方が良いって言われて。あ、でもこの服凄い暖かいよ」

「一体どんな友達なんだ?ノアの友達ってのは。ライタースーツも結構な値段がするはずだが

それと同じ素材を大量に入手できるなんて…」

そう聞くとノアは悪戯っぽく笑ってごまかした。船内で知り合ったのはグルメ騎士の滝丸、

グルメマフィアのマッチとその仲間、ラム、シン、ルイ。危険度もあるのか女性の姿は全く無い。

数々のトラブルに遭いつつ一同はヘリを使いつつアイスヘルにたどり着く。

崖を上り切ったノアは息切れしていた。

「大丈夫か?ノア」

「はい。まだまだこんなところで挫けてられません!」

ノアの返事を聞きトリコは再び前を歩きだした。第一陣は可能な限り固まって行動する。

先は過酷だった。氷の刃が美食屋たちを襲ってくる。既に多くの美食屋がリタイアしている。

トリコは残りの面子の体力を心配し穴倉を作り中で一旦休憩する。安心するとノアは膝から

崩れ落ちた。

「ノアさん!」

我慢が限界を迎えていたようだ。

「大丈夫ですか?ノアさん」

声を掛けてきたのは滝丸だった。ノアは頷いた。体力の無さを、そして美食屋の凄さを改めて

思い知った。目を閉じたとき、数人の声が聞こえた。目を開き首を傾げる。

「どうしたの?」

「…!さっきのは…勘違いだったんですかね」

小松は目を白黒させている。周りも同じ顔をしている。ノアは未だに何があったのか

分かっていない。ノアが目を閉じている短い時間、小松たちが驚いた理由はその短時間だけ

ノアの髪色が銀色に変わったからだ。だがノアが目を開けるとすぐ元の色に戻っていた。その髪色に

トリコは既視感を感じていた。

同じくセンチュリースープを探してきたトミーロッドたち3人に含めもう一人同行している

男がいた。緑がかった髪の男は顔を上げた。

「どうしたんだい、バイパー」

「…いや」

彼は口を結んだ。バイパーと呼ばれた男は辺りに目のみを動かして見回す。彼は美食會のボス

三虎から特別な地位を与えられ自由な行動を認められている。彼の思考は他人にはイマイチ

理解できない。


氷山に入り一同は休憩を取る。小松の料理をみんなで食べることになるもマッチは先に

休んでしまった。料理する小松に懐いたウォールペンギンの子ども。この場にいる全員が

それぞれ理由があってスープを求めていた。

「そうだ。ノアさんは何故ここに?この中で一番、関わりが無いようにも思えるのですが」

「実際に体験しないと分からないこともあるでしょ?つまりはそういうこと」

ノアはそう言った。美食會が来たと簡単に察することが出来る爆発が起こる。休んでいる暇は

無さそうだ。ウォールペンギンの子どもも連れて一同は先を急ぐ。

「何か、来る!」

いち早く気付いたのはノアだった。後ろを振り向くとジョンガルクワガタの群れが美食屋たちを

襲う。ノアは腰の辺りに手を回し何かを取り出した。それは香水だ。

羽を模した蓋を外し自身に香水を掛ける。そして小松たちにも掛けた後、他の仲間たちにも

吹き掛ける。ヴァルゴパフューム、魅惑と酔いを操る香り。対人間では効かないが猛獣には

十分効果を発揮する。

「この香水は…」

「12星座シリーズの一つ、乙女座の香水ヴァルゴパフューム。実は、ここに来ることを知った

梔子さんが念のためにと譲ってくれたんです」

虫使い、美食會副料理長トミーロッドからトリコは挨拶代わりの一撃を喰らう。何かに気付き

攻撃の手を止めた。トミーロッドの眼はノアに向けられた。先の香水のことを気にしているようだ。

地面が大きく揺れる。小松に懐いていたウォールペンギンの親が怒って暴れていたのだ。

その反動で氷の床が崩れていく。


地下には輝くグルメショーウィンドーがあった。しかしその中の食材は今、枯れていた。

「小松、お前は先にセンチュリースープを見つけるんだ」

トリコの言葉に応えるべく小松は先を急ぐ。残ったノアはウォールペンギンたちに近寄った。

ノアは危険じゃないと判断されたのかウォールペンギンの親は彼女を襲わない。ノアは

何となく彼らの想いが聞こえた。瞬間、ウォールペンギンの親たちを寄生昆虫が襲う。即座に

ウォールペンギンの子どもを自分の方に寄せノアはギュッと覆いかぶさる。ノアの背中に迫った

寄生昆虫はトリコたちの攻撃で退治される。

「さっきの香水が無ければもっと素早かったはずなんだけど…」

そしてうるさいからという理由で殺しを行ったトミーロッドたちへの怒りは頂点に達していた。

「ノア、ウォールペンギンの子どもの事は頼んだぞ」

「はい!」

ノアは返事をする。近くにいるウォールペンギンの子どもを見守ることしかできないが…。

ノアは屈み込み撫でて同じように見つめた。

顔を上に上げてギョッとする。白銀の長髪の女性はノアに似た印象だが全く違う。

何かを訴えており手を氷に当てている。その手にノアは自身の掌を重ねる。一房の髪が銀色に

変色した。トリコを狙う満身創痍のトミーロッドを気絶させた男がいた。彼はノアのほうを見て

微笑んだ。冷酷な笑みではなく柔和な笑みだ。

後に全員が合流する。そこには再生屋、鉄平の姿も。

「もし信じてくれるのなら希望を捨てるな。最も優れ愛される人間は食材への感謝を忘れない人間。

本当のおいしさを持つセンチュリースープもまた同じだ」

その男はノアに囁いた。彼が姿を消してから入れ違うように鉄平がやってきたのだ。

彼はセンチュリースープの最後の一滴を絞り出す。

「スープのおもむくままに…か」

「なんで知ってるんだ?アンタは関わりが無いだろう」

鉄平の師匠の言葉をノアは発した。少し前の事をノアは説明する。それを聞いて全員が驚く。

美食會がこちら側に助言をするなど驚かないわけが無い。絞られた一滴は小松の手に収まる。

スープを飲んだ直後、彼の顔はとろけそうな笑顔に変わった。

「こんな美味しい味を忘れるわけないじゃないですかぁ〜!」


隠し通路、それを見つけたのは同じくアイスヘルを訪れていたゾンゲ一行。そこを通り抜けると

船は無かった。

「ノアちゃ〜ん!!」

「リズちゃん!!?」

節乃のリムジンクラゲに乗っていたのはリズ、G7パッチの孫だ。節乃達と共に

ココも駆け付けていた。リムジンクラゲに乗り込むとリズが色々話し出す。

「そっか、このジャージはやっぱりリズちゃんが準備してくれたんだ。ありがとう」

「良いの良いの。服のサイズ分かってるのノアちゃんだけだったんだけどね。あ、私は

他にやることがあるからすぐ降りるよ」

「今回はありがとうねリズちゃん」

ノアはリズに手を振った。彼女が降りてから再び空を進む。

「その髪…もしかしてと思っとったがルーチェの娘じゃったか」

ルーチェ、ノアの母親の名前。節乃はルーチェの事をよく知っているようだ。彼女は病気で

死んだ。ノアの父親の名は…。

「バイパー。生きていてくれたのか」

「バイパー…って美食會にいた!?」

彼は美食會とIGOの二重スパイをしている。美食會として身を置きつつIGOとしても活動している。

そしてノアの父親の名前。父親本人。

癒しの国ライフに到着しノアもそこで一旦降りることになるが体に違和感を感じる。

「…やはり足を骨折しておったか」

落下の際、下手な着地をして足を骨折していた。ここまでに痛みに気付かなかったのは、

「ルーチェの力じゃ。ルーチェは今も姿が見えずとも娘を必死で守っとるようじゃな…

ココ、お前には見えておるのか?」

「いいえ。僕にもはっきりは…でも薄っすら形だけはずっと」

死んだノアの母、ルーチェがノアに施したのはノッキング。それで痛み等を消えているように

見せかけていた。


美食會本部、バイパーの胸倉をギャルソン・アルファロが掴み上げる。

「何のつもりだバイパー!トミーロッドを気絶させたとは」

バイパーは表情を崩さない。

「アルファロ、その辺にしておけ。バイパーには勝てない」

断言したのは副料理長スタージュン。バイパーに手を出せば美食會ボス三虎から怒りを

買うかもしれない。


小松たちのみ残されたリムジンクラゲの中に一輪の花があった。真っ白な薔薇だ。それを見た

節乃はフッと笑みを浮かべた。

「節乃さん、またあの人がこの花をくれたの!」

「白い薔薇か。恋は良いのぅ。ルーチェ、子どもは何時生まれるのかの?」

「まだ早いですよ」

その会話をした何年か後にノアが生まれた。


再生屋、与作と出会いサニーと会う。与作の再生所ではマッチの部下たちに荒い治療が

施された。

「凄い。何が凄いって荒治療なのに完治してるところが」

「次は…お前だな」

与作はノアを指差した。

「え、何この如何にも失敗しましたっていう飲み物は…!」

「薬ジュース。一番軽傷だからな。さぁグイッと」

ノアは一思いに飲み込んだ。直後、苦さにのたうち回ったのは言うまでもない。

滝丸たちが帰った後にサニーとリンは食べ物を調達しに行った。トリコの左腕の治療は

開始されている。サニーたちが持ってきた食料を使ってノアは料理をする。

ノアは大きく肩で息をしていた。

「おぉ、美味そうだな!!」

トリコはその料理にがっついた。


数日が過ぎた。ノアは水色のドレスを身に着けホテルグルメを訪れた。瞬間、多くの報道者が

周りに集まってきた。質問内容は次回作について。

「…まだ秘密です。しかし今回の物語には期待してください」

ノアは答える。別室にて振る舞われたのは完成したセンチュリースープ。その完成に貢献したのは

アイスヘルで出会ったウォールペンギンだ。部屋にはオーロラが現れる。スープを飲んだ瞬間、

ノアはサッと顔を隠した。

「何隠してるんだしぃ、ノアぁ」

リンはノアの体を揺する。

「嫌ですぅ…恥ずかしい!」

同じように顔を隠していたのはココだった。二人とも同じように恥ずかしがって顔を伏せている。

「で、どうでしょう?スープは」

ノアは親指を立てて見せる。その反応を見て小松はホッとする。ノアが少し顔を上げるとそこには

同じようにスープを飲んだ女性ルーチェがいた。彼女はノアに気付くと手を振って再び

姿を消してしまった。いなくなったのではなく今もずっと近くにいるような気がする。

その翌週、ノアの長編シリーズの新たな物語が皆に知れ渡った。その本を読み、ますますノアの

名前が広まった。