二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.2 )
日時: 2020/08/23 09:10
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 本編でちょこっと(過去シーンとコソコソ噂話だけ)しか出てこなかった亜門の話。
 もうちょっと膨らませたいなーと思って、第1話はこの話を書くことにしました。
 睦彦・仁乃・亜門のちょっと悲しいストーリー、どうぞお楽しみくださいませ。


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 【蝶屋敷】

 〈縁側〉


 夏の下旬。
 無惨戦が終わり、平和な時間もつかのま、いつもの慌ただしい生活が戻ってきていた。

 今日はこの屋敷には、今のところ俺とアオイさん、そして宵宮しかいない。
 炭治郎たちは全員任務があり朝早くから出かけているし、
 夏休みの間を縫ってこっちへ来る花子たちもまだ来ていないからだ。


 よって、俺こと刻羽睦彦は、特にすることのないまま廊下をぶらぶら歩いていた。
 と、縁側で宵宮が抹茶を飲んでいるのを見かけた。


 睦彦「宵宮!」
 有為「あ、睦彦くん。お疲れ様です」

 睦彦「お疲れ様ですって、俺なんもしてないけど」
 有為「じゃあ、お世話様です」
 睦彦「意味分かって言ってる?」
 有為「さあ?」


 敬語や一人称に対するわだかまりが治った彼女は、それでもまだ敬語が抜けないようだ。
 時々敬語になったりため口になったりするのが可愛らしいが、ただし可愛いのはそこだけだ。
 いや…顔もか。まあ、とにかく性格は言わずもがな。


 有為「今日は、静かですね、屋敷」
 睦彦「そうだな。今まで任務がなかった分が、今日に限って回ってきたって感じ」
 有為「睦彦くんは何か用事とかないんですか?」
 睦彦「ないなぁ」

 有為「……あの、どうですか、ボクの口調とか、おかしくないですか?」
 睦彦「なんで?」
 有為「……急に敬語抜けたりして、嫌われてたらどうしようと思って」


 こいつはいつもズバズバ自分の意見を言う癖に、いざとなると人の気持ちに敏感だ。
 まあある意味、極端に気を使いやすいのだろう。
 俺はそういうささやかな気遣いが得意ではないので、少し羨ましく思う。



 睦彦「あのさぁ。お前は嫌われてるかもとか思ってるけど、俺らが嫌っているはずないだろ」
 有為「……そう、なんでしょうか」
 睦彦「仮に、嫌ってたらこうやって話をしたりとかもないぜ」
 有為「……確かに」


 睦彦「だから、そんなに構えなくてもいいって。嫌われてないならいつも通りで」
 有為「なんか、睦彦くんらしいですね」
 睦彦「そうか? 自分じゃよくわかんないけど。嫌われる奴って大体決まってっからなぁ」



 有為「……嫌われたことがあるような口ぶりですね」
 睦彦「……まぁな。そいつのこと、俺も嫌ってたから、仲はめっちゃ悪かったけど」
 有為「……どんな方なんですか? 時々あったりとか、します?」


 
 睦彦「……もう、会えないよ。死んだんだ」




 あんなことになるなら、最初からしっかりと自分の気持ちを伝えとけばよかった。
 あの時の思い出が、今でもなお記憶から消えない。
 忘れるなと、人間の本能が訴えかけるように。




 有為「……すみません」
 睦彦「いいっていいって。じゃ、そうだな。お前も暇なら、話してやるよ」
 有為「上から目線ですね。もう、慣れましたけど」
 睦彦「ごめん。俺の悪癖だ。あいつも、俺のこういうところが嫌いだったんだろうな」


 有為「あなたが嫌じゃなければ、是非聞かせて下さい」
 睦彦「……了解。いいか、これは今から4年ほど前、俺が鬼殺隊に入隊した直後のことだ」



 記憶の片隅に入れていた、あの日の思い出をゆっくりと開いていく。
 今よりももっと初夏の緑が痛かったあの夏、俺はある少年に出会った。



 睦彦「話をしよう。俺がずっと嫌いだった人の話を」




 瀬戸山亜門。俺はコイツが嫌いだった。




 ネクスト→睦彦の過去の話、開幕! 次回もお楽しみに。