二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.3 )
日時: 2020/08/23 16:59
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)


〈4年前 藤襲山〉

 四年前、鬼殺隊最終選別の会場、藤襲山にて。
 鬼殺隊に入隊する条件は、鬼の苦手な藤の花が生えていない山で7日生き延びること。
 幸い、師匠からの手厚い訓練のおかげで特にケガもなく、俺は山の鬼を一掃することができた。

 7日後俺は、精根尽き果て、汗をぬぐいながら山の神社へ階段を上った。
 実家が神社だからこんなのよゆーよゆー! …ではなく、やはり疲労のせいでかなり苦しい。
 肩で息をしながら神社に着く。


 黒髪「お帰りなさいませ」
 白髪「皆様は晴れて鬼殺隊に入隊されることになります。お疲れ様でした」


 抑揚のない声で、おかっぱの子供たちがそう告げ頭を下げる。
 選別が始まる前にあんなにいた人の数は、今や自分を含め3人しかいない。
 

 一人は、紫色の羽織を着、髪を二つ結びにした小柄な少女。
 お互い生き残ったら俺を「むっくん」と呼んでいいか、などと突飛な発言をした奴だ。
 確か名前は、胡桃沢仁乃。



 仁乃「お、キミも無事だったんだね。約束通り、これからはむっくんでいいよね」
 睦彦「勝手にしろ」



 もう一人は、俺と同じ位の身長の、肌の白い少年だった。
 俺より若干長い髪はサラサラで、黒の袴を着ている。
 

 睦彦「お前も今日から俺の同期だな。これからよろしくな。俺、刻羽睦彦」
 ??「……」
 睦彦「お前の名前は?」


 そいつはブスッとした表情で、モゴモゴと言った。
 何でそんなに不機嫌なのか、その理由はその時の自分にはわかるすべもなかった。


 亜門「瀬戸山亜門」
 睦彦「亜門か。歳は?」
 亜門「12」
 睦彦「一歳下か。よろしくな、亜門。これから一緒に頑張ろうぜ(手を差し出して)」


 あんなに沢山の人間が選別を受けたのに、俺たちしか生き残れなかった。
 彼らに俺たちが出来ることと言ったら、犠牲になった人の分まで戦うことだと思う。
 だからこの握手は、これから一緒に戦う仲間への信頼を籠めて。


 そう思って手を差し出した。




 バチッッ!



 亜門「………うるさいチビ」
 睦彦「………ッ」
 仁乃「ちょっと! 貴方何してるの!? 人の手を叩くなんて!!」


 睦彦「………おい。どういうことだよ! 俺が何かしたってのか!?」
 亜門「僕はお前とつるむ気はない。あっちへ行け」
 睦彦「なんだそれ!! お前何様だよ!?」


 亜門は何も言わずに、俺と距離を置いてチッと舌打ちをするだけだった。
 そういうわけで、初対面での俺と亜門の関係は、あまりよくなかった。

 いつか、仲良くなれる日が来るのだと思っていた。
 少なくとも今日一日、用事が全部終われば、親しく話しかけてくれると思っていた。


 でも、そんな淡い期待に添えるようなことは、一つとして起こらなかった。
 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.4 )
日時: 2020/08/24 16:34
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 続き行きまーす!
 話の都合上どうしても暗くなるのは許してね。
 

 ***************


 睦彦「(なんだコイツ……。俺の手を叩きやがって)」


 亜門の第一印象は、俺の中で最悪だった。
 空気の読めない自分勝手な奴。たった数分間で、彼の印象はそれで定着してしまっていた。
 

 睦彦「(そもそもお前と身長ほぼ変わんねえだろ。チビはお互い様だろうがクソッ)」


 イライラをこらえながら、俺はその後の隊服の採寸や鋼玉選びをした。
 そしてその間も亜門は、横目で俺をジッと睨んでいた。



 黒髪「それでは最後に、皆様には鎹鴉をつけさせていただきます」
 白髪「鎹鴉を通じて、皆様に任務の指令が届きます」



  カァァァァァァ——————!!


 睦・亜・仁「うわっ!」
 鎹鴉「カァ———!(睦彦の肩にとまって)」


 睦彦「えーーっと、かすがい、がらす?」
 鎹鴉「ケケケ」
 睦彦「けけけって……」


 仁乃「え、鴉? ……雀じゃない?」
 鎹雀「チュンチュン!!」
 仁乃「まぁ、可愛いからいいか。これ、名前はもうついてるの?」


 白髪「ついているものもいますがその鎹雀には名前はありません」
 黒髪「ご自由に付けていただいて結構でございます」

 仁乃「そっかぁ。君オス?」
 鎹雀「チュンチュン!」
 仁乃「じゃあ、豆みたいに小さいから、豆吉ね!」
 豆吉「チュンチュン! 仁乃、ヨロシクネ」


 亜門「チッ。おい鴉。お前の名前は何て言うんだ?」
 鎹鴉「ワシノ名前ハ金剛(こんごう)ジャ」
 亜門「………似合わねぇ、絶対それ強力の男の名前だろ」 
 金剛「ツツキマースゾ」


 そんなこんなで、無事選別後の用事が一通り終わった。
 あとは師匠の家へ帰って、受かったことを報告するだけか。



 睦彦「(先生、喜ぶだろうなぁ。頑張って良かったぁ…!)」


 しみじみと、先生の元で修業した日々のことを思い出していると。
 亜門がまたも俺をジッと見つめているのに気づく。
 何か言いたそうな雰囲気。



 睦彦「何だよ」
 亜門「………ちょっと面貸せ」

 
 仁乃「…………」



 胡桃沢が心配そうな目で一瞬俺を見たが、俺はその視線をサラッと受け流した。
 どうせ、大したことは起こらないと、そう思った。
 そして、その予測は結果的に大きく外れたのだ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・


 人目のつかない神社の裏へ連れ出して、亜門は俺を真正面から見つめて言った。


 
 亜門「お前なんか大っ嫌いだ」
 睦彦「………へ?」

 
 何を言われたのか、一瞬理解が追い付かなかった。
 今、何て言った? 嫌い? 俺のことが?

 初対面で何故そのように言われなければいけないのか分からず、目を見開く。
 亜門は鬱陶しそうに俺を斜めから睨んだ。

 亜門「僕には何のとりえもない。剣士になることだけが唯一の夢だ。それなのに」


 彼は顔をしかめて、言いにくそうに無理やり口の奥から言葉を絞り出した。


 亜門「最終選別で、鬼は皆お前が倒しちゃったじゃないか」
 睦彦「…………お前が倒せないのが悪いだろ」


 ……そんな彼に、俺はたいして何も考えずにそう言ってしまった。
 鬼を倒すのが条件で、それが分かっているのに倒せなかったなら、お前の努力が足りてない。
 そう言うことだろ、と念を押すように俺もまた亜門を睨む。


 俺の言葉を受けて、亜門の表情に衝撃が走った。
 彼の手が俺の肩に伸び、あっと思った時には、俺の腹めがけて彼の細い足が伸びていた。

 
 亜門「……世の中には、才能に恵まれてない奴もいるんだよ!! それなのにお前は!!」


  〜ガツッ〜


 対して対策もしなかった俺は、あっけなく自分の腹を思いっきり彼の足で蹴られる。
 焼けるような痛みを感じ、受け身も取れないまま俺は砂利の地面に倒れこんだ。


 睦彦「う゛っ!」
 亜門「この害悪! 害っっ悪!! 害悪!!(ガツッ ガツッ ガツッッ)」



 彼が、なぜそんなに俺を嫌っているのか分からなかった。
 なぜいきなり俺を攻撃するのか分からなかった。
 
 睦彦「う゛っ あ゛っ、ぐっ」
 亜門「お前なんか大っ嫌いだ! お前なんか嫌いだ!!」



 脚を俺めがけて振り下ろす亜門は、泣いているように見えた。
 何かを必死で我慢するように、その口元はきつく結ばれていた。


 睦彦「俺も、お前なんか嫌いだ!! 当たり前だ、いきなり殴ってくる相手を好きになれるか!」
 亜門「黙れッッ(ガツッッッ)」
 睦彦「う゛ッ!!」


 一方的に痛めつけれたこと、それ以上の侮辱はなかった。
 殴られ、痛みに耐えながら、俺は頭の中で必死に考えた。

 何が悪かった? 何が許せなかった? どうしたら好かれる? どうしたら変わる?
 どうしてお前はそんなに泣きそうなんだよ。
 どうしてお前は俺に執着するんだよ。上手い奴ならもっといっぱいいるだろうが。
 お前は俺を殴ってどうしたいんだ?
 この場限りの鬱憤を晴らすために俺を殴るなら、お前も鬼だ。鬼だお前は鬼だ。


 お前なんか嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い、大っ嫌いだ!!



 亜門「じゃあな。ド三流」
 睦彦「お前なんか大っ嫌いだぁぁぁぁぁ!! 何なんだよお前ぇぇぇぇぇぇ゛ぇぇ!!」


 言葉とは裏腹に、両目から熱い水滴がこぼれ落ちた。
 ……最悪だ。生き延びれたのに、勝ったのに、それがこんなことで最悪な日になるなんて。


 痛みに顔をしかめながら起き上がる。
 親父の形見の巫女装束はよれよれになっていて、腕にも顔紙も足にも擦り傷が出来ている。
 ……しごく、ダサい。


 仁乃「むっくん! 姿が見えないから来てみれば、どうしたのその傷!!」
 睦彦「胡桃沢……」
 仁乃「何があったの!? 誰にやられたの!?」
 睦彦「………」


 仁乃「………教えて。何があったの」


 駆けつけてきた胡桃沢の真剣な様子に、俺はしぶしぶ事の顛末を説明した。
 亜門が俺を連れ出すなり、自分のことを嫌いと言った挙句、俺を殴ったと。
 そう伝えた。


 仁乃「………あの人、一体どういうつもりなの。嫌いだからって、そんなこと……」
 睦彦「……気持ちはわかるけど、あまり検索はしないでやってくれ」
 仁乃「でも、むっくんはあの人に」
 睦彦「……俺のせいだから。な、お願い」




 仁乃「………分かった。また何かあったら、ちゃんと言うんだよ」


 全部俺が悪いってんだろ、亜門。
 仕方ないよな。わがままで虚勢張って目立ってる奴なんか、ウザったらしくて当然だ。
 それにお前は俺と比べてしまったんだろ。
 仕方ないよ、俺が自分にうぬぼれてたから、腹が立ったんだろ。



 ………もう、帰ろう。
 本当は分かっていたんだ。
 鬼殺隊はアレでも一部の組織なんだから、人間関係だってちゃんとある。
 自分を好ましく思う人と思わない人がいる。
 そんな常識的なことを、俺が分からなかった。それだけのことだ。



 睦彦「……………大変だな」



 もう帰って寝よう。
 帰って、先生に沢山褒めてもらって、今日の悲しいことは嬉しいことで上書きしよう。
 それがいい。


 何かあったと聞かれても、「何もない」ってそういえばいい。
 だから、今日一日はせめて、楽しいことが悲しいことより多くありますように。



 ネクスト→先生の家に帰った睦彦。次回もお楽しみに。



 



 
 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.5 )
日時: 2020/08/25 15:48
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)


 〈師匠の家〉


 へとへとになりながら先生の家に着いたとき、時刻は既に夜。
 とにかく体中が痛くてたまらない。
 心もとうに疲弊しており、本当のことを言えばだれとも話したくない。


 睦彦「…………ただいま……」
 先生「おや、おかえり睦彦。生きて帰れたようで何よりじゃ」
 睦彦「…………あざっす」


 先生に検索されないように、努めて明るい声を出したつもり。
 それでも、二年も一緒に過ごした弟子の様子がいつもと違うことくらい、先生は分かっていた。


 
 睦彦「あ、ああ、今日は浩平は来てないんですね。良かったですアイツどうにも苦手で」
 先生「睦彦」
 睦彦「ああ、ほら、いっつも俺に引っ付いてきてムカつくって言うか、子供ってどうにも」
 先生「睦彦」
 

 大丈夫だ、俺は普通に選別に行って、普通に帰ってきただけ。
 だから何も思うことなんてない。
 そう、普通に、笑っていればいいんだ。

 泣くことなんて、ない。


 先生「なんかあったのか。元気がないぞ」
 睦彦「そ、そんなこと」
 
 先生「……まあいい。お前、おでんとすき焼きどっちがいい?」
 睦彦「………どっちでもいいです」
 先生「…………疲れているようだから、先に風呂に入っておいで」



 睦彦「分かりました」


 結局、俺は逃げるようにその場を後にしてしまった。
 俺の肩に止まった鎹鴉—封仙(ふうぜん)と名付けた—が不思議そうにこっちを見る。



 睦彦「何見てんだよ、バカガラス」
 封仙「…………」


 ダメだ。ダメだダメだ。ダメだ。
 涙をこらえるのに必死になってしまった。
 先生の優しさに甘えたくなってしまった。


 思わず奥歯をぎゅっと噛む。
 誰にも言えない。先生を困らせたくない。だから相談はしない。



 ……胡桃沢に、心配をかけてしまったことも後悔している。
 本当のことを言えば、今すぐ彼女に会いに行きたい。
 また、「むっくんってどうしようもないなぁ」とか、呆れて笑ってほしい。



 湯船につかりながら、俺の頭の中は亜門のことばっかり浮かんでは消えた。
 あんなに殴られ蹴られたのに、やり返してやろうとか思わないのは、なんでだろう。
 

 睦彦「(なぁ胡桃沢、お前ならどうした?)」


 誰とも仲良く接することができるお前なら、上手くやれるのだろうか。
 今、無性にお前の声が聞きたい。



 『お前なんか大っ嫌いだ!!』
 『世の中には、才能に恵まれない人もいるんだよ! それなのにお前は!!』



 お風呂から上がり、部屋着に着替えて俺は足早に自分の部屋に駆け込んだ。
 選択され、ノリがパリッと利いた布団にもぐりこみ、小さく呟く。
 
 睦彦「………仲良くできると、思ったんだけどな……」


 どうしよう兄ちゃん。
 はじめっから上手くいかなかった。カッコよく目立てなかった。嫌いって言われた。


 どうしよう父ちゃん。
 俺、失敗してしまったみたい。
 死んだ父ちゃんの分まで、しっかりしなきゃって思ってたのに、無能でごめん。


 どうしたらいいんだろう。どうすれば正解なんだろう。どうするのが優しいんだろう。
 何で俺はこんなにあいつのことを考えているんだ?
 嫌いなのに。大嫌いになったのに、俺は何がしたい?


 仲良くなりたい。一緒に仕事をしたり、趣味を共有したり、美味しいものを食べたりしたい。
 たった3人の同期なんだから。


 でも、果たして俺にはそれが出来るだろうか?
 もしかしたら「こんにちは」さえ言えないかもしれない。ずっとこのままかもしれない。
 友達になんて、なれないのかも、しれない。



 睦彦「……………ふっ。うああ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……!!」


 なにもなくことなんてないのに、両目から涙がこぼれて来た。
 泣くのは今日で二回目。
 こんなのカッコ悪い。慌てて服の袖で目元を拭おうとして。


 隣に、温かい感触がした。
 恐る恐る横を見ると、封仙が横にもぐりこんでいた。

 
 封仙「泣キ虫ダカラ、一緒ニ寝テヤルヨ」
 睦彦「うっせー。バカガラス!!」


 そう言いながら、俺はまた泣いた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・



 有為「……………空気、重っっっっ!!」
 睦彦「言ったろ、楽しくない話だから覚悟しとけって」


 有為「それで、その亜門さんとはその後どうなったんですか?」
 睦彦「待て待て話を急かすな」
 有為「急かしてない!!」


 睦彦「あの後、お互い任務で各地へ散って、二人とは一年ずっと会えなかったんだ」
 有為「そうなんですか」
 睦彦「でも、胡桃沢はその一年の間に亜門に会ったみたいで、ここから先は聞いた話になる」


 睦彦「胡桃沢は、この話を俺にして、こう言ったよ」



 仁乃『………瀬戸山くんと仲良くならなくてもいい。だけど、ちゃんと知ってあげて』
 睦彦『……?』
 仁乃『瀬戸山くんは、むっくんが大好きだよ』


 

 有為「好き? だって、その方は睦彦くんのことを嫌ってたんでしょう?」
 睦彦「俺もおかしいと思ったんだけどな。亜門の本当の気持ちは、よく分からない。だけど」
 有為「だけど?」


 睦彦「秘密」
 有為「なんだそれ」
 睦彦「そう怒るなよ。ここから先話すのは、胡桃沢に聞いたこと。それを聞いて考えればいい」

 有為「仕方ないですね。分かりました」
 睦彦「お前らしいぜ。じゃあ、話そうか。このあと、何が起こったのか」



 ネクスト→次回は、仁乃sideでお送りします。次回もお楽しみに。