二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.6 )
日時: 2020/08/25 19:41
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 仁)空気重いねむっくん。第1話でこの話して良かったのかな?
 睦)仕方ないんだよ、言ったろ、楽しくない話なんだって!
 仁)そうだね。でも私たちで、この話を頑張って盛り上げていかないとね。
 睦)さっすが胡桃沢! よし、あとは任せたぞ!

 むう)この話はキャラの心情を書くのがすっごく重要になってくる。頑張ります。


 ***************


 〈仁乃side〉



 あれから一年がたった。
 むっくんとは、あれから顔を合わせてはいない。
 いや、正直に言えば、藤の花の家紋の家でチラッと顔を見かけたことはあった。
 けれども、遠目で見る彼の顔には、いつもの元気がなかったように思う。


 瀬戸山くんがむっくんを嫌っているのは知っている。
 実際、二人の関係は鬼殺隊の中でも有名で、この前も知らない先輩から声をかけられた。



 先輩『キミ、刻羽と瀬戸山の同期?』
 仁乃『は、はい』
 先輩『あの二人、けっこうギスギスしてるから、大丈夫かなぁと思ってよ』
 仁乃『……そうですね……』


 欲を言えば、私は二人に仲良くなってもらいたいよ。
 だってあの二人、色んな所が似てるんだもん。


 相手のことを「お前」って呼ぶところとか。
 普段はズバズバ自分の意見を言う癖に、些細なことで気分が落ち込むこととか。
 考えるより先に体が動いてしまうこととか。
 本当は、すっごく気を遣うタイプだったりするところとか。
 


 仁乃「………会いたいなぁ、むっくん」


 道を歩きながら、誰に言おうともなく呟く。
 今日私は任務での疲れを癒すため、鴉の案内で藤の花の家紋の家に向かっていた。
 

 仁乃「元気にしてるかなあむっくん。私のこと、ちゃんと覚えてるかな…」
 

 彼がどんな気持ちでいるか考えてたら、ちょっと気分が上がった。
 自然と、下を向いていた顔が上がる。


 その時、私は見た。
 目の前を、黒い袴を着た、すこし髪の長い少年がツカツカと歩いていたのだ。


 

 瀬戸山くんだ。




 仁乃「せ、瀬戸山くん!!」
 亜門「(振り返って)……なんだよ」
 仁乃「げ、元気にしてた? わ、私のこと覚えてる? え、えっと、えっと…」



 ダメだ、緊張してしまって言葉が出てこない!
 普段ならこんなことないのに、なんでだろう。
 やっぱりむっくんのことで色々あったからだろうか。


 仁乃「え、えっと、瀬戸山くんは、なんか用事でもあるの?」
 亜門「……ここ、真っ直ぐ行くと、僕んちがあるから帰る」
 仁乃「そうなんだ。良かったらご一緒してM」
 亜門「あっち行け。くんな」


 ………なんで、そんなこと言うの?
 別にいいじゃない、一緒に歩いても。
 そう言い返そうと口を開いたその時、瀬戸山くんが振り返ってこっちを見た。





 彼は、今にも泣きそうな表情で、私を見つめていた。




 亜門「くんな!!」
 仁乃「ご、ごめんなさいっ」


 私は慌ててその場を離れると、路地に回り込んで塀の陰から瀬戸山くんの様子を見張った。
 なぜそんなことをする気になったのか、よく分からないけれど。
 瀬戸山くんは、何かを我慢しているような感じだったのだ。



 彼が私と一緒に歩くのを嫌がった理由は、すぐに分かった。



 少年A「あ、亜門だ」
 少年B「本当だ。おーい亜門!!」
 亜門「…………」


 道を歩いている瀬戸山くんに、家の前で遊んでいた同い年くらいの男の子が、揃って声をかけた。
 瀬戸山くんは何も言わず、顔を俯けて歩いている。
 その拳がぎゅっと握られていた。


 少年C「おーい借金かえせたかー?」
 少年A「無視すんじゃねえよ馬鹿ー!!」
 少年B「何で貧民街育ちのお前が、元柱の先生に拾われるんだよバーカ!! あっち行け!」


 少年が道に落ちていた小石を拾い、彼めがけて投げつける。
 石を投げられても、瀬戸山くんは、何も言わない。


 その様子を見て、心の中にしまっていた嫌な思い出がどっと脳裏に流れ込んできた。
 ………思わず私も、両手の拳をぎゅっと握りしめる。


 『死ね、バケモノ! あっちへ行け!』
 『バケモノが金持ってんじゃねえ、よこせ!』
 『人間は、あんな変な術なんか使わない!』
 

 少年B「大体さぁ、こいつ体弱いから隊士に向いてないだろ」
 少年A「だよなあ。あいつより、俺ら兄弟子の方が絶対強いよなー」
 少年C「ていうかアイツの剣って錆びてんじゃねえの。きっと選別で一体も倒せなかったんだ」



 ああ、待ってあげられなくてごめんなさいなんて、全く私は思わなかった。
 考えるより先に、私の口が体より先に動いていたからだ。


 仁乃「…………なんで、そんなこと言うの」
 少年一同「あ゛? なんだお前」


 少年たちは首をかしげて挑発し、瀬戸山くんは目を見開いて私を振り返った。
 こんなこと、見過ごすわけにはいかない。
 私は少年の鋭い視線にひるむことなく、言葉を続ける。


 仁乃「あなたたちは、そんなことをして楽しいの!? 悪口を言って満足するの!?」
 少年A「なんだよ、お前には関係ねぇじゃねえか」
 仁乃「じゃあ、あなたたちだって、瀬戸山くんとは何の関係もないじゃない!」


 仁乃「あの子があなたたちに何かしたの? あの子はあなたたちを虐めたの?」
 少年B「……いや」
 仁乃「じゃああなたが瀬戸山くんを悪く言う権利なんてないじゃない!!」


 仁乃「生まれた環境だけで悪く言うなんて、ホント最低!!」
 亜門「お、おい…」
 仁乃「人は生まれながら平等、でも神様はいつも不公平」


 仁乃「何の不自由もなく暮らせる人がいれば、お金に困って小さな家で凍えてる人もいる」
 少年C「………も、もう悪かったよ、いいだろ、もう」


 仁乃「瀬戸山くんの人生を、あなたたちの勝手な想像で決めつけないで」
 亜門「お、おい、胡桃沢さん…」
 少年一同「………っ」

 仁乃「むっくんだったらこう言う!!『至極ダサい。目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って」
 亜門「!!」
 少年一同「さ、さよならっ(ダッと駆け出して)」



 私だって、特殊体質のせいで石を投げつけられたことがある。
 近所の人にすら、人間と見てもらえなくて、ひとりの夜に押しつぶされそうになったことがある。
 彼らに、そんな私の気持ちが分かってたまるか。



 仁乃「大丈夫? 瀬戸山くん」
 亜門「あ、ありがと。なんか、ごめん……」
 仁乃「あなたなんか嫌い!」
 亜門「……え」


 してやったり。
 私は心の中でニンマリとほほ笑む。
 しかし心の中の気持ちとは裏腹に、目には、涙が溢れていた。
 

 
 仁乃「何か抱えてるなら、相談すればいいじゃない。なんでしないの!?」
 亜門「そ、それは」
 仁乃「むっくんが嫌いなのも、色々大変なのも分かる。だけど」


 仁乃「私のことは、嫌いじゃないでしょ。頼ってよ」
 亜門「………なんで?」
 仁乃「なにが?」

 亜門「なんで、胡桃沢さんは僕に優しくするの? 僕は刻羽を殴ったんだぞ!」
 仁乃「それがどうしたって言うの? 確かにあなたはむっくんを傷つけた。それは許さない」
 亜門「………」
 仁乃「仲良くして、なんて分かったようなこと、私言わないよ。でもその代わり」




 仁乃「私のこと、たくさん頼ってもいいんだから」
 亜門「………考えとく」


 彼はそれだけ言い残して、足早にその場を去ってしまった。


 瀬戸山くんは、「うん」とも「いいえ」とも違う、中間の意見を取った。
 こういうところは、むっくんと違う所。

 きっと色々、瀬戸山くんの中で我慢していることがあるんだろう。
 むっくんはむっくんで、彼との関係に悩んでいる。
 
 なら私が、なんとかしなくちゃダメじゃない!
 むっくんも瀬戸山くんも、絶対いい子だよ。
 誰がどういおうと、私は二人のことを信じているよ。



 だから今はむりでも、きっといつか、二人がお互いを支え合える関係になれること。
 陰からしっかり、見守っておくからね。


 



 
 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.7 )
日時: 2020/08/26 17:13
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 ☆小説の1話ができるまで☆


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 〈亜門side〉


 僕は、貧民街で育った。
 天井に穴が開いた家で一人取り残されて、誰にも見つけてもらえないことがあった。
 捨て子の僕にとって、家族と呼べる存在はいなかった。

 毎日、乾いた握り飯にかじりついて、人からの暴言に耐えた。
 どんなに飢えても苦しくても、僕を可哀そうだと思ってくれる人はいなかった。
 そもそも可哀そうだなんて思われることが嫌だった。

 そんな自分を拾ってくれたのが、元柱の育手。
 僕は先生の元で暮らす代わりに、鬼殺隊に入るという条件で剣の修行を始めた。


 だから僕には分からないのだ。


 たとえもう今はいないのだとしても、温かいご飯が食べられて、親の愛情で育った人のことが。
 お金のない生活に無縁の人の事が。
 才能や環境に恵まれて、のうのうと暮らしている人の事が、僕には分からない。


 そして同じように、そう言う人には僕の気持ちなんか分からないのかもしれない。
 予想することが出来ても、それは分かるとは違うことだ。
 

 だからだろうか、僕と刻羽の関係が、上手くいかないのは。


 まぁ確かに、急に殴ったのは悪かったよ。
 だから僕が信じられないのも、大嫌いなのも分かる。
 でも僕はお前が嫌いだし、お互い様じゃないか。



 仁乃『もう嫌われてるって、その考えに縛られたままで貴方はいいの?』

 

 前に、胡桃沢さんにそう言われたことがある。
 彼女は僕より年下なのに、ちゃんとしっかりとした意思を持っている。
 何事にも動じない強い自分がある。


 亜門「なんとかしたいって、思うけど、あいつは……」



 今更、何て返せば正解なんだろう。
「殴ってゴメン」? 「仲よくしよう」?
 そんなことを言って、あいつがすぐに許すはずがないだろう。


 だって、僕はあんなにあいつを痛めつけて、苦しめて、傷つけてしまったんだ。
 今更、仲良くなりたいだなんて、伝える権利なんて、ないじゃないか。
 それに加害者がそんなことを思うのは、きっと間違っている。


 仁乃『私の事は、嫌いじゃないでしょ。相談してよ』
 

 何を? 
 借金を返せないこと? 刻羽と上手くいかない事?
 そんなこと、君に話して何が変わる?

 それとも、そんなことを思ってしまう僕が悪いのだろうか。
 

 僕とあいつがギクシャクしてるのを、黙って見て、君はショックだったんだろ?
 君も僕のこと、嫌いなんだろ?
 だったら、なぜ君は相談を受けようと思うんだ?



 亜門「………仲良くなりたくないわけではないけど、この気持ち、何ていえば……」


 僕が刻羽に抱いているのは何の感情だろう。


 あいつの存在が妬ましいと思う嫉妬?
 あいつより、見かけだけでも強くなりたいという虚栄心?
 持ち上げられて、膨れ上がった自尊心? 
 それとも、彼と比べて無性に小さく思える自分への嫌悪感?


 ………僕はお前が嫌いだよ刻羽。
 お前だけ強くて、お前だけ明るくて、お前だけ優しくて、お前だけ勇敢で。
 こっちばかり比べてて、こっちばかり気にしてて、こっちばかりムキになって。


 こんなの、僕が全部わがままみたいじゃないか。
 

 亜門「………『いつか、また』なんて来ないと思う……」



 いつかまた、変われる日が来るのだろうか。
 ……きっと、待っているだけじゃ何も変わらない。
 じゃあ、僕は何をすれば、前へ進めるんだろう。



 亜門「………ゴホッゴホッ」


 もともと体が弱くて、選別前から吐き気がした。
 それでも誰かの期待に答えたくて、誰かの期待に添えるような人間になりたくて。


 亜門「おい鴉。刻羽の場所が分かるか」
 金剛「当タリ前ジャ、カアカア」
 亜門「大嫌いな人からの手紙だって言っとけ。これ、あいつに届けて」
 金剛「素直二ナレナイナ、オタガイ二」


 亜門「ほっとけ」



 僕は鴉の首周りに、手紙をくくりつける。
 変わらなくちゃいけない。でも、相手からの反応が怖い。
 
 アイツは悪くないんだ。一つも悪くないんだ。
 悪いのは、自分を相手と比べてしまう、どうしようもない僕なんだ。


 仲良くしよう、って言ったらあいつはどう答えるだろうか。
 怒るかな、泣くかな、笑うかな。
 

 僕はずっとお前になりたかったんだよ刻羽。
 お前みたいに、強くなりたくて、お前に勝手に憧れちゃったんだよ。
 やっぱり、全部お前のせいだ。お前のせいじゃないけど、お前のせいだ。


 なんだそりゃ、って思うけど多分僕の中で、これが正解だ。
 だから手紙には、たった一行しか書いていない。


 僕は素直じゃない。それはあいつも同じだ。
 たとえ胡桃沢さんが間に入っても入ってくれなくても、僕等の根本的な部分はきっと変わらない。
 
 だけど、目立ちたがりのお前のことだ。
『目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って? よく言うよ。
 本当にムカつく同期だよお前は。


 だからたった一行の手紙をお前に送るよ。
 返事なんて送らないでくれよ。
 まあ、どうしても書きたいって言うなら、見てやってもいいけどさ。





 「拝啓 刻羽へ。 お前は、やっぱり凄いな」



 
 


 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.8 )
日時: 2020/08/27 16:50
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)


 よくよく考えてみると、睦彦って語呂合わせメッチャしやすい。
 スマホとかのパスワードこれにしようかな、という下らない思想。

 こくばむつひこ
 ↓
 5986215


 ****************************


 〈睦彦side〉


 睦彦「ん〜? んんん…??」


 おいおいおいおい、こりゃどういうことだ?
 鴉経由で届いた手紙の文字を、俺は何度確認したことだろう。

 任務へ向かう道のり、手紙を読みながら歩いていたものだから、通行人と三回もぶつかった。
 だって。だってだって、送り主の名前は、あの瀬戸山亜門だったのだ。

 手紙を受け取ったのは、三日前。あと3日で正月が来るという、新年間近の日だった。
 いつものように藤の家でお世話になっていた俺の元に、突然一羽の鴉が飛んできた。
 

 金剛。亜門の鴉は、そう言う名前だったはずだ。
 金剛は首に結ばれた手紙をくちばしで器用に外すと、俺の前にポンと投げてよこした。


 封仙『金剛先輩ジャナイスカ。ゴ無沙汰シテヤスー』
 金剛『オ久シブリジャノ、封仙』

 鴉たちのまるで人間かと疑うような会話を盗み聞きしながら、手紙を開いた。
 そこには、たった一行、くねくね曲がってお世辞にも綺麗とは言えない字でこう書かれてあった。

 

 「拝啓 刻羽へ。 お前は、やっぱり凄いな」



 睦彦「訳が分かんねー。どういう風の吹き回しだ?」
 封仙「ナンダヨ。ソンナニ手紙ヲモラッタノガ嫌ナノカ?」
 睦彦「いやだって、おかしいだろ。なんであいつがいきなり、俺にこんなのをよこすんだ?」


 肩に止まったバカガラス—もとい封仙の質問に答えながら、俺はあぜ道を歩く。
 縦からも横からも斜めからも読んでみたが、相変わらず意味が分からない。

 「凄いな」って褒めてもらうようなこと、俺はしたっけ?
 亜門は、俺のことが嫌いなんじゃなかったか?
 それとももう、嫌いなんて思ってないのかな?


 睦彦「あぁぁ〜分からん!! こういうゴチャゴチャ考えるの、得意じゃねえんだよ俺は!!」
 封仙「嘘ツケ」
 睦彦「嘘じゃねえよ」
 封仙「特技ガ暗算ナノ二カ? 10桁ノ暗算ダッタラ余裕デ出来ルンダロ?」


 まあ、昔ヘマやって親父に怒られて、そろばんを投げつけられて。
 そのそろばんを弾きながら暇をつぶすのが楽しかったのは本当。
 10桁の暗算ができるのも嘘じゃないけど。

 睦彦「そんなに凄いことか?」
 封仙「ア、イイワ。オ前トハ多分違ウ次元ダワ俺」
 睦彦「鴉の癖に生意気な」

 
 仕方ねえ。また今度胡桃沢にあったら直行で聞いてみよう。
 ん…でも、あいつのことだからまたなんかからかってきそうだな。
 天然でやってるのだから、悪気はないのだけどな。


 
 睦彦「(亜門は嫌いだけど、胡桃沢のことは別に嫌いじゃないし)」


 一緒にいて、楽しいと思う。
 優しいし、明るいし、こんな俺もちゃんと見てくれるし、何より人がいい。
 俺より二歳も年下なのに、話していると同い年なんじゃないかと思ってしまう。


 まぁ、顔も、………かわいいと、思う。



 睦彦「(それって、『好き』ってことじゃ!!?)」


 ある結論に辿り着き、瞬間頬に熱を感じた。
 違うよな、絶対違うよな。
 俺もともと異性とかに興味ないし、好きとか思わないしっ。

 だから胡桃沢とはただの同期なわけで、好きとかじゃないしっ。
 ぁぁぁぁぁぁもう自分でも何考えてるのか分からなくなってきた—————!!

 

 封仙「ドウシタ睦彦。顔ガ赤イゾ。ヤラシイコト考エテタ?」
 睦彦「ちげーしバッカッ!! 封仙バッカ!! ///」



 案の定、勘の鋭いバカガラスが俺の頭をコツコツコツコツコツコツつついてくる。
 痛いってば馬鹿。俺の頭がへこんだら責任取れよな。


 そうやって、人間VS鴉の格闘(?)が路上で行われた数分後。
 ペタペタと草履の音がすぐ近くで聞こえ、目の前が暗くなった。



 睦彦「———」
 亜門「おい」
 睦彦「———?」
 亜門「おい、聞いてんのか!?」


 目の前に、亜門がいた。
 少し髪が伸びている。ずっと会っていなかったことが分かる。


 俺は亜門の爪先から頭までをそろりそろりと眺める。
 彼は鬱陶しそうに首を回し、一年前と変わらない、棘のある口調で言った。


 亜門「何見てんだよ」
 睦彦「いや、お前に背を抜かれるとか、俺のプライドが許さないなと思って」
 亜門「知らないよ。文句は自分の体に言えよチビ」

 
 目の前に居るのはまさしく亜門だ。
 俺がずっと嫌いな、瀬戸山亜門だった。
 でもなんだろう、角が取れて丸くなったような気がする。



 性格は、変わってないけど。


 睦彦「な、なんでお前がこんなところに!?」
 亜門「ああ、合同任務の知らせが来たからだよ。お前と一緒じゃ気力もわかないな」
 睦彦「わかせよ、死ぬぞ!?」


 あれ、なんだろう。
 俺、ちゃんとこいつと会話できてる。
 友達みたいなやりとりが、ちゃんとできてる!

 ……とは、死んでも言わないけど、俺は微かな喜びを感じた。


 仁乃「久しぶり瀬戸山くん。と、!! むっくん———!!」
 睦彦「うおっ!? いきなり抱き着くな!! ここ、路上!! 人前!!」
 仁乃「お子様」
 睦彦「〜〜〜〜〜〜っ!!」


 胡桃沢め、後で覚えとけよ!?
 でもお前が来てくれて助かったぜ。
 亜門と二人きりの合同任務なんて、どう接したらいいか分かんなくなりそうだったから。
 同期3人の任務なら、なんとか執行できそうだ。


 睦彦「(って、俺は胡桃沢に頼らないと同期と会話もできないのかよ……)」
 仁乃「どうしたの、むっくん。あ、そうそう、瀬戸山くんの手紙どうだった?」
 睦彦「!? なんでそのことっ」


 え、なに、エスパー?
 思わずあたふたしだした俺を見て、胡桃沢はまた笑った。


 亜門「おい胡桃沢さん、秘密だって言っただろ!」
 仁乃「そうだっけ?」
 亜門「もういい! 刻羽、もう何も言うな。絶対に何も言うな。酸素も吸うな」
 睦彦「殺す気か!!?」


 ああ、なんだろう、この平和な感じ。
 俺はこういうのを、ずっと望んでいた気がする。

 亜門がどういう結論を出して、どういう気持ちで手紙を書いたのかは分からない。
 俺のこと、少しは見直してくれたのかな?
 そうだったら嬉しいけど、きっとお前はそのことを俺に言わないよな。

 って、俺ってばあいつのことなんでも知ってる感じになってる。
 やっぱり、お前は嫌いだ。

 
 俺は亜門が嫌い。亜門は俺が嫌い。
 文章にすると救われない感じがするが、そうじゃない。

 多分、お互いの「嫌い」という気持ちの種類が、少しずつ変わり始めた。
 そんなふうに俺は感じたから、二人ににっこりと笑い返した。


 睦彦「よし、いこうぜ亜門、胡桃沢! 俺は強いからな!」
 仁乃「ふふふ、むっくんってばテンション高いね」
 亜門「安上がりでいいな」

 きっと俺たちの友情は、これがあっている。
 だから、いつまでもこのままで。決して壊れないでと、俺は心で願っていた。


 ネクスト→合同任務開始。次回もお楽しみに。