二次創作小説(紙ほか)
- Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.8 )
- 日時: 2020/08/27 16:50
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
よくよく考えてみると、睦彦って語呂合わせメッチャしやすい。
スマホとかのパスワードこれにしようかな、という下らない思想。
こくばむつひこ
↓
5986215
****************************
〈睦彦side〉
睦彦「ん〜? んんん…??」
おいおいおいおい、こりゃどういうことだ?
鴉経由で届いた手紙の文字を、俺は何度確認したことだろう。
任務へ向かう道のり、手紙を読みながら歩いていたものだから、通行人と三回もぶつかった。
だって。だってだって、送り主の名前は、あの瀬戸山亜門だったのだ。
手紙を受け取ったのは、三日前。あと3日で正月が来るという、新年間近の日だった。
いつものように藤の家でお世話になっていた俺の元に、突然一羽の鴉が飛んできた。
金剛。亜門の鴉は、そう言う名前だったはずだ。
金剛は首に結ばれた手紙をくちばしで器用に外すと、俺の前にポンと投げてよこした。
封仙『金剛先輩ジャナイスカ。ゴ無沙汰シテヤスー』
金剛『オ久シブリジャノ、封仙』
鴉たちのまるで人間かと疑うような会話を盗み聞きしながら、手紙を開いた。
そこには、たった一行、くねくね曲がってお世辞にも綺麗とは言えない字でこう書かれてあった。
「拝啓 刻羽へ。 お前は、やっぱり凄いな」
睦彦「訳が分かんねー。どういう風の吹き回しだ?」
封仙「ナンダヨ。ソンナニ手紙ヲモラッタノガ嫌ナノカ?」
睦彦「いやだって、おかしいだろ。なんであいつがいきなり、俺にこんなのをよこすんだ?」
肩に止まったバカガラス—もとい封仙の質問に答えながら、俺はあぜ道を歩く。
縦からも横からも斜めからも読んでみたが、相変わらず意味が分からない。
「凄いな」って褒めてもらうようなこと、俺はしたっけ?
亜門は、俺のことが嫌いなんじゃなかったか?
それとももう、嫌いなんて思ってないのかな?
睦彦「あぁぁ〜分からん!! こういうゴチャゴチャ考えるの、得意じゃねえんだよ俺は!!」
封仙「嘘ツケ」
睦彦「嘘じゃねえよ」
封仙「特技ガ暗算ナノ二カ? 10桁ノ暗算ダッタラ余裕デ出来ルンダロ?」
まあ、昔ヘマやって親父に怒られて、そろばんを投げつけられて。
そのそろばんを弾きながら暇をつぶすのが楽しかったのは本当。
10桁の暗算ができるのも嘘じゃないけど。
睦彦「そんなに凄いことか?」
封仙「ア、イイワ。オ前トハ多分違ウ次元ダワ俺」
睦彦「鴉の癖に生意気な」
仕方ねえ。また今度胡桃沢にあったら直行で聞いてみよう。
ん…でも、あいつのことだからまたなんかからかってきそうだな。
天然でやってるのだから、悪気はないのだけどな。
睦彦「(亜門は嫌いだけど、胡桃沢のことは別に嫌いじゃないし)」
一緒にいて、楽しいと思う。
優しいし、明るいし、こんな俺もちゃんと見てくれるし、何より人がいい。
俺より二歳も年下なのに、話していると同い年なんじゃないかと思ってしまう。
まぁ、顔も、………かわいいと、思う。
睦彦「(それって、『好き』ってことじゃ!!?)」
ある結論に辿り着き、瞬間頬に熱を感じた。
違うよな、絶対違うよな。
俺もともと異性とかに興味ないし、好きとか思わないしっ。
だから胡桃沢とはただの同期なわけで、好きとかじゃないしっ。
ぁぁぁぁぁぁもう自分でも何考えてるのか分からなくなってきた—————!!
封仙「ドウシタ睦彦。顔ガ赤イゾ。ヤラシイコト考エテタ?」
睦彦「ちげーしバッカッ!! 封仙バッカ!! ///」
案の定、勘の鋭いバカガラスが俺の頭をコツコツコツコツコツコツつついてくる。
痛いってば馬鹿。俺の頭がへこんだら責任取れよな。
そうやって、人間VS鴉の格闘(?)が路上で行われた数分後。
ペタペタと草履の音がすぐ近くで聞こえ、目の前が暗くなった。
睦彦「———」
亜門「おい」
睦彦「———?」
亜門「おい、聞いてんのか!?」
目の前に、亜門がいた。
少し髪が伸びている。ずっと会っていなかったことが分かる。
俺は亜門の爪先から頭までをそろりそろりと眺める。
彼は鬱陶しそうに首を回し、一年前と変わらない、棘のある口調で言った。
亜門「何見てんだよ」
睦彦「いや、お前に背を抜かれるとか、俺のプライドが許さないなと思って」
亜門「知らないよ。文句は自分の体に言えよチビ」
目の前に居るのはまさしく亜門だ。
俺がずっと嫌いな、瀬戸山亜門だった。
でもなんだろう、角が取れて丸くなったような気がする。
性格は、変わってないけど。
睦彦「な、なんでお前がこんなところに!?」
亜門「ああ、合同任務の知らせが来たからだよ。お前と一緒じゃ気力もわかないな」
睦彦「わかせよ、死ぬぞ!?」
あれ、なんだろう。
俺、ちゃんとこいつと会話できてる。
友達みたいなやりとりが、ちゃんとできてる!
……とは、死んでも言わないけど、俺は微かな喜びを感じた。
仁乃「久しぶり瀬戸山くん。と、!! むっくん———!!」
睦彦「うおっ!? いきなり抱き着くな!! ここ、路上!! 人前!!」
仁乃「お子様」
睦彦「〜〜〜〜〜〜っ!!」
胡桃沢め、後で覚えとけよ!?
でもお前が来てくれて助かったぜ。
亜門と二人きりの合同任務なんて、どう接したらいいか分かんなくなりそうだったから。
同期3人の任務なら、なんとか執行できそうだ。
睦彦「(って、俺は胡桃沢に頼らないと同期と会話もできないのかよ……)」
仁乃「どうしたの、むっくん。あ、そうそう、瀬戸山くんの手紙どうだった?」
睦彦「!? なんでそのことっ」
え、なに、エスパー?
思わずあたふたしだした俺を見て、胡桃沢はまた笑った。
亜門「おい胡桃沢さん、秘密だって言っただろ!」
仁乃「そうだっけ?」
亜門「もういい! 刻羽、もう何も言うな。絶対に何も言うな。酸素も吸うな」
睦彦「殺す気か!!?」
ああ、なんだろう、この平和な感じ。
俺はこういうのを、ずっと望んでいた気がする。
亜門がどういう結論を出して、どういう気持ちで手紙を書いたのかは分からない。
俺のこと、少しは見直してくれたのかな?
そうだったら嬉しいけど、きっとお前はそのことを俺に言わないよな。
って、俺ってばあいつのことなんでも知ってる感じになってる。
やっぱり、お前は嫌いだ。
俺は亜門が嫌い。亜門は俺が嫌い。
文章にすると救われない感じがするが、そうじゃない。
多分、お互いの「嫌い」という気持ちの種類が、少しずつ変わり始めた。
そんなふうに俺は感じたから、二人ににっこりと笑い返した。
睦彦「よし、いこうぜ亜門、胡桃沢! 俺は強いからな!」
仁乃「ふふふ、むっくんってばテンション高いね」
亜門「安上がりでいいな」
きっと俺たちの友情は、これがあっている。
だから、いつまでもこのままで。決して壊れないでと、俺は心で願っていた。
ネクスト→合同任務開始。次回もお楽しみに。