二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.14 )
日時: 2020/08/31 17:50
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 それでは、あにむ隊、戦闘開始します!
 健闘を祈る!!

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 鬼へと変貌した飴屋のお姉さんは、鋭い二つの瞳で俺たち三人を眺め、形の良い鼻を鳴らす。
 剣を鞘から取り出しながら、俺は警戒を解くことなく彼女を睨みつけた。

 鬼「あら、逃げられてしまったのね。相変わらず勘の鋭い人たちだわ」
 仁乃「往生しろ鬼! 四季の呼吸・弐ノ型 幽艶の風雪!!(ビシャッ)」
 鬼「私の名前は紫苑よ。名前で呼んでくれると嬉しいのだけど」


 胡桃沢が2本の短刀で切りかかる。
 小柄だからと言って彼女を舐めてはいけない。
 数メートル離れていても、胡桃沢の斬撃は敵に余裕で届くのだ。

 瞳を斬られ、紫苑は鬱陶しそうに舌打ちをした。
 そして、手の指をパチンと鳴らす。

 瞬間、彼女の血液が薔薇の形へと変形し、俺らめがけて飛んできた。


 紫苑「血鬼術・血花の舞!!」
 亜門「水の呼吸・参の型 流々舞い!!(ブンッッ)」


 一番前にいた亜門が、とっさに技を繰り出す。
 しかし、彼の剣の振りが小さいからか、はたまた相手の攻撃が早かったからか。
 薔薇の一片が、亜門の右肩に真っ赤な花を咲かせた。

 
 亜門「う゛っ!!」
 睦彦「亜門!!」
 亜門「大丈夫、ただのかすり傷だ。……厄介な術だな」
 紫苑「あら、避けられてしまったのね」


 仁乃「相手の技こそ手強いけど、十二鬼月ほどの実力はない。押し進めて行けば勝てるよ」
 睦彦「よし、俺が鬼を引き付ける。二人は隙をついて攻撃しろ」

 胡桃沢の冷静な判断を聞き、俺は二人に小声で指示する。

 亜門「自分で不意打ちはしないのかよ」
 睦彦「やれることはやれるが成功した確率は皆無だぞ」
 亜門「チッ、仕方ない。分かった、好きにしろ」


 言葉遣いこそ乱暴だが、亜門の口調は優しかった。
 心に温かいものが溜まるのを感じながら、俺は紫苑と向き合う。
 距離を詰めて来た俺を、紫苑は面白い者でもみるかのように無邪気な笑顔で歓迎した。


 紫苑「今度はあなたが相手してくれるのね。よろしく頼むわ」
 睦彦「こちらこそ、よろしくな!」


 右足を前に出し、腰を深く下げて構えを取る。
 一旦タメを作った後、光の速さで斬撃を与える光の呼吸の基本の構えだ。


 心の中で、「せー」「のっ」とカウントダウンを始める。
 そして3拍目の「えい!」という心の中のかけ声に合わせて、俺は駆け出した。



 …………つもりだった。



 女の子「お兄ちゃん!!」


 さっき、逃がしたはずの女の子が、両目に涙をためながら路地の入口に立っていた。
 小さなその両腕は震え、おでこには脂汗がにじんでいる。

 睦彦「……お前、馬鹿、なんで帰ってきた!!」
 女の子「だって…っ。だって、お兄ちゃんたちが、死んじゃうと思って……っ」


 気遣いはありがたいが、今はそれどころじゃないんだよ。
 お前がここにいたら殺される。
 そう、俺は女の子に説明しようとして……。
 

 睦彦「……はぁ…。大丈夫だから、とっと——」
 紫苑「愚かな女の子ね。それでは、遠慮なく」

 紫苑が、鋭利な爪の生えた右手を女の子に振りかざす寸前、横にいた胡桃沢が剣を振るった。
 鬼の手首が根元からざっくりと斬れる。
 白い石づくりの床に、赤いしみがやたらと映えた。

 紫苑「痛い痛い。あなた、何するの?」
 仁乃「……どうするの、むっくん」

 胡桃沢が俺に向ける視線は、真剣そのものの色をしていた。



 睦彦「おい、お前。合図をしたら全速力で逃げろ」
 女の子「……さっき、飴屋にいったの。弟、どこにもいなくて」
 睦彦「………俺の兄ちゃんも、もうどこにもいないよ」


 俺が発した言葉の温度が低かったからだろう。
 女の子は何か言おうと口を開き、俺を見上げ、すぐに口を閉じてしまった。
 そして、俺の言葉の意味を考え、なんども呑み込んで、そして。


 女の子「……わかった」
 睦彦「いい子だ。よし、行くぞ」
 紫苑「何をしようというのかしら?」


 袴のポケットに手を突っ込み、あるものを掴んで俺はニヤリと笑う。
 ポケットから取り出したのは、手榴弾のような丸い、栓のついた入れ物だった。
 俺は、その入れ物の栓についている糸を咥えると、歯で糸を引っ張って栓を抜く。


 睦彦「全員目ぇつぶっとけ—————!!(ブンッッ)」


 
 入れ物を鬼めがけてぶん投げる。
 瞬間、中に入っていた丸い小さな粒が床にあたって割れ、白い煙があたりに充満した。
 何が起こったのか分からない紫苑は、うろたえて棒立ちになってしまう。

 睦彦「今だ、行け!!!」
 女の子「うん!!!」


 掛け声に合わせて女の子の足音が遠ざかっていく。
 紫苑は慌てて女の子に手を伸ばそうとしたが、視界のせいで手が届かない。

 俺が投げたのは、先生から渡されていた、けむり玉入りの手榴弾(仮)。
 栓を抜いて相手に投げれば、けむり玉が割れて煙が発生し、数分間足止めが出来るのだ。


 紫苑「っ。あんたたち、許さないわ!! 血鬼術………」
 亜門「くだばれ! 水の呼吸・拾の型 生生流転!!(グサッッ)」


 行動を制限され、獲物に逃げられて、怒りが収まらない紫苑は術を発動させようとしたが。
 煙をうまく利用して背後に回り込んだ亜門の一撃が、彼女の首を斬っていた。


 紫苑「あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


 紫苑の悲鳴と共に、彼女の体がチリへと化した。