二次創作小説(紙ほか)
- Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.15 )
- 日時: 2020/09/01 17:13
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
さて、この話から、本当に書きたかった部分を書ける!!
作者、ファイト。
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俺のけむり玉の攻撃をきっかけに、紫苑戦が終わった。
飴屋にいなかったという女の子の弟がどうなったのかは、分からない。
ただ、生きている可能性がとても少ないことだけは言える。
失っても、失っても、いずれ立ち上がらなきゃいけない。
どんなに苦しくても、痛くても、時間は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
途中で誰かが叫んでても、泣いてても、かまわず世界は廻っていくんだ。
だからあの女の子が、今は辛くても、いずれ笑って話せるようになることを祈っている。
睦彦「はぁ。終わった………」
仁乃「お疲れ様。このあとみんな用事ある? ないなら一緒に夕飯食べに行かない?」
睦彦「いいな! 亜門は家にでも帰ってろ。俺は胡桃沢と行く」
ちょっと意地悪だったか?
でもこいつと同じ場所で、隣り合って同じものを食べると思うと複雑な気分になる。
……別に、食べたくない訳じゃないけど。
睦彦「おい亜門、ごめんってば。俺が悪かったよ、だから黙り込むなってば」
亜門「(ぐらっ)」
睦彦「お、おい、大丈夫か!? どうした?」
さっきからずっとだんまりを決め込んでいる亜門の態度に苛立って、俺は声を荒げる。
と、亜門の体が横にぐらりと傾いた。
とっさに両手で彼の体を受け止める。
亜門は、苦しそうに肩で息をして、ぐったりと俺の腕の中で目を閉じてしまった。
さっきまでは元気だったのに、どうして突然……。
睦彦「だ、大丈夫か? 熱っ! 凄い熱だ……どうしよう」
仁乃「瀬戸山くんの家の場所なら知ってる。ここからそう遠くないよ」
睦彦「分かった。案内頼む」
額に当てた手から、彼の熱が伝わってくる。
俺は亜門をおんぶすると、胡桃沢を先頭に、亜門の家に向かって歩き始めた。
『体が弱いから、医者にほどほどにしとけって言われてんだよ!』
前に確か、自分でそう言ってた気がする。
ほどほどにと念を押されるほど、身体が弱いのか。
任務に行っただけでしんどくなってしまうのか。
『世の中には、才能に恵まれてない奴もいるんだよ!』
こう言うことか。
お前がなんであんなことを叫んだのか、ちょっとわかった気がした。
理解すると同時に、心の中に去来する罪悪感。
亜門「う……うん……」
睦彦「寝とけよ、熱高いんだから。言っとくが好きでやってるわけじゃないからな」
嘘だ。今、俺は心の底から亜門をなんとかしてあげたいと思っている。
なのに口から出た言葉は正反対で、思えば俺は彼に本音を言ったことがあっただろうか?
情けない。本当に、カッコ悪い。
自分が嫌になる。嫌われても仕方ないと、そう思ってしまう。
亜門「…………刻羽」
睦彦「なんだ?」
亜門「どうしたら、お前みたいになれるのか、教えてほしい」
亜門が俺を大嫌いだといった理由はつまり。
彼は俺に憧れていたのだ。
彼にとって、俺の存在は目標でありライバルで、実力のある人に見えたから疎ましく思った。
だから、「お前は凄いな」という手紙をよこした。
だから、どうやっても俺みたいになれないことを悔やんで俺を殴った。
生まれつき弱い体でも、俺みたいになれることを願っていた。
睦彦「俺は、どうやったらお前みたいになれるのか、教えてほしい」
お前が俺になりたいと思うように、俺もお前になりたい。
俺がお前にとって大きな存在でごめん。
でも俺は、亜門みたいに丁寧に剣を振れないし、亜門みたいに体も弱くない。
お前が何を考えていたのかもっと早く分かれば、無駄な時間を使わなくて済んだのに。
もしお前と俺が同じ立場にあったら、最初から仲良くすることが出来たのかな。
それとも、人生には谷が必要だよってことで済ませれば、全部よく思えたりするのだろうか。
亜門「……お前は、僕みたいにならなくていいよ」
睦彦「じゃあ言わせてもらうけど、お前も俺みたいにならなくていい」
亜門「……ちょっと走っただけで熱が出る体なんか嫌だ」
睦彦「俺も、雑で天邪鬼で虚勢張って目立ってる性格が嫌だ」
睦彦「ああもう、話が平行線で進まねえ」
仁乃「むっくんはむっくんで、瀬戸山くんは瀬戸山くん。これで完了でしょ」
亜門「……そんな、あっさり……」
仁乃「だって、ありのままの自分って、素敵じゃない? 例えば、むっくんの不意打ち苦手なところも、瀬戸山くんの直情径行も、見方を変えれば長所になるんだから」
胡桃沢は、至極当たり前のような口調でそう言って、「ね?」とニッコリと笑った。
俺が困った時、お前の言葉にいつも救われている。
睦彦「いつもありがとな、胡桃沢」
仁乃「友達だもん。お互い様でしょ。悲しみも嬉しみも分け合わなきゃ損だよ」
睦彦「……あ、ああ、友達。友達な!」
亜門「……なんで、そんなに挙動不審なんだよ……。分かりやすい奴だな」
仁乃「ん? むっくんは友達のままの関係が嫌なの? え、ってことはむっくん、さては……」
睦彦「ち・が・う!! 揃っておちょくるのはやめろ!!」
前に、胡桃沢から亜門の話を聞いたとき、彼女はこう言った。
「瀬戸山くんは、むっくんが大好きだよ」と。
その時は、なんでそんなことを感じたのかよく分からなかったけど、今は理解できる。
だって、俺もこいつのことが好きだから。
だから、俺はニッコリ笑って、俺なりの「大好き」を伝える。
睦彦「………やっぱりお前は、嫌いだよ」
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〈有為side〉
有為「けっこう、亜門さんと上手く言ってるじゃないですか。でも……ああ、なんですね」
睦彦「ああ、亜門はもういないよ」
睦彦くんは、何度、その言葉を飲み込んで理解したんだろう。
すらすらと言葉を並べた彼をみて、ボクはつい泣きそうになってしまう。
有為「……亜門さんは、睦彦くんにとってどんな存在だったんですか?」
睦彦「お前、そりゃあ……大っ嫌いだよ。ずっとずっと、大っ嫌いな人だったよ」
そう言う彼の表情はイキイキとしていて。
彼と亜門さんの中では、「嫌い」という言葉こそがお互いを支え合うものだったんだなと思う。
睦彦「もうそろそろ、この話も終わるけど、宵宮は続きが待ちきれないみたいだな」
有為「茶化さないでください。いいところで話を終わらせるからいけないんだ」
睦彦「まあまあ。分かった。……でも、いっこだけ俺と約束な」
有為「なんでしょう?」
睦彦「俺が話してる途中にもし泣いてしまったら、からかわないでくれよ」
やっぱり、睦彦くんはずるい。
そんなに寂しそうな顔で言われたら、断るなんてできるわけないじゃないか。
有為「把握しました。涙で前が見えなくならないでくださいね」
睦彦「フラグ立てるのやめろよオイ。よし、それからの話を始めるぞ」
亜門さんの命日まで、話の中ではあと2日だ。
- Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.16 )
- 日時: 2020/09/01 17:52
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
今日は頑張って第1話完結させよう。
よし、全集中。
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亜門の熱は、あれからずっと下がらない。
俺は時間がある限り、胡桃沢と足しげく彼の家にお見舞いに行った。
そして今日も、俺は彼の家の一室で亜門と向かい合っている。
亜門「なんだよ、また来たのかよ。風邪うつっても知らないからな」
睦彦「俺今まで風邪ひいたことないんだ」
亜門「……なんとかは風邪ひかないってな」
おい、俺のことを今遠回しに馬鹿って言ったよな?
悪かったな馬鹿で。そーだよ俺は馬鹿だよ!
頭から布団を被った亜門の顔は、昨日よりも火照っていてかなりしんどそうだった。
時折ゴホゴホとせき込んだりもした。
食欲がないと言って、食事もとってないらしく、彼はだんだん痩せて来ていた。
少し触っただけでも崩れそうなほど細い腕を見て、俺は急に怖くなった。
親戚も母さんも、親父も兄ちゃんも、俺の周りの人はみんな俺を置いていく。
睦彦「………いなくなったりとか、しないよな?」
亜門「何言ってんだお前。お前に心配されるほどヤワじゃないよ」
睦彦「………だ、だよな。なんか、ごめんな」
でも、なんでだろう。さっきからずっと胸が痛いのはなんでだろう。
早く良くなってほしいと思う。
また胡桃沢を入れた三人で、一緒に仕事をしたいと思う。
できるかな?
あれ、なんで疑ってるんだ俺は。治ったらできるじゃんか。あれ、可笑しいな俺。
亜門「ごめんな、刻羽。心配かけて」
睦彦「ああいや、俺の方こそ、さっきも……その前も、お前に迷惑かけて、……ごめん」
本当はずっとずっと謝りたかった。
今までごめんって、仲良くしようって、たったその一言がどうしても言えなくて。
相手には相手の事情があって、自分がどうこうできるわけじゃないけど。
俺も自分勝手な理由で相手を傷つけてごめんって、ずっと伝えたかった。
ああ、やっと……。
一年もかかってしまうなんて、ほんとうに馬鹿だな、俺って。
亜門「……僕もごめん。いきなり殴って。痛かっただろ? ……本当に悪かったよ」
睦彦「ああ、すげー痛かったよ」
亜門「……やっぱり」
睦彦「だから、殴ってくれてありがとう」
俺がお礼を言うとは思ってなかったのだろう。
亜門がびっくりしたように顔を上げ、俺の顔をまじまじと見つめた。
睦彦「だって、実際あのことがなければ、俺は一生お前と話さなかったと思うし」
亜門「……ほんと、お前は嫌いだ」
睦彦「知ってる」
目をそらしてそう呟く。
と、不意に肩に重い感触を感じる。
慌てて顔を上げると、布団から這い上がった亜門が、俺の背中に腕を回していた。
睦彦「おい、離れろよ。ちょっと、恥ずかしいんだけど」
亜門「………っ」
睦彦「ああもう、ほんとーに仕方ないなぁ!」
何泣いてんだよ、馬鹿。
めんどくさそうにそういうと、俺は亜門の長い髪に手を伸ばす。
癖のないその髪を手で梳き、優しく彼の頭をなでる。
睦彦「おーきなおやまのこうさぎは〜。なーぜにお目目が赤うござるー♪」
亜門「音痴」
睦彦「うるさい。 おやまのー木の実を食べたとてー♪ そーれでお目目が赤うござるー♪」
小さいころ、この子守唄を歌いながら、母さんは俺をあやしていたらしい。
俺は男だし、腕の中のこいつは赤ん坊でもなんでもないけど、この歌を歌おう。
睦彦「ごめんな、亜門。そして、ありがとな。好きだよ」
亜門「馬鹿やろ……僕も、本当は、お前の事、ずっと………っ」
睦彦「知ってるよ」
大きなお山の子ウサギより、目をはらした亜門が俺の背中に回した腕にさらに力を籠める。
あったかいなと、ただそれだけを思った。
俺は彼が泣き終わるまで、ずっと彼の頭をなで続けていた。
泣き止むと、亜門は少し笑った。
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睦彦「じゃあ、そろそろ帰る。風邪、ちゃんと治せよ」
亜門「ふん」
和室のふすまに手をかけて振り返る。
亜門は布団の中に入ったまま、視線も合わせずに鼻を鳴らした。
可愛げのない奴だ。
まあそれが、この瀬戸山亜門という人間なのだけど。
俺たちは、ちゃんと友達になれただろうか。
少し遠回りをしすぎたけれど、行きつくべき場所に辿り着けただろうか。
それともまだ、道の途中なのかな。
それでもいい。また、ゆっくりと進めばいい。
また、今度会った時に、笑って話しかけよう。
亜門「刻羽。ありがと」
部屋から出る寸前、布団の中から聞こえた彼の言葉を反芻する。
今日に限って「またな」がなかった理由を、俺はここで分かったら良かったのだろうか。
分かったとして、その理由が正しいのかと、俺はちゃんと彼に聞けただろうか。
睦彦「じゃあな、亜門。また明日」
また明日。
この言葉を聞いたとき、亜門は何を感じたんだろう。
今日、彼が生きててくれる。
それだけで、明日もきっと生きててくれると思ってしまうのは悪いことなのだろうか。
明日、彼が生きている確証は、どこにもないのに。