二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.22 )
日時: 2020/09/04 17:58
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 わーいわーい、運動会練習だやったー。…とはしゃげないタイプの作者です。
 いいのよ、足が遅くても。人間だもの。

 **************


 〈寧々side〉


 寧々「………………ど、どうしよう……!?」
 光「…………せ、先輩……どうしましょう……」

 私たちが今いるのは闇だけが支配する、広い階段の踊り場。
 目の前にまっすぐ、段の幅が狭い階段がずっと上まで続いている。
 
 普通、階段で下の階へ行くには、階段をただ降りればいい話なんだけど。
 私は一時間もこの踊り場から動けない。

 これにはちゃんと、理由があって、その理由のせいで右往左往しているのよね。


 寧々「よし、もう一回……!」


 私は気合を入れなおすと、階段の一段目に足を踏み出した。
 そのまま、目をつぶっていっきに二段目、三段目と上へあがっていく。
 さぁ、今度はちゃんと上へ…………。



 行けなかった。



 どういうわけか、上へ上へ登っていたのに、私の足は再び踊り場をしっかり踏みしめていた。
 これが「無限階段」。
 階段の中のに閉じ込められて、永遠に階段を登ることが出来ない怪異現象。


 なぜ、こんなことになってしまったのか、時間を巻き戻してもう一回考えてみよう。
 私は記憶をさかのぼらせて、回想を始めた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−


 花子くんに「午後は大正時代!」と叫んで、私は七峰先輩のいる放送室へ向かおうとした。
 放送室へ行くには、一階の階段を駆け上がって、理科室前のA階段を登らなければいけない。
 
 西側にあるA階段の反対側にあるのが、かもめ学園七不思議2番で有名のB階段。
 あのときは、巨大なハサミに追いかけられたり、光くんが人形になったり。
 そのあとに………は、恥ずかしいので話はまた今度…。


 えーっとそれで、私は鼻歌まじりにA階段を登ってたのよね。


 寧々「♪しっあわっせはー! あるいてこーない だーからあっるいっていっくんだねー!」


 ※参照「365日のマーチ」


 最後の1段を登ろうとしたとき、不意に上の方からカンカンと靴音が聞こえて来たの。
 先生……ではない。
 だって先生は、いつもスリッパや上履きを履いているもの。

 生徒にしても、学校指定の上履きを履くし。
 靴ってことは土足? 先生たちに見つかるのも構わない人がいるのね、なんて思って。




 —ー私は「そのヒト」と、ばったり視線を合わせてしまった。



 そのコは、私と同じかちょっと下。中学3年生くらいの身長の子だった。
 一言で言い表すなら、古風。
 今時どこを見ても、こんな格好をした人はきっといないだろう。

 白いシャツに、真っ赤な肩ひも付きのスカート。
 髪型はおかっぱで、手も足も異様に白い。


 そう、典型的な「トイレの花子さん」そっくりの外見を、その女の子はしていたのだ。
 私は思わず一歩後ずさりをする。

 
 寧々「(え、っと……これってどういう……)」
 女の子「ねぇ」

 女の子は、私と反対にサラッと距離を詰めてきて、話しかけて来た。
 くりくりした瞳が特徴の、可愛い女の子だった。
 でも、彼女と対面した私は、ゾッと背中に悪寒が走った。

 寧々「え、えっと、何か、用、ですか?」
 女の子「ねえ、私のお願いを、聞いて欲しいの。いい?」
 寧々「お、お願い……って」


 私の返事を肯定だと思ったのか、女の子が満足そうに喉を鳴らす。
 女の子は右手の人差し指を口元に当てて、にやりと—そう、にやりと笑った。


 女の子「あなたに、今から死んでもらいたいの」


 ————え?
 
 
 何を言われたのか、分からなかった。
 この子は何を言っているのだろうか。
 私が目を見開くと、その態度が気に入らなかったのか、女の子の双眸が猫のように細くなる。


 女の子「私の頼みごとを聞けないの?」
 寧々「…………きっ、聞けるわけないじゃないッ」

 やっとのことで、私はそう言った。
 恐怖で目じりに涙がたまり、足がすくむ。
 

(お願い、誰か助けに来て。お願いっ!)



 女の子「お話を聞く気がない人には、刑を受けてもらわなきゃいけないね」
 寧々「…………え!?」



 女の子は、またにやりと笑った。



 瞬間、両足の下の地面がくずれた。悲鳴も何も出ない。
 助けて!と、誰かがその手を掴んでくれることを期待して右手を宙へ浮かせたけれど。
 私の体は、深淵の闇にのまれて消えて行った。




 −−−−−−−−−−−−−−−−



 寧々「…………ん? な、なんで光くんまでここにいるのっ?」
 光「え、今ですか!?」


 今更の質問に、光くんが鋭く突っ込む。
 なにはともあれ、一人きりじゃなくてよかった。
 何も見えない暗闇で、知っている人と一緒にいられることが何よりも嬉しかった。


 光「俺は、先輩が誘って下さった後、いつも通りトイレに行こうとして、それで—」
 寧々「まさか、A階段を登ったの?」
 光「はい、先輩も? んで、赤いスカートの女の子が、『あなたに死んでほしい』って言って」


 なんなんだろう、あの女の子。
 対面しただけであの威圧感、きっとただの、学園に迷い込んできた幽霊とかではないわよね。

 そう言えば前に葵がこんなことを言ってた。


 葵『そうそう、こんな噂知ってる? 最近流行ってる噂でね』


 理科室前のA怪談に現れる花子さんの命令には、絶対に逆らったらいけません。
 もし、逆らってしまえば、階段の中に永遠に閉じ込められてしまう。
 そう言う噂だった気がする。


 じゃあ、あの女の子の正体は………。

 寧々「あれ、でも『階段』に現れる『花子さん』って話なら、色々と被りすぎじゃないかしら」
 光「先輩も、そう思いました? 実は俺も、ちょっと気になってたんすよね」


 私も詳しくは知らないけれど、確か何年か前、青森県の恐山で会議が開かれたんだっけ。
 そこで、「学校の怪談9つの決まり」なるものが作られて。
 確かその中で、「学校に同じ系統の怪談があってはならない」って決められたんじゃ……。


 そ、そんなことより、とにかく今はここから脱出する方法を考えなきゃ!
 約束の時間も迫ってるし、こんなところで足止めされるわけにはいかないわ。


 でも、階段を登ったら踊り場に戻されちゃうし、光くんの錫杖は攻撃力がないし……。
 これ、私たち、脱出できないんじゃ!?


 寧々「助けて、花子くん!!」
 光「花子ぉ——————!! ここから出してくれ—————!!」


 花子くんは、困った時、いつも私を助けに来てくれる。
 だから今日も、きっと、来てくれると信じてる。
 

 だって花子くんは、私の友達なんだから。

 
 



 
 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.23 )
日時: 2020/09/05 21:25
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 〈再び、寧々side〉

 
 寧々「…………花子くん、来てくれるかしら……」
 光「きっと、来てくれると思いますよ!」
 寧々「そうよね。早く、助けに来てくれるといいな(無意識に右手を床に)」


 

  ぎゅっ




  ふと、床に降ろした右手に柔らかい感触を感じる。




 寧々「…………ん?」
 夏彦「やあ、寧々ちゃん☆」
 寧々「な、なななな、な、夏彦先輩ッ!? ど、どうしてここにッ!?」


 夏彦「うーん。……愛の試練?」
 寧々「いいや、全然違うと思います……」


 私の横には、チャラ男こと日向夏彦先輩が、座っていた。
 どこにでもいるな、この人。

 どういう理由で彼がここにいるのか分からないけど、多分私たちとおんなじ理由よね。
 も、もしかして先輩、ずっと横にいたのかしら!?
 暗闇に溶け込んで見えなかったけど!!


 ただ、先輩に大変失礼だけど、あえて言わせてもらうならば……。
 夏彦先輩がいたところで、この状況に変わりはないってこと。


 寧々「えーっと、七峰先輩とか、心配してませんか? 一時間は経ってると思いますけど」
 夏彦「うーん、お嬢は俺のこと空気だと思ってるから、多分ダイジョブ」
 光「そんな理由で済ませていいんですか?」


 夏彦先輩が来て、何が変わったかと言えば、雰囲気かしら。
 永遠と続く闇にとらわれて、不安だった心がすっと軽くなる。


 夏彦「うーん、取りあえず助けが来るまで、じゃんけんでもする?」
 光「なんて能天気な……」


 そう、光くんが呆れて呟いたときだった。



 〜ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん〜


 あれ、この効果音、どっかで聞いたような。
 そう、私が首を傾げた直後、後ろで「ドサッッッ」という大きな音が響く。


 寧・光・夏「!?(振り向いて)」
 有為「いたたたたたたた………あ、寧々さん、お久しぶりです」
 寧々「有為ちゃん!?」


 炭治郎「いたッ。禰豆子、怪我はないか?」
 禰豆子「ムームー!!」
 伊之助「おいどこだここはァ! 勝負ゥ! 勝負ゥ!!」


 睦彦「…えらく広い所に出たが、真っ暗で何にも見えないな」
 仁乃「そうだね。ここはどこなんだろう」


 なんと、どこからともなく、かまぼこ隊が無限階段のこの場所に落ちてきちゃった!
 嬉しいのやら、悲しいのやら、どっちともつかない複雑な心境。


 炭治郎「えーっと、寧々ちゃん。ここはどこなんだ? 何でこんなところに?」
 寧々「えっと……(ピーチクパーチクチュンチュンチュン)」


 説明をすると、みんなの表情が次第に険しくなった。
 そう、夏彦先輩と同様、みんなが来てくれて凄く安心したのだけど、状況が状況だけに。
 人が増えても、何もできない。つまり、数は力なりというより、烏合の衆なのよね……。


 有為「なるほど……」
 睦彦「っていうか、宵宮おまえな、もうちょっと転移の場所コントロールできないのかよ!」
 善逸「それね!! 有為ちゃんのドジは可愛いけどちょっと迷惑なの分かる!?」

 有為「………すみません……(しゅん)」
 善・睦「あぁあぁ、可愛いなぁ馬鹿!!」


 あ、そうだ! 
 有為ちゃんは陰陽師だから、この手の話に詳しそう。
 何か分かることも、あるんじゃ………。


 有為「期待されているところ悪いけど、ボクは何も分からないよ」



 なかったぁぁぁぁぁぁ!!


 流石に現代の怪異とかは知らないわよね、だって大正時代生まれだもの、そりゃそうよ。
 ありがとう有為ちゃんゴメンね、ドン( ゜д゜)マイ!


 
 有為「でも、この場所からはとても大きい怨念が感じられます」
 伊之助「怨念? なんじゃそりゃ」
 有為「人の、負の恨みですね。これが増えると、良くないことを引き起こします」


 炭治郎「なるほど……その、トイレの花子さんの仕業、なんだよな」
 夏彦「まあ、そうなるかな。あれは怨霊と見て間違いないかもね」

 
 寧々「ん? あの、今回の件は放送室メンバーの仕業じゃないんですか?」
 光「そ、そうそう、俺もそれが気になってたんすよ」
 夏彦「悪いけど、俺らは何の関与もしてないよ」


 え!? 私はてっきり、つかさくんの仕業かと睨んでたのに、違った?
 ってことは、あの女の子は自ら好んで、私たちに危害を与えようとしているってこと!?


 寧々「そ、そんな相手に、花子くんが勝てるのかしら……」
 善逸「気が滅入ること言わないでよ、ねぇ!」


 睦彦「まあ取りあえず、今はアイツに頼るしかなさそうだ。信じて待とうぜ」
 仁乃「そうだね。最期にハッピーエンドで終われることを願おう」


 さすが、こんな状況でも睦彦くん、頼りになるなぁ。
 やっぱり、いつも鬼と戦っているかまぼこ隊は覚悟が違うわね!
 

 (夏彦「寧々ちゃん今俺見た?」)



 寧々「よし、みんな待ちましょう。花子くんが助けに来てくれることを願って!」
 一同「うん!!」



 夏彦「じゃあ、七番が来るまでじゃんけんでもしとこっか」


 至極当たり前とでもいうような様子で、夏彦先輩がのんびりと言った。
 そして、何もない空間でひたすら、私たちは永遠とじゃんけんをし続ける羽目になったのでした。
 

 
 

Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.24 )
日時: 2020/09/07 19:09
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

〜赤根葵によるこれまでのお話〜

 陰陽師・宵宮有為ちゃんとの約束で大正時代に行く予定だった花子隊。
 しかし、寧々ちゃんと光くん(と夏彦先輩)が噂の無限階段につかまってしまう!?
 花子くんは慌てて、二人を探しに行ったけれど、果たしてどうなるのか。


 ****************************


 〈花子side〉


 俺は、高等部2階、理科室前のA階段の前へやってきた。
 あの噂が本当なら、少年とヤシロはきっと今頃、無限階段にとらわれている。
 早く助けないと!


 よし、と決意を固めて、俺は階段に一歩足を踏みだした。
 そのとたん。



 バチィィィィィィィィィィィィィ!!!



 花子「!?」


 俺の体は階段からはじき出され、数メートル先の廊下に吹っ飛ばされた。
 目には見えない壁みたいなものがあって、階段へ行くことが出来ないのだ。
 結界、ってやつだろうか。


 花子「まじか……。これじゃあどうすれば………」
 ??「あら、来たのね」


 不意に、涼やかな声音が聞こえ、顔を上げる。
 A階段の踊り場に、一人の少女が立っていた。

 おかっぱ髪に赤いスカート。
 ………やっと、おでましか。俺は彼女を睨み返す。


 花子「俺の助手たちを返してほしいんだ。勝手なことをされては困るんだけどね」
 女の子「あら、同じ七不思議同士なのに、私と敵対したいの?」


 ………は?
 七不思議同士だって? 俺と君が? なんで?
 だって、お前はこの学園に迷い込んできた霊じゃないのか?


 女の子「学園に隠された七不思議8番目を知ると、不幸が訪れる。そんなことも知らないの?」
 花子「じゃあ、まさか君は」
 女の子「ええ」


 女の子は薄く微笑むと、胸の前に手を当てて堂々と言い張った。
 ただ、その口調からは感情が感じられない。


 女の子「七不思議が8番目、『無限階段』の八雲よ。よろしくね、七番」
 花子「? 花子ではないのか」
 女の子「あら、あなただって本名は花子ではないでしょう? まあそれはいいとして」


 女の子—もとい八雲は、おかっぱ髪を揺らすとその場で一回転した。
 無邪気な相貌が、猫のように細くなる。


 八雲「なぜ、七不思議8番が公に知られてないのか、貴方は知ってる?」
 花子「いや、全く」
 八雲「あら、リーダーなのに」


 ちょくちょく、八雲の悪意のないひとことがグサッと刺さる。



 八雲「学校の怪談9つの決まり、第四条。『学校に同じ系統の怪異があってはならない』」
 花子「つまり、ミサキ階段や俺がいるせいで、姿を現せなかったってこと?」
 八雲「ご名答」


 八雲は嬉しそうに手を叩いた。
 会話でのやりとりでは、特に危険な感じはしない。
 でも彼女は確かにヤシロたちを階段に閉じ込めた。

 やっぱり、放送室メンバーが関与しているのだろうか。


 花子「ん? じゃあなんでキミは、今ここにいるんだ」
 八雲「愚問ね。そのまんまの意味で、私を縛る対象がいなくなったからよ」
 花子「———まさか」


 俺がゴクリと息を飲むのと同時に、八雲はニヤリと笑って、背中に隠していたものを見せる。
 その掌の中には、擦傷をいくつも負い、ぐったり倒れている狐がいた。


 花子「2番!!」
 ヤコ「う゛………ッ」
 花子「お前、なんてことを!!」


 いや、この場合、事態を引き起こした放送室メンバーが悪いのか?
 でも今はそんなことどうでもいい。
 俺は白状代を八雲めがけて投げつけようとし………。



 八雲は、ふらっと姿を消した。
 その反動で、掌の2番が投げ出されて俺の横にボンッと落ちてくる。


 花子「2番!! 大丈夫!? ど、どうしよう誰か人ッ」
 ヤコ「う…ん」

 今は2番をどこか安全な所へ!
 誰か頼れる人……。
 

 1番は……だめだ、あの赤髪の少年はもう帰宅しているだろうし、
 3番は、うーん……。
 4番はあからさまに俺を嫌っているし。

 そうだ、土籠!
 あ、今は職員会議中だっけ……。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
 誰か、誰かいないの?



 ……………いる。
 でも、彼らが協力してくれるだろうか。
 いや、今は迷っていられない!



 花子「2番! もうちょっと辛抱して!」


 俺は2番を腕に抱えて、廊下をまっすぐに走る。
 ヤシロ、少年、もうちょっと待ってて!



 向かうは、高等部2階の放送室。
 放送室メンバーの元へ、俺は向かった。