二次創作小説(紙ほか)
- Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.41 )
- 日時: 2020/09/22 16:14
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
こんにちは!
スマホの充電が残り1%のむうです!
今日は頑張って勉強終わらせました! 頑張った、えらいぞ。
続き行きまぁぁぁぁぁぁぁぁぁす(喉枯れそう)
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〈炭治郎side〉
————————これが、八雲の、依り代………………?
八雲の制服のポケットから落ちた桃色の手帳。
その表紙のど真ん中に貼られた正方形の札を見て、俺たちは思わず顔を見合わせる。
炭治郎「どうする? 中、見てみるか?」
寧々「花子くんは壊せばいいって言ってたわ。依り代を壊すには、その札を取ればいいの」
伊之助「じゃあ取ろうぜ早く! 俺がやる!」
普「だ、ダメだよっ!」
伊之助が、俺の手から手帳を取ろうと身を乗り出す。
と、その横にいた普くんが、声高に叫んで伊之助の腕を掴んだ。
伊之助「テメッ、離せ!」
普「よ、よくわかんないけど……月原さんの日記に貼られてるのを、取るのはダメだと思う」
となると、この日記の中身を見て、八雲が何を感じていたか調べる他にはないのか。
でも、日記というのは人のプライベートのものだ。
こんな簡単に、人の持ち物を見てもいいのだろうか。
司「ねえ、開こうよ」
普「つかさ……」
光「なんで、開くんすか? これは、その、八雲の持ちもんだろ?」
話に割って入った司くんに、光くんが鋭く突っ込む。
八雲と当時仲が良かった二人なら、真っ先に反対するはずだと思ったのだろう。
その言葉を受けて、司くんは何ともないような感じで、ポツリと呟いた。
司「ツキハラって、嘘つくのがうまいんだ」
睦彦「………嘘?」
司「うん。いっつも俺と普にはニコニコ笑ってるけどさ。裏で多分、泣いてるハズ」
確かに、無限階段で会った八雲も、昔の八雲も、心からの笑顔は見せなかった。
にっこりと笑ってるようで、裏で怒っているような、そんな複雑な表情を見せて来たのだ。
司「だから、俺は開いていいと思う。ツキハラに元気になってほしいもん」
夏彦「なるほどね。じゃあ、どうする、開けちゃう?」
禰豆子「ムームー!(開けよう!)」
炭治郎「よし、じゃあ、開けるってことでいいな。行くぞ」
この中に、八雲の嘘も、日常で感じたことも、戸惑いも嬉しみも全部、詰まっているんだ。
ページをめくる指先に力がこもる。胸を圧迫されたように、息が苦しくなる。
ゆっくりと開いたノートの一ページ目。
そこには、罫線に沿って、丁寧なシャーペンの文字が綴られていた。
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1978年 4月12日 月曜日
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今日は中等部の入学式! 初めての中学校生活、精一杯頑張りたい!
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新しいエミちゃんやユキちゃんっていう友達が出来た。やった!
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1978年 10月30日 水曜日
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今日は家族でピクニックに行った。山の紅葉がとても綺麗だった。
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楽しかったから、また行きたい。次は友達も誘って。
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ぱらぱらと、ページをめくっていく。
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1979年 8月16日
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幸って字の線を一本取ると辛さになるのはわざとなのかな。
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お父さんが家を出て行った。
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寧々「………八雲、お父さんが離婚したのね……」
善逸「次、めくろうか」
睦彦「おう。行くぞ」
1979年 12月24日
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クリスマスは、一人で過ごす。
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友達も私の周りからドンドンいなくなってしまった。友達って難しい。
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窓の外から綺麗な月が見えた。
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前に人類が初めて月に行った日、お父さんと一緒にあそこに行くって決めてたのに。
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その後から、八雲のノートには悲しい思い出の記述が多く見られるようになった。
友達が一人もいなくなった、とか。
席替えや進級が、学校の中で一番嫌いだ、とか。
家に帰りたくない、とか。HRの時間が苦痛だ、とか。夜はいつも泣いてる、とか。
そう言う記述の後に「大丈夫、明日は必ずいい日になる」と、決まって付けたされていた。
その一文が、彼女にとってどんなものだったのか、俺たちには分からない。
そして、ノートの中間部分に差し掛かった時、俺たちは揃って息をのんだ。
ノートの見開きいっぱいに、さっきまでとは打って変わった殴り書きの文字。
怒りに任せて、高い筆圧で書かれた大きな文字の羅列が、6ページに渡って、書かれてあった。
そこに書いてあったのは。
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世界が嫌い人生が嫌い学校が嫌い生きるのが嫌い走るのが嫌い勉強が嫌い
先生が嫌いお母さんが嫌いお父さんが嫌いクラスメートが嫌い景色が嫌い
明日が嫌い今日が嫌い未来が嫌い過去が嫌い
午前も午後もチャイムもラブソングもテレビもゲームも何もかも嫌い
普くんが大嫌い 弟くんも大嫌い 皆嫌い 自分が一番嫌い
助けて殺して泣かせて笑わせて抱きしめて愛して欲して叫ばせて愛させて愛されたい
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そんな、ストーリー性の欠片もない、胸からこみあげる感情をそのまま綴ったような文章。
八雲をこのままにしていてはダメだ。
こんな、目に映る全てのものを嫌いになっちゃダメだ。何とかしなくちゃ。
でも、昔の八雲がとった方法は、恐らく自分を一番苦しめている。
そして彼女はどこにも行かずに、七不思議8番としてこの世に存在し続けている。
彼女を、救わなきゃ。この世界から連れ出して、温かい光の元へ。
仁乃「八雲、あなたがどんなに世界が嫌いだったとしても、」
仁乃ちゃんが八雲の手帳をそっと胸に抱きよせる。
そして、その古ぼけた手帳の表紙に貼られてある、正方形の札に手を伸ばす。
———あなたが、どんなに世界が嫌いだったとしても。
きっとどこかで、明るい青空が広がっている。きっとどこかで、バラードが流れているはず。
素敵な映画や、可愛い花や、誰かの笑い声が、どんなに不条理な世界でもきっと、存在するはず。
きっとどこかで、誰かが貴方を呼んでいる。
貴方という存在がいなくなって、悲しんでいる人が、きっといる。
だから、そんなこと、言わないで。
仁乃「八雲、またあとで、私と一緒に大正時代に行こう。約束だよ」
ベリッ ピキッッッ
この世界に亀裂が生じる。その亀裂の隙間から、温かい光が漏れていた。
きっと俺たちは、向こうでまた、出会うだろう。
- Re: ろくきせ恋愛手帖【短編集】 ( No.42 )
- 日時: 2020/11/04 07:27
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈花子side〉
八雲の体から発生した黒い靄に、もう頭まで呑まれてしまった。
息が出来なくて、助けを求めようと必死に手を伸ばすけれど、掴んでくれる人はいない。
次第に視界が狭くなってきて、自分の悲鳴が誰の声なのかもわからなくなってくる。
そんな中、不意に、無限階段の領域に無数の亀裂が走った。
それと同時に、俺とつかさに絡まっていた黒い靄が、シュウッと消滅する。
花子「…………ゲホゲホッ ゲホッッ」
つかさ「普! 大丈夫?」
花子「………う、うん」
つかさの手を借りて起き上がる。
周囲を見渡すと、領域のヒビの隙間から、夕焼けの暖かい光が差し込むのが見えた。
その光の眩しさに思わず目を細める。
花子「………ヤシロたち、依り代を壊したんだ」
八雲「っ!?」
花子「8番、だからキミはもう七不思議じゃなくなった」
噛んで含めるように静かに俺は言う。
そして、今にも崩れそうな階段の壁に寄りかかっている八雲の腕を掴んで引き寄せた。
びっくりした表情で固まる彼女の瞳を、俺はまっすぐに見つめる。
自分の気持ちを相手に伝えるには、相手の目をしっかり見なくちゃいけない。
花子「八雲、ごめん!!」
八雲「………………え?」
花子「八雲—いや、月原さんが、どれだけ悲しんで、どんな思いでこの世を去って……」
花子「それが早く分かれば、悲しませずに済んだのに……っ。本当に、ごめん」
つかさ「普………」
八雲は何も言わなかった。
もっと、悲しんだり怒ったりするのもだと覚悟していたけれど、そんなことは起こらなかった。
ただ、俺が彼女にしたように、彼女もまた俺の目をしっかりと見つめた。
八雲「60年、ずっと待ってた」
花子「うん」
八雲「——柚木くんは、私がいなくても、楽しくやっていけてたね」
八雲「…………私の事も忘れて……、今の今まで楽しそうに、暮らしてたじゃない……」
花子「…………うん。でも、さっき、思い出したんだよ」
八雲「遅いのよ!! …………遅いよ………」
八雲の声は、崩れ落ちそうなくらいに儚く、震えていた。
この時、俺は彼女が、七不思議ではなく一人の少女として視界に映った。
ずっと一人で、思い出してほしい人にも忘れられて、どこにも行かないままこの階段で。
———そんな少女に、俺はなにができるだろうか。
つかさ「ツキハラ、………俺のこと、覚えてる?」
八雲「もちろん」
つかさ「……ツキハラは、嘘をつくのがうまいね」
いつも明るいつかさの声は、今はひどく沈んでいた。
それは俺に久しぶりに会ったときのような、裏になにか含んでいるような感じではなく。
ただ、心の底からの寂しさが漂っていた。
つかさ「…なんで、俺たちに言わなかったの? 辛いコトも苦しいコトも全部隠してさ」
八雲「あなたには分からないじゃないっ!!」
つかさ「分かるよ!! 何か隠してるのはずっと分かってた!! でも何かが分かんなかった!」
誰だって、自分のことを打ち明けるのには勇気がいる。
嫌われてしまうんじゃないかとか、迷惑じゃないかとか。
そう言う考えにとらわれて、結局言い出せずに、一人で苦しんで。
花子「ねえ八雲! 一緒に行こう!! このあと一緒に大正時代へ行こう!!」
八雲「………なんで」
花子「友達っぽいこと、一緒にやりたい!!」
気づけば俺は叫びだしていた。
ヤシロは前に、もっけの事件の後ベランダで、俺に向かって微笑みながら、こう言ってくれた。
『花子くんって呼ぶね。そのほうが友達っぽいでしょ?』って。
八雲とまた、一緒に笑いたい。一緒に泣いて、一緒に馬鹿話をして、楽しいことをしたい。
もうお互い死んでしまったけれど、またあの時のように、またあの時間を一から作りたい。
どんなにキミが苦しんで、陰で泣いていたとしても、光の元へ連れ出したい。
花子「だから、一緒に行こう!!」
つかさ「竈門も我妻も、禰豆子も嘴平も刻羽も胡桃沢も、やさしーから大丈夫!!」
花子「ほら!!」
できるだけニッコリ笑って、手のひらを八雲にそっと差し出す。
泣いちゃダメだ。目の前の少女がこんなに悲しそうな顔なのに、俺が泣いたら更に泣き出す。
だから、口角を上げて、こっちはニッコリ笑ってないとダメなんだ。
おっかなびっくり俺の手のひらに自分の指を絡ませた八雲は、そのまま俺の腕を掴んで。
さっき俺がやった時のように、俺をぐいっと手元に引き寄せた。
力に押されて、彼女の胸に飛び込んだ感じになってしまう。
慌てて距離を取ろうとした俺を逃がすまいと、8番の怪異は駆け寄ってギュッと抱き着いた。
花子「………え? あ、あの、8番さん?」
つかさ「ほぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜! 普にモテ期がぁぁぁぁぁ!」
花子「ちょ、つかさ!」
ヤシロにこんなところ見られたらなんて言われるか。
八雲「ごめん……柚木くん、許して゛………っ」
花子「なんで謝るの?」
八雲「……………それは………っ」
花子「ハァ——————ッッ」
俺は八雲の両肩を掴んで自分から引きはがす。
そして、泣きっ面の彼女のおでこに自分の人差し指を突きつける。
花子「だから言ったよねぇ? 俺の助手に何かしたら許さないって。この、おばーかさん」
八雲「………ぷっ。あははははははははw」
何が面白かったのか分からないけど、うつむき加減だった八雲の表情にパッと花が咲いた。
そんな彼女の細い腕を、俺は掴んで階段を駆け下りる。
その後ろをつかさが慌ててついてきた。
下の階では竈門たちの、にぎやかな声が迎えてくれる。
睦彦「おせーぞ花子! さっさとこっちへ来い!」
伊之助「なにボーッとしてんだ!」
善逸「あがッッ、可愛い女の子の手首なんか掴んで何する気!? 許さん!!」
炭治郎「どう、有為ちゃん。少し遅くなったけど、大正時代へ転移できるかな」
仁乃「今日は賑やかになるね。あ、茜くんと葵ちゃん、どうしよう……!?」
有為「大丈夫ですよ。もう先に、向こうに送り届けてありますから」
一同「さっすが有為ちゃん! よし、みんな行こう!!」
——こんな噂、知ってますか?
美術室前のA階段、その向かい側にある理科室前のB階段。
そこに現れる花子さんは、七不思議7番「トイレの花子さん」の昔のクラスメートで。
少し秘密主義で、不思議なところがある、寂しがりやな女の子です。
彼女の呼び出し方は簡単。
B階段を通るとき、おかっぱ髪の女の子に会ったらこう言いましょう。
「一緒に遊ぼう」と。
そうすれば花子さんはきっと答えてくれますよ。
【第2話「踊り場の花子」END】
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これにて第2話無事完結!
不思議で悲しい、花子くんの世界観にあってたら嬉しいです!
また、普くんと昔の司くんも登場できてよかったです。
次は東方キャラも登場のキメツ学園になります。お楽しみに♪