二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.81 )
日時: 2020/12/30 17:08
名前: むう (ID: mkn9uRs/)


 
 ボクは自分が嫌いだった。
 今もどこかで人と自分を比べ、自分の無力さに打ちひしがれている。
 でも、あのときの自分は今以上に惨めな気持ちで。


 ―ボクは陰陽師の家系だ。

 陰陽師というのは、鬼殺隊と同じく政府非公認の職業で、地方で鬼殺隊に代わり鬼を狩る仕事。
 ボクの家である宵宮家は、陰陽師の御三家と呼ばれ、数ある陰陽師の家系の筆頭に立っていた。

 そんな陰陽師には何かと決まりが多い。
 その中でも特に重視されたのが、『忌子』というものだった。

 普通陰陽師になれるのは男だけであり、陰陽師という職業では男が絶対優位。
 よって、女が一人でも生まれれば忌むべき子供として、すぐに処分されることになっていた。


 しかしボクは生かされた。
 早くに病死してしまった両親の代わりに世話をしてくれた茂吉お兄ちゃん。

『家の決まりより妹が何倍も大事だ』

 と、何十年も守られてきたルールを破り、ボクを活かしておいてくれたのだ。


 でも。
そんなお兄ちゃんたちに、同じ陰陽師の人々はいい印象を抱かなかった。


『なんてことを。あの少女は忌子だというのに』
『これだから宵宮家は』


 と口々に暴言を吐き、石を投げつけ、非難を浴びかけた。
 小さい時のボクも、親戚一同から罵声を投げかけられた。


 ずっと我慢していたけれどとうとう耐えられなくなり、ある日お兄ちゃんにすがりつき言った。


 有為「なんでお兄ちゃんは、ういをころさなかったの?」
 茂吉「……」
 有為「かおもあわせてもらえない。おはようさえ言ってもらえない」
 十郎「有為、人の事を気にしなくてもいいんだよ。俺は有為が生きていることが嬉しいんだ」


 有為「なんで、おんみょうじは女の人を殺すの? 鬼も人間も殺すの?」
 茂吉「なんでだろうね」


 茂吉お兄ちゃんは困ったように笑って、そっとボクの頭をなでてくれた。
 十郎お兄ちゃんはいつも、ボクの両手をそっと握ってくれた。


 十郎「大丈夫、これから何があっても、お兄ちゃんだけは有為の味方だ」
 有為「みんながわたしを嫌いなのに?」
 茂吉「お兄ちゃんは、絶対有為を嫌ったりしないよ」


 その言葉だけが、子供の頃唯一信じられる言葉であり救いだった。

 ボクは忌子だ。
 生きていてはいけない人間だ。

 なんで自分が生かされたんだろう。
 なんでお兄ちゃんたちは、こんな自分を嫌ったりしないんだろう。


 陰陽師というのは、鬼も人間も殺してしまうのか。
 なんで、家のルールが絶対で、人の命なんて、何とも思ってないのか。

 お母さんも、おばあちゃんも、なぜ子供を産んだらすぐに死んでしまうのか。
 忌子ってなに?
 女に生まれたから、陰陽師の家系に嫁いできたからってだけで、死ななきゃいけないの?


 そんなの…どうすればいいの?
 

 有為「わたしはいみご…みんなからきらわれてる……いっそ、死ねたらよかったのに……」


 家族の愛情で生かされたって、自分の立ち位置は変わらなくて。
 声もかけてもらえない、目も合わせてもらえない。
 同い年くらいの陰陽師つながりの子供たちは、揃って自分から逃げていく。



 陰陽師は人を助ける立派なお仕事って聞いたけど。
 そんなの、真っ赤な嘘だったってことなの?


 ―それはきっと間違っている。


 陰陽師だからって、女だからって、そんな理由で人を殺すなら。
 ボクのお兄ちゃんもいつかは、自分を捨ててしまうのだろうか。


 有為「お兄ちゃんたちは、わたしが好き?」
 茂・十「大好きだよ」


 ……本当かなと疑ってしまう毎日だった。
 本当の幸せとか、本当の愛情というものがなんなのか分からなくて。

 ただ、自分がここに生きていられる。
 そのことだけが信じられることだった。