二次創作小説(紙ほか)

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.83 )
日時: 2021/01/07 17:58
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 あ、言い忘れていました!
 明けましておめでとうございます!
 ろくきせシリーズは来月で1周年を迎えます。
 これからも作品をどうぞよろしくお願いいたします♪

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 有為「『宵宮有為様へ―』」



 宵宮有為様へ。

 これを読んでいると言うことは、私たちはこの世にいないのでしょうね。

 有為には本当に辛い思いをさせたと思う。

 俺たちは、下手したら有為が自分のことを嫌うのではないかと思っていた。

 あるいは、家を出たり、孤独に押しつぶされて壊れたりしないかと思っていた。

 それほどまでに陰陽師というのはお前にとっては罪でしかなく、

 その家系に生まれたがため、
 
 女という性別に生まれたがために

 この職業は様々なものをお前から奪い取った。

 母親も。

 父親も。

 祖母も、地位も、人権も、笑顔も、何もかもを否定した。

 自分が間違ってるだなんて一つとして考えずに、

 自分の地位を保っていられることに優劣を感じ、

 自分が他より劣っていることが気に食わない連中が、お前から何もかも奪った。




 でも有為は強かった。

 赤ん坊の時はあんなに泣き虫だったのに、もうこんなに大きくなってしまった。

 お前が生まれた時、十郎兄ちゃんはまだ十歳だった。

 ある任務で知り合った炭売りの少年の妹と会って、自分も妹がほしいと思った。

 だからお前が生まれたと知り、

 産後すぐにお前の命を泣きながら奪おうとする母さんが可哀そうでならなかった。

 だから俺と茂吉はお前を生かした。
 
 俺たちのしたことは絶対に間違ってないと、胸を張って言おうと誓った。



 でも、その結果お前を苦しませてしまった。
 
 お前は勘が鋭いから、多分俺たちが陰で暴言を言われていることも分かってたんだろうな。

 俺たちの着物に縋りついて泣き喚いたあの日を、俺は一生忘れない。

 一瞬でも、あのときの選択は間違っていたのかと疑った自分を一生忘れない。

 自分のせいで石を投げられる妹に、忌子だという重りを背負っているお前に

 少しでも笑ってほしかった。



 有為、お前の名前の由来はな。

 生きる理由、つまり『為』、それが『有』るという意味だ。

 たとえ他の陰陽師が俺たちを罵ったとしても、生きているそのことに誇りを感じろ。

 掟なんて知ったことか。

 有為、お前に願うことはただ一つ。




 お前には幸せになってほしい。

 泣かないでほしい。

 生きててほしい。

 笑っててほしい。

 普通の人のように、普通の生活は陰陽師に生まれた時点でできないが、

 それでも好きな服を着て、

 好きな物を食べて、

 好きな人と好きな場所で好きな話をしてほしい。

 



 だから。

 だからどうか、自分には何もないなんて言わないでほしい。

 お前がいるだけで。

 ただ横で笑ってくれるだけで。

 俺たちはとっても、とっても嬉しかったんだから。




 負けないでください。

 諦めないでください。

 俺の妹は強い子です。

 とってもとっても優しい人です。



 忌子なんて関係ないです。

 有為は、俺たちの大切な妹です。

 生きててやれなくて、ごめんな。



 好きです。

 有為が好きです。

 有為の笑った顔が好きです。



 母さん、父さん見てるか。

 有為が言葉を話したよ。

 やっとおしゃべりができるようになった。

 すくすく大きくなる。

 やがて俺たちを追い越すかな。
 
 楽しみだ。




 有為へ。

 俺たちは、いつでもお前の味方だ。

 どこへ行っても、どんな時でも。

 俺たちはお前の兄ちゃんだからな。





 ―――宵宮十郎・茂吉






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 有為「…………っ ひっく ……う゛~~~~~~ッ」



 幻なんかじゃなかった。
 ちゃんと見てくれてた。
 生きてていいんだって、ちゃんと見ててくれてたんだ。


 わたしはわたしでいいんだ。
 ちゃんと、人間やってていいんだ……っ。


 お兄ちゃん。
 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。


 わたしも好き。大好き。ずっと好き。世界一好き。
 好きって言ってくれた兄弟が大好きだった。
 ちゃんとわたしの目を見て話をしてくれるその姿勢が好きだった。
 どんな時も明るいその性格が好きだった。

 わたしだって、お兄ちゃんたちに生きててほしかった。
 死なないでほしかった。
 あの温かい手のぬくもりにまた触れたかった。
 

 いつも隣で笑って、楽しい話をしてくれるお兄ちゃんが大好きだった。
 昔も、今も。そして、何十年後もずっと。



 だから、大事なことを分からせてくれてありがとう。
 わたし、本当に生きてていいんだね。
 しっかり前を向いて歩いていいんだね。


 
 有為「わたし、頑張るよ。絶対にお兄ちゃんたちの仇を討つから。絶対、ここで折れたりなんてしないから」

 
 宵宮家の先祖が代々受け継いできた祓魔術。
 女だからとかそんなくだらない虚言は聞き飽きた。
 
 わたしは絶対、諦めたりしない。
 もう絶対に泣かない。

 わたしだって、好きな人と好きな場所で好きな話をするんだ。
 わたしだって、好きな人と好きな場所で好きな話をしたいんだ。
 みんなと笑って暮らせる未来が欲しいんだ。

 それを今から自分の手で、実現させて見せる。
 そうだ、わたしは人に守ってもらうだけの弱い女じゃない。
 自分でもやれるんだって、そう見せつけなくちゃ。

 忌子だと言い続けて来た陰陽師たちを、見返してやるんだ。
 だから見ててよ、お兄ちゃん。
 自分の妹が地をしっかり踏みしめて歩くところを。

 
 でもやっぱり人は弱いからさ。
 一人で歩けないこともあるからさ。わたしも弱虫だから。
 折れちゃいそうなときは、夢にでも出てきて励ましてよ。



 やってやる。
 絶対に成功させて見せる。
 もう泣かない。諦めない。
 未来を信じて、突き進んでみせる。



 
 だからそれまでは、またね、お兄ちゃん。