二次創作小説(紙ほか)
- Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.84 )
- 日時: 2021/01/07 21:15
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
こんばんは、むうです。
むうは今、病院のベッドでこれを書いてます。
メンタル疾患が再発しましてね。入院することになりました。
結構色々辛いんですけど、雑談掲示板で色んな人が声をかけてくださり。
色んな人が励まして下さり、本当に救われてます。
むうも昔の有為みたいに生きる意味が分かんなくなったりするんですが、
皆さんの優しさでその意味が少しだけ見つかったような。
そんな気がしてます。
****
それからの生活は、思っていた以上に大変だった。
あの頃のボクはとにかく余裕がなかった。
一人称を「ボク」に変え、敬語を用いることで強さを見せつけれると勝手に思っていた。
そんなこと、やる必要なんてないと知ったのはつい最近のこと。
嫌われたくなくて、少しでも人間と見てほしくて。
体当たりで性格も変え、口調も変えて、必死に自分を防御していた。
やることはいっぱいある。
陰陽師の武術である祓魔術を、家の書庫にあった沢山の書記から学んだり。
十郎お兄ちゃんが一人で切り盛りしていた屋敷を、自分が管理したり。
もちろん米を研ぐのも、裏の畑の世話も、月一回陰陽師の打ち合わせ会に出かけるのも自分。
一つやっただけでもふらふらになるのに、お兄ちゃんはそれを毎日一人でやってたのか。
お兄ちゃんに比べてボクは…。
出来ないことにコンプレックスを抱くのは毎日だ。
でもこんなことで悩むのは、良くないと分かっている。
何をやるにも必死だった。
何もかもが足りてなかった。
もちろん世話をしてくれる人なんていないから、全部一人でするしかなかった。
自分には、もう家族はいないんだから。
だから自分が何でもできるようにならなくちゃと、そう思っていた。
宵宮家の当主がいなくなっただけで、周りの連中は忌子の存在をいきなり消したりはしない。
暴言や石を投げられるのは減った。
だけど。
『あそこの家はもう使えない』
『忌子しか残っていないような家が我らの頂点? 反吐が出るな』
『宵宮家はもうだめだ』
宵宮家は御三家としての機能を失った。
宵宮家が従えてた陰陽師たちは、夜月家という御三家についた。
つまり、ボクは全てにおいて独りだった。
町へ買い物に行って、路地を走っている子供たちを見た時、友達と言う存在を改めて感じた。
欲しいと思ったことはなかった。
自分には関係ない言葉だと思っていた。
でも。
結果的に、その言葉はボクの人生を大きく変えた。
****
兄が死去して3年以上の月日が経ち、14歳になったある日のこと。
祓魔術の一つである転移術を練習するため、ボクは庭で詠唱をしていた。
一町(約109メートル)先の鳥を手元に呼び寄せる。
それが基本だと本に書かれてあった。
有為「これが出来れば戦闘において役に立つはず!」
詠唱を始めたところまでは難なく事が進んだのだけど、突如異変は起きた。
急に天気が悪くなり、空が曇り始め、雷が鳴り響いたのだ。
有為「……え?」
ゴロゴロゴロ ドッカァァァァァァァン!
凄い音がして、思わずボクは両耳をふさぎ目をつぶった。
何が起こった?
術はちゃんとうまく言ってたはずなのに……。
再び目を開けた時、目の前には『珍妙な三人衆』が揃って倒れていた。
一人は、同い年くらいの女の子。
腰までの長くうねった髪と、やたらと足が太いのが特徴。
二人目は金髪碧眼の男の子で、女の子を庇うように上に覆いかぶさっている。
三人目は人というよりは妖怪? 怪異?
身体の側に人魂を浮かせ、黒い革製の服を着てふわふわ浮いている。
あと追加で桃色のウサギのような生き物が、三匹。
??「ヤシロ!! ヤシロ起きて――――ッ」
??「先輩、起きて下さぁぁぁぁい!」
??「ねねしんだ」「しんだ?」「しんだのか?」
??「おい花子! 起きねえぞ先輩! 先輩大丈夫っすかぁぁ!!」
??「ヤシロおおおおおおおお!!」
有為「…………は?」
??「(パチッ)」
??「あ、起きた! 良かったぁぁぁぁ……」
??「先輩大丈夫っすか!? 痛いところないですか?」
??「花子くん光くん。えっと…ここはどこなのかな…」
??「うーん、それが俺も分かんなくてさァ。取りあえず通行人に話を聞いた方がいいと思うよ」
人魂を浮かせた奴がこっちに視線を向けたので、ボクは肩を震わせた。
え、え、まさか…。
鳥の代わりにこんなわけわからん輩を召喚しちゃった!?
寧々「こんにちはっ。私、八尋寧々! 初めまして!」
有為「あ、え、えっと」
寧々「貴方のお名前は?」
有為「え、よ、宵宮…有為です…」
寧々「そっか。よろしくね、有為ちゃん!」
急に大根足娘が馴れ馴れしく喋りかけて来たので、ボクは口ごもる。
人にこんなふうに話しかけられたことって、なくて。
だからかな。
有為「……ひっく う゛~~~っ」
花・光「な、泣いた!?」
寧々「!? ちょ、大丈夫?? お、落ち着いて……どうどう……」
なぜか両目から涙がこぼれて、地面を濡らした。
手で拭ってもとめどなく流れて、嗚咽と一緒に外へ漏れてく。
花子「女の子泣かせるなんてダメだよーヤシロ」
寧々「わ、私!? ご、ごめんね。怖がらせたいわけじゃないのよ。……ごめんね」
有為「……ごめんなさい……いきなり、こんな所見せてしまって」
光「大丈夫っス! あ、オレ源光っす! 『こう』って呼んでください!」
花子「俺花子ー。よろしくね宵宮―」
有為「……お守りピアスくん、大根足さんありがとうございます」
いいわけではないけれど、人の名前とか呼んだこともなくて。
だからそういう呼び方しかできなかったんだけど。
結果的に、
寧々「(ガビーン!)」
光「あ、あれデジャヴっすかね? なんかアイツの顔が脳裏に」
花子「少年落ち着いて! どうどう!!」
軋轢を生んだ。
有為「改めまして、屋敷の管理をしてます宵宮有為です。
うちへお越しくださった所まことに申し訳ないのですが……」
不法侵入者は誰であろうと排除するように、お兄ちゃんに言いつけられていたから。
ボクは錫杖を掲げ、いつもよりも低い声で言い放つ。
有為「貴方達には、家の敷居は跨がせないので。水の神・水龍刃風!」
突如、水を含んだ突風が吹き荒れ、三人を空へ吹き飛ばした。
彼らの悲鳴を聞きながら、ボクはふうとため息をつく。
初めてだった。
忌子、とではなく名前で呼ばれたこと。
でもまだ、人と接するのが怖かったから、追い返したらもう自分に近づかなくなるのではないか。
そう思ってしまうあたり、ボクはやっぱり弱い。
彼らがそんなことできる人間じゃないってことに気づかないあたりも。