二次創作小説(紙ほか)
- Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.86 )
- 日時: 2021/01/09 09:11
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
おはようございます。
病院って起床時間早いんですね…眠いよ。
むうは花子くんのシジマさんが好きなので今凄いシンクロしてます。
****
花子隊とかまぼこ隊が家に来て数日たったある日の夜のこと。
ボクは奥の部屋から緑茶の茶葉を取ってこようと、縁側を歩いていた。
夕ご飯の支度は、料理が得意だという交通ピアスくんに頼んでいる。
自分でやると言ったのだけど、彼は「任せて下さい!」と笑った。
有為「……今日は、月が満月だ。すごい綺麗」
夜空で煌々と輝いている丸い月の輝きに心を奪われる。
今もお兄ちゃんたちは、あの夜の暗がりにいるのかな。
なんて考えて、不意に寂しくなり、泣くまいと必死に涙をこらえた。
仁乃「うーいちゃん! やっと見つけたっ」
有為「く、胡桃沢さんっ!?」
仁乃「あ、驚かせちゃった? ごめんね。横、いいかな」
と、向こうから胡桃沢さんが駆けてきてた。
「いいよ」とも言ってないのにボクの横の縁側に腰を下ろす。
そして空を見上げ、一分前の自分と同じ感想を述べ、ニッコリ笑った。
有為「……(チラっと仁乃を見て)何の用ですか?」
仁乃「ああ、えっとね。なんか、話したくなって」
有為「他の皆さんとは?」
仁乃「炭治郎さんたちは火を起こしてるし、寧々ちゃんは料理中だし。だから私は有為ちゃんと」
有為「……そう、ですか」
仁乃「ごめんね、いきなりで困るよね」
有為「いえそんな。……話しかけてくれて、嬉しかったです」
仁乃「そう? 良かったぁ」
胡桃沢さんはいつでも明るい。
おひさまみたいな笑顔は、周りの人を巻き込む力を持っている。
でもボクは知っている。
陰陽師の人間は、生まれながらに霊力を持っている。
その力が、彼女はただの人間ではないと知らせていることを。
有為「胡桃沢さんって、本当に……人間なんですか」
仁乃「――なんで?」
有為「いえ、職業柄、そういうことにはけっこう敏感なんで」
仁乃「ふぅん」
と胡桃沢さんは呟き、直後ボクを上から見下ろす形で首の角度を変えた。
ふてぶてしい態度で彼女は言う。
仁乃「……残念。バレないようにしてたんだけどな」
有為「あなたは一体……」
仁乃「私は人間だよ。中途半端だけどね」
そう悲しそうな顔で言った直後、彼女の身体から黒い複製腕が発生する。
その腕はボクが持っていたお盆を奪う。
有為「!?(思わず錫杖を構えて)」
仁乃「大丈夫。こっちからは何もしないから」
有為「貴方は妖怪? 鬼? 皆は知ってて何も言わないんですか? なんで……」
仁乃「私は鬼化しない特殊体質でね。鬼殺隊の中ではけっこう重宝されてるんだ」
有為「鬼化しない……」
仁乃「術が使える以外は普通の人間と変わらないよ」
仁乃「なんで皆が何も言わないか? ……さあ、それは知らないけど」
有為「胡桃沢さん、怖くないの? だって―何か言われたらどうしようって……」
バケモノとか、ならずものとか。
そんなこと、言われなかったと言うことはないだろう。
仁乃「怖いよ。今でも。昔は石を投げられることもあったし、近くに住む人皆に怖がられて」
有為「……今は?」
仁乃「今は、皆がいるから、安心してる」
仁乃「(チラッと有為を見て)有為ちゃん。私ね、二年くらい前までずっとグレてたの」
有為「……え?」
仁乃「私は、どうしようもないくらい辛い時が会った時、反抗するタイプでさ。
『うるせー』とか、『見てんじゃねーよ』とか、平気で言ってたなぁ…」
意外だった。
とても横にいるこの少女がそんなことをする人間には思えなくて、ボクは目を見開いた。
有為「他にどんなタイプがあるんでしょうか」
仁乃「むっくん―ああ睦彦くんのこと―や炭治郎さんは『自分を鼓舞する』かな」
有為「自分を鼓舞する?」
仁乃「うん。むっくんは辛い事があった時はずっと、『俺は強い』って言うんだって」
皆、それぞれ対処法を持っているんだ。
慣れてるのかな。
ボクも皆のように対処法があれば、悩まずに済んだのかな。
仁乃「……辛いのは有為ちゃんだけじゃないよ。寧々ちゃんたちを除いて、この家にいるひと皆、人生の中で多くのモノを失っているから」
有為「胡桃沢さんも?」
仁乃「炭治郎さんたちは家族を。むっくんと私は家族と仲間を」
有為「仲間?」
ボクが尋ねると、胡桃沢さんは困ったように笑って。
仁乃「本当はね、私の代の同期は三人だった」
有為「でも、会った時同期は睦彦くんだけだって」
仁乃「今はね」
仁乃「一人、男の子がいたの。病気で死んじゃったけど」
有為「…………」
仁乃「確か写真が……(羽織の中から写真を取り出して)はい、これ」
渡された写真は少し汚れていて。
浅草かどこかの都会、橋の上で、二人の男の子と一人の女の子が立っている写真だった。
男の子二人は言い争いでもしてるのだろうか。
お互い対面して指を指し示している。
仁乃「これが私。ケンカしているこっちがむっくん」
有為「……こちらの男の子は?」
仁乃「瀬戸山亜門くん。ふふ、懐かしいな。任務に行く途中、写真屋さんに頼んで撮ったやつだ」
その悲しそうな笑顔の裏で、彼女は一体何を考えているのだろう。
聞いていいのか分からなくて、ボクは彼女の話に耳を傾けた。
仁乃「……この日の翌々日、瀬戸山くんが死んだの」
有為「………」
仁乃「お葬式の前日ね、私、彼に告白されたの」
有為「………は?」
仁乃「あははははは、ほんと私もその時はびっくりしちゃって」
有為「………返事は」
仁乃「うん、ゴメンねってそう伝えた。好きな人がいるからって」
その好きな人が誰なのか。
ボクはすぐに分かった。
分かると同時に、明日死ぬという日に胡桃沢さんに想いを伝えた亜門さんのことを考える。
無性にやるせなさと悲しさが胸の中からこみあげてきて、ボクは思わず拳を強く握りしめた。
仁乃「……あの時、もし『私も好き』って言ったら、何かが変わったかな」
有為「……ボクには、分からないです」
仁乃「そう、だよね」
仁乃「本当にあの日の事はよく覚えてる。……あの後、何が起こったのかも」
- Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.87 )
- 日時: 2021/01/11 16:11
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
おはようございます。
今から朝の診断に出かけてきます。
雑談掲示板での温かい言葉、本当にありがとうございます。
わたしもキャラも凄く良くしてくれてるんだなあと思って気持ちが楽になりました^^
****
ろくきせ本編や、こっちで伝えてなかった裏話を紹介します。
【大正コソコソ噂話①:仁乃の告白回数】
ろくきせの方では仁乃は告白された数は1回と書いていましたが、
これは亜門のことをかまぼこ隊に話したら…という懸念と、
またその告白が亜門の「友達として」なのか迷ったためです。
【大正コソコソ噂話②:陰陽師御三家】
陰陽師の階級はこんなふうになっています。
有為のように忌子が生かされるケースはないこともなかったのですが、
そのような子供は周りからの重圧に耐えられず自死を選ぶことが多かったようです。
〈御三家の立ち位置〉
※十郎が生きてた頃
1宵宮家
2夜月家
3如月家
十郎の死後、宵宮家は衰退したとされ、夜月家がトップになりました。
お館様がろくきせ本編で夜月家ではなく有為に協力を頼んだのは、
ただ単に祖先が六新鬼月を封じたからというだけではなく
有為の身体能力や術式などから彼女の活躍を期待したから、という意図もあります。
【大正コソコソ噂話③:有為の呼び名・武器】
有為は、キャラクターによって呼び名が変わる…めんどくさいキャラです。
炭治郎・禰豆子・善逸・仁乃・寧々・葵・蜜璃・夏彦→有為ちゃん
伊之助→由為(名前間違う)
輝・ミツバ・桜・無一郎→宵宮さん
花子・光・つかさ・柱(しのぶ・蜜璃・無一郎を除く)→宵宮
しのぶ→有為さん
有為の武器の、先端にまが玉のような球体がついている杖は、十郎が使っていたやつです。
十郎の死後、隠から預かったものをそのまま使っています。
また、有為がつけているヘアピンは、仁乃からのプレゼントです。
【大正コソコソ噂話④:アオイと葵、そして茜】
名前がおんなじの、蝶屋敷のアオイさんと葵ちゃん、苗字が「あおい」の茜くんですが、
アオイちゃんは葵ちゃんを「赤根さん」茜くんを「茜くん」
葵ちゃんはアオイを「神崎ちゃん」
茜くんに至っては、「アオちゃん」「アオイさん」と呼び方を考えているようです。
【大正コソコソ噂話⑤:シジマメイ】
ろくきせでは、メイちゃんは生徒会って書いてるんですが、原作ではこんなことないです。
これはむうの、鬼滅学園物語的な要素で、メイちゃんを生徒会に入れてみたいなぁという
個人的な解釈です。
なので「あれ?」と思われた方、こういうことですのでよろしくです。
- Re: ろくきせ恋愛手帖 【※亀更新です】 ( No.88 )
- 日時: 2021/01/10 16:39
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
〈仁乃side〉
二年くらい前のことなんだけどね。
この写真を撮ったのは三人での合同任務で。
飴屋の人間に扮装していた鬼を倒す任務だったんだけど、
任務の後瀬戸山くんの調子がおかしくなって。
もともと瀬戸山くんは体が弱くて、運動もほどほどにって止められてたみたい。
それでも人の役に立ちたいからって、無理やり入隊したって聞いた。
瀬戸山くんはむっくんとあんまりうまく言ってなかった。
会うたびにケンカをしだして、お互いそっぽ向いて。
でも本当は、むっくんも彼も、素直になれないだけだった。
私は傍から見ているだけだった。
ケンカと言っても口喧嘩なんだけどね、ケンカしている時の二人、不思議と楽しそうで。
ここで自分が輪に入ったら、二人が話すきっかけが無くなっちゃうなって思って。
だからかな。
彼から言われた言葉が、今でも胸に残ってるの。
亜門『胡桃沢さんが好きだ』
ってね、お見舞いに言ったらいきなり告白されたの。
私はすっかり驚いて、何回もホッペをつねって、そしてどうすればいいか分かんなくて。
ちょっと泣いたりもしたっけ。
仁乃『……なんで私なの?』
亜門『……さあ、気づいたら好きになってた』
そんなこと聞いてないよって、私はまた泣いた。
もっともっともっと、話さなきゃいけないことがあるはずなのに。
身体のこととか、むっくんとのこととか。
なんでそんな話、いきなり。
気づいたらって…そんなこと、いきなり言われてもわかんないよってその時は思った。
仁乃『……ごめん。好きな人がいるから』
亜門『……ずっと前から知ってた』
なにそれ。
私が誰を好きなのかも知ってるのに、叶わないと分かってるのに、なんでそんなこと言うの。
瀬戸山くんにとってのメリットがないじゃん。
そんなの……ごめんって言った私の方がいたたまれないよ。
亜門『……胡桃沢さんは、いつ死ぬかって考えたことある?』
仁乃『え?』
僕はあるよと、そう言って笑う瀬戸山くん。
その姿が、なんだかとっても眩しかった。
亜門『……今日医者に言われたんだけどさ。僕の人生って、あと13時間なんだって』
仁乃『―――え?』
亜門『だから、早めに伝えようと思って』
……なんなの。
なんですぐに言ってくれないの。
頼ってって、前にそう言ったのに、どうして今まで黙ってたの。
仁乃『………本当なの?』
亜門『……うん』
仁乃『……そっか』
嫌だよ、そんなの、あんまりだよ。
何でなの、どうにかして延命とかできないの?
私、彼に何かしてあげれないの?
だって任務に言ったの、つい一昨日なんだよ。
初めての三人の合同任務で、初めてむっくんと瀬戸山くんが楽しそうにしてたんだよ。
一緒に写真も撮ったし、一緒に道中で揚げ餅も食べたのに。
あの写真、遺影写真になってしまうの?
なんで?
なんで瀬戸山くんは、笑っていられるのか分からない。
辛くないのかな。悲しくないのかな。
それとも、辛くても、必死に笑ってるのかな。
仁乃『うっ ひっく …………っ』
亜門『………泣くなよ』
仁乃『無理言わないで! だって、だって………っ』
自分の体質に気づいてから、ずっと暴言を言われ続けていた。
助けた人たちからも、人間と見てもらえずに石を投げられた。
鬼殺隊は、そんな私のたった一つの居場所だったのに。
その仲間がいなくなるなんて、嫌だよ。
仁乃『無理言うなよ! そんな、いきなり言われて、どうしろってんだよ!』
亜門『……』
仁乃『なんでなんだよ、なんで……私ができること、もっとあったはずなのに……っ』
感情の制御ができなくなると、私は口調が乱暴になる癖があった。
あの時も同じ。
瀬戸山くんが羽織っていた布団を力任せに叩き、泣き喚き、叫んだ。喉がかれるまで。
亜門『もう沢山もらったよ』
仁乃『……私、瀬戸山くんに何もしてあげられない……』
亜門『ううん。僕はいっぱいもらったよ』
胡桃沢さんと刻羽が横にいたこと、それだけで僕は充分だった。
そんな当たり前のことに、ずっとぐちぐち言って来たけどさ。
本当にうれしかった。
瀬戸山くんは、涙を流す私の頭をなでて、ポツリと呟く。
亜門『だからさ……刻羽のこと、よろしくね』
仁乃『………っ』
亜門『幸せになって、のろけ話とか、天国にいる僕に嫌というほど聞かせて。
子供が出来て、仲間も増えて、楽しい話をして、時に泣いたり……』
きっと、瀬戸山くんもずっと、寂しかったんだと思う。
つらつらと言葉を並べながら、次第に彼の目の端に涙が溜まっていった。
亜門『…………僕も、……………何十年後まで生きたい…………』
仁乃『………っ』
仁乃『……むっくんが、きっと叶えてくれるよ』
亜門『……アイツが?』
仁乃『むっくんは、凄いから。きっと驚くよ。………きっと、何とかしてくれるよ』
それを聞いた瀬戸山くんは、「そっか」って満面の笑みを向けて。
「なら心配いらないね」って、安心したように言った。
その言葉に私はまた泣いた。
仁乃『むっくんと生きていけたら、私の人生、きっと楽しくなるよ』
亜門『まあな』
仁乃『……でもそこに、君がいたら、もっと幸せ』
死なないでほしい。
生きててほしい。
そんな願いすら、叶えられないような世界だけど。
この心からの想いは本物で。
いつかは叶ったらいいなって、無理だといいながらずっと願ってた。
瀬戸山くんは、また「そっか」って笑った。
****
その翌日、あの言葉通り瀬戸山くんは空へ行った。
むっくんは真っ先になくと思ったんだけどね。素直だから。
なんだかなかなか泣けないみたいで、でも口元はずっと震えていて。
瀬戸山くんの育手との話が終わって、よくやく泣いてた。
それで、涙をいっぱいにためた目で、私を見て、はっきりと叫んだんだ。
睦彦『お前の人生、めんどくさくなるぞ!』
ってね。
めんどくさい人が、めんどくさい言葉を、めんどくさい表情で言い放ったんだよ。
でも私はそんなむっくんの気持ちがほんの少しわかったんだ。
睦彦『亜門がいなくなってしみったれたまま過ごそうと思うなよ胡桃沢!
あんな奴より、俺の方が何倍も強いんだからな!
だから絶対に死ぬんじゃねぇぞ! 命令だかんな!!』
仁乃『……バカ。私、五人姉妹だったんだよ。これくらいで泣くわけないじゃん』
睦彦『嘘つくな! 葬儀中ずっと泣いてたくせに! 自分の気持ちに逃げんなアホ!』
彼のまっすぐな言葉が、、私の心の中の黒い靄がすうっと溶かしていく。
むっくんは思わず目を見開いた私の手首を、半ば強引に掴んで私を手元に引き寄せる。
睦彦『これからは二人で生きてくんだぞ! 俺から逃げられると思うなよ!!』
仁乃『……………』
その言葉に私の頬は初めて紅潮し、火照り始めた。
いや、そういう意味で言ったんじゃないんだろうけど。
でも私はすっごく嬉しかったんだ。
仁乃『愛の告白?』
睦彦『………………バッ、ちげーし! 俺はそ、そんなこと……思って……ないし……(小声)』
仁乃『…………なんだ(ボソッ)』
だから焦らなくていいんだよ、有為ちゃん。
有為ちゃんにどんな過去があって、どんな思いをしてきたのか私は知らないけど。
でも、その過去があるからこそ、『現在』が楽しく思えるなら、万々歳でしょ。
だからさ、そんなに固い表情をしないで、笑ってよ。
有為ちゃん、笑ったらきっとどんな男の子もイチコロだから。
悩み事があれば私たちに聞けばいいし、どんなに辛い日でも空は晴れるんだよ。
私の話なんて面白くもなんともなかったと思うけど。
少しでも有為ちゃんにヒントを上げることが出来たなら、私は嬉しいよ。
失くしたものは大きいけど、しっかり生きて行かなきゃ瀬戸山くんが怒っちゃうからね。
だから一緒に頑張ろう。
大丈夫、有為ちゃんは出来る子だから。
ちゃんと、力持ってるから。
私が保証する。
ほら、いい匂いがしてきた。
もうすぐ夕ご飯かな。
- Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.89 )
- 日時: 2021/01/11 16:05
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
どんどん増えていく裏話
どんどん長くなる入院期間
どんどん貰っていくいろんな方からの愛情
何だなんだこの小説は……((殴ッ☆
****
〈有為side〉
面白くない、なんてことはなかった。
何のヒントにもならないなんて、大間違いだ。
彼女の話を聞いて、ボクはなぜか、胸の中が温かくなるのを感じた。
それはきっと、自分の他にも『大切なもの』を失った人がいるという安心感。
そんなものに安心してはいけないと思いつつ、改めて独りではなかったことを思い知らされる。
仁乃「ごめんね。ヘンな話ししちゃって」
有為「いいえ、……ありがとうございます。大切な話をしてくれて」
だからボクも、自分の過去をはっきりと打ち明ける覚悟が出来た。
もしかしたら自分の話なんて、面白くも何ともないかもしれない。
いきなり辛い話をして、困らせたらどうしよう。
でも、この苦しみを誰かと共有したかった。
有為「仁乃さん。ボク……実は陰陽師の世界で、生きてはいけない人間だったんです」
仁乃「………」
全部打ち明けた。自分がずっと感じていた不安も、絶望も、葛藤も何もかも。
どんなに辛かったのか、どんなに苦しかったのか、たとえ彼女に分からないとしても。
ボクは嬉しかったんだ。
初めて「有為ちゃん」と名前で呼ばれたこと。
初めて自分の目をしっかり見てくれたこと。
大丈夫だよって、生きてていいよって、家族以外の人から言われたことが。
全ての話を伝え終わり、横を見ると、仁乃さんはどこか遠い眼をしていた。
ああやっぱり……こんな話、面白くなかったのかな……。
仁乃「……最低な話だね。人の命の価値を何とも思っていない」
有為「……やっぱり、困らせてしまいましたか?」
仁乃「ううん。辛いことを話してくれてありがとう」
有為「……不安なんです。兄がいなくなって、護ってくれる人を失って、自分を見失いそうで」
仁乃「……」
有為「お兄ちゃんに守られてばっかだったあの頃の自分よりは、少しは強くなったと思ったのに」
ボクは結局、あの頃のままで。
優しくしてくれた人でさえ名前で呼べなくて。
善逸「ふぅん。何の話してるかと思ってたら、こういうことか」
仁・有「善逸さん!??」
睦彦「コラお前、空気読め空気を! 悪い。隣の部屋でずっと聞いてた」
光「ごめんな。ご飯できたから、呼びに行こうとしてたんだが……」
睦彦くんと善逸くんの着物の裾を掴んで手元に引き寄せ、光くんは二人に鉄拳を振るう。
「グェッ」と呻いた二人の口に、手にしたお盆に盛られていたおにぎりを強引に突っ込んだ。
全くこの人たちは油断も隙もないんだから……。
ボクが呆れて肩をすくめるのを、仁乃さんはクスクス笑って眺めていた。
善逸「ほんほうにごめん。いやなはなひをきいちゃって(もぐもぐ)」
有為「いいえ、ボクの方こそ、昼間は酷いこと言ってしまいすみませんでした」
睦彦「しっかし、俺は宵宮の兄ちゃんのことは尊敬してるぜ」
有為「え?」
睦彦「俺にも3つ上の兄ちゃんがいたんだけど、うるせぇしチクるし頭いいしで最悪だったから」
善逸「おみゃえ、じぶんの兄ちゃんに向かってそりぇはないあろ(もぐもぐ)」
光「善逸。まだまだあるからゆっくり食べろよ……」
仁乃「へぇ。むっくん、お兄さんがいたんだね。知らなかった」
睦彦「ん(もぐもぐ)くるみはらは?(もぐもぐ)」
仁乃「お姉ちゃんが一人と、妹が三人。妹は鬼に食われた」
光「……お姉さんは?」
仁乃「……鬼にされて自分で倒した」
善逸「バッ……お前!!」
光「……ゴメン仁乃ちゃん。オレ、嫌なこと聞いちゃったな」
仁乃「ううん気にしないで。もう大丈夫だから。そういう光くんは兄妹いるの?」
光「うん、兄ちゃんと妹がいる。兄ちゃん生活力がなくて、オレがずっと飯作ってんだ」
有為「どうりで手際がいいと思った」
光「有為ちゃんもおにぎり食うか? 炭治郎たちが具を入れるの手伝ってくれたんだぜ!」
なんだかボクの過去の話から、いつの間にか「鬼滅トーク~兄弟編~」になっちゃった。
こんなのでいいのだろうか。
でも、みんなはとてもやさしかった。
人の過去話を、何も言わず黙って聞いてくれた。
有為「じゃあ……(おにぎりを一つ手に取って)」
仁乃「大きい方取っていいよ。私はさっきつまみ食いしたからさ」
睦彦「!?」
有為「いただきます(ぱくッ)」
光「どうすか? どうすか??(そわそわ)」
有為「(ごくん)………おいしい。こんなおいしいおにぎり、初めてです」
それはお世辞でも何でもなくて、生まれてから食べたどんな料理よりずっと美味しかった。
みんなで縁側で食べたからかな。
お兄ちゃん、見てる?
わたしは今、とっても幸せだよ。
ほら、こんなに素敵な人たちと巡り会えたんだ。
みんなとても優しくしてくれるの。忌子じゃなくて、人間と見てくれるんだよ。
有為「ありがとう、光くんっ。また作ってくださいね!(ニコッ)」
光「……………………………(ズッキューン!)」
生まれて初めてできた友達に笑いかけたら、光くんは突如体を硬直させ黙り込んだ。
心配になって彼の顔を覗き込むと、とたんに光くんは顔を赤らめて慌てた。
仁乃「光くん、有為ちゃんの笑顔にやられたね」
光「いいや違っ」
善逸「こんなんでいいのかー光ー。こんな調子で寧々ちゃんと上手くやれんのか?」
光「!???? うあああああああああああああああ~~~!!」
仁乃さんと善逸さんの絶妙な連携によって、光くんの何かが爆発した。
そのまま、顔を覆って、「あうーあうー」と呻きだした。やれやれ。
炭治郎「おーい皆、ご飯できたよー」
寧々「今日のご飯はふろふき大根よ! 私と光くんで頑張ったんだから早く来てっ」
伊之助「おい早くしろ! 腹が減ったんだよチクショウ!」
花子「……ふろふき大根……(チラッと寧々を見て)」
寧々「フーッ フーッ(怒)」
花子「何も言ってないのになんでぇ!??」
有為「あはははははははっ」
このときのボクはまだ何も知らなかった。
友達が出来たことに興奮するばかりで、輪の外の連中が自分を狙っていることなど考えず。
この時間が、もっと続けばいいのにと思っていた。