二次創作小説(紙ほか)

第十二話『持ち始めた感情』 ( No.12 )
日時: 2023/09/01 16:48
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 誰かと繋がりを持っても何もいい事はない…。

 その先に待っているのは後悔や悲しみだけ…そう思っていた。

 何故だろう…トウヤ達と旅を始めて、少しずつだけど彼らと一緒に居る事に対して楽しさを感じられるようになってきている私が居る。

 突然目前に現れたロケット団の男がトウヤのピカチュウを狙っている事を知ると心のどこかで守らなければと言う衝動に駆られてしまう。

 同時に私は心の片隅でそのような思いを抱く自分自身に対して大きな疑問を持ち、俯いてじっと考え込んでしまう。

 本当にピカチュウを守りたいから…?

 それとも、トウヤの悲しむ姿が見たくないから…?

 思考回路を必死に働かせ、慣れない事を考えていくも結局答えに辿り着く事が出来ない。

 でも、心のどこかで渦巻く思いが私を動かしていく―その思いがどんな物で、どうして私をこう熱くさせるのか、今の私には気付く事も理解する事も難しかった。

 

 side―リーフ―

 

 「ゲシシッ…、俺が一瞬怯んだからって調子に乗るんじゃねぇぞ…。行け、俺の手持ちの中で最強のポケモン!」

 「グオォォ――!」

 

 ロケット団の男は言い訳を口にしながらも、一つのモンスターボールを宙に投げていく。

 その眩い光と共に蛇のような体躯をして、凶悪な顔立ちをした青いポケモンが雄叫びを上げてその姿を露呈していった。

 ゼニガメ達をその鋭い眼光で睨みつけていく。

 

 「ゼニ…」

 「リュウゥ…」

 

 そんな青い巨体のポケモンから放たれる威圧感にゼニガメ達は怯えてしまい、数歩後退りしてしまう。

 でも、私は初めて見るそのポケモンにニッと不敵な笑みを浮かべてしまう。

 そう、わかってしまうんだ―このポケモンの種族名が…、タイプがどんな物なのか…。

 特性はどういうのなのか…、どんな技を覚えるのか…その全てが手に取るように…。

 

 「ゲシシッ…、おいどうした…さっきの威勢はどこに行ったんだよ! ギャラドス、こんな臆病な奴らを焼き付くしちまえ、大文字だ!」

 「グオォ――!」

 

 その声と共にギャラドスの口から大文字が放たれていく。

 その煌々と燃えたぎる炎を瞳に映しても、冷静さを失わずにゼニガメに指示を送った。

 

 「ゼニガメ、大文字に向かって水鉄砲よ!」

 「―ゼニ! ゼェ―二ィ――!」

 

 ゼニガメは心に纏わりついていた負の感情を振り払うと大文字に向かって勢い良く水鉄砲を撃っていく。

 すると、技同士がぶつかり合い、爆風が生じて一気に私達の視界を奪っていった。

 

 「―くぅ…、今度はミニリュウ、神速よ!」

 

 その強い風圧に体が飛ばされそうになるも、力強く大地を踏み込んでミニリュウに神速を繰り出すように言う。

 

 「リュ!」

 

 ミニリュウはこくりと頷くと渾身の力を尻尾に込めて大地に思いっきり叩きつけ、空中へと舞い上がり神速でギャラドスの顔面目掛けて向かっていく。

 

 「グオォ―!?」

 

 その攻撃を諸に喰らうギャラドス。

 爆風が収まり、ダメージを喰らい表情を顰めるギャラドスと鮮やかに地面に着地するミニリュウが視界に映った。

 

 「ゲシシッ…、ギャラドス…竜の怒りだ!」

 

 その言葉にギャラドスは大きな口から青い炎を吐き出していく。

 

 「ミニリュウ、こっちも竜の怒り!」

 

 ミニリュウもまた竜の怒りを繰り出し、技同士が激しくぶつかり合って互いの威力を相殺していった。

 

 「ゲシッ…!? ならギャラドス雷だ!」

 「グォ―!」

 

 その命令に大きな雄叫びで了解したと答えると、雷をミニリュウに向かって放っていく。

 

 「ミニリュウ、神速でかわして!」

 

 その物凄い勢いで落ちてくる雷をミニリュウが神速を使い、かわしていく。

 

 「ふん、一度回避出来たからって調子に乗るなよ…痛い目に合うぜ! ―ゲシシッ…。ギャラドス、もう一度か「ゼニガメ、物真似よ! そして、雷!!」―ゲシッ…!?」

 「ゼ~ニィ――!」

 

 その男は品のない笑い声を高らかに上げ、揶揄するかのような言い方をするもギャラドスの背後に回り込んでいたゼニガメの存在に気付き、驚いてしまう。

 だが、時すでに遅く…ゼニガメの物真似で一時的に覚えた雷により、ギャラドスが眩い光を浴びていき、大きな体躯が黒焦げになると同時に倒れていった。

 その光景に唖然となるロケット団の男…。

 

 「さぁ…、後は貴方だけよ…」

 

 その私の低くも鋭さを感じられる声に彼はハッと我に帰ると逃がさないようにじわじわと寄ってくるゼニガメ達を見て顔色が真っ青に染まっていく。

 

 「ゲシシッ…、こうなったら…」

 

 一つのモンスターボールを腰のベルトから手にして、表情を次第に歪めていく。

 

 「皆、気を付けて何が来るかわからないわ」

 

 また新たなポケモンを繰り出してくるのかと思い、皆に注意するように促す。

 

 「逃げる! ドガース、黒い霧…ゲシシッ…!」

 「えっ…!?」

 

 その出てきた球状の体に幾つ物突起物をつけたポケモン―ドガースが黒い霧を放っていき、視界が奪われていった。

 数分後に霧が消えていき、奪われていた視界が元に戻っていく。

 

 「いない…」

 

 心配そうな表情をしながら近寄ってくるポケモン達の頭を撫でながら、周囲を見渡していく。

 先程倒した筈のギャラドスや黒い霧を放ったドガース、そしてそのトレーナーであるロケット団の男の姿が確認できなかった。

 すると、直に安心感が生まれてくる。

 それがロケット団が居なくなった事に対しての物なのか、それともピカチュウを守り切った事に対しての物なのか…理解出来なく、苦悩してしまう。

 そして、本当に私自身が彼らと一緒に居ていいのかと言う思いに対しても…。

 

 side―トウヤ―

 

 東の空、燦々と輝く太陽。

 僕達は今、三日間の修行を終えて二番道路へと通じる北ゲートの入口前まできている。

 そして、ゲンスイさんもまた見送りの為に態々一緒についてきてくれていた。

 

 「もう、行ってしまうのか…何だか寂しいのう…。じゃが、若い頃に一杯旅をしていた方が良い。それだけ、沢山の出会いと別れがあり、それを経験していく事でお主達の成長へと繋がっていくからのう…!」

 

 ゲンスイさんは少し寂しそうな表情をするも、これからも頑張って旅を続けるように言ってくる。

 

 「はい…!」

 「ゲンスイさん、今度きた時にはちゃんとしたバトルをしよう。―絶対に…!」

 「あの…ゲンスイさん、モンスターボール有り難うございました。メイだけの分じゃなく、私やトウヤの分まで貰っちゃって……本当にお世話になりました」

 

 そして、僕達もまた其々の別れの言葉を口にすると北ゲートへと向かっていった。

 

 side―なし―

 

 「ゲシシッ…、そう簡単に逃がすものか…地の果てまで追ってあの波乗りピカチュウをゲットしてやる」

 

 北ゲートから離れた民家の陰からトウヤ達の後ろ姿を眺めるカイン。

 彼はリーフにこてんぱんにやられた後、トキワシティの隠れ家に戻って体勢を立て直していた、波乗りピカチュウを奪う為に…。

 そして、リーフにやられた時の恨みを晴らす為にトウヤ達をどこまでも追う事を心の中で固く決めていた。

 

 「でも、今は無理だ…。あのゲンスイが居るからな…ゲシシッ…」

 

 今直にでも彼らを叩きのめして波乗りピカチュウを奪いたいと考えてしまうも、彼らの後ろには見送りをする為に居るゲンスイが彼の視界に映った。

 もし、この状況で出て行っても直に彼の鍛え上げたポケモンによって倒されてしまう。

 ―だが、何故だ。ゲンスイの奴が何故彼奴らなんかの見送りに…。まぁ…いい、二番道路で彼奴らを待ち伏せしてそこで例のピカチュウを頂くか…ゲシシッ…―

 

 「そうですわね、ゲンスイが居たらあの波乗りピカチュウを奪う事が出来ないからですわね…」

 「ゲシシッ…、そのとうり―って、アクア様!? 何故、ここに…」

 

 突如聞こえてきた声に振り向くと長く綺麗な青色の髪を腰まで伸ばした女性が視界に映り、カインは困惑してしまう。

 その女性の顔立ちは整っており、外見からは大体二十代半ば位に感じられる。

 そう、彼女―アクアはロケット団幹部であり、その実力はロケット団の中でトップクラスの部類に入る。

 

 「報告がありましたの…、私の他の可愛い部下達から…」

 

 その表情はニコリと微笑みを浮かべるものの、声の方はどこか怒りがこもっており殺気さえ感じられる。

 カインはアクアが言うその他の可愛い部下達とは自分を置いて即座にニビシティへと向かった同僚達である事を理解すると、小さな舌打ちをする。

 

 「あのどういう報告ですか…?」

 

 カインはビクビクと怯えながらも、必死になって聞いていった。

 

 「そうですわね、本当に残念な報告でしたわ。本来なら、直にでもニビシティに行ってサカキ様に与えられた任務を達成する為の準備をしなければなりませんのに…貴方ときたら、その途中で見つけた珍しいピカチュウに夢中になってたんですよね…? そのサカキ様からの大切な任務を忘れる程に…」

 「それは…」

 「一度死ななければわからないみたいですわね。出てきてください、パルシェン! あの方に向かってミサイルばりですわ!」

 

 サカキを崇拝しているアクアは部下でありながらも、一度サカキから受けた命令を忘れてピカチュウ捕獲に走ったカインを許せなく、パルシェンに殺すように指示を送る。

 その次の瞬間、無数の針がカインの体を貫通していき、幾つ物風穴を開けていった。

 

 「それにしても、波乗りを覚えたピカチュウは珍しいですわね。やはり、水マスターを目指す私にとってみれば、一度お目にかかりたい物ですわ…」

 

 その妖艶な笑みを浮かべるアクア。

 彼女もまたトウヤのピカチュウをマークするのであった…。

 

 ―to be continued―