二次創作小説(紙ほか)

第十四話『青い炎の使い手のヒトカゲ』 ( No.14 )
日時: 2023/09/04 15:38
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 side―なし―

 

 「ピジョー!」

 「ピジョット、すみません…今は耐えて下さい。でも、あっちもこっちもオニドリル達に囲まれてて逃げ道なんて…。嫌、落ち着いて考えるんだ。必ずどこかにある筈…逃げ道が…」

 

 ドリル嘴などと言った接近タイプの技を繰り出しながら猛追してくるオニドリル達を疲労が蓄積された体を精一杯に動かしてかわしていくピジョット。

 少年―アオはそんなピジョットに優しく声をかけ、焦燥感に駆られるも何とか鎮めさせようとしていく。

 そして、良い案を考えようとするも突然目前を迸る一筋の雷撃に驚愕してしまう。

 それはアオだけではなかった―オニドリル達もまたその攻撃に驚いてしまい、アオのピジョットから距離を取ってしまう。

 アオは気になり、その雷撃が放たれて来た方向に視線を投げる。

 すると、一匹のピジョンの姿が彼の視界に映った。

 

 「ピジョン…!? ―嫌、他にもピジョンの背中に乗っているみたい…」

 

 その突如現れたピジョンに一瞬敵の増援か…と思うも、雷撃を目にして離れていくオニドリル達の姿を見ると自分達を助けに来てくれたのか…とそんな都合の良い事を考えてしまう。

 

 「でも、野生のポケモンが自らこんな行動を取る筈がないですよね…。もしかしたら、トレーナーの指示でオニドリル達を攻撃したに違いないですし…。だとすると…」

 

 言葉を途中で濁らせ、地上を見下ろしていく。そこには小さくもこちらを見上げてくる人間の姿が確認出来た。

 その数は三人…。

 

 「トレーナーは彼らでしょうか…」

 

 その事を理解すると再度ピジョン達の方に視線を移す。

 眩い光を浴びるオニドリルとその光を放っているピカチュウが視界に映る。

 他にも、無数の黒い針が…青い炎がオニドリル達に直撃していくのを目視した。

 さっきの凄まじい電気技もこの子の物…。じゃぁ…、あのトレーナー達は助けてくれる為にこのポケモン達を…。

 その助けが来てくれた事に彼は「良かった…」と小さく呟き、緊張感から解放されていく。

 それと同時に意識が次第に朦朧となっていき、手放していった。

 

 side―トウヤ―

 

 「トウヤ、ピジョン達が戻って来たよ。ニドラン戻って…」

 「あぁ…、わかってるよメイ。ピジョン、ピカチュウ有り難う戻って休んでくれ」

 「ミニリュウもね…」

 

 僕達はへとへとになって戻って来たポケモン達を其々のモンスターボールに戻していく。

 そして、

 

 「あの…大丈夫ですか…?」

 

 ピジョンと一緒に降下して来たピジョットが心配そうに見つめる一人の少女に声をかける。その子の身長は僕達よりも高かった為に年上である事がわかる。

 「う…」と呻き声を上げて次第に意識が回復していくと直に体を起こし上げようとする。

 

 「―ッ…!?」

 

 その瞬間、言葉に出来ない程の痛みが体全体を駆け巡っていき、表情を顰めた。

 

 「無理しちゃ駄目ですよ。今はゆっくり休んで下さい」

 

 メイが直に彼女の体を支えると丁寧な言葉使いで言い聞かせていく。

 

 「でも、早く逃げないと…。彼奴らが…」

 「彼奴ら…?」

 

 その力のない声に僕とリーフは頭にクエスチョンマークを浮かべながら互いを見合うもピジョットに促され上空へと視線を移す。

 そこには先程僕達が魅了されていた一機の飛行船が…。

 

 「なる程、あの飛行船を操縦している連中に追われて居たって事ね」

 「でも、今は早くここを移動して別の場所に彼女を移さないと…」

 「そうだね」

 

 リーフは顎に手を当てながら、彼女達の経緯を推測していき納得する。

 そんな彼女の様子を瞳に映しながらも、まずはこの疲れ切っている少女を安全な場所に連れて行かなければと考えて言葉にしていく。

 メイはそれに頷いてくれた。

 「え、彼女…?」とどこからかきょとんとした声が聞こえてくるも僕は直にピジョットにモンスターボールに戻るように頼み、彼女を背中に担いでいく。

 

 「リーフ、メイ行くよ!」

 「うん!」

 「えぇ…、わかってるわ。ミニリュウ、あの飛行船に向かって白い霧!」

 

 リーフ達に行くように促すと走り出した。

 その途中でリーフがしなやかなブラウン色のロングヘアーを靡かせて飛行船の方に振り向き、ミニリュウを出して白い霧を命じていく。

 飛行船の周囲にはミニリュウが口から吐く白い霧が徐々に充満していき、彼らの視界を奪っていった。

 

 「これで当分は大丈夫かしら…」

 

 リーフはその白い霧に包まれていく飛行船の姿を見て、安心したように呟くと僕達に追いつく為に走り出す。

 

 side―なし―

 

 ここは飛行船の操縦室…。

 

 「何なんだい、彼奴らは…!?」

 

 カレンはモニターを覆い尽くす白い霧にギリッと奥歯を噛み締め、ドンッと思いっきりコンソール上を両手で叩いた。

 

 「姉御、落ち着いて下せぇ…。まだ遠くまで逃げたって訳じゃ…」

 

 その怒り狂った彼女に怯えながらも、何とかその怒りを沈まさせる為に必死になってなだめようとするゲイル。

 彼は体中から冷や汗を掻いていく。

 

 「ハッ…、あんたは黙ってな!」

 

 カレンは睨みながら、怒声を上げる。その気迫に押されたゲイルは大きな体躯に似合わない程の小さな悲鳴を上げた。

 彼女はそんなみっともない部下の姿にフンと鼻で笑い、霧で覆い尽くされたモニターを睨みつける。

 正確にはその霧の向こう側に居るトウヤ達を…。

 ―絶対に逃がさないよ。そして、見つけ出したら…まずはアタイの邪魔をした三人のガキ共を血祭りに上げてやろうじゃないか…―

 心の中でそう思うと気持ちがスッキリしたのか、フッと不敵な笑みを浮かべていた。

 

 side―リーフ―

 

 真夏の暑さが容赦なく私達から体力を奪っていく。

 今、私達は先程助けた少女を連れて飛行船から出来るだけ距離を取る為に走っていた。ずっと走って居たせいか…段々と息が荒くなってくる。

 

 「ハァ…ハァ…、ここまで来れば大丈夫かしら…」

 

 そして、私は草原の中に立つ大きな大樹を見つけるとトウヤ達を手招きして彼らを誘導する。

 その太陽からの光が遮られた空間でペタンと座り込むとトウヤ達も疲れ切った膝を崩していった。

 

 「降ろしますよ」

 

 背中に背負っていた少女を降ろしていくトウヤ。

 

 「有り難う御座います。後、私…女の子じゃありませんから…」

 

 少女は丁寧な口調でお礼を述べていき、さらっと衝撃の事実を言葉にする。

 

 「えっ…!?」

 

 その一瞬の言葉に呆然とする私達…。

 次第に我に帰っていくと今度は罪悪感に苛まれていく。

 

 「あの…―「本当にすみませんでした!」―トウヤッ…!?」

 

 女に間違えられた事を良く思っていないだろうと考え、直に謝ろうとするも隣から聞こえてきた謝罪の言葉に驚き、視線をそっちに映すと頭を下げたトウヤの姿があった。

 

 「頭を上げて下さい。私…良く女の子に間違われる事がありますから…こういうのって結構慣れているので大丈夫ですよ。それより、オニドリル達に襲われていた所を助けて頂いて有り難う御座います。私の名はアオと申します」

 

 その少年―アオさんは落ち着いた態度で優しく接してくれて丁寧にお礼まで言ってくれる。

 その彼の礼儀正しい対応に好印象を抱き、私達も自己紹介を簡単に済ませていく。

 

 「私はリーフです」

 「トウヤって言います」

 「メイです」

 「宜しくお願いしますね、皆さん…」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべながら、アオさんが言ってくる。

 

 「はい、こちらこそ…。それでお聞きしたい事が何点かあるんですけども…」

 

 私は彼に言葉を返すと自身の中で気になっていた事を聞き始めようとする。

 

 「そうですね、話さないといけないですね…。なぜ私があの飛行船に追われていたのか、そして彼らがどういう者なのかを……大体貴方が聞きたいのはこの二点ですよね…?」

 

 彼は直に私の聞き出したい事を理解し、二つの要点に纏めて尋ねてくる。

 私はそれに深く頷き、肯定の意を示した。

 

 「じゃぁ…、まずは彼らがどういう者なのかって所から教えた方が良いですね。彼らはポケモン密猟団『ファンタシア』。まだ、名を上げても居ない密猟者達の集まりです」

 「ポケモン密猟団…?」

 

 メイは初めて聞くその単語に小首を傾げる。

 

 「メイ、ポケモン密猟団って言うのは簡単に言えば珍しいポケモンを捕えて私益を得る為にそれを相手と高い金額で取引をする犯罪者達の集まり…まぁ、悪の組織って言っても強ち間違いじゃないと思う…。そして、彼らはその珍しいポケモンに例えトレーナーが居ようとも必ず奪う為にいろんな手段を取って来るわ…」

 「そうなんだ。…何だか、許せないねその人達!」

 

 私はそんな彼女にハァッ…と深い溜め息をつくと教えていく。

 彼女はそのポケモン密猟団に対して憤慨するのであった…。

 

 「それでファンタシアに追われている理由はね、この子なんです。参りましょう!」

 

 その遣り取りが終わった事をアオさんが確認すると、一つのモンスターボールを空中に投げていく。

 その狙われているポケモンが一体どんな物なのかと言う事に少し興味を持ちながらも背後には緊張感が走る。

 そして、眩い光を纏った一匹の蜥蜴ポケモン―ヒトカゲがその姿を露出していく。

 

 「カゲェ―!」

 

 そのヒトカゲの姿に予想が見事に外れる。

 

 「炎タイプかぁ…でも、小さいから大丈夫かな…」

 

 メイは表情を顰め、どこか若干引き攣った声を上げる。

 メイって炎タイプのポケモン苦手なのかな…。

 

 「えーと、このポケモンのデータは…」

 

 トウヤはそそくさとポケモン図鑑を起動させた。

 

 『ヒトカゲ、トカゲポケモン…ウマレタトキカラシッポニホノオガトモッテイル。ホノオガキエタトキソノイノチガオワッテシマウ』 

 「ふ~ん、そうなんだ」

 

 その図鑑から発せられる機械音に納得していくトウヤ。

 

 「あのアオさん、もしかしてこのヒトカゲが狙われる理由は希少種で現在はあまり見かけられなくなっているからですよね…?」

 

 私は自分なりの推測を述べていくとアオさんに訊ねていく。

 そう、ヒトカゲは旅立つトレーナーに渡す最初の三匹から選べられる初心者用ポケモンで時が経つにつれ旅に出る子が増えていく為、その分を補給し続けているのが原因か最近ではその野生の数は激減して来ている。

 でも、それはヒトカゲだけではなく、他の御三家であるフシギダネやゼニガメも同じである。

 

 「そうですね…、でもこの子が狙われている理由は別にあるんです。ヒトカゲ、見せて上げて下さい。青い炎です!」

 「カゲェ――!」

 

 その瞬間、突如ヒトカゲの尻尾の先端で燃える赤い炎が美しくも煌々と燃えたぎる青い炎へとその姿を変えていき、大きく開いた口からは深海を思わせる程に青く燃えたぎる炎を吐いていく。

 青い炎は周囲の草達を焼き焦がしていった。

 

 「嘘…!?」

 

 その光景に私達は言葉を失うのであった…。

 

 ―to be continued―