二次創作小説(紙ほか)

第十六話『衝突』 ( No.16 )
日時: 2023/09/09 08:30
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 私は炎で燃え盛るトキワの森を見てあの日の出来事を思い出してしまう。

 それは、私にとってとうに過ぎた過去であり、胸の奥深くに閉じ込めていたはずの辛い…辛い出来事…。

 私の大切なお父さんやお母さんを奪ったあの日の火事の事を…。

 その事を今、目前で炎上しているトキワの森と連想させてしまい、頭の中が次第に真っ白になっていく。

 そんなトラウマを克服出来ない自分自身に対して情けなさと悔しさを感じるのであった…。

 

 side―なし―

 

 「やはり、あなたがたの仕業だったんですか…、ファンタシア! あなたがたの狙いは私のヒトカゲでしょう。―なら、なぜこんな非道な事を…このトキワの森に住むポケモン達は関係ない筈なのに彼らの住処を炎上させるなんて…!」

 

 アオは目前で悠然としている一人の女性に対して怒りの矛先を向ける。

 しかし、女性は怯える事なくニッと不敵な笑みを浮かべていき、

 

 「そうだねぇ…、でもこれは仕方がない事なんだよ坊や~。だって、アンタ達は飛行船の追跡から逃れる為に必ずこのトキワの森に入り込むだろう。なら、空からの追跡が無理になる私達に残される手段はこうやってトキワの森を炎上させてアンタ達を誘き出す事だけさぁ」

 

 冷たい眼差しで見つめて来る。そして、冷笑を浮かべて周囲で煌々と燃える炎を見渡していった。

 その彼女の行動が、表情が…態度が次第にアオを怒らせていく。

 基本的に彼は心優しく怒る事は無かったが、ヒトカゲを奪いたいと言う私欲の目的の為だけにトキワの森を炎上させた彼らの非道な行為に…、―そして彼の好きな所でもある静かな場所が荒らされた事に対して彼の内で怒りの感情がピークを過ぎていた。

 

 「良い加減にして下さい…」

 

 アオは小さくも力が籠った怒声を上げた。ヒトカゲはそんな初めて見る主の姿に一瞬驚愕してしまい、振り向いてしまう。

 

 「へぇー、アンタでも怒る事はあるんだねぇ。今までアンタ達の事を追って来たけどアンタのそんな表情を見たのは初めてだから驚いたよ…」

 「それは良かったですね、――ヒトカゲ、切り裂くです!」

 

 アオはそんなカレンの面白がる声を軽く流して、ヒトカゲに指示を飛ばす。

 

 「カゲト――!」

 

 ヒトカゲは颯爽と草木達を燃やし続けるブーバーに向かっていき、右爪を光らせていく。

 

 「姉御の邪魔はさせねぇぜ、カイリキー…空手チョップで受け止めろ! 」

 

 刃向かって来た野生ポケモン達を倒したカイリキ―がブーバーの前に立ちはだかり、右肩に生えた腕で切り裂くを受け止めヒトカゲの右腕を捕える。

 

 「そこで連続メガトンパンチ!」

 

 その隙を見逃さずに残りの三本の腕でメガトンパンチを次々にヒトカゲの各部に決めていき、最後のパンチで吹っ飛ばした。

 

 「カゲトォ―――!?」

 

 アオの近くまで吹き飛んでしまう。

 

 「ヒトカゲ、まだ行けますか…?」

 

 吹き飛んで来たヒトカゲが心配になり、声を掛けていく。

 ヒトカゲはその問い掛けに小さく頷き、アオの前に出ると尻尾の先端で煌々と燃えていた炎がその凄まじさを徐々に増していく。

 その光景に敵は目を見開いてしまうも、アオには直にそれが何を表しているのか理解出来た。

 ―――発動したヒトカゲの特性『猛火』を…。

 

 「猛火ですか…、なら…これはどうでしょうかヒトカゲ…」

 

 ふと何か思いついたのか、ヒトカゲに突如問い掛ける。

 

 「カゲトォ?」

 

 突然のアオの問い掛けにきょとんとした表情で振り向いて来るヒトカゲ。

 

 「猛火発動状態で青い炎を使うと言うのは…」

 「カゲト。 カァーゲトォ―――!」

 

 アオに了解したと頷き、スッと上空を見上げるとけたたましい鳴き声を上げていった。すると、尻尾の先端の炎が青白い炎へと変化し、一気に勢いを増していく。

 

 「まさか、これ程までに…!?」

 

 カレンはそんな激しく燃え滾る青白い炎を見て、恐怖していく。

 ゲイルやカイリキ―達もまた一歩後退りしてしまい、怯えてしまう。

 

 「さぁ、反撃させて貰いましょうか…ヒトカゲ、青い炎です!」

 

 その指示と共に青い炎がカイリキー目掛けて放たれていく。

 

 side―トウヤ―

 

 僕はアオさんを探し出す為にトキワの森の中を走り回っていた。

 

 「酷い…」

 

 その途中で視界に映る悲惨な光景に心を痛めていく。

 鬱蒼と茂っていた木々達は炎によって焼かれ、野生のポケモン達は燃え盛る炎から必死になって逃げていた。

 

 「助けないと! ピカチュウ、波乗りで消火するんだ!」

 

 直に助ける事を決意すると、ピカチュウを出して広まろうとする火事を消火する為に広範囲に放てる波乗りを指示する。

 

 「ピッカ!」

 

 ピカチュウはこくりっと頷き返し、足元から大波を作り出して燃え滾る炎へと向かっていき、消火していく。

 その技の威力は格段に上がっていた。

 

 「これも修行の成果なのかな…」

 

 だが、波乗りを受けた場所は完全に消化された物の、まだ至る所で太陽のように煌々と燃え滾る炎の存在が確認出来、それは遠くまで及んでいて全てを消火するのに時間が掛かる事が理解出来た。

 

 「これじゃ、埒が明かない…」

 「ピピカ…」

 

 ピカチュウが困り果てた表情で見上げて来る。

 良し、こうなったら…!

 

 「ピカチュウ、僕達と今から二手に別れないか…? 火事を消火するAチームとアオさんを探し出すBチームの二チームに…。波乗りを使えるピカチュウにはAチームに回って貰って、僕とフシギダネ達がBチームに入る。いいな…?」

 「ピィーカ、ピカーチュ?」

 

 ピカチュウに「私、一人なの…」と不安そうに聞かれ、苦笑してしまう。

 

 「居るだろう、僕達にはまだ仲間が…。リーフには水タイプのゼニガメが居るから消火の方は大丈夫だし…、彼女は機転が利いて頼りになる」

 

 「ピピカ、カピカ…ピカーチュ?」

 

 ピカチュウは言葉の中にメイの事が含まれて居なかった事が気になったのか、見上げて来る。

 僕はそんなピカチュウの頭を撫でながら、

 

 「メイなら大丈夫だよ…、芯が確りしてるし…。だって、彼女は病院に居た頃だって僕とは違って全然両親が居ない事に弱音を吐かなかったし、泣きもしなかった。それも彼女の精神力が強いからで、今回だって必ず直に這い上がって来ると思うよ…彼女なら…ね、ピカチュウ」

 「ピッカチュウ!」

 

 メイの芯の強さを説明していく。ピカチュウはそれに納得してくれたのか力強く頷いてくれた。

 

 「それじゃ、行って来るよピカチュウ!」

 「ピッカ!」

 

 僕はアオさんを探し出す為に走り出す。

 ピカチュウもまた波乗りで火事を消火しようと奮闘していく。

 仲間達が来てくれるのを信じて…。

 メイが立ち直ってくれるのを信じて…。

 でも、今の僕にはメイが芯を強く持って居られる理由が他にある事に気付く事が出来て居なかった。

 

 ―to be continued―