二次創作小説(紙ほか)

第十七話『凶薬』 ( No.17 )
日時: 2023/09/10 15:13
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 私は両親を失った事で心に大きな傷を負いながらも、左脚部に負ってしまった大きな火傷を治療する為にヒウン総合病院に遣って来る。

 その環境の変化にも慣れずに病室に引き籠ってしまう。

 その頃の私はあらゆる事に対してネガティブな考えしかせず、唯一日中ベッドの上に横たわって啜り泣く事しか出来なかった。

 でも、一年前のあの日に―七夕が行われる七月七日にある一人のピカチュウを連れた少年と出会い、彼のお陰で自身の闇の中から抜け出す事に成功する。

 そして、私はある一つの事を決意する―彼らと一緒に居る時だけでも良いから、涙を見せずにずっと一緒に居ようと…彼らがどこかに行くのであれば必ず一緒についていこうと…。

 ―そこが両親を亡くし、家を失った私にとっての唯一の居場所なのだから…。

 

 side―リーフ―

 

 私は今、メイを休ませるべく炎上するトキワの森から離れた場所にある一本の大きな大樹の所まで戻って来ていた。

 そう、ここは昨日一度休憩を挟んだ場所。

 

 「メイ、ここだったら少しは落ち着くわよね…」

 「……うん」

 

 隣に座らせたメイに気遣うように尋ねていくと、彼女は力なく頷く。

 私はそのメイの様子に心配になりながらも、頭の片隅ではどうしてメイが先程取り乱してしまったのか疑問に思ってしまう。

 大分、この状態は深刻ね…。でも、どうしてメイは炎上したトキワの森を見て過呼吸になったのかしら、もしかして過去に何か火事で大切な物を失った事があってそれが原因になっているのかしら…。

 それとも他に…。

 

 「―ねぇ…、リーフ。少しだけだけど良くなってきたかな…」

 

 メイは少し余裕が出来たのか、覚束ない声ではあるが次第に体調が良くなってきた事を伝えて来る。

 

 「そう、なら良かったわ。でも、もう少し休まないと…」

 

 私はそんな力なく笑う彼女にこくりと頷き、優しくも小さな声で彼女に言い聞かせていく。

 でも、

 

 「トウヤ、トキワの森に行ったんだよね…アオさんを追いかけて」

 

 その発せられた言葉に一瞬固まってしまうも、肯定する。

 

 「えぇ、そうよ。でも、アオさんの事はトウヤに任せて…メイは休んでなさい」

 

 「私も行くから、安心して」と小さな声音を放ち、スッと立ち上がる。

 

 「リーフも行くの、トキワの森に…。――なら、私も!」

 

 メイは無理に立ち上がろうとするも直に気分が悪くなり、体がゆらめいて崩れていくも私の咄嗟の反応に助けられる。

 

 「駄目よ、メイ。まだ気分が悪くて歩けないようじゃ…。仮にまたトキワの森に行ったら今度は本当に倒れちゃうわよ…!」

 「―でも、それでも行きたいの…! トウヤ達が心配だから、お願い…リーフ」

 

 メイは純粋な願いを言葉にすると、真っ直ぐな瞳で見つめて来る。

 

 「……ハァー、わかった。でもね、一つだけ約束して必ず無理しないって…」

 

 肩を竦めて、深い溜め息をつくと彼女がついて来る事を許す代わりに一つの条件を出す。

 

 「うん!」

 

 メイは苦しいながらも出来るだけの笑みを浮かべて返事を返して来た。

 

 side―アオ―

 

 「カイリキ―!?」

 

 煌々と燃える炎の中で青い炎を体中に纏わせたカイリキーが情けない恰好で倒れていく。

 

 「それで終わりですか…」

 

 私は冷ややかな声を相手に放つも、息を切らし始めているヒトカゲを不安げに見つめる。

 ヒトカゲはそんな私に向かって無邪気な笑みを浮かべながら、Vサインをして来る。

 ―だが、

 

 「八ッ…、ゲイル―アンタ…情けないねぇ。坊やにやられるなんて」

 

 女性が部下である筋肉質の男を見下すような眼差しで見つめ、揶揄するような言い方で貶していく。

 その右手にはモンスターボールが握られていた。

 

 「まぁ…、見てな…私がこの坊やを倒してやるからさ! いきな、エレブー!」

 「エーレ!」

 

 眩い光を纏った電撃ポケモン―エレブーが現れ、僕達の前に立ちはだかる。

 

 「さぁ、エレブー。あのヒトカゲに電撃波を喰らわせな!」

 「エーレブ―!」

 

 エレブーが右手で作り出した球状の形をした電撃を放って来る。

 

 「電撃波は必ず相手に命中する技。―なら、ヒトカゲ…青い炎で壁を作って防いで下さい!」

 「カァーゲトォ―!」

 

 ヒトカゲは頷き返し、直に周囲に向かって青い炎を吐いていき、青い色をした炎の壁を作り出す。

 電撃波は完全に防がれるも、それを防いだ場所には一つの大きな穴―ヒトカゲの元へと繋がる一つの道標が出来てしまう。

 

 「抜け道が出来たようだねぇー。エレブー、――破壊光線!」

 

 女性はその事にニッと不敵な笑みを浮かべるとエレブーに指示を飛ばしていく。

 それと同時にエレブーの口から凄まじい速さで一つの禍々しい光を帯びた閃光が放たれていく。

 

 「カゲェ――!?」

 

 その余りの速さで向かって来る破壊光線を目前にして恐怖してしまい、動けなくなるヒトカゲ。

 

 「―――危ない!」

 

 私はそんなヒトカゲを助けたいと思い、庇う為に前に飛び出す。

 そして、トキワの森で大きな衝撃音が響き渡り、爆炎が一瞬にして広まっていった。

 

 side―リーフ―

 

 太陽が西に沈みかけた夕刻。

 炎で燃え滾るトキワの森はさらにその赤みを増していき、私達はその光景を視界に焼き付けていく。

 

 「―メイ…行ける…?」

 

 その光景を目前にしてメイは大丈夫なのか…と心配になり、不安げに揺らぐエメラルドの瞳で彼女を見つめる。

 メイはそれに気付いたのか…、

 

 「……うん、全然問題ないよ…リーフ。―だから、行こう!」

 

 虚ろになり掛けていた瞳に再び生気を取り戻すと一瞬の間を置いて、力強く頷いて見せた。

 

 「…わかったわ」

 

 そんなメイの無理に元気を見せる姿に心の中で渦巻く不安が一層強くなるも、追及する事を止め小さくも諦めたのついた声で承諾の意を示す。

 

 「有り難ね、リーフ」

 

 メイはそんな私の気持ちに気付き、小さな声でお礼を呟くとトキワの森へと走り出す。

 私もまたその後を追うのであった…。

 

 side―トウヤ―

 

 どれだけ走ったのだろうか…。

 消火する為にあの場所に留まったピカチュウと別れて、どれだけの時間が経ったのだろうか…。

 僕は必死になって炎の中を掻い潜って辺りを見渡しながら、アオさん達を捜していくも見つける事が出来ない。

 数十分前からピジョンに空中から捜索して貰っているが、そっちも全然見つからないのかまだ戻って来て居なかった。

 

 「アオさん、一体どこに…」

 

 改めて、周囲が炎で煌々と燃え滾る中を見渡していく。

 すると、その途中で木達に纏わりつく深海を思わせる程の青い炎を視界に映す。

 

 「あの青い炎…って―まさか!?」

 

 その炎に一瞬悩んでしまうも、それが直にアオさんのヒトカゲの物だとわかり、その燃えている方向へと再び走り出した。

 

 「ピジョンも気付いていると良いんだけど…」

 

 side―アオ―

 

 「カーゲ…、カーゲトォ」

 「ヒトカゲ、無事ですね。それから、有り難う御座います。お陰で助かりました」

 「ピジョ…!」

 

 私は心配そうな表情をして寄って来るヒトカゲの頭を撫でながら、目前に立つ一匹の鳥ポケモン―ピジョンに対してお礼を述べる。

 そう、先程エレブーが放った破壊光線は突如現れたこのピジョンが咄嗟に作り出した半透明の球状の形をしたバリアによって防がれたのだ。

 そのピジョンがトウヤ君のポケモンである事を思い出し、心の中ではこれで助けられたのは二度目か…とこっそり思い感謝の気持ちを抱くも、その分何かで返さないと…と言う風に考えてしまう。

 でも、今は…ヒトカゲを奪おうとする彼奴らを何とかしないと…。

 ―また、自由に大空を飛び回る為にも…。

 

 「何だい…あんまりダメージを受けていないようだねぇ~、…坊や。―なら、次でケリをつけさせて貰おうか」

 

 爆炎が止むと同時に一人の女性とエレブーが次第に肉眼で捉えられるようになっていく。

 その女性の指示を受けたエレブーが右手に電撃を纏わせてこちらに疾走して来る。

 

 「ピジョン、すみませんが守るを解除してくれませんか…。後は私達が引き受けますので…」

 「ピジョ…!? ―ピジョ」

 

 行き成りの頼み事に一瞬驚愕するピジョン。だが、このまま守るを多用すると失敗に終わる事を知っている彼は大人しくそれを受け入れ、守るを解除する。

 そして、私達の後ろへと下がってくれた。

 

 「有り難う御座います…。―ヒトカゲ、ドラゴンクローで受け止めて下さい。そして、受け止めた後は火炎放射です」

 「カーゲト!」

 

 ヒトカゲは迫り来るエレブーの雷パンチをドラゴンクローで受け止め、顔面目掛けて今度は煌々と燃え滾る赤い炎を吐いていく。

 

 「爪が甘いね、坊や…そんなんじゃ、アタイのエレブーは倒せないよ。エレブー、電磁波だよ」

 「―ッ…。―レ…ブゥ――!」

 

 顔面を真っ黒に染めながらも、電磁波で確実にヒトカゲの自由を奪っていく。

 

 「カゲェ―!?」

 「ヒトカゲ、大丈夫ですか…」

 

 電撃を体中に浴びたヒトカゲが地面に這い蹲ってしまう。

 

 「さぁ…、まずは戦闘不能になって貰おうか…エレブ―「フシギダネ、葉っぱカッターだ!」―何だい!?」

 

 ヒトカゲに止めを刺そうとする女性。だが、それは別の方向から飛んで来た無数の葉っぱによって阻止される。

 

 「間に合ったみたいだね」

 「ダネフッシャ」

 

 私はヒトカゲの元へと歩み寄り、抱き抱えると葉っぱカッターが放たれて来た方向へと視線を移す。

 すると、そこには帽子を被った一人の少年と背中に大きな種を背負った一匹のポケモンが居た―トウヤ君とフシギダネだ…。

 

 「ピジョ―!」

 「アハハ、じゃれ付くなよピジョン。御免な、遅れて…」

 

 そんな彼らの遣り取りを目前にして次第に体中を鎖のように絡み付いていた緊張感から解放され、自然と笑みが零れてしまう。

 

 「ちょっと、アンタ達…何呑気に遊んで居るんだい、戦いはまだ終わって居ないんだよ。特にそこのガキ!」

 

 女性はその仄々とした光景にいらつき、怒声を上げて最後にはトウヤ君に人差し指を向けて来る。

 トウヤ君はそんな彼女の行動を軽く流すと辺りに燃え盛る炎を撒き散らすブーバーを見て、それが女性のポケモンだと気付くと鋭い眼差しで睨みつける。

 怒ってるんだ…、トキワの森を炎上させた彼女に対して…。

 

 「アハハッ…、何怒ってんだいアンタは…。まぁいいさ…、やっともう一つの目的を果たせそうなんだ。いくよ、エレブー」

 「レェーブ!」

 

 彼女は空中に向かって数十個にも及ぶ小さな飴玉を投げていき、エレブーは勢い良くそれらを飲み込んでいく。

 それと同時にエレブーの体躯が徐々に大きくなっていき、その顔付きがさらに険悪な物へと変貌していった。

 

 「――さぁ…、始めようじゃないか…第二ラウンドを…!」

 

 ―to be continued―