二次創作小説(紙ほか)

第八話『強くなるために』 ( No.8 )
日時: 2023/09/18 14:29
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 友達なんて要らない…。
 それが両親を亡くした幼い頃の私が胸の中に密かに抱いた思いであり、私自身を傷つけたくない為に下した一つの決断…。
 誰共繋がりを持たない事でもう失う時の痛みを、悲しみを背負わなくて済む…抱え込まなくていい―そう考えていた。
 繋がりを持つのは御祖父ちゃんと大切なポケモン達だけでいい……それでいいと…。
 でも、一人のピカチュウを連れた少年と戦い、元気一杯な少女に誘われる形で一緒に旅に出てしまう。
 その時、私は誘われた事に内心嬉しさを感じるも、心の奥底ではまた失うのではないかと言う不安に次第に覆われていく。
 両親のように死に、兄のように私の前から消えていくのではないのか…と。
 だが、少女に発せられた「一緒に旅をしたら友達になれる」と言う言葉に心を馳せてしまい、そのまさかを考えてしまう様になっていく。
 そして、私はそんな自分に対して嫌気がさしていくのであった…。

 side―リーフ―

 蒼天で広がる青い空…。無窮に広がる広大な自然に囲まれ、清純な空気が周囲を漂った永遠なる緑の街―トキワシティ。
 マサラタウンからメイによって引きずられるような形で連れてこられた私は二人と一緒に一番道路を一日で通過し、今ここ―トキワシティに来ていた。
 そして、バトルで傷ついたポケモン達を回復させる為にポケモンセンターへと向かって歩いていた。

 「ねぇ、リーフ…たしか、ここにジムがあるんだよね…」

 すぐ左横から声が聞こえてきた為、振り向くと小首を傾げたメイが視界に映った。

 「えぇー、まぁあるにはあるんだけど。でも、今はここのジム戦できないのよね…」

 その彼女の疑問に私は小さな頷きで応じ、ジム戦ができないんだと考えると残念な気持ちになる。

 「何でジム戦できないの…?」

 彼女は私のその返答にまだ納得できていないのか、上目使いに不思議そうに尋ねて来る。
 ジムがあるのになぜジム戦ができないんだと言う当り前な反応を見せてくる彼女に苦笑しながら答えていく。

 「いないのよ、ジムリーダーが…。理由は分らないんだけど…。でも、ここ数年は戻ってないのは確かだから…」
 「そうなんだ…」

 「ふうん…」と言う感じで頷くメイ。

 「そんなぁ~」

 そんな彼女とは違い明らかにショックを隠し切れない声が聞こえてきた為、右側に視線を投げる。
 すると、ショックが大きいのか残念そうな表情をしたトウヤが居た。

 「トウヤ……?」
 「ト、トウヤ大丈夫だよ…。何時かジムリーダー戻って来てバトルできると思うよ。ね…、リーフ」
 「そうね…」

 行き成り、激しく落ち込んでしまうトウヤの姿に驚く。
 しかし、トウヤがジム戦などを入院している時にどれだけテレビから観戦して自分もあの場に立ち熱いバトルを繰り広げる事を楽しみにしていたのかを理解していたメイは何とか励まそうと奮闘する。
 だが、それは本人を元気づけるには不十分だったのかそれともジム戦ができない事に対してのショックが余程大きかったのか私達の声が全然届いていないようだった。

 「それって何時なんだよ―――!!」

 そのトウヤの叫び声がトキワシティの中を響き渡っていく。
 私も同じ気持ち何だけどなぁ…。

 side―なし―

 「ほっ…ほっ…、若いのはいいのう…」

 物陰からそのトウヤ達の様子を楽しそうに眺めている一人の老人がいた。

 「これは期待できるわい…。特にあのお団子娘には何か凄い物を持っている様に見える」

 老人はトウヤとリーフ、メイの三人を視界に映すと、三人に向かって何か気になるような瞳で見つめる。

 「試して見ようかのう…」

 手に取った二つのスーパーボールを宙に投げ、二匹のポケモンが出てくる。
 一匹は両手に赤いグローブを嵌めており、二足歩行でその姿はまるで人間その物だった。二匹目はヤシの木に足を生やし、個性豊かな顔が三つ付いていた。

 「では、二匹共頼むぞ」

 何か楽しそうな声を上げる主人に二匹のポケモンは互いに視線をあわせ合い、苦笑する。だが、小さく頷くと三人へと向かっていった。

 side―トウヤ―

 「ハァ…ハァ…、ごめん。叫ぶとかどうかしてた」
 「トウヤ…」
 「いいわよ、気持ちは分るもの」

 二人は呆れたような視線を送ってくる。
 僕はその視線に狼狽えながらも、自分の犯した過ちを悔やむのであった。
 だが、そんな僕達の前に二匹のポケモンが姿を現すと其々の技を駆使して襲い掛かってくる。

 「皆!」
 「えぇ、分ってるわ!」
 「うん!」

 何とか応戦する為に其々のポケモンを次々と繰り出していく。

 「さぁ、見せて貰おうかのう…お前さん達の実力を」

 遠く離れた物陰から一人の老人が僕達の始まろうとしているバトルを不敵な笑みを浮かべながらも、静かに静観するのであった。
 何もないトキワシティの道端で今、激しい戦いが繰り広げられていた。
 敵は二匹―ボクサーのような恰好をしたポケモンとヤシの木の形をしたポケモン。
 僕はリーフ達と別れ、フシギダネと一緒に前者のポケモンとバトルをしていた。
 そのポケモンは恰好だけでなく、そのバトルスタイルや繰り出してくるパンチ技もボクシング選手の物に極度に類似している。

 「何なんだ、このポケモンは…」

 幾ら入院していた時にテレビ越しで様々な公式のバトル大会などを観てきたとしても、そのバトルの舞台に立っていたのはイッシュ地方のポケモンでありカント―地方のポケモンは生まれてから一度も見た事はないと言っても良い程で目前に立つボクサーポケモンについては何も知らなかった…。
 そのため、右手でポケモン図鑑をリュックから取り出し、調べ始める。

 『エビワラー、パンチポケモン…プロボクサーノタマシイガノリウツッテイル。パンチノスピードハシンカンセンヨリモハヤイ』
 「なる程、これは強力な敵だな。―でも…」

 僕は何かに疑問を持ち、相手を見つめる―そう、このエビワラーからは戦意は感じられるも敵意は全く感じられないのだ。
 そんな僕の様子にお構い無しか、エビワラーは右手に電気を纏わせてフシギダネ目掛けて放ってくる。
 そのスピードは恐るべき物だった―嫌、今のフシギダネでは到底回避できない。
 ―なら、防ぐ方法は一つしかない…。

 「蔓の鞭で受け止めるんだ…!」
 「ダーネダー!」

 その指示に了解したとばかりに鳴き声を上げ、背中に背負った大きな種から二本の鞭を繰り出すフシギダネ。
 凄いスピードで放たれてくる右拳のストレートを雁字搦めにして間一髪で受け止めて見せた。受け止められた事に動揺を見せ、隙の出来たエビワラーの左拳も蔓の鞭で封じていく。それに蔓の鞭によって両拳を封じられた事でエビワラーは必殺のパンチ技を封じられてしまう。
 ――チャンスだ。

 「フシギダネ、その状態で止めの体当たりって…えっ!?」
 「ワラ―――!」
 「ダ―ネ!?」

 止めの一撃となる体当たりを指示しようとするが、それはエビワラーの見せた予想外の行動により出来なくなってしまう。
 必殺のパンチ技を封じた事で怖い物は無くなり、勝機はこっちにあると一瞬思った。しかし、エビワラーはまだ諦めていないのか…その瞳にはまだ戦意が宿っていた。
 それを証拠づけるかのように高い雄叫びを上げると同時に蔓の鞭に絡められている両腕を大きく斜め右上に振り払う。
 すると、小さな体躯のフシギダネは抗えないままに上空へと放り投げられた。
 エビワラーはそんな上空に投げ出されたフシギダネの隙だらけな格好に不敵な笑みを一瞬浮かべると右手に赤く煌々と燃え立つ炎を宿し、標的の急所に打ち込む為に飛び込んでいく。

 「あの技って…もしかして…炎のパンチ」

 僕はその技を一度テレビ越しに観ていた為にどういう物かすぐに思い出していく。草タイプのポケモンにとって相性が悪い事も…。
 もし、あんなのをフシギダネが喰らったら…。

 「負ける…」

 心に浮かび上がった単語を言葉にする。
 そして、それは現実の物へと変わっていく。

 「――――ダーネ!?」

 突如、聴覚に聞こえてくるフシギダネの悲鳴じみた鳴き声。
 それは試合の終了の合図にも聞こえた。

 「……フシギダネ」

 僕は弱弱しい声で大切なポケモンの名を言い、上空を見上げると炎のパンチがフシギダネの急所にヒットしている所が視界に、―瞳に映った。

 side―リーフ―

 「ゼニガメ、彼奴に向かって水鉄砲よ!」
 「タッツー、泡!」
 「ゼニー!」
 「タッツー!」

 私達はナッシー(種族名はポケモン図鑑で調べた)に向かって技を放つようにゼニガメ達に指示を送る。

 「ナッシ~」

 だが、ナッシーは三つの顔で余裕そうな表情を浮かべると体の周囲に半透明の球状のバリアを纏う。
 ナッシーを包んだその半透明の球状は二つの技を防いでいった。

 「何、あの技!?」

 困惑するメイ。

 「あの技は守るっ言うのよ。まぁ…、その名のとうりに全ての技を防ぐ事が出来るわ。でも、多用しようとすれば必ず失敗して終わるのが…唯一の弱点かしら…」

 私は初めて見る技に驚くメイに視線を向け、簡単に説明していく。

 「なら、こっちが攻撃の手を休めないでいれば、何時かは倒せるって事だよね」

 その守るの特徴を知り、相手に攻撃させる隙を与えずに守るばかりを使わせようと考えるメイ。
 しかし、私の瞳には煌々と輝くナッシーの姿が映った。

 「そうも出来そうに無いわね。敵もバカじゃないみたいよ…」
 「えっ!?」

 メイも光を帯びたナッシーに驚愕する。
 そして、ナッシーが放とうとしている技がソーラービームだと私はすぐに頭の中に思い浮かぶ。
 それを防ぐ為の対処法も…。 

 「メイ、聞いて。あの技はソーラービーム…。草タイプの中で高い威力を保持してるって言っても良い程の物なの。でも、その分チャージするのに時間がかかる筈、だからその隙をついてゼニガメ達の今最大威力を誇る技を全力で叩きこむ。―いいわね!」
 「うん、わかった。タッツー、濁流!」
 「理解が速くて助かるわ。ゼニガメ、冷凍ビーム!」

 メイが私の説明に納得したのか小さく頷き、タッツーに濁流を繰り出すように命令する。そのメイの理解の速さに感服しながらも、ゼニガメに冷凍ビームを指示する。
 二つの技がナッシーに向かっていった。
 だが、ナッシーの方もチャージが済んだのか吸収した光―ソーラービームを放っていき、三つの技が激突し合う。
 それによって生じた爆風が私達の視界を奪っていった。

 side―なし―

 「ほう…、これはこれは…」

 そのトウヤ達のバトルの様子を物陰から見ていた一人の老人が不敵な笑みを浮かべる。

 「結構、遣るのう…あ奴ら」

 そのトウヤ達の戦い方に興味を持つも、今度は真剣な瞳で見つめる。

 「もしかしたら、あ奴らなら…彼奴を止めてくれるかもしれない…」

 その小さき希望を抱き、老人はトウヤ達の元へと歩みを進めていった。

 side―トウヤ―

 「大丈夫か、フシギダネ」
 「ダ~ネ…」

 僕は先程の戦いで戦闘不能になってしまったフシギダネを抱き抱え、心配する。
 しかし、フシギダネは思ったより大丈夫なのか、安心するように訴えてきた。

 「そうか、わかったよ。―でも…」

 そんなフシギダネの様子に安堵するも、目前で構えているパンチポケモン―エビワラーを視界に捉える。
 先程、フシギダネと戦った筈なのに全然疲れていないみたいで息切れすらしていなかった。代わりにその薄ら笑いをする表情には余裕さえ感じられる。
 その瞳には戦意が宿されていた。
 しかし、一向に敵意だけは感じられなかった。

 「どうしてだろう…?」

 心の中で出来た疑問を言葉にする。
 もし、このエビワラーが野生の場合は必ず敵意を持って襲ってくるだろうが、生憎僕達が戦っているフィールドはこのトキワシティ。
 その為、野生のポケモンが町の中まで来る事は殆ど無に等しい。
 それにエビワラーの生息地を調べてもこのトキワシティの近辺にある一番道路や二番道路などでは無く、全く別の場所を示していた。
 ―ならどこから…。
 その事がまた脳裏に思い浮かんでいた疑問を更に大きくしていく。
 しかし、悩んでいる途中に…、

 「ほっ…ほっ…ほっ…、もう良いエビワラー。ご苦労じゃった、戻って休んでくれ…」
 「あんた…何で行き成り攻撃してきた!」

 突然現れ、何食わぬ顔でエビワラーを戻す老人に一瞬呆気に取られてしまうも、行き成り襲い掛かってきたエビワラーのトレーナーだと知ると一気にピカチュウの入ったモンスターボールを構え、警戒していく。
 モンスターボールの中に入っているピカチュウもやる気十分なのか、モンスターボール越しに見える老人を睨んでいた。

 「ほっ…ほっ…そう熱くなるではないぞ、若人よ」

 老人は敵意向き出しの僕達に怯える事無く、朗らかに笑いながらやんわりと宥めようとしてくる。
 何かを残念がるような物言いになっていった。

 「残念じゃのぅ~、折角修行をつけてやろうと思ったのに…」
 「修行を…」
 「そうじゃ、このわし―ゲンスイがな…」
 「ハッ…、何言ってんだって…ゲンスイ!? ―あんたが…」

 「全く酷いのぅ…」とどこか項垂れながら拗ねたような言い方をするが、その声音からはショックを受けていないのが確認出来た。
 でも、今の僕にはそんな事は全く如何でも良い事であった。
 ゲンスイ―その青年は二十代に行かない内に全世界のジムを―ポケモンリーグを制覇し、ポケモンバトル千連勝を果たした事で全世界に名を馳せた伝説のトレーナーであり、僕の故郷―イッシュ地方でも彼の名を知らない人は一人もいない筈だ。
 まぁ、病院から余り出た事の無い自分が言えるわけがないが、少なくともヒウン総合病院―嫌ヒウンシティに居る住民からは彼の名を聞かなかった事はなかった。
 そして、この人は嘘を言っているのではないかと一瞬怪しいと思うも、あのエビワラーの強さは本物だった―ゲンスイのポケモンと言っても良いくらいに…。
 それにもし、彼に修行をつけて貰えるならどこまでも強く慣れる気がする…。

 「強くなりたいじゃろ…」

 その僕の気持ちを読み取っているかのようにゲンスイが不敵な笑みを浮かべて言ってくる。
 僕はその言葉に頷いた―心の中でどんな辛い修行も耐えて見せると言う決意を抱きながら…。

  ーto be continuedー