二次創作小説(紙ほか)

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.29 )
日時: 2023/10/15 16:42
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: zHNOEbBz)


 空の移動は便利である。
陸と比べて距離も縮まり、渋滞や混雑に巻き込まれる心配も無い。唯一の欠点は目立つことだろうか。
しかし、このような生活を続けて四年である。今更"目立つからイヤ"とはならなかった。

 今、彼が居るのは"長池ながいけ公園"と呼ばれている広い自然公園だった。
大学からここまで来るのに徒歩だと一時間、車などで十五分ほど掛かるものだが、空旅では五分ほどで到着する。
この土地は住宅地の真ん中に立ち、農業用の用水を池として溜め、その周囲を公園としているものだ。
しかも、その周りと言うのが元々この地に存在していた自然そのものを保存しているためか、面積もかなり広く、東京都でありながら自然を楽しめるという不思議な体験が出来る場所だった。開発される前は此処は山であったのだ。
池の周りには野鳥が多数生息し、野生のリスやタヌキ程度ならば簡単に遭遇出来る林も茂っている。都内では珍しい動植物もあるそうだ。
そして何より、特徴的なものがひとつ。

「……綺麗だけど、なんでよりにもよって此処に持ってきたんだ? あれ」

 池の水は水路を通して団地の傍を通り、近くの駅まで流れている。
その上に建っている、煉瓦造りの橋がなんとも言えない存在感を放っていた。
この公園には橋にまつわるモニュメントが立っている。それによると、この橋は大正時代に実際に造られたもので、元々は四谷よつやにあった。
当時橋の上は電車が通っていたようだが、流石に今は電車は通っていない。線路の一部が公園の敷地内に展示されているに留まっている。
橋をよく見ると、それに似合う西洋風の街灯が幾つか置かれている。夜になると点くようだが、今はまだ明るいため光は灯っていない。

「まさか……な」

 なばりは辺りを見た。橋が見え、水路が見える。
その傍らで遊ぶ子供たち、そんな子供たちに踏まれる青い芝生、そして公園の敷地をぐるりと回るように広がる散歩コースから見える林。

「……」

 言葉が出ない。敷地が広すぎる。
この公園の面積は一九万八四〇〇㎡もあるのだ。その中から決して大きいとはいえない石を一つ見つける事など最早不可能に近い。不可能でなくとも、かなり骨の折れる作業となる。

「はぁ……。今日はせめて二個ほどはメガストーン見つけておこうかと思ったのに……。これじゃあ無理だな。ここで一日潰れる」

 ひとまず隠は橋の付近を探すことに決めた。
ゲームに則っているとすれば、石の埋まっている地点は光り輝いているはずだ。確証は無いが、せめてそれくらいはあってほしいと淡く考えるのみだった。

 橋の周辺は石畳で覆われている。
仮にメガストーンが埋まっている地点が輝いていれば、陽の光が反射して分かりにくいだろう。そのため、隠は意識を足元に集中させ、目を凝らす。途中、意識しすぎたせいで足がもつれた。
しかし。

「……ねぇな」

 アプリでは確かにこの地を示している。しかし、それらしい物は皆無であった。全く見当たらない。

「見落としているかもしれないけど、一応近くを見たつもりだ……。芝生、石畳、橋の下……。どこを見ても見つからねぇ。やっぱりダメなのか? キーストーンが無いと」

 自分でももしや、とは思っていた。
メガストーンを手にする際はキーストーンも手元に無いと反応しないのではないのか、と。
もしもそうであるのならば非常に面倒である。基地に戻ってキーストーンを取りに行かなければならない。そこから、またこの公園に来なければいけない。その内にメガストーンが他人に取られる可能性もある。

 どうすればよいだろうか、と隠は腕を組み、唸りながら橋を見上げた。レトロともモダンとも思える、綺麗な橋だ。

「何を諦めているのですか? まだ探していない所がありますよ。例えば……あなたの目の前の池とか」

 突然何処からか声がする。知らない人の声だ。
反射的に振り向こうとしたが、それよりも先に本能が、身体が勝手に動いた。池に入れば全て終わると直感にして瞬間に気付いたのだろう。
隠は濡れて冷えるのも構わずに足をつけて池に入った。そして手で水を掻き分ける。

「ここか!? ここのどっかにあるんだな?」

 池の水は農業用の水である。見た目からしてあまり綺麗とは言えない。しかし、はっきりと汚れていると見て分かるほどでもない。せいぜい少し濁っている程度だ。
その中で、隠は必死に手を振る。
その功を奏したのか、指先が水底にある固いものに触れた。感触でそれが普通のものでないことが分かる。そしてあまり大きくない。
迷う暇はない。隠はそれを掴むと一気に引き上げた。

 見たことの無い石だった。
色合いは非常に透き通っており、青と黒の模様が刻まれるように付いている。その色でメガシンカのシンボルである遺伝子を模した模様が彩られていた。
この時隠は気付けなかったが、その石は"ギャラドスナイト"とゲーム内で呼ばれている道具である。

「これは……。これがメガストーンか?」

「はい。その通りです」

 同じ声がした。隠は今度こそ振り返る。声は背後から響いているからだ。
そこには、二人の人影があった。
一人はキャスケットを深く被って目元を隠し、シンプルな柄のカーディガンを着てカーキ色のチノパンを履いている。
もう一人は白装束に身を包み、髪も真っ白に染め、背が高かった。髪がかなり長いので女性とも思えたが、先程の声が如何にも男のものだったのですぐに男性だと判断する。声の主はこの白装束の男だった。

「お前は……」

「失礼ですが、あなたはジェノサイドで宜しいでしょうか。いえ、言葉を間違えました。あなたはジェノサイドですね?」

 その男は、隠が何か言うのを許さないかのようだった。遮られる。
同時に、隠の全身を悪寒が走った。一瞬ではあったが恐怖を感じた瞬間でもあった。
それはつまり。

「……ったくよぉ、絶対バレねぇ気でいたのに、何でお前らは見破る事が出来るんだろうな? 言っとくけど、俺は"そんな気分"じゃなかったんだ。こんな時に俺の名を求めてかかってくんじゃねぇよ馬鹿が。それに……」

 隠は白く長い髪の男をじっと見つめる。服も靴も白いので正に真っ白な人間だ。

「今、深部ディープ集団サイドでは和服でも流行ってんのかよ」

 その直後、接触が起きた。
ジェノサイドはゾロアークが入ったダークボールを、白い男はもう一人にアイコンタクトを送ると、その人は無言でモンスターボールを投げてはエルレイドを召喚する。
エルレイドは真っ直ぐにこちらを駆けた。ゾロアークは一足遅れてボールから飛び出ては迎え撃つ。
今回ゾロアークは変身させなかった。生身でぶつけるつもりだったのだ。
ゾロアークは普段の"カウンター"と同じ要領でエルレイドの剣と化している肘を受け止め、その動きを止める。

「やはり、私の目に狂いはなかった……」

 白装束の男が静かに呟くと、まるでそれに応じるかのようにエルレイドがゾロアークの手を払うと主の元まで跳んだ。
ゾロアークもジェノサイドの傍まで寄る。

「何の真似だ? このメガストーンが欲しいのか?」

「いいえ」

 男のその返答はあっさりしていた。
自分に対して放っていたであろう迸るほどの敵意も今となっては全く感じられない。
しかし、お互いのポケモンは睨み合っている。それに共鳴するがごとくジェノサイドも目の前の二人を睨む。

「お前は誰だ」

 メガストーンの事情を知っていることと、自分の正体を知っていること。明らかに二人は深部ディープ集団サイドの人間である。こんな時に彼に近寄る深部ディープ集団サイドの人間がどんなものかは決まっている。彼の持つ名声と財産目当てにその命を狙う怖いもの知らずの愚か者だ。今までが、もう何年もの間そうだったのだから。

「お前は誰だ」

 はじめの質問からしばらく呼吸が空いた。その間なんの返答もなかったのでジェノサイドは再び尋ねる。一度目の時より感情が篭っている。

「私は……。私たちは"赤い龍"。この名を聞いた事はありますか?」

 聞いたことがあるはずがない。そもそもジェノサイドは他の深部ディープ集団サイドの組織の名などいちいち覚えることはしない。その必要が無いし、そもそも興味が無いからだ。だが、その名が組織の名前である事だけは理解出来た。

「知らねぇな。だから何なんだ?」

「そうですか……。私たちはAランク組織"赤い龍"と申します。私はレイジ。長の補佐役……といったところでしょうか」

 レイジと名乗った男は、そしてと言いながらもう一人の肩に手を乗せる。乗せられた方は嫌がったのか、身体を震わせ手を払い除けた。

「この方が、我らが"赤い龍"の首長ミナミです。以後、お見知り置きを」

 ジェノサイドとしては白い方が組織のリーダーだと思っていたがゆえに意外に感じた。軽い衝撃みたいなものを覚えたせいか二秒ほど固まる。

「じゃ……じゃあなんで此処で俺と接触した? メガストーンが目的じゃないとなるとやはり欲しいのは……俺の命と金か」

 ハッとして我に返ったジェノサイドはレイジを睨みつけて言う。

「いいえ。それでもありません」

 レイジは再び否定する。心做しか先程よりも否定の思いは強そうだった。

「私はあなたを探しに……ここまでやって来ました。私たちの目的はメガシンカでも、あなたの財産や名誉でもありません」

「あぁ? じゃあなんなんだよ……」

 不信感は消えない。むしろ強まる。ジェノサイドとしては、このように油断させておいて無防備になったところをバッサリと斬るような曲者にしか感じられない。過去にもそのような敵は居た。
しかし、変化があった。キャスケットを深く被って顔を隠しているミナミという名前らしい人間が突如エルレイドをボールに戻したのだ。その代わりとして別のポケモンを出す素振りを見せない。
つまりは武装解除の意を示している。
私たちは戦うつもりはありません、と無言ではあったがそう言っているようだった。

 レイジが跪いて叩頭こうとうした。

「お願いがあってここまで参りました。ジェノサイド様、どうかお願いです。私たちを、赤い龍を助けてください」

「えっ?」

 あまりにも予想外な言動に、ジェノサイドは間抜けな声を発する。
レイジは頭が床に擦れるほど深く下げている。
出会った直後に攻撃してきたと思ったら助命嘆願をしている始末だ。やっている事の意味が分からない。
しばらく互いに黙り込み、沈黙が空気を包む。
だがジェノサイドはいつまでもそれには耐えられない。

「とりあえずさ、」

「助けてくれますか!?」

 ジェノサイドの言葉にレイジは頭を上げた。

「いや、そうじゃなくて……。なんと言うか、意味が分からない。何をもって助けて欲しいのか、もっと説明してくれ」

 それが返事でも無ければ許可でもなかったからか、レイジは顔を曇らせる。と、同時に袖から綺麗に折り曲げられた一枚の白い紙を取り出した。

「これはあまり見せたくなかったのですが……。以前この手紙が私たちの元に届きました」

 紙を向けられたジェノサイドはそれをひとまず受け取る。罠の可能性は否定出来ないが、かと言ってレイジの嘆願も嘘のようには見えなかった。
ジェノサイドは恐る恐る折り畳まれた紙を広げる。A四サイズの簡素なものだった。

『解散令状
 当該組織は、議会による審議と調査の結果、解散に相当する危険な行動が認められたため、組織の解散を命ずる。

該当組織:赤い龍(該当ランク:A相当)

 なお、命令に従わなかった場合は、強制執行の適用を認めることとする。

中央議会下院議長 五百城いおき わたる

「……」

 ジェノサイドは無言で紙をレイジの掌に叩きつけた。

「いかがでしょう?」

「いかがでしょう? じゃねーよ! どう見てもただのイタズラじゃねぇか馬鹿馬鹿しい。結社の連中が、こんな不幸の手紙じみたレベルの低いイタズラする暇があるかっつーの」

 この世界を支配している存在をジェノサイドたちは"結社"と呼ぶが、彼らは自分たちの事を"中央議会"もしくはそれを省略して"議会"と呼んでいる。その方が威厳があるとでも思っているのだろう。

 呆れたジェノサイドは二人に背を向けた。

「どこへ行かれるのですか?」

 まだ返事を受け取っていない。不安そうにレイジは声をかけるが、ジェノサイドの背は遠くなってゆくのみだ。

「あっ、まっ……。待ってください! どうか私たちを見捨てないで下さい! このままでは殺されてしまいます!」

 その叫びには必死さしか無い。ジェノサイドがそれを受け取ったのか、それとも最後の物騒な単語に反応しただけなのか、足を止める。
そして振り向いた。

「おい、待て。それどういう意味だ? もっと詳しく話せよ」

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.30 )
日時: 2023/09/14 21:04
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 意識が遠のいている。目の焦点がはっきりしない。頭もぼーっとしているようだった。
時間が経過していくにつれて徐々に、はっきりとしてゆく。明瞭になってくる。
ジェノサイドは横たわっていた体を起こす。どうやら少しの間寝ていたようだった。視界に映った景色には見覚えがあった。自分の部屋だ。
部屋に灯る蛍光灯の光に覚めたようだった。寝落ちでもしたのか、それは点けっぱなしだったかもしれない。

 扉の平行線上にはあまり大きくない机があった。大学で使うためのファイルが二枚と、基地での生活を初めてから一切勉強していないのを物語るほどの、一度として使っていない筆記具が置かれている。思えば、ジェノサイドはこの部屋で勉強した事など無かったかもしれない。それが道具にも表れている。
机は大きくない代わりに、縦に長かった。上部には小さな本棚が備え付けられており、中には大学で使う教材や教科書の他に参考書から、自著であることをアピールしたかったからなのか教授本人から半ば強制的に買わされた本まで並べられている。当然ほとんど読んでいないので新品同様の綺麗さだ。

 目を机から他に移す。
部屋の真ん中には安物の椅子が一脚。壁の一部分はクローゼットと一体となっており、私服は全てこの中にある。
そして、扉に足を向ける形でベッドがあった。
こうして見ると、空間いっぱいに家具を置いているようだった。実際彼の部屋の広さは六畳ほどだ。組織の長の部屋としてはかなり狭い方だろう。
もっとも、この基地の小部屋は共用のものでない限りはこの広さらしい。変に気取らないのが彼らしい部分でもあった。

 ベッドの上で考え事をしていると、誰かがノックをした。長い間共同生活をしていると足音やノックの音だけで誰かが分かってしまう。ハヤテだ。

「あれっ、もしかして寝てました?」

 返事を聞いてハヤテは扉を開き、彼の姿を見るなりそう発した。

「まぁ、ちょっと眠くてな」

 ジェノサイドはぱっちりと目覚めたにも関わらずわざとらしそうに目を細めては擦る仕草をした。ハヤテはそれを察してか知らずか、見届けてから部屋の中に入る。よく見るとその手元には数枚の資料があった。

「とりあえず……」

 ハヤテはクリップで簡単に留められた紙を二、三枚ほど捲る。

「先ほどリーダーが会われた"赤い龍"という組織について調べてみました。どうやら実在する組織のようですね。Aランクと高いレベルではあります」

 鼻で笑いたくなった。深部ディープ集団サイドの世界において上位のランクに位置しているとされるAランクも、"最強"からしたら格下にしか見えない。とはいえそう頻繁には会う存在でもない。少し珍しい鳥か昆虫に遭遇するのと同じレベルだ。

 時計を見る。
ジェノサイドが長池公園でメガストーンを探してから三時間は過ぎていたようだった。既に外は夜だ。
寝る前の記憶が断片的に蘇ってくる。ジェノサイドは今日起きたことをハヤテたちに伝え、調べるように命令していたはずだ。
その調べ物とは。

「事例がかなりあります。リーダーの言われた脅迫文とほぼ同じ内容の文書があらゆる組織に送られているようですね。その組織らに今のところ共通点は見られません。ランクも活動拠点もバラバラ。完全にランダムですね。何を基準に選んでいるのか全く不明です」

「ランダム……ね。益々イタズラくせぇな。その……何とかっていう人間は何とも思わねぇのかな? 自分の名が勝手に使われている訳だし。騙っている奴を徹底的に調べてしまえばこんな呪いの手紙の騒動も終わりそうだがな」

「いえ、イタズラでは無いかと」

 ハヤテの声と紙が捲られるパラパラという音が同じタイミングで放たれる。彼は今ジェノサイドの話を聞き、内容を理解して考えた上で資料と符合させようとして否定した。器用な男である。

「残念なことにイオキ ワタルという男は実在しており、実際に本人の意思で調査という名目で脅迫文を送り続けて組織を解散させているようですね。目撃情報もあります」

「じゃあ肩書きは」

「出回っている文書の通りですね。中央議会下院議長……。間違いなく結社の人間です。かなりの大物の議員ですね」

 ジェノサイドは目だけをギョロリと動かしてハヤテの持つ紙を捉えた。興味もやる気もない。だが、その眼差しだけは本物だった。
脅迫文には"強制執行"という物騒な単語も含まれていたはずである。

「それから、強制執行についてなのですが……」

 ハヤテは言葉を詰まらせる。もしかしたら言い難いことなのかもしれない。

「この強制執行なのですが……かなりエグいものでして、どうやらこの脅迫文に従わなかった場合は深部ディープ集団サイド全体として……即ち結社にとっての反乱分子として解釈されるみたいで強制的に排除されるようです。財産は全て没収、住処も奪われ、悪質な場合は該当組織の構成員は皆殺しにされるようで……。まるで存在そのものが無かったことにされる勢いですね」

 想像以上だった。
いくら平気で命を奪い合う人の道を外れた獣しか存在しないこの世界の人間であったとしても、そんな世界を作り上げた結社がそこまで過激な行動に走るのかと未だ信じられない自分が居た。

「いや……奴等ならやりかねないかもな」

 冷静に考えれば。
元々ポケモンを悪用して治安を脅かす連中を絶やすために作られた深部ディープ集団サイドだ。その目的が達せられた後になって個々の組織同士を争わせるように誘導したのも、そんな世界を生み出したのも紛れもない結社だ。
元々ジェノサイドのような、深部ディープ集団サイドに属する組織を設立するには結社の援助の下、かなりの金が動くことになる。その為設立以後は結社に対して組織の活動で得た利益は幾らか献上しなくてはいけない事になっている。これはジェノサイドとしても同じで例外は存在しない。
結社からすると、現状はそんな組織が増えすぎている。その分結社側の出費も馬鹿にならないほど大きくなっている。

「俺が多くの組織に狙われる理由だが、この世界で一番強いというのもそうだが、それはつまりこの世界で最も財産を手にしているという事でもあるな。組織を相手取って戦い、勝てばその組織の財産が丸ごと手に入る。だが全部じゃねぇ。その財産の四割は結社に払わなければいけない事になっている。……んだが、四割取られても有り余るほどあるだろう。そう思われてっから俺には敵が多いんだ」

 ジェノサイドは忌々しそうに自分語りを始めた。ハヤテは嫌な顔はしない。どれも事実だからだ。

 ジェノサイドはもしも、と考えた。
もしもこの呪いの手紙が自分に来たとして仮に無視をしたとすると、このイオキ ワタルという人間はジェノサイドの人間を皆殺しにするだろう。本来は他の組織の手助けもあって四割得られる利益が、他組織を介さないことで十割となる。利益の回収としては無駄が無いし、上手くいけば新たに生まれる組織誕生の抑止に繋がる可能性も期待出来る。
野蛮で卑劣で強権的だが、手段としては有りだ。

「外道にも程があるな。まぁこんな世界を作り出した連中がマトモな人間な訳がねぇのだが、だからって殺すことを厭わない時点で俺らと何ら変わりゃしねぇ。むしろクソさで言えば奴らの方が最低だろうな」

 相変わらず言葉が過激で強いだけのジェノサイドだった。彼は命を奪うことまではしない。深部ディープ集団サイド最強という肩書きを利用して強い言葉を乱用して恐怖感を与える癖がここに表れているのだ。
ハヤテはそれをよく知っている。だから何も言わなかった。

「ところでリーダー」

 ハヤテは持っていた資料をくるくると丸めた。見たところ発表は終わりのようだ。

「なんだ? まだ言いたい事でもあるのか?」

「いえ、それ程のことではないとは思うのですが……」

 ハヤテは視線を落とす。躊躇しているようにも、モジモジと恥ずかしがっているようにも見える。

「基地の外の敷地に……見慣れない二人組があるのですが」

「……」

「まさかですが、あのお二方が"赤い龍"ですか?」

「……」

「もしかして、連れてきちゃいました?」

「……」

「なにか答えてくださいよ」

「……らない」

「聞こえませんよ?」

「分からないんだもん……こういう時どうすればよかったのか……。無視しても付いてくるしよぉ。すっげぇ困ったような、弱ったスズメのような目してこっち見てくんだもん! なぁ、どうしたら良かったんだ?」

「だからって基地の前まで連れて来ないでくださいよ!」

 珍しくハヤテは声を上げた。安全保障からして絶対に行っていけない行為を目の前の男はやらかしたのだ。バルバロッサというリーダーの片腕が居なくなった今、自分がリーダーや組織を支えなければいけないという思いが強まりつつある今、ハヤテはジェノサイド相手でも強気にならざるを得ない。

「いや俺だって最初はあいつらの言葉信じてなかったよ!? 今の今までイタズラに振り回される頭の悪い奴らとしか思ってなかったよ!? でも凄い必死に訴えてくるしさぁ……結局あいつらの言ってる事全部本当だったけどさぁ!」

「だからって連れて来ていい理由にはなりませんから。もういいですよ……。いつまでも外で待たせる理由もありませんし呼びに行きましょうか」

 ハヤテはジェノサイドの許可も得ずに勝手に歩を進める。階段を上り、廊下を歩いて外に通じる重い扉を開ける。
外界と通じた瞬間、冬が近づきつつある季節の冷気がどっと押し寄せた。同時に景色も映る。
林に囲まれた自然の中で二人組が佇んでいた。

「お待たせして申し訳ありませんお客様。たった今我がリーダーから許可をいただきましたので、どうぞこちらへ」

 そう言ってハヤテは地下に通じる道を示し、譲る。
二人のうち白装束を着た背の高い男が真っ先に反応した。安堵からか駆けていた。
もう一人はポケモンを出して何かをしているようだった。よく見るとキノガッサに"やどりぎのタネ"を命じている。植物でも増やそうとしているのだろうか。

わか! 何をしているのですか? さぁ早く!」

 部下から若と呼ばれたミナミは急いでポケモンをボールに戻すと鉄の扉に向かって走った。
二人が吸い込まれてからハヤテは周囲を軽く見回してからゆっくりと重い扉を閉じる。



「んで? お前らはどうして欲しいの?」

 ただっ広い広間と同じ階の地下一階に置かれている談話室に、ジェノサイド、ハヤテ、レイジ、そして"赤い龍"のリーダーのミナミが揃う。
木目調の壁紙、異国風の絨毯、ほの暗い照明、天井にも届く高い本棚、そして暖炉が揃っている、あまりにもレイアウトの本気度が違いすぎるこの部屋に彼らは集まった。ジェノサイドが普段この部屋を利用する時は一人の時か、その時にハヤテやケンゾウが割り込んでくるパターンが多い。その為どこか窮屈にも感じる。

「望み通り話も聞いてやったし、基地にも入れてやった。他には何を求める?」

 未だ心の中に残る敵意の残滓ざんしのようなものを吐き出す態度でジェノサイドは臨む。
彼の性格とまではいかないが、深部ディープ集団サイドの人間と接触する時はどうしてもこうなってしまうのだ。それは四年という時間が生み出してしまった癖とも言えるし、護身術とも悲劇とも言えた。

「はい」

 応じたのはレイジだった。ここに至るまで何故か彼しか喋っていないように感じる。

「いや……はい、じゃなくて」

「はい」

「……」

「ご理解頂けたかと思いますが、いま深部ディープ集団サイドは異常な議員によって振り回されている状態です。これが一時の暇潰しとか、ただの我儘であれば良かったのですが……こうなってしまえば身の危険も感じてしまいます。実際に私たちにもそれが向けられてしまいました。私たちはこんな所で倒れたくありません。死にたくありません。だからこそ、私たちは欲しかったのです。保障が」

「それで絶対に倒れる事も無ければ死ぬこともない、安全が保障される俺の元へとやって来たわけか」

 レイジはそれに無言で頷く。

「そりゃそうだもんな。俺らはこの世界の頂上に位置するSランク。中々壊れないもんな。と言うより壊れたらマズイよな。けどお前、場所間違えてるぞ。ジェノサイドに避難してそれで安全って訳にはいかない。最強故に俺らは多くの連中から狙われているんだ。その矛先がお前らにも向く。此処は決して深部ディープ集団サイドで一番安全な場所なんかじゃない。むしろ、一番危険かもしれないんだぞ」

「いえ、それはありません」

 偽りに近い敵意を放つジェノサイドに臆することなく、レイジは彼に強く熱い視線を投げる。逆にジェノサイドが目を逸らしたくなるほどだった。

「仰る通り、こちらは深部ディープ集団サイド最強の組織ジェノサイドの秘密基地であります。外敵から身を守るために生活上の空間をわざわざ地下に設けている。お陰で外から見れば工場にしか見えません。見事です」

 ハヤテはじろりとジェノサイドに不穏な視線を放った。連れて来たせいで見破られたじゃないか、と。

「ですがジェノサイド様。それは誤りです。此処は世界一危険な場所ではありません」

「ふむ?」

「そうでは無いのですよ。もしかしたらジェノサイド様。貴方にその自覚が無いだけなのかもしれませんが」

 言ってレイジは椅子から立ち上がった。四人が一箇所に固まっているものの談話室は狭くもなく、かと言って広くもない。暖炉から火が焚かれているので部屋は暖かい。

「この世界で頂点……Sランクであるという事実は何を意味していると思われますか?」

「何をって……言われてもな」

 人差し指を立てて説明したそうにしているレイジの反応に困ったジェノサイドはハヤテと顔を見合わせた。彼も疑問を浮かべた顔をしている。

「すっごく強いなんていう単純なものではないのです。深部ディープ集団サイドで一番と言うことは、この世界のバランスを保っている存在でもあると言えるのですよ」

「バランス? 俺がか」

 レイジははい、と頷く。

「貴方は先ほど多くの存在から狙われると申されましたが……それは正確ではありません。それは組織ひとつを狙ったものと言うよりはジェノサイド様。貴方を狙っただけのものが多いのではないのでしょうか」

 この世界の人間は組織のジェノサイドを狙うのではなく、"人間"のジェノサイドを狙う者の方が多い。レイジはそう言いたかったし、ジェノサイド本人も気付いてはいた。と言うより、この話は以前大学の教授相手に自ら披露したものだ。

「貴方という存在だけでも、この世界にとっては財産なのです。ジェノサイドという大国を持つボスに、深部ディープ集団サイド一というブランド。そこからイメージされる莫大な財産。何でもありなこの世界で、歩く宝物を見つけてしまえば誰だって手を伸ばすと思いますよ? 普通ならば」

 歩く宝物と呼ばれていい気はしなかった。なんて自分は損な役回りなんだと自分自身に嫌気が差してくる。それを初対面の人間に言われるのが、たとえそれが事実であったとしても個人的には良い気分にはなれない。

「ですが、貴方の正体はジェノサイドという最強の組織の一員。余程な酔狂な人間でない限り組織を相手取って戦おうとする人間はまず現れないのではないでしょうか?」

「一理ありますね。それに、ジェノサイドという組織があるだけで抑止にも繋がる、と」

「そういうことです。そして、それこそが私たちが最も求めていたものになります」

「お前たちが俺を支持する事で正しい存在だと周りから見られたいって事か」

「それも有るといえば有りますが……」

 長い間立ちっぱなしだったレイジはミナミとジェノサイドを見比べた後に用意された椅子に座った。思えば、何故彼が立ち上がったのかその理由がよく分からない。

「言ってしまえば、ジェノサイドはそこらにある小さい組織よりも戦いの頻度は少ないはずなのです。勿論今の話ですよ? 過去についてはその限りではありません。それと、リーダー個人に対しては別として。こちらは過去とは変わらないものかもしれませんね」

 ジェノサイドは小さく舌打ちをしてテーブルに置かれたコーヒーカップに手を伸ばす。中には熱いコーヒーが満たされている。

「要するに、これは極端かもしれませんが、ジェノサイドという組織がこの世界に、深部ディープ集団サイドに存在し続けていることで今のこの環境を生み出しているのです。私の言った危険でない場所……という意味がお分かりになりましたでしょうか」

 ジェノサイドは理解している。
同時に、ハヤテはあっと声を漏らす。

「あなた達が此処を選んだ理由……。それは深部ディープ集団サイドが最も懸念している、"環境の崩壊"を避ける為に絶対に起こりえない、我々に対する脅迫や解散を避けるため。つまりイオキ ワタルの魔の手から必ず逃れられる環境を求めてのことだったのですね!」

「その通りです! ご理解頂けて恐悦至極であります」

 結社は馬鹿ではない。噂によれば現職の国会議員も絡んでいる世界だ。つまりエリートが存在する場。そんな彼らが絶対にしないこと。それは、この環境を維持し続けているSランクの破壊だ。
五百城いおきわたるという人間が繰り返しているのは強制的な組織の解体。環境の破壊である。
対象が小さな組織であれば影響は極小であるだろうし、生じる問題も懸念する程でもない。だが、それがジェノサイドとなるとそうもいかない。
ジェノサイドの消滅は深部ディープ集団サイドの消滅。ひいては、自分たち結社の、中央議会の消滅を意味する。

 それらを理解しての、赤い龍からの"望み"だったのだ。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.31 )
日時: 2023/09/14 21:11
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 意見を交わした結果、"赤い龍"は組織"ジェノサイド"へ統合するという結論で一致した。しかし、その動向には注視するようにというジェノサイド直々の命令も付随している。

「やっとリーダーもお気付きになりましたか。他所の組織の方を平和裏に呼び込むことに潜む危機というものに」

「いや違う。あの白い方。俺アイツちょっと苦手かもしれん」

「えぇ……」

 その気持ちは分からなくはなかったが、ハヤテの求めていた意識の高そうな意見が無いだけに内心ガッカリする。

「そう言えば二人の姿がねぇな。どっか行ってるのか?」

「荷物を取りに行くために一旦元々あった基地へ戻るそうです。あと、残りの構成員のお迎えなども」

「あー、そっか。そういやそんな事言ってたなさっき。もう出たのか、早いなー」

 ジェノサイドが心ここに在らずのような、意識が向かない、まるで他人事のように呟いていたのはスマホをいじっていたためだ。あまりにも熱心に画面を睨んでいる。

「あ、あの……リーダー。何をされているのですか?」

「ん。メガストーンの確認」

「まさか今から取りに行くつもりですか!? 確かに今朝は二つほどは欲しいとは仰ってましたけど……えっ、今からですか?」

「そうじゃねーよ。って言うかそれだけじゃない。奴ら二人の基地の場所はさっきの話で聞いた。その近くにメガストーンが無いか地図アプリで見ていただけだ」

「な、なるほど……」

 大山の神主、皆神みなかみの作ったメガストーン専用の地図アプリはスマホに元々備え付けられている大手の地図アプリと比較すると大雑把ではあるものの、日常における利用としては使えない事はない。レイジとミナミの基地の周辺に絞って、メガストーンがもしもあったならば取りに行く。そんな算段をジェノサイドは立てていた。

「俺が今懸念しているのは」

 ジェノサイドが俯いていた顔を上げた。確認が済んだのかスマホをポケットに仕舞う。

「今日に限って二人に『呪いの手紙』に書いてあるような"強制執行"が適用されるかどうかなんだ。こういう、大事な場面に限って何か嫌なことってのは起きるもんだからな」

「その強制執行自体よく分からないものですしね。一体誰が現地で"執行"するのかとか、それに関わる手続き等も、僕たちは何も分かっていない……」

「別に気にする事はねぇだろ。無いとは思うが今日俺がそんな場面に立ち会ったら撃退ついでに色々聞いてみてやるよ」

 あまりにもさらっと言ったのでスルーしそうになったハヤテだったが、確かに今ジェノサイドは"撃退する"と言った。結社の人間を相手取ることを前提に、である。あれほどにもレイジの事を苦手だと明言したり、話を聞く際も不機嫌になる彼ではあったが、既に二人に対して仲間意識が生じている。つまり、守る気満々という事だ。
彼のこういう部分があるからこそ、ハヤテを含む、組織ジェノサイドの人間は皆彼の事が好きだった。
ある人は「ツンデレ」と評し、ある人は「素直じゃない」と言い、またある人からは「オラついてるだけ」など散々な言われようなジェノサイドではあるが、実際彼は実力も高く強いのでそれ"込み"で愛されているわけである。

「お気を付けて」

「おう」

 談話室を出て廊下を抜け、地上に通じる扉を開ける。外に出ても思ったほど寒いとは感じなかった。既に廊下が冷えきっているためだ。
ジェノサイドは赤い龍の基地の場所を改めて確認する。東京都に接する、神奈川県内の某所。そこの一軒家。

「そこまで遠くはねぇな」

 ポケモンに乗った空の移動では二十分程度で到着する距離だった。この時期の移動である。抵抗はあるが有効な方法はこれしか無い。他の手段では回りくどく、時間も余計に掛かるし非効率でしかない。そう思うようになってしまった以上、ジェノサイドは余程の例外を除いては空旅をするしかなくなってしまったのだ。

 ポケモンの背に乗り、空を漂いつつ風を浴びるジェノサイドはもしも可能であれば「ギブアップ!」と叫びたくなった。
とにかく苦痛なのだ。

「く、くそ……。寒い、かなり寒い……。なんかもう手に熱が伝わってねぇんじゃねえかってくらい寒い……ちくしょう、どうにかなんねぇのか……」

 そう言ってはジェノサイドはブツブツと呟きながら手の甲をさすっている。こんな事を言ってはいるが掌にはじんわりと熱が篭っている。そんな訳が無いのだ。
主を乗せているオンバーンはこおりタイプが弱点のポケモンであるためか、強い拒否反応を示す程ではないが、寒さが苦手なようで若干我慢をしているような、堪えているような表情を見せている。あくまでもポケモンにおける弱点とはバトルのみでのもののようだ。

 メガストーンはどうやら赤い龍の家の近くにある寺の敷地内にあるらしい。
まず先にメガストーンを手に入れてから赤い龍と合流する。安全だと分かればそのままジェノサイドの基地に戻る。
言うだけならば簡単ではあるが、行動を移すとなるとそうにもいかない。特に、ジェノサイドはメガストーンを見つけるまでに苦労している。その場に到着して済むことではない。

「まぁいい。次のお寺は長池公園ほど広くは無いし、ササッと済ませちまおう」

 ジェノサイドは凍える気持ちを押し殺して地上を睨んだ。



 その玄関は、決して広くはない。人一人が出入りするための境界線だ。これがもし、例えば業務用の搬入口ともなればどれほど楽だろうか。
レイジは、中から船舶で使うための大きめなスーツケースや鞄を運び、背負いながら何度も出入りする構成員たちを見ながらそう思った。その誰もが疲労のため苦悶の表情を見せている。

(申し訳ありません、皆さん……)

 せめて一人は周囲の状況のための監視役が欲しい。重い物を運んでいる正にその時にイオキ ワタルがやって来たら逃げられない。
レイジはそんな状況下で家の中には入らず、周辺の様子を探っていた。
自分の背後で呻き声がする。レイジははっとして振り返った。
見ると、構成員の一人が大きめのスーツケースを組織が所有するミニバンのトランクに積めたところだった。単に重かっただけらしい。
それから、構成員たちはその場から動こうとしなかった。まるで今回の仕事は全て終わったとでも言いたげに。

「これで全部ですか?」

「えぇ。元々何も無かったですしね。個人で使う分の……例えば服とか生活用品とか。それらを纏めてしまえばもう済んでしまいます」

 レイジに反応したのはたった今荷物を車に運び終えた大柄な男性だった。赤い龍という組織はジェノサイドと比べるとかなり規模が小さい。あちらが二百人に満たない程度の構成員が居るのに対し、こちらはレイジ自身を含めて六人しか居ない。実際はもっと多くの人間が居たが、解散令状に恐怖を感じて脱退した者が何人かあったためだ。
このままでは、仮に解散令状の問題を乗り切ったとしても組織としての今後の継続が果たせない。それもあって、今回ジェノサイドの元へ避難する事になったのだ。単にイオキ ワタルから逃げるため"だけ"にジェノサイドを頼った訳ではない。

 玄関を覗き込むと、丁度そのタイミングでリーダーであるミナミがやって来た。

「終わりましたか?」

「……うん」

 これで全員揃った。
予定通り二手に別れて移動を開始する。
その時、突如として上空から不自然な冷たい風が降りてきた。

 見つけるのに苦労した。メガストーンではなく、彼らを。
メガストーンは予想に反して簡単に見つけられた。目的地である寺だが、当初は日が沈んだのもあって門が閉ざされ、入れないものかと思っていたものの、運が良いことにまだ開かれていたお陰で境内に入る事が出来た。
そして、夜ともなるとメガストーンの放つ不思議な光がよく目立つ。敷地も広いものでもなかったので、一つ目の時と比べてかなり楽に入手出来た。

 問題はレイジたちだった。
まず、今ジェノサイドは見知らぬ土地の上空に居る。そこから地図で大雑把な位置を見つけられたとしても、周囲は住宅地。家しかない。
そこから、少しでもヒントになりそうなものを暗い空の下探し続けたのだ。

「よう、やっと見つけた」

「ジェノサイド様!?」

「大体この辺かなと思って回り続けていたら、特徴的な姿をしたヤツを見つけてな。近寄ってみたらお前だった。とりあえず見つけられてよかった」

 冷たい風の正体はジェノサイドが乗るオンバーンの羽ばたきであった。
一時は遂に結社の人間に見つかってしまったのかと震えたレイジであったが、その不安もほぐれる。

「わざわざありがとうございます。丁度今荷物を運び終えたところです。今から移動を開始します」

「どのようにだ?」

 距離が離れて聞き取りにくかったジェノサイドはゆっくりと降下し、地上に着地する。
オンバーンはその時に一旦ボールへと戻した。

「あそこに赤いミニバンがありますよね? あれは私たちが所有する車です」

「見たところお前ら含めて六人……か。じゃあ車で来るんだな」

「いえ、六人の内四人です。あとの二人……私とわかは空で移動します」

「空でか? 空で移動と言っても距離があるぞ。それに寒い。あまりオススメは出来ないが……いっその事お前らが車に乗ったらどうだ?」

「いえ、それは出来ません」

 レイジはさも予定通りとでも言いたげにごく自然に首を振る。

「車がロケットランチャーなどで攻撃されたらひとたまりもありませんから」

「……」

 ジェノサイドは言葉を失った。あまりにも突飛で、非現実的なそれに返す言葉が見つけられない。返事そのものが無意味なのかもしれない。

「これも全て若を守るためですから!」

「あのさぁ、お前さぁ……考え過ぎかもしれんがもう少し有り得そうなビジョンにしようぜ。まだ車を特定されてポケモンで攻撃される、とかなら分かるけどよぉ……」

「お相手は結社の人間です! そういう物を持っていてもおかしくはないという私の想像に基づいています!」

「……」

 やはり返事は無意味なようだった。
説得しても無駄なのを悟ったジェノサイドは彼らと共にまずは赤い龍の構成員たちが乗ったミニバンを見送る。目的地の情報は既に共有されているため問題は無い。

「さて、私達も向かいますか」

「俺らがロケランで狙われると考えたことはねーのかよ」

「まさか……。手ぶらで丸腰の私たちをわざわざ狙います? 狙うとするならばより財産的価値のある車を狙うと思うのですが……。私ならそうします」

「いや、せんでええ! つーかアイツらがそんな物騒なモン持ってるわけねーから!」

 ジェノサイドは内心、何をふざけているんだとノリツッコミをかますと気持ちを切り替えんとオンバーンの入ったダークボールを空へと向ける。

「ふむ……。ならば実際に持って来た方がよかったかなぁ? まぁそんなもの持ってるわけがないんだけどね。でもいいな。今後の参考にさせてもらうよ」

 知らない人間の声だ。
その場に居たジェノサイド、レイジ、ミナミがほぼ同じタイミングで体を構え、声のする方へ顔を向ける。
知らない人間、知らない男。
だが、彼が何者かは察しがつく。

「お前……。お前か。あのふざけた呪いの手紙をバラ撒いている暇人が」

「礼儀がなってないなぁ君ぃ。僕を誰だと思っている?」

「結社の……方……ですよね」

 どこか余裕のあるジェノサイドの口振りとは裏腹に、脇に立つレイジの声は震えていた。
そうなるのも仕方が無かった。正面に立つスーツ姿の男は、仲間と思しき大柄な男を数人従えて構えているのだから。

「その通り! 正解正解だぁい正解!! ワタクシこそが結社改め"中央議会"の"下院議長"の五百城いおきわたるでーす。ヨロシクね」

 ここで会うには最悪としか言えない存在と、遂に衝突してしまった。