二次創作小説(紙ほか)
- Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.48 )
- 日時: 2024/03/29 09:55
- 名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: ylDPAVSi)
八王子から立川の移動はそこまで時間を費やすものでは無い。
正午を過ぎた頃なので道路は混んではいるものの、一時間もあれば到着は可能だ。
一方、ジェノサイドらは二時間掛けて無事立川にある議会場へと辿り着くことが出来た。
「さ、さーってと……。着いたぞーお前ら」
ジェノサイドはハザードを点滅させて車を車道の左端に寄せて停める。
議会場の敷地の傍にまでやって来た。乗り込む前の確認と作戦会議だ。
「二人とも見えるか? あの白い建物が結社の連中の集まる議会場だ」
ジェノサイドはそう言いながら助手席の窓越しに建物を指した。
その先には白く塗られた現代的な建物がある。
無駄を一切排除した、質素な建造物だった。有り余る財を抱えた集団の建物とは思えないほどだ。まるで、省けるものは全て省いて出来るだけ安く造りましたとでも言いたげな建物だ。
「これから俺たちは、この車で敷地に入る。もう既に中では他の仲間たちも乗り込んで戦い始めている頃だろう。出遅れた形となったが、立場上何もしないわけにもいかねぇし決めるところは決めるぞ。何か連絡事項はあるか?」
言いたい事を一気に早口で済ませたジェノサイドは助手席に座ったハヤテと、後部座席にゆったりと座っているケンゾウの顔を交互に見た。
「と、とりあえずは……」
ハヤテが小さい声で呟く。
「とりあえずは、もう……私はリーダーの運転する車には乗りたくないですね……」
「……」
ジェノサイドは黙りつつも苦笑いを浮かべる。
「出遅れた、と仰いましたがそれが何故か……リーダー、お分かりですよね?」
「そ、それはあれだ……道路が混んでたから……」
「運転がヘタクソすぎるからですっ!!」
珍しくハヤテは叫んだ。ここまでの心の叫びを聞いたのも久々である。
「なんなんですか!? 速度は常に三十キロですし、出して四十。しかも何度も右左折でつっかえますしお陰で寄り道回り道ばかりの全くスムーズでない移動でしたよ!」
「そ、それは悪かったけどさぁ……この辺の街走りにくいんだよ……。二車線が暫く続くと思ったら突然左折専用レーン現れるしさぁ。普通直進と一緒にするだろ?」
「街のせいにしないでくださいっ!」
救いを求めてジェノサイドはチラリとケンゾウの顔を伺うも、彼は彼で無言で俯いた。口には出さないが概ねハヤテと同じ気持ちなのだろう。
「本当にリーダーはこれまでの幸運に感謝してくださいね、これで警察に止められていたら詰んでたんですから! 怪しまれなかっただけでも運が良いんですからねっ!」
「どんだけ俺の運転貶したいんだよお前……」
話すべきことは終えたので移動を再開した。ハザードを消し、再び車を移動させては議会場の駐車場へと侵入する。
だが、律儀に此処に停めるつもりはジェノサイドには無かった。
彼はそのまま駐車場に停められている車たちをスルーすると、建物へと通じる歩行者専用の歩道を、つまりは車が通ることを想定していない狭い道へと乗り上げるように走らせた。
「り、リーダー……? 何をなさるおつもりで……?」
ジェノサイドは今後の詳しい動きについては一切教えていない。不規則に揺れる車の中で無駄に長く感じる時間を過ごしたその果てに、遂に標的が見えてきた。
それは、広い通りだった。
この敷地内に恐らく正門とでも呼ぶような本来の入口があるのだろう、そこから建物入口へと続く一直線に伸びた通りが現れた。
車は向きを変え、建物を前方に見据えて睨む。
「お前ら、最後に確認だ。このまま行っていいよな?」
「それはそのままリーダーにお尋ねします。いいのですね?」
ジェノサイドは気持ちを落ち着けるためなのか、車のギアをニュートラルに変え、サイドブレーキを引いた。時折アクセルを踏み、空ぶかしをする。辺りに誰も居ない広い空間に、ひたすら軽自動車特有の浅い排気音が響く。
「……何故俺に聞く?」
ジェノサイドはハヤテに対し疑問に疑問をぶつけた。
「リーダーは……。これまで一貫した戦いを続けられていました。それは、"誰も殺さない"という戦いです。そして、それは今回もなさるおつもりでしょう。……それは可能ですか?」
ジェノサイドはハヤテの言いたい事が分かったようだった。いたずらにアクセルを踏む足を止め、車の天井を見つめるように顔を上げ、しばし考える素振りを見せた。
ジェノサイドはこれまで、どれほどの悪人に対しても決して"命を奪わない"戦いを臨んできた。そして、それは今後も変わらないだろう。
だが、今回となればそれは途端に難易度が跳ね上がる。今回共に戦う人間は、外部から連れてきた者も含まれる。これまでのように、ジェノサイドが束ねる仲間たちだけでの戦いではない。
それはつまり、統制が効かない事をも意味していた。
ジェノサイド自身それを見越して、場所さえ守れば自由に動いて良いとほんの数時間前に宣言している。
この戦いにおいては、ジェノサイド以上に結社に恨みや怒りを抱いている者も居ることだろう、そんな人間に「結社を叩く」と言えばタガが外れることなど容易に想像出来る。
それはつまり、ジェノサイドの目の前で凄惨な光景が展開される、という事だ。
「別に構わんさ。流石の俺も、部外者に命令出来る力は無い。きっと今も、そしてこれからも……結社に所属しているからという理由だけで理不尽に死ぬ人間も出てくるだろう」
だが、と言ってジェノサイドは呼吸を置いた。
「俺はそういう奴らを止めない。五百城が現れなかったら起きなかった悲劇だ。それを結社に知らしめる。俺も今回部外者たちを集めた長として、そこんところのケジメは付けなきゃならねぇ。だから俺は止めないし否定もしない。肯定もしないがな」
ジェノサイドは再びアクセルを踏み始めた。轟く排気音は、まるでジェノサイドの決意の表れであるかのようだった。
「だから俺も今回は普段とは少し違うやり方でいく。いいか、お前ら。タイミングを見計らってこの車から脱出しろよ。今の内にドアのロック解除しとけ」
「……は?」
一瞬何を言っているのか理解出来なかったハヤテであったが、ジェノサイドが今正にギアを操作しようとする手を見て全てを理解した。
「リーダー……まさか、この車ごと建物に突っ込むつもりで……?」
「いいか、抜けるのはケンゾウが先な。お前は身体がデカいしそれでトチったらアウトだからな、余裕を見て車から抜けろよ。何なら今降りてもいい」
「は、はぁ!? リーダー、流石にそれは無茶ッスよ……」
ケンゾウが言いかけたところでジェノサイドはギアを変え、更にサイドブレーキを解除しアクセルを思い切り踏んだ。
あまりにも強く踏みすぎたせいでタイヤが軽くホイルスピンしつつ、そこまで瞬間的に速度が出るものなのかと錯覚する程のスピードで駆け出す。
目の前のガラス張りの壁が迫る。
ジェノサイドがケンゾウに対し早く出るよう急かすと、何かを叫びつつ後方の巨体は転がるようにして地上へと出ていった。当然後部座席の左ドアは開きっぱなしだ。
「次はお前だ、ハヤテ」
「そもそもこんな事する必要ないでしょーがあぁぁぁーー!」
ハヤテも同様に叫びながら外へと飛び出した。あまりにも車がスピードを出しているせいか、街中で見掛ける救急車の如くドップラー効果を起こしてフェードアウトするかのような彼の声だった。
二人が出て行ったのを確認したジェノサイドは、車が壁と衝突するその瞬間、インパクトが起きるギリギリ手前でドアを思い切り開け、飛び出した。
綺麗に均されたアスファルトの上で何度も身体を回転させられ、やっとこさ起きたところで見たものは、軽い地響きでも起きたかのような轟音を轟かせて激突した自動車の姿だった。
間髪を容れずにジェノサイドはすぐに次の行動へと移る。右手で強くボールを握りつつ、施設に向け全速力で走った。
「五百城……姿を、見せろぉ!」
突然制御を失った車が突っ込んで来たと思ったら、今度は一人の男がモンスターボールを投げつつ叫ぶ。
そこは、異様な景色だった。
既に場所を特定し、乗り込んだ連中が施設内に居た人間に対し無差別に攻撃を仕掛けている。
当然結社の連中は五百城渡などのような例外を除くと、その道に通じてはいない。ポケモンを使えない人間が多いのだ。
そのような人間は兵器と化したポケモンに対し為す術がない。一方的に蹂躙されていた。
戦闘が行われているロビーをジェノサイドは周囲を警戒しつつゆっくり歩く。
今この場に五百城というメインターゲットがいてもおかしくはない。
「五百城はどこだ!」
ジェノサイドは再び叫ぶ。しかし、それに通じる答えが返ってこない。
ジェノサイドは近くで転がっているスーツ姿の中年男性を見掛け、その肩に手を乗せる。
その男は全身を震わせ、身体を起こされた反動で目を合わされた。ひどく怯えており、一瞬だけ合った目はそれ以降逸らされ、焦点が合わなくなる。
「おいお前、答えろ。五百城渡はどこだ」
ジェノサイドの問いに、その男は答えない。よく見ると唇を小刻みに震わせている。
「聞こえなかったか? お前……」
言いかけたところでジェノサイドはその男がもう片方の肩を怪我している事に気が付いた。怪我自体は大したことは無い。恐らく鋭い爪を持ったポケモンに軽く引っ掻かれたのだろう。スーツの生地が裂かれ、わずかに血が滲んでいる。
「なんでこんな事になってしまったか、ってか?」
ジェノサイドは作り笑いを浮かべる。
「お前は何も関係無いさ。こんな目に遭うのも、そういう怪我をするのも理不尽以外の何物でもない。お前は運だけが悪かった。今日この日までに結社に所属しており、今日この場に居てしまった。それだけさ」
「あ、か……金……」
「金? 金ならいらねぇよ。お前の生命もいらねぇ。俺は他の連中と違って優しいからよ、俺だけはお前を助けてやるよ。その為に答えてもらおうか、五百城は何処だ」
男は震えつつ首を何度も横に振った。死を覚悟しているかのような必死なまでの目を見る限り嘘はついていないようにも見える。
そもそも、この男は何者なのだろうとこの時ジェノサイドは思った。結社に所属する議員かもしれないし、そうでなくただこの議会場で働く雑務担当の人間なのかもしれない。
それらも含めてまずは対話すべきだったかと若干後悔したジェノサイドはその反応を見て小さく唸る。
「そういう反応は求めてねぇんだわ。せめてさぁ……お前も何か喋れよ。じゃねぇとこのまま捨ておくぞ。ほら、見ろ。あそこでポケモン使って暴れてる奴居るだろ」
ジェノサイドは周囲を見回した末に、クリムガンを使ってひたすらに物を破壊して回っている男を見つけ、指した。
「あいつにお前を差し出したらどうなるだろうな、まぁ死ぬだろ。あいつの結社への恨みは相当だからな……」
その男自体はジェノサイドも知っている人物だったが、彼がどう思っているかまでは知らない。それらしい嘘を平然とついてみせる。
ちなみにその男とは、以前大学の構内で戦いを繰り広げたハバリと名乗った男だった。あの時はダーテングを使ってはいたが、今はどうやらそのポケモンは控えているようだ。
「し、知らない……」
男は振り絞るようにしてか細い声を出した。
「知らない……私は……い、五百城さんが何処で何をしているかは……」
「じゃあ此処には?」
男は再び首を横に振った。
此処にはいない。そう言っているようだ。
「あっそ」
そう言うとジェノサイドはそれまで掴んでいた肩を突き飛ばすように放しては男を放置し、その場を去った。
その対応について、何やら喚いているようだが周囲の破壊音に紛れてなんと言っているのかよく聞こえない。
今度はジェノサイドは適当に暴れているだけの背の低い男を捕まえる。
ポケモンを使役しているところを見るに、"こちら側"の人間のようだ。
「おい、お前。今どんな状況だ」
「あァ? テメェ邪魔すんじゃ……。あっ、お前、ジェノサイド……か?」
こちらに振り向くなり態度が急変した。
ジェノサイドはその男を知らなくとも、向こうは自分を知っているようだった。
「悪いな。遅れた。だからイマイチ状況が分からねぇ。今どうなってる?」
「い、今は、さぁ……。目当ての人間も居ないらしくて、とりあえず……暴れてる感じ……かな」
深部集団最強とも評される人物を前にして、その男は緊張しているようだった。声がたどたどしい。
ジェノサイドは先程転がした、スーツ姿の中年男性のいる方向とを交互に見てはため息を吐いた。
「やはり、此処には五百城は居ねぇみたいだな」
「へ? へぇ……そ、そうか……」
ジェノサイドは悩んだ。此処に五百城が居ないとなるとこの場に留まる意味が無い。無駄に破壊行動を繰り返すなど、それまで自分たちが始末してきた暗部の連中と何ら変わりは無い。今すぐに不必要な行動を止めさせ、次の行動に移るべきである。
「よし、一旦退却だ。外に出ろ。これを此処にいる仲間たちに知らせるんだ。いいか、これはジェノサイドの命令だぞ」
「う、うっす」
背の低い男は走り始めると、近くに居る深部集団の人間たちに声をかけては回り始めた。声を掛けられた人間は少し離れた所に佇んでいるジェノサイドを見ては攻撃を止め、外へと抜けてゆく。
念の為ジェノサイドは他の部屋を見て回ることにした。
他の階に登ると、伝令が伝わっていなかったからか小競り合いをしている連中を何度か見かけた。その度にジェノサイドは声をかけ、戦いをやめさせる。一人では限界があるのでそこはハヤテとケンゾウに任せる。
二人は先程の雑な対応についてブツブツと文句を言っていたが、新たな命令を下すと愚痴は消え、その命令を忠実にこなす。
その途中、資料室とある部屋にも足を向けてみたが、元々こちらで働いているであろう女性が身体を丸くして震えながら隠れている以外に特に目につくものは無かった。綺麗に並べられているファイルを幾つか手に取ってみたが、五百城に関する情報も皆無である。
「やはり……五百城に関わるものは何も無い……な」
ジェノサイドがそう結論づけた頃になると戦いの音は止み、静かになっていた。
資料室を出て、廊下の割れた窓越しに外を見てみると、この戦いに参加しているであろう多くの深部集団の人間が集結している。物音もしないあたりあれで全員のようだった。
「よう、お前ら。ご苦労だった」
ジェノサイドは外に出ては彼らに労いの言葉をかける。真昼の陽射しは眩しいが暖かい。
「だが、残念な事に五百城は見つからなかったし、それに類する資料も無かった。俺たちは全く関係ない施設を襲ってしまったわけだな。……まぁいい」
ジェノサイドは悩んだ末にスマホを取り出した。
ある人物へ連絡をしようと指を動かしたまさにその時、敷地内へ青いスポーツカーが侵入してはこちらに向かってくるのが見えた。
- Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.49 )
- 日時: 2024/04/17 10:10
- 名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: G.M/JC7u)
ジェノサイドは迫り来るその青いスポーツカーに乗っている人間が誰なのかを知っている。かつて神東大学内で戦い、しかし今となってはジェノサイド自ら仲間に引き入れんとわざわざ会いにも行った、深部集団の一人、ルークと仲間の一人の雨宮だ。
車の持ち主はルークではなくもう片方のものらしい。
二人が今こちらにやって来たという事は、元々別の議会場に居た可能性が高い。
ジェノサイドは怪訝の表情を浮かべながらスマホの電話帳を開いた。
「おいおい……なんだぁ? この列は。こんなに綺麗に並んじゃってまぁ、流石クソ真面目なジェノサイド様の指揮下だこと」
ルークはジェノサイドの前に整列させられた面々を眺めては半分わざとらしく言ってみせた。
「ルークか、何の用だ。と言うよりお前何処に居たんだ?」
「テメーが最初に八王子と多摩と立川の三箇所に行けって言ったんだろーが。一番近かった八王子に行ってたが何か? 五百城の野郎に関して何も情報が無かったもんでな、そう言えばとオマエが自分で立川行くって言ってたのを思い出してこうして様子を見に来たまでだ。こっちも大人しいな? どうした? もう終わった後か? だったら八王子と一緒だな。多分向こうの連中全員くたばってんじゃねーの。全滅だな。その中に五百城が居なかったのが残念だが」
よく喋る男だ、とジェノサイドは思った。しかし、その内容に反してジェノサイドの意識はそちらには向かない。
中々出なかった電話の相手が数コールして出てくれたからだ。
「もしもし、神々廻か? 今話せるか?」
その相手とは神々廻実。五百城と同じく結社の人間だ。
ジェノサイドが彼から"依頼を受けて"五百城討伐に参加したという経緯があるため、連絡先は初めて会った時にお互い交換している。
電話の先で神々廻は小さく唸ったようだった。まるで、呼び捨てはやめてせめて先生と呼べと言いたげに。
『もしもし、ジェノサイド君だね? 私は無事だよ。ところで今不可解な情報が入ってね……。君たち、議会場に乱入して暴れているのかな?』
「なんだよ、分かってんじゃねーか」
『あまり暴れられるのもどうかと思うが……』
「訳ならあとで話す。それよりも教えて欲しい事がある。五百城の居場所だ」
ジェノサイドは言いながら綺麗に整列している仲間たちと、ルークとを交互に見た。待たされているせいでイライラしているらしい人をチラホラと確認した。
電話の先の神々廻は暫く考える。
『……と、言うことは君たちが攻撃した三箇所の議会場からは何も得られるものが無かった、という事かな?』
「まぁ、そうなるが……でも待ってくれよ。今の俺たちは急いでるんだ。あまり時間が……」
『いや、いいんだ。私からしてもある意味好都合……かな? ともかく、五百城先生の居場所だね。大丈夫、彼なら逃げはしないさ。何故なら……』
露骨に話を引っ張りつつ、神々廻は風を浴びながらゆっくりと振り返る。その先には立派な建物があった。
『五百城先生は明日に控えたイベントの為に武道館に居るからね』
「なにっ、武道館? 武道館だと!? 武道館ってあの"武道館"だよな?」
ジェノサイドはあえて周りに聴こえるように大声で叫ぶ。出撃を今か今かと待ち構えている仲間たちに知らせるためだ。それと同時にジェノサイドは指でジェスチャーした。行け、と。
それを見た仲間たちは各々の方法で移動を始め、綺麗に並べられていた列は歪な形となる。ほとんどの人間がポケモンを使って空を飛んだ。
ジェノサイドはそれを確認すると途中で止まっていた通話に戻る。
「なんでそんな所に……」
『実はね、五百城先生の中央議会上院議員の内定式典を武道館で開催することになっていてね、それを明日行うんだ。その準備とリハーサル、そして様子を見るために先生は来ているよ。当然私も今そこに居る』
「なんだよそれ……深部集団ってのは表に出ちゃマズイ組織のはずなのにそんな事していていいのかよ……表向きにはどうなってんだ」
『表向きには私たちの所属する独立行政法人の多大なる活動を表彰するための式典……になっているね。君たち深部集団も、私たち中央議会も、表向きには独立行政法人という事になっているからね』
吐き気がした。何が表彰式だ。徒に部下である自分たちを好き勝手に処分しておきながら何を表彰すると言うのだろうか。ジェノサイドはレイジを殺された恨みと怒りとが込み上がってくるのを感じた。
「じゃあ……アンタがそこに居るという事は……」
『そういう事さ。見届けさせてもらうよ』
その言葉を最後に通話は途切れた。
ジェノサイドはしばし俯きながら、長い溜息を吐く。
それを見ていたハヤテとケンゾウ、そしてルークが近寄って来た。
「リーダー……どうかされましたか? 大丈夫ですか?」
「リーダー、何か言われたッスか?」
ハヤテとケンゾウ、二人に声を掛けられてジェノサイドは徐々に意識から離れかけていた"自己"というものを取り戻す。あのままだと恐らく修羅の化身となっていただろう。それだけに二人の存在は温かく、そして愛しいものであった。ジェノサイドは二人に対し微笑む。
「大丈夫だ、変な事は特に言われてねぇ。それよりも俺達も行動を改めるぞ。次の行先は日本武道館だ」
「武道館だァ? バカかテメェは。本気で言ってんのか。何でそんな所に五百城がいんだよ、ライブでもやるってか?」
ルークが悪態をつく。当然ながらその理由は電話越しでのやり取りだったために現段階ではジェノサイドしか知らない。
「神々廻がそう言ってたんだ。間違いは無いだろう……多分。本人もそっちに居るみたいだし、とりあえず行ってみるしかねぇだろ。なんでも、明日五百城はそこで表彰されるらしい。その確認のためなんだとさ」
「意味わかんねー」
そう言いつつルークは青いスポーツカーが停められている方向に向けて手招きをした。すぐにその車はやって来る。
「待て、ルーク。車で行く気か?」
「それ以外に何があんだよ。コイツの運転は一流だ、嘗めんじゃねぇ」
「そうじゃない。武道館だぞ? 千代田区の九段下だ。いくら運転が上手くても道路が混んでたらかえって遅くなるだろ……」
「そん時ゃそん時だ」
そう言い放つとルークは車の助手席に乗り込むとうるさい排気音を響かせて去って行った。空を飛ぶポケモンほどではないにせよ、その動きも一瞬だった。
「俺達も行こう」
気が付けば周囲に残った人間のほとんどが消えていた。それぞれ行動を始めたことで人が少なくなっている。未だに残っているのは戦意を喪失して呆然と突っ立っている者か、仲間に連絡しているかのどちらかであった。後者はまだいいが前者はどうしようもない。ジェノサイドは彼等を無視する。
「電車で行くと何かと面倒だ。かと言って車はもう使えない。あまりオススメはしたくないがここはポケモンで移動しよう」
「私もリーダーの運転する車には乗りたくないですからね。それが妥当です」
ハヤテがまたもナチュラルにジェノサイドの心を抉る。ジェノサイドは傷付く以前に未だに根に持っているのかと思うと少しだけ吹き出してしまった。
「当たり前です! 来るまでに何度ヒヤヒヤしたことか……その果てがあのオチだといくら私でも我慢出来ませんよ」
ジェノサイドはそんなハヤテに対し軽く謝ってはボールからオンバーンを繰り出す。ハヤテも同様にひこうタイプのポケモンを繰り出すも、ケンゾウだけは中々ポケモンを使おうとしない。
「おい、ケンゾウお前どうした。早く行くぞ」
「い、行きたいのは山々なんすけど……俺、空飛べるポケモン持ってなくて……」
「あっ、通りでお前この前の大山での戦いの時全く参加してなかったワケだ! あの時ドタキャンしたのかと思ったくらいだぞー。忘れてねぇからな俺は」
と言ってジェノサイドはケンゾウを軽く睨みながらもリザードンの入ったボールを放り投げると、中から出てきたポケモンの背に乗るよう命令する。
「すいません、リーダーの相棒の一匹なのに……」
「別にいいよ、お前だしな。だがこれを機にお前もひこうタイプのポケモンちゃんと育てておけな」
「はいッス!」
「よし、行くぞ」
リーダーのその言葉を合図にジェノサイドは翔ぶ。二人の盟友はジェノサイドの一歩遅れたタイミングで、無尽蔵に広がる空へと羽ばたいた。
†
日本武道館。
東京都千代田区に建てられた、その厳かな建物には見るものを圧倒させる魅力があった。
クリーニングから出たばかりのような、綺麗なスーツを着用したその男も"それ"の虜になった一人だ。
神々廻実。
深部集団を掌握し、運営活動を行っている"結社"こと中央議会。その下院に所属している一人のこの議員は、複数の意味を含めた微笑をたたえながら風を浴びつつ景色を眺めていた。
「明日は五百城先生の式典が催されると言うのに……皮肉なものだね。これもまた、運命と呼ばれるものなのかな」
議会の一員でありながら、また別の議員を排除せんとジェノサイドらを煽った張本人は一人呟く。何物にも染まらない、綺麗な空に突如として浮かび上がった、誰も知らない流星を見つけ、しかしその正体に気付いた事で彼等に向けて言っているようだった。
その流星はゆっくりと敷地内である北の丸公園へと落下する。
流星の正体はレックウザに変身したメタモンだった。それに乗っていた二人の人間が地上に降り立つ。
「もう来たのか、早いねえ」
神々廻が彼等に向け微笑む。その間に更に二人、三人と次々に降りる人影があった。
五百城を討つために立ち上がった深部集団の中の、組織の枠を越えた集団。その先行部隊のようだ。
神々廻は彼らを眺めながら、彼等に名前を付けるならば"深部連合"だな、などと考える。
メタモンを連れた一人の男がこちらにやって来た。
「よぉ、誰かと思ったら」
「君は……確か私がスカウトした……」
神々廻が自ら声をかけたのはジェノサイドだけではない。彼も彼で何人かの深部集団の人間に対し声掛けをしていたのだ。
「ジェノサイドから連絡があってな、五百城が此処に居ると聞いて」
「うむ、その通りだよ。五百城先生ならあちらの建物の中だ。それにしても……レックウザに"へんしん"とは考えたね。でも、大空を飛ぶと身体に負担が掛からないかい?」
「その為に隣にランクルスを配置したのさ。エスパータイプのポケモンで身体にかかるエネルギーを変換したんだ」
「……考えたねぇ」
神々廻は低く笑った。これまで知らなかっただけで、現場担当となる深部集団の中には冴えている者がいる。そんな彼等を重宝しない訳にはいかない。
「考えたのはそっちもだろ」
前髪で目元を隠している、メタモンのトレーナーが神々廻を指す。
「ソッチが俺らに報酬を提示してくれた。そしたら今度はジェノサイドの野郎も同様に金をチラつかせて誘って来やがった。二人から金貰えるんだ。参加しない方がおかしいだろ」
「それもそうだね」
神々廻は失礼にも格下の人間に指を差されたにも関わらず全く気にしない素振りをしつつ辺りを見回した。
「ジェノサイド君はまだのようだね」
「これからじゃね?」
メタモンのトレーナーは自分が引き連れた仲間の顔を見る。レックウザに乗ったのは自分も含めて二人だけだが、彼について来た連中は全員で十五人ほどだ。今はその全員が到着している。その中にジェノサイドは居ない。
「車で来んじゃねぇの」
「それかポケモンだろ」
「どうする? ジェノサイド来るまで待つか? それとも先に殺っちゃう?」
ひとまず目的地に着いた事でリラックスした仲間たちはそのように雑談を始めている。
戦いと言うよりまるでピクニックのようだった。
晴れの陽気も相まって誰もが気を抜いていたのだろう。彼方の殺気に気が付く事は出来なかった。
突如として遠くから光弾が放たれ、近くで着弾、爆発する。
メタモンの男は見捨てるように神々廻から離れる。彼からすると神々廻は"金をくれるだけの存在"である。別の見方をすれば五百城の仲間でもある。約束さえ果たしてくれれば尊重する程の価値でもない人間だ。
だが、同時にその光弾は神々廻を狙ったものではない事も知る事が出来た。神々廻ではなく、自分が連れた仲間に撃たれたものであったからだ。
「おい、大丈夫か!」
「誰だよ畜生……」
「よく見ろ、これは"はどうだん"だ。誰がやったかなんて分かるだろ!」
土煙の中で仲間たちの怒号が響く。
メタモンのトレーナーは誰よりも先に動いた。建物の入口付近に"それ"は居る。
「来やがったな五百城ィ! テメェは俺が殺す!」
叫びつつメタモンを放つ男。そのポケモンは一切のタイムラグ無しにルカリオへと変身した。
「へぇ……」
「俺のメタモンの特性は"かわりもの"だ! わざわざ"へんしん"の技スペースなんざいらねぇんだよぉ!」
五百城のルカリオに変身したメタモンは腕を構える。"はどうだん"を撃つポーズだ。
更に見てみると、彼に倣って各々ポケモンを繰り出す深部集団の面々の姿があった。メタグロスやハッサムなど、様々なポケモンが一堂に会する。
「面白いねぇ。きっと皆僕を狙ってやって来た連中なのだろうね」
五百城は静かに腕を上げる。その腕には摩訶不思議なリングが巻かれている。
深部集団の戦いにルールは無い。ひとつのターゲットに多勢でかかるというのもよくある話だ。
だが、五百城は表情ひとつ崩さない。
「だからこそ、壊すのが惜しいねぇ!」
掲げられた腕から、そのリングから虹が輝く。
そこから先の状況は、説明が無くとも分かりきっていた。影がひとつ、またひとつと消えてゆく。
一方的な蹂躙と、圧倒的な暴力により忽ちのうちに支配されてゆく景色。
全ての影が倒れ、消えてから五百城は呟いた。
「怪我は無いかね神々廻センセ。先程おかしな情報が入ったよ。東京西部にある僕達の"拠点"が突如襲撃を受けて壊滅状態、とね。やはり彼らは頭のおかしい狂った連中だよ。そんで、僕が此処に居るという情報を何処からか掴んだんだろうねぇ……。もう一度訊く。怪我は無いかい、神々廻センセ」
多量の砂塵を背に、五百城は勝ち誇った笑みを浮かべつつ強調するかのように二度同じ事を尋ねる。
神々廻はひたすら感情を殺し、頷くしかなかった。
- Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.50 )
- 日時: 2024/05/13 19:54
- 名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: joMfcOas)
情報が途絶えた。
一足先に日本武道館へと到着したルークと雨宮は直感的に悟る。今敷地に入るのは危険だと。
「何がどうなった……?」
「俺たちよりも先に武道館入りした連中が居たのは確かだ。ほら、居ただろ? メタモンをレックウザに変身させてたヤツ。あいつが仲間を何人か連れて行ったらしいが……。全滅かなぁこの感じだと。近辺からは爆発音がしたっつー報告もある。とりあえず今わかってるのは、俺ら二人だけで武道館に行くのはダメって事だ」
重要な内容の割には雨宮はどこか他人事だった。まるで、自分の仕事はもう終わったと言いたげである。実際二人は雨宮の操るスポーツカーで首都高速道路を走り抜けてはここまでやって来たのである。雨宮本人にとっても、自慢の車を速く走らせたいというのは今回の目的のひとつであった。もしかしたら、五百城討伐よりも優先度が高かったかもしれない。
そんな二人は今、武道館からの最寄り駅である地下鉄の駅、九段下駅にて待機している。
「ふざけんなよザコ共の癖に……。バラバラの状態で勝手に動くからこうなるんだよ……もっと纏まって行動してりゃこうはならなかったはずだ」
「ごもっとも。そしてそれについてはきちんと纏まりを入れないジェノサイドと、そもそもの騒乱の元凶である五百城の二人に文句言っとこーぜ。それかいっその事バックレでもするか?」
「クソッ!」
雨宮とルークとでは意識の違い、その差が大きい。
既に目的を果たした気になっている雨宮と、五百城の抹殺が主目的のルーク。仲間の仇が眼前に在るという事実があるだけに駅で足止めされている現状に腹が立って仕方が無かった。どれだけ待ってもジェノサイドはおろか他の仲間もやって来ない。ピークに達したルークは拳で壁を殴った。
その隣では壁に背中を預けつつしゃがみながら3DSを開いては何ともない表情でオメガルビーをプレイし始めた雨宮がいる。
「気持ちは分かるけどよぉ。もう少し待とうぜ。俺らが来るのが早すぎたんだよ。自慢のFDだしな」
「だとしても、遅過ぎだ」
「大丈夫だって。敵は逃げたりはしねぇよ」
ぶつけようのない感情を抱えたまま時間にしておよそ十五分が経った。
深部集団とは関係の無い無数の一般の利用客たちが行き交っているのを飽きるほど眺めていた時。
「あっ。えっ、と……ルーク……さん?」
名前を呼ばれた気がしたルークはそちらを見た。
「モルト? てめぇ……モルトか!? ふっざけんなよてめぇ来るのが遅過ぎなんだよ」
それはルークの顔見知りだった。
Bランク組織『爆走組』を率いる深部集団の人間にしてルークの後輩でもあるモルトだった。成長期という大事な時期にて夜遊びに耽けていたせいかその背は小さい。
「いやぁすみませんッス。情報が途絶えちゃって何処に向かえばいいのか分からなくて……」
「まぁいい。仲間はどの位連れて来た?」
「四人ッスね」
「それだけか……そんなもんだよなぁ」
ルークはため息を吐きつつも、大して強くもない組織の限界というものを知っているが故にそれ以上は追及せず納得した。彼の組織の人間が極端に少ない訳では無い。ここに来るまでの間に情報の伝達が上手くいかず散り散りになってしまったのだ。
移動が完了する丁度いい時間に達したためか、モルトが到着したのを皮切りに続々と"それらしい"人間が集まってくる。
九段下という駅は都心を象徴する駅のひとつでもある。利用者がとにかく多い。あまり一箇所に集まり過ぎると一般の利用者の妨げにもなり、他にも都合が悪くなりそうなのでルークは彼らに命令した。
「ジェノサイドのクソ野郎がまだ来ねぇ。だが奴がココに来るのは確実だ。だから特別な号令が下りるまで武道館には行くな。その代わり駅周辺に限り外に出てもいい。とにかくココで面倒事を起こすな。いいな」
ルークはAランクの組織の人間であった。
この中では彼と同等の高ランクを有する人間は珍しい部類に入る。さらに、ジェノサイドとも顔馴染みともなればその場しのぎの代理になるには十分だった。不満のひとつも漏れずに集まった連中は自由に動く。
それから十五分後。
改札の向こうからやけに騒がしい足音が響くのをルークは聞き逃さなかった。
一人の男が焦ったような顔をしてはこちらへと向かってくる。
「てめっ……遅せぇんだよジェノサイドォ!」
「悪い、少し手間取った」
「"手間取った"で済む問題じゃねぇんだよクソ野郎が」
「悪かったって……」
燃えたぎるような怒りを表しているルークに対してはジェノサイドはそのようにしか言えない。ジェノサイドという男はこういう時遅れがちなのだ。
「何処で何をしていた」
「移動していた……。途中ひっきりなしに連絡が来るもんだからそれで遅れて……」
「テメェがしっかりしとけやボケが」
駅に着いてすぐジェノサイドは迷う素振りも見せずに地上へと出ようとしたのでルークは慌てて彼を止める。
「おい待て、今現地がどうなってんのか分かってんのか!?」
「ある程度はな。此処に来るまでの間に状況の把握は済ましておいたからな……。とりあえず外に出よう。仲間たちにもそう伝えてくれ」
ジェノサイドのその報告に訝しみつつもルークは駅構内に居る深部集団の面々に対し怒鳴っては移るように促した。
「話は聞いている。先に突入した奴らは皆やられたようだな」
「やはりな……」
ジェノサイドはルークの隣を歩きながら話す。その前後には今回集めた連中が道を塞ぐように歩いている。行先は当然武道館だ。
「だが全員が文字通り全滅した訳じゃない。無事な奴や戦闘を眺めていた人もいる。その中に俺の仲間も居たもんでな」
「武道館の敷地内にお前の仲間が……?」
「敷地内は五百城とその配下の人間たちによって掌握されたと言っても良い。周辺を見張るようにポケモンも配置しているらしく、監視は万全だと」
「おいおい、それじゃあ地上からの突入なんて不可能じゃねえか」
「いや、それが別ルートの情報からすると北の丸公園の北側、田安門方面は警備が手薄らしい。恐らくだが五百城の身辺の守りを強くしているようだ」
「田安門だぁ? こっから一番近い入口じゃねーか。そこを厚く守らないとか馬鹿なんじゃねーの?」
ルークは"別ルート"という言葉を当たり前のようにスルーした。ジェノサイドはあえて濁したが、ここで言う別ルートとは"神々廻発の情報源"である。あまり隠す必要は無いが、ジェノサイドはまだ自分が神々廻と繋がっている事を隠している。
「とにかくだ」
ジェノサイドは突然駆け出しては集団の先頭に辿り着いては二、三歩先を歩き、その場で立ち止まった。自然連れられた面々もつられて足を止める。
「まずは今居る連中だけで武道館を攻める。それに呼応して追う奴も出てくるだろうし、今現在判断を見極めようとして周辺で動きを止めている奴も動かす。俺たちが第二の突撃部隊としてこれから進むぞ」
「おい、ちょっと待て」
列を掻き分けてルークがジェノサイドに迫る。その表情には不安と怒りが入り交じっていた。
「そんな希望的観測で事を進められちゃ困る。俺たちはテメェの持ち駒でも捨て駒でもねぇんだよ。人数が集まるまで動くな。これはテメェに対する俺からの命令だ」
「いや、希望的観測じゃない」
風を浴びてジェノサイドは空を見上げた。
たったそれだけの動作が合図になったからなのか、どこからともなく現れた彼のゾロアークがその見上げた先を飛んでいたゴルバットに技を打ち当てて落とした。
「既に俺の組織の人間を近くに配置している。情報の混乱で戦闘員全員を集める事は出来なかったが……百人ってとこかな。そいつらをこの公園近くや周辺のビルなど……とにかく建物の中なんかに置いている。俺の合図ひとつでいつでも動ける連中だ」
「お前……そこまで考えて……」
「これで俺がただ遅れただけじゃないってことが分かっただろ?」
ジェノサイドはかつて敵であったはずの人間に、友人に対して見せるような"してやった"と言いたげな笑顔を見せる。
一匹のゴルバットが撃ち落とされたせいか、異変を察知した同様のポケモンが数匹、数十匹と数を増やして迫って来た。
「来たぞ、まずはひとつめの仕事」
ジェノサイドのゾロアークは"トレーナーからの命令"というタイムラグを起こすことなく"ナイトバースト"を放っては一度に数匹のゴルバットを落とす。
「コイツらを倒せ!」
その言葉を合図に、組織という垣根を越えた深部集団の面々はそれぞれのポケモンを出しては応戦し始めた。
†
「静かになったな」
日本武道館。その建物を眺めていた五百城渡はその一歩後ろに下がっている神々廻実に対して礼儀を知らない口振りで突然声をかけた。
神々廻と五百城とでは年齢が大きく離れている。当然神々廻の方が歳は上だが、議会における地位が高い五百城としては彼を先生呼びはするものの、常に見下していた。
「躊躇もせず議会場を襲って破壊の限りを尽くす野蛮人共だ。本気で僕を狙うつもりなら、これで終わるはずが無いんだけどなぁ」
「恐らくですが……ひとつの大きな纏まりを鎮圧してしまったのでしょう」
「まぁ、そうだろう」
小さく笑った五百城は気持ちが落ち着いてきたのか、胸ポケットから煙草を取り出した。
高価そうなオイルライターから蓋を開ける際に生じる派手な金属音を響かせて火を灯し、煙草を燃やすと吸い始める。
「神々廻先生に尋ねるまでもないが……この騒乱の首謀者は誰だろうね?」
「それは……間違いなくジェノサイドかと思われますが」
神々廻は躊躇うことなく答えた。
「やはりな。奴は来るかな、此処に」
「来られないでしょう。彼はこういう時安全圏から外の様子を聞く立場の人間です」
「つくづく……対処に困るウザったい糞餓鬼だ」
「五百城先生。この"戦い"を終えられたら……ジェノサイドは如何様に対応されますかな?」
「そうだな、これまでに何度か戦っても思った事だが……殺すしかないかな。少し惜しい気もするが」
落ち着いたペースで煙を吐く五百城。あまりにも落ち着きすぎて無防備にも見えた。恐らく彼は今外で起きている状況がどんなものか全く知らないでいるのだろう。神々廻はそう感じた。
「だが、神々廻センセ。今の発言は見過ごせないな、訂正を求めるよ。こんなのは"戦い"なんかじゃない。ただの烏合の衆が集まって騒いでいるだけの"反乱"以下のものさ」
そして、その言葉を聞いて神々廻はもう一つ感じた。
自らとの意識の違いを。
この戦いは単なる反乱などではない。文字通り今後の深部集団の将来を左右する大きな戦いであった。
争いの主な原因にしてその本質は"対五百城"のものではあるものの、神々廻にとってはもう一つの意義を見出していた。
ジェノサイドという存在を巡る、議員同士の戦い、内紛と。
つまり、この戦いは政治的な思惑も含まれたひとつの戦いにして、各々の地位をも飛び越えるひとつの"叛乱"でもあるのだった。
「失礼いたしました」
神々廻は決してそれを口にしない。適当に軽く謝り、表向きは彼に追随するに留める。
当然このような性質がある事と、自分という存在そのものを政治の駆け引きに利用されているなどということをジェノサイド本人は知る由もない。
この戦いは、陰の戦争でもあった。