二次創作小説(紙ほか)
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- テガミバチ after story
- 日時: 2017/06/01 22:54
- 名前: 紅茶 ◆wiCxtrVptM (ID: yMr7nvgj)
はじめまして、紅茶と申します。
本作は原作「テガミバチ」の後の世界を想定したストーリーとなります。
そのため、原作のネタバレを含みますので、まだ原作を読んでいないという方はブラウザバックを推奨します。
誤字、矛盾等ありましたらコメントしていただけると幸いですが、後者は修正できない可能性があります。
本作に原作のキャラクターも登場しますが、キャラ崩壊の可能性があります。お許しください。
- Re: テガミバチ after story ( No.1 )
- 日時: 2017/06/01 23:44
- 名前: 紅茶 ◆wiCxtrVptM (ID: yMr7nvgj)
ふぅ、と溜め息をつきながらドスンと勢いよくソファに飛び込んだ。
「溜め息なんて珍しいじゃないゴーシュ…じゃなくてノワール」
そう言うとアリアはノワールに差し入れのコーヒーを差し出した。それを即座に飲み干すとより深くソファに座り込んだ。
「…溜め息もつきたくなるよ。首都再建の為に人がみんなそっちに向かってるのだから。それに…」
ノワールはソファの横に置いてある袋をチラッと見る。その中には切手が貼られていないテガミが大量にあるのだった。
スピリタスの一件の置き土産の影響は大きかった。ヨダカに兄弟や親を残してきた人たちやその逆の人たちがお互いに生存確認のテガミを送り合っているのだが、それらが無事送り先へ届けられることは決して多い、とは言えず実際は送り先にたどり着いた時には村が崩壊していることや、送り先がココロを失ってしまった人たちであることがほとんどだった。
さらに首都再建のため人員がテガミバチに増員されることはなく、新規採用は以前よりも制度が緩やかになったにも関わらず一向に増えない。その癖スピリタスの影響か今までは見たこともなかった鎧虫が姿も現したりとただでさえ少ないテガミバチに追い打ちをかけていた。
「あの子がいれば…、少しは楽だったかしら」
アリアは空になったマグカップを下げると、ノワールの隣に座った。
「アリア?」
「私も外に出れたらいいのだけど、中も中で大変なのよね」
ノワールが仕方ないよ、と言いかけた時だった。
「良い雰囲気のとこ邪魔するぜー」
部屋の柱に背中を預けながら右手に封筒を持ったザジがにやにやしながら立っていた。
ザジはアリアの傍まで寄ると持っていた封筒を手渡した。
「テガミバチ志望だってよ」
アリアは封筒を開けると、確かにそこにはテガミバチを志望するための文字が短く書かれていた。
テガミバチになりたい。
差出人は書かれているが、擦れて読めなくなっている。よく見ると封筒も傷だらけで遠いヨダカから送られてきたこと示していた。が、差し出し人以外は住所も不明。字からは子供のように読み取れた。
ラグがいればテガミにこもったココロを読み取れたのに、と口を噛みしめながらテガミを握りしめた。
「このテガミはどこにあったの?」
「ビフレストを越えたすぐのユウサリに落ちてた。初めてユウサリに来て迷った末にテガミバチがよく通るとこに置いたか、もしくは単純に落としたか。どちらにせよそのテガミの持ち主を確かめる手段はないぜ。じゃ俺はまだ配達残ってるんで」
ザジがドアに手を伸ばすと押す暇もなく、そのドアは勝手に開いていく。ドアとドアの隙間から小さい子供の姿があらわになっていく。ドアが完全に開ききったところで少年は口を開いた。
「それ…僕のテガミです」
- Re: テガミバチ after story ( No.2 )
- 日時: 2017/06/17 20:54
- 名前: 紅茶 ◆wiCxtrVptM (ID: yMr7nvgj)
「僕をテガミバチに入れてください」
子供は部屋の中に足を踏み入れると、テガミを持ったアリアのそばまで歩を進め、そして頭を下げた。
困った表情のアリアはノワールと一瞬顔を合わせる。
「まず君、両親はどこだい?ここは君みたいな子供が一人で来るところではないよ」
子供は顔を上げるが、言葉を発しない。何かを言いたそうに口は動いているのだがノワールには通じなかった。子供の沈黙状態にアリアは状況を察知し、質問を変えた。
「僕、名前は?出身はどこ?」
先ほどの質問の反動かしばらくは答えなかったが、ようやく口を開いた。
「ルクスです。出身はヨダカのテリドール」
「わかった。ルクス、少し話をしよう。ザジ、この子を来客用の部屋まで連れてやってくれ。僕もすぐ行く」
あいよ、とザジはルクスの手を引き部屋を出て行った。
ヨダカのテリドール。ヨダカの中でも比較的ユウサリに近く人口もかなりいた村だったが、スピリタスの一件で村ごとココロを奪われてしまった。テリドール出身の人間で意識がある者は今のところ確認されていない。両親はスピリタスの攻撃でココロを失った可能性が高い。なぜルクスに意識があるのかはわからないが。
「親がいない…か。ここで仮に僕たちが彼を追い払ったとして彼はどこに行くのだろう?両親の待っていない故郷に一人で帰るのか?」
「でも、あんな小さい子をテガミバチにって危険すぎる。申し訳ないけど、帰ってもらうしか」
「ガラードがいない今、代理館長は僕だ。彼のテガミバチ承認は僕に許可がある。全て彼の話を聞いてからだけど」
「ごめんね、遅くなって」
来客用のテーブルにすでに腰を掛けているルクスの正面にノワールは座った。そのまま流れるように自己紹介をする。
「では、本題に入りましょう。まず君はなんでテガミバチに?」
ルクスはまじまじとノワールを見つめる。やがて
「お父さんとお母さんが化け物にやられて、それでそいつらを倒したいと考えて」
徐々に感情が昂ってくるルクスにノワールは待ってをかけた。
「倒したいか、気持ちはわかるがそう簡単にできることではない。そうすることで君自身が亡くなってしまう可能性だってあるんだよ」
「…僕は死ねません」
そういうとルクスは服を脱ぎ捨てた。それを見たノワールは驚かずにはいられなかった。生々しいだけでない、実際に受ければ間違いなく死んでいたであろう傷がルクスの身体のあらゆる箇所につけられていた。針のように鋭利な者に刺された痕に、刃に身体を切り付けられた痕、さらには銃痕のようなものまである。そしてそれら全ての傷痕を修復するかのように、黒いガーゼのようなもので覆われている。それは、決してこの世に存在するものではなかった。どす黒く、それ自体が生きているようだった。例えるならば、黒く染まったココロ。
「ここに来るまでに何度も化け物に襲われました。その度に傷が増えていったけど、僕が死ぬことはなかったんです」
ルクスは床に落ちた服を再び着るとノワールを問い詰めた。
「これでも僕はテガミバチになれませんか?」
「……。ルクス、君をテガミバチとして承認する。書類を持ってくるから待っててくれ」
死ぬことができない少年。もしこの力が本当なら彼を救い出すことができるかもしれない。それにここを離れても彼は気味悪く思われ、化け物扱いされるはずだ。ならいっそテガミバチとして働いてもらう方がいいのではないか。
ノワールは震える手のまま契約書に判を押した。
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