二次創作小説(紙ほか)
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- 砂時計
- 日時: 2018/11/16 19:08
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
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大好きな人は
俺が恋人だということだけを、忘れていました。
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「初ちゃん!」 「初っ!」
楢崎初(ナラサキ ウイ)の病室を見つけると、榎田 緋弦(エノタ ヒヅル)はガラリと大きくドアを開け、日々屋祈莉(ヒビヤ イノリ)が後ろから転がるように病室に飛び込む。
初は既に目を覚ましており、二人の方向を向いた。綺麗な長髪がふわっと靡いた。
そして、ふんわりと笑い_______
「...祈莉ちゃん?」「...!うん!祈莉よ!初、良かった...本当に...」
と会話をする。祈莉はよろよろと初のいるベットに駆け寄り、泣き笑いしながら初と目を合わせた。
そして不思議そうに首を傾げながら、堅苦しい敬語で話し出す。
「......榎田先輩?お見舞い、来てくださったんですか?」
「.........え?初ちゃん何言って...「ちょっ、初?何言ってんの、緋弦先輩は初の彼氏じゃない」」
彼氏。
そうだ。緋弦は初の彼氏。二人は付き合っていた。
それなのに、初は
「いやいや、祈莉ちゃんこそ何言ってるの?榎田緋弦先輩は私と、祈莉ちゃん、相坂未莉(アイサカ ミリ)先輩、榎田柚弦(エノタ ユヅル)先輩............................小林...........絵馬(コバヤシ エマ)くんの部員5人の音楽部の先輩でそういうプライベートな関係なんて一切ないじゃん」
と、いう風に淡々と接する。
一瞬で、何かが壊れたようだった。
- Re: 砂時計 ( No.1 )
- 日時: 2018/11/19 16:58
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
「あら、楢崎さん目が覚めたの?」
「え、あ、はい」
初が遠慮がちにぺこりと頭を下げると、「良かったわ、本当に...すごく危ない状況だったのよ」と看護婦が笑う。
「で...あ榎田さんと日々屋さん。ちょっとお話があるの。着いてきて?」
看護婦に連れられ、部屋のドアを開けると、優しく明るそうな女性と真面目そうな男性がいた。
馳川真知(ハセガワ マチ)。
榎本海飛(エノモト カイト)。
首から下げられたネームプレートを一瞥し、二人は椅子に掛ける。
「日々屋さんに榎田さんね。心理療法士の馳川真知です!」
「整形外科医の榎本です。まずは楢崎さんが無事であったことが本当に良かった...」
「それで...無事だったのは無事であったのですが...お二人が楢崎さんに一番近いご恋人とご友人だと聞いて...申し上げづらいのですが、言っておかなければならないことが...」
「初にまだ何かあるんですか...?」
祈莉が深刻そうに聞く。
その言葉を聞いて真知と海飛は目を見合わせ、海飛がゆっくりと、ぽつぽつと話す。
「楢崎............さんは...
あと一年の命です.........」
- Re: 砂時計 ( No.2 )
- 日時: 2018/11/20 16:46
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
「え......なん...で」
緋弦は黙って聞いていたが、ゆっくり口を開き、「...あの!それってどういうことですか?」と聞く。
真知がパソコンのモニターを動かし、二人に見えるようにする。
グラフが二つ並べてあった。
「この二つのうち、ピンク色の方が楢崎さん、青色の方が統計...つまり通常の人だと思って見てください。搬送時、楢崎さんは多大なショック状態に陥っていました。ですので、榎本先生に交通事故の手術を施してもらった後、心理療法で楢崎さんの検査を行いました。」
そういってカチッとマウスを操作する。
青色のグラフがグンと伸びて行った。
「この数値はストレス耐性のもので、通常な数値です。個人差はありますが、大体はこの数値。ですが」
カチッという音と同時にピンク色のグラフが伸びた。
「.........!」
祈莉がはっとした顔をする。
「楢崎さんの数値は通常の半数も満たしていないんです。このことは」
「分かりました、もう...大丈夫です。緋弦先輩行きましょう。」
祈莉は緋弦を急かして部屋を出た。
そして鉄の階段をカンカンと上がっていく。
「祈莉ちゃん?」
「とりあえず、部員みんな知ってた方がいいかも。緋弦先輩、柚弦先輩に連絡お願いできますか?私は実莉先輩に連絡します」
「あっうん、でもなんで...」
祈莉はスマホを片手に俯きがちに話す。
「私前、調べたことがあるんです。......ストレス耐性を超えてしまうと、身体的にも影響が及ぶんです。そしてその影響は...身体的影響は...精神的なダメージより大きくて、2倍くらい膨張して影響するんです。」
「えっ...じゃあ、そのダメージが初ちゃんに加わったら...」
「反比例した身体的ダメージが大きすぎて制御できなくなる...........つまり、死んじゃう..................」
- Re: 砂時計 ( No.3 )
- 日時: 2018/11/21 17:28
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
祈莉の声は静かで余裕のない__________
真面目な声だった。
お互いに黙りこくり、静寂だけが響く階段の下からカンカンカンカンと音がして、実莉と柚弦が合流する。
「ごめん、遅れちゃって!」「初ちゃんのことだよね」
そういって不安げな顔をする実莉と彼女を宥めるように労わる柚弦を交互に見ながら、祈莉は丁寧にこれまでのことを話す。
緋弦は石化されたかのようにただ固まっていた。
「緋弦」
「......え、あっ、ごめん兄さん。」
「いやそうじゃなくて...」
実莉が落ち着いた声で「一個思ったんだけどね」と言い、おずおずと切り出す。
「ストレス耐性の問題だよね?ひづが彼氏だってこと、初ちゃんに伝えない方がいい気がする」
「どういうこと?」
柚弦が実莉に聞き返すと、「いや別に嫌味とかじゃないんだけど...それはゆづもひづも祈莉ちゃんも了承しといてね」と前置きをして、実莉が話し出す。
「初ちゃんが起きてひづが彼氏だってこと言ったんだよね。でも初ちゃんは信じてない。けど初ちゃんの頭にはちゃんと残ってると思うんだ。これ以上私たちが彼氏だ、彼氏だって伝えたら本当にそうなのかなって考えるよね」
「初、変なところで優しいからですか?」
「そうそう祈莉ちゃん。それで私たちのいないところで考えこんじゃったりしたら...ストレス耐性のリミットが早くなって逝くのも早くなっちゃう気がする」
実莉の的確な意見に4人は黙り込む。
「...私は賛成です。」
祈莉は懐かしむように夕暮れの空を見上げて「......私も......多分初も、もう大切な人が急にいなくなるの、嫌ですもん。本当はもう誰も...亡くしたくない...」と言った。
「私はもちろん賛成ってゆうか、言い出しっぺだしね」
「俺も反対したいけど...初ちゃんは大切な後輩で大切な部員だから、実莉と祈莉ちゃんに賛成」
大切、という言葉に反応して祈莉が柚弦をギロリと睨んだが、当の本人は「一番大切なのは祈莉ちゃん(カノジョ)だからね」と微笑む。
初の命を取るか、あと1年の生活を取るか。
「............俺も、賛成」
導き出した答えは残酷で、苦しかった。
- Re: 砂時計 ( No.4 )
- 日時: 2018/12/04 14:07
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
その日から、緋弦ら5人は見舞いに欠かさず行った。
記憶は一部欠けているし、もう戻らないけど初ちゃんは常に笑ってたから、
…………俺と、俺ら音楽同好会(俗にいう部活みたいなもの)の選択は正しかったんだと思う。
なんて、本当は恋人でいたい欲求を抑え込んで、緋弦は笑うことしかできなかった。
「んでだけどさ、初ちゃんに祈莉ちゃん、コンクールどうするの?」
病院の防音室でショルキーを引いていた柚琉が聞く。
この病院は有名人が入院したりするから、楽器練習のための防音室がついていて、緋弦と柚琉はYUZU—HIZU(ゆずひず)、初はF.A.R.E.(ファーレ)のリーダーとして芸能界で活躍している。
名前は変えているものの、容姿とオーラを異ならせて出なければならない。
何より………
「私は出られます。初どうする?退院してすぐだし、芸能界の方もあるし無理しなくてもいいよ」
「ううん、出る。芸能方面はほかのメンバーの子と違うスケジュールになるだけで、特に大きく困ったりしないし。容姿に至ってはお姉ちゃんに頼むね。もうウィンターコレクションの大体の段取りは終わったって言ってたから。」
「ん。じゃあ容姿はお姉さんに頼むとして、オーラは平先生に頼もっか。あの人芸能界でマネジメントしてた時期あるんだって」
ギターをギューンと掻き鳴らすと「知ってるよー祈莉ちゃん」とほほ笑んだ。
「私ら3年引退しちゃったけど、私だけは当日ボーカルで出るから頑張ろうね!」
「いやいや、実莉はコンクールより大学受験な。実莉、音楽と系別の食物実習以外できないじゃん」
「あと音楽の歌唱実習もだね。ってかどっちも試験には出ないし」
「ちょっ!ゆず!ひず!核心突かないで!」
と実莉は笑って両側にいた2人をグーパンで軽く小突く。
いつまでも、続くはずだった。
「...あれ?祈莉ちゃん、その人達知り合い?」
- Re: 砂時計 ( No.5 )
- 日時: 2019/01/23 15:48
- 名前: 朽葉真鈴 (ID: L7bcLqD7)
「え…」
「あ、もしかして私の友達とか…だったかな?ごめんなさい、私、覚えてなくて…」
ふわりと他人行儀に微笑む初に、緋弦は作り笑いで問うた。
「僕たちのこと、覚えてない?」
初は祈莉の後ろの3人をじっと見つめる。そして「……あ」と言った。
「YUZU−HIZUの夏田柚(なつたゆず)さんと、夏田緋弦(なつたひず)さんだ。初めまして、F.A.R.Eの楢崎初花(ならさきうか)です。」
警戒した笑いを見せる初の意識に、【部活の先輩】としての柚弦と実莉、【恋人】としての緋弦の姿は、薄れかけていた。
「お見舞い来る人数、減らしますか?」
「それじゃあ俺ら忘れられたままになるよ?」
「あれ?祈莉ちゃんたち?どうしたの、初のお見舞い?」
「あ…小花さん」
楢崎小花(ならさきこばな)。初の姉で、現在【天使のメークアップスタイリスト】と呼ばれ、注目を集めている。初と同じように照れたように静かに笑うところは本当によく似ていた。今日は少し寂しそうにも見えるいつもの笑みに、祈莉は「聞いてくださいよ、小花さん〜…」と、いつもの人懐っこさで言った。
これまでの経緯を全て小花に話す。
すると小花はハッとして「そっか…そういうこと」と笑った。
「え?どういうことですか?」
小花は祈莉の言葉に静かに言った。
「多分、初の記憶が後退してる…」
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