二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 仮面病棟(そのまんま)0.プロローグ
- 日時: 2020/09/26 14:44
- 名前: みるくてぃーともも (ID: OXQEO.ex)
秒針が時を刻む音が、六畳ほどの空間にやけに大きく響く。鉛のような重い空気がじりじりと精神を蝕んでいく。
速水秀悟は肺の奥に溜まった空気を吐き出しながら、対面に座る刑事に視線を向けた。
「もう知っていることは全部話しましたよ。なにが不満なんですか?」
すでに十時間以上も陰鬱な空気が充満した部屋に閉じ込められている。この狭い空間で、暑苦しい刑事たちと過ごすのもそろそろ限界だった。
机に片肘をついた金本という名の中年刑事は、疑わしげに目を細めながら秀悟をにらみ上げてくる。
「不満っていうわけじゃないんですよ、速水先生。ただね……」
金本は頭髪の薄い頭をがりがりと掻く。ふけが机の上に舞った。
「先生の話と現場の状況で、合致しない点があるでしょう。それがどういうことなのかなと思いまして」
「俺だってなにが起こってるか分からないんですよ!」
秀悟は拳を机に打ち付ける。鈍い音が狭い部屋に響いた。
「先生、落ち着いていきましょう。先生はあの事件で頭を強く打っているでしょう。それで記憶が曖昧になっているんじゃないですか?」
刑事になだめられ、秀悟は黙り込む。自分の記憶に間違いはない。そう確信していた。しかし、刑事に繰り返し質問をされるうちに、その自信はゆっくりと、しかし確実にすり減って来ていた。
悪夢のようなあの夜の出来事、あれはどこまで現実だったのだろうか?
疼くような頭痛が走り、秀悟は頭を抱えてうめき声をあげた。
「大丈夫ですか?」
たいして心配そうでもない口調で金本が言う。
あんたたちが追い詰めているせいだろ。秀悟は恨めしげな視線を金本に向けた。
「とりあえずもう一度だけ、事件の夜のことを詳しく話してもらえませんか。そうすればまた気付くこともあるかもしれませんし」
金本は無精ひげの目立つ顎を撫でる。秀悟は唇を噛むと、かすかに顎を引いてうなずいた。
たった三日、あの夜からそれだけしか経っていないというのに、はるか昔の出来事のように感じる。
「……あの夜、僕は当直をするために車で田所病院へ向かいました。」
ゆっくりと喋りはじめながら、秀悟は瞼を落とす。記憶の海に意識がゆっくりと溶けていく。
脳裏でピエロが醜悪な笑みを浮かべた。