二次創作小説(紙ほか)
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- 悪夢と感情【我妻善逸】
- 日時: 2020/10/02 20:27
- 名前: 柚子 (ID: yQYsQ8Ds)
雷の呼吸の使い手の善逸は、とある一時的なものだが血気術にかかってしまった。血気術にかかった感覚は、静電気のようにばちりとしただけだった。
その日から彼の生活は一変した。
怖いくらい笑ったり喚いたり、泣いたりもしなかった。冷や汗なんか一つもかかない。
でも、夜が来ると必ずどこかへふらつく。外出しても店は閉まってるし、今の状態での任務は危険だし、そもそも任務があるという知らせが来ていない。
善逸は感情を失い、悪夢を見るようになったのだ。彼の聴力も、今の状態では使うことができない。
蝶屋敷の主である胡蝶しのぶが言うには、治るには早くて三週間、遅くて一ヶ月だそう。薬を飲んで、日光に当たれば、治る速度は上がるそう。
当然、見舞いも来た。けれども善逸は、返事は一つもせず、逆に気味悪がられるようになった。それは同期であるカナヲ、玄弥、そして伊之助もそうだった。
だが、炭治郎や柱達は、善逸を気味悪がったりなんてしなかった。何度も何度も、任務がある日だって、善逸の見舞いに行った。
その日も、柱や炭治郎は見舞いに行く…そのつもりだった。
「…善逸?」
不思議なことに、ベットに善逸はいなかった。何か嫌な予感がした。炭治郎は急いで病室を出て、近くにいた柱の、実弥、甘露寺、伊黒に伝えた。3人とも報告を受けた時には顔は真っ青だった。
「わ、私人里の方探してくるわ!」
「こ、胡蝶に聞いてくる。最後に我妻を見たのはいつだってよォ」
「俺も人里探してくる…」
3人ともバラバラに動き、善逸を探した。あの状態で人里に行ったら…。傷ついて屋敷に帰ってくる善逸の姿が思い浮かんだ。どうかどうか、無事でいてくれ…と、炭治郎は心の中で願った。
一方、善逸の居る場所は静かだった。きらきら光る葉と葉の合間の光がとても美しい。そんな善逸の近くに蝶が飛んできた。いたって普通の紋白蝶だった。
善逸はそれに興味を示さなかった。だが蝶は、構って欲しいのか、善逸の近くをずっと、ずっと飛び続けてた。
ゆっくりゆっくり歩く善逸の周りを、うろちょろと。
そんな善逸の肩に、ぽん、と手が置かれた。善逸は無視して歩こうとしたが、置かれた手は肩をがっしり掴んでいて歩こうにも歩けない。
ぐいっと後ろに引き寄せられて、善逸は久し振りに、「怖い」という感情を思い出した。恐る恐る後ろを見るとそこには…
____深い青色の瞳、漆黒の髪色、きめ細かい肌、珍しい羽織…
一言で言えば、「美しい」の分類に入る人物だった。だが今は、怖いしか出てこなくて、善逸は思わず手を払いのけて走っていった。
だが、その人は柱なのだろうか、異様に足が速い。すぐに追いついて屋敷に戻らせようとした。何も話さないのが怖い。善逸は声を出そうとした。
「___っ……」
思うように声が出ない。喉に力が入らない。引っ張られることしかできない。
ふいに、この前見た悪夢を思い出した。一番濃く残っている悪夢だ。
__ただ、薄暗い森にいた。
地べたを見れば、真っ赤な血が広がっていた。
刀を持っていて、目の前には色んな人が死んでいた。
見覚えのある色合いの羽織…あれは確か…
「あぅ…た、すけ、て」
やっと声が出せた。目の前にいる美しい人物は、振り向いて此方を見た。表情は、二人とも変わらない。でも中では色々な感情が揺れ動いている。
「…お前……」
「……?」
重い空気を断ち切ったのは、善逸ではなかった。
「…助けて欲しいのなら、初めからそう言えばいいじゃないか」
「こ、怖い」
「…怖い?誰がだ?」
「き、君が、」
「俺がか?」
「……」
善逸は頷きも、首を横にも降らなかった。この人の第一印象は「怖い」だが、話してみれば怖くはなかった。なら、今は何にも怯えていない、そういうことになる。もし、目の前にいる人物が、欲望を叶えてくれるのなら、今自分を締め付けている「何か」から解放して欲しい。
そういう時には、何を言えばいいのか___
「……助けて……」
今まで我慢していたものが一気に解けたように、涙が次々と溢れ出てきた。拭う暇もなく、次から、次へと溢れ出た。
柱の人物は、暫く善逸の泣いている姿を見てからこういった。
「…嗚呼、助けてやる。」
「本当に…?」
「約束、する」
「……」
「何から助ければいい」
「俺を縛り付けている、何かから助けて…」
「…」
柱の人物は、一瞬考える仕草をとってから、頷いた。つまりはこうすればいいのだろう、と、言い、善逸に普段は見せない微笑みをかけた。そして、善逸にこう声をかけた。
「大丈夫だ。お前を縛り付けている何かはもういない。お前には味方がいる。安心しろ」
「……」
そんな言葉を受けて、善逸はさらに泣き出してしまった。
それと同時に、柱と炭治郎がやってきた。実弥に泣かせたと勘違いさせてしまって、少し大変な事になったが…
夕暮れ時、柱の一員である___水柱、冨岡義勇はこう言った。
「…もし良ければだが、俺の屋敷で預かってもいいか。ほんの一時期で良いから…」
「…!」
彼から提案するのは珍しく、周りの皆んなは目を丸くした。
___その後、ほんの一時期だけ、善逸は水柱の屋敷に預かられたのでした。