二次創作小説(紙ほか)

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ハンドレッドノート 二次短編集
日時: 2025/02/03 01:45
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

{強欲な爆弾魔とアヒル。}


いつも通り依頼を終え、俺たちアグリーダックは各々ゆったりとした時間を過ごしていた。
「さーて、俺はあの探偵ドラマ見ようかな!」
俺がそう呟くと、席に座って手芸をしていた縦人が露骨に嫌そうな顔をする。
翠さんはもう慣れている、とでも言うように花を手入れしている手を止めなかった。
…そんなことはお構いなしに、俺はテレビの電源をー
「………え?」
「!?」
『やあ!TOKYO CITYの諸君!私の名はグリード!』
勝手についたテレビからは、グリードと名乗る覆面男が、黒い部屋?を背に俺たちに語りかけている。
「…どういうことだ。」
翠さんも怪訝そうに眉を顰める。
グリードは、次々と爆弾を設置したやら、楽しい謎解きゲームやらと名探偵ならば見逃せない言葉を発していった。
『謎解きゲームに参加してもらうのは!』
グリードが言った瞬間に画面が変わる。そこには、


「……じ、ん…?」
『ホークアイズ!』
よく顔の知る、旧友の司波仁が映し出されていた。
いつも通りの仏頂面で仲間を宥める仁。
爆破予告が来ても飄々としている彼の姿に、これが80位の差か、と自分ながらに突きつけられる。
「…翠さん、俺たちは、」
「下手に動かない方がいい。相手を逆上させて爆発させてしまっては困る。」
「……せやな。」
縦人は仁のことになると途端に静かになる。
自分の無力さに歯噛みした。
親友が一大事なのに、俺は何もできない。









[俺に無いものを、大地は全部持っているはずだ。]
…そうだ。俺にできるのは泥臭い努力だけ。
ひらめきなんかなくたって証拠を一つも残さず取ってきてやる。
「?テンメー、何を」
「………決まっているよ。」



「親友の手助け!」



◆○○◆


爆弾を解除後、ネスト本部…おそらくグリードのもとにかかった通話。
おそらく俺が選ばれたのは犯人の動機の件でだろう。
通話画面の先にはかつての旧友がいて、なぜか少し表情が和らいでいるように見える。
必要最低限の言葉を画面に投げかけ、通話を切る。
「…司波くんに何か言わなくてよかったのか?」
翠さんの問いかけに、俺は首を縦に振る。
「この状況で変な感情を抱いてほしく無いからね。   …それに俺はまだ仁に顔向けできないから。」



今まで少し憂鬱になってしまうこの言葉が、今やっと仁に対する対等な言葉になった気がした。


「…待ってろ、仁。絶対に追いついてやる!」

Re: ハンドレッドノート 二次短編集 ( No.2 )
日時: 2025/02/03 01:49
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

無色の世界と鷹の羽。
#ハンドレッドノート
#物怪瑠衣
#ホークアイズ
#死ネタ
#司波仁

12月の空は白濁色に濁っていて、そこから降ってくる雪は自分のもう動くことのない体を優しく包み込んでくれる。
体はもう痛くない。
指先の感覚に靄がかかっている。
思えば、今日の今日までずっと笑ってきたなぁ。
でも、それももうおしまい。








今日の朝、当てのない視線の先を求めてテレビを付けた。
どうやら、今日の夜TOKYO CITYには雪が降るようだ。
…雪。フッと自嘲気味な笑みが溢れる。
あの日。両親が死んだ日も雪だった。
あの時はこの事実を飲み込むことすらできなかった。
家に帰ればいつものおかえり、という暖かな声は聞こえてこなくて。
不審に思って部屋の奥に両親を探しにいけば、


「お、かぁさ…おとう、、、さん?」


腹部を刺されて死んでいた。
そこからはずっと夢の中にいるようだった。
4日ほど経ったころか。流石に家族共々4日も音信不通なのはおかしいと感じたのか、学校の先生が尋ねてきた。鍵は空いていたようで、部屋に足音が響いている。
「ッ!?大丈夫ですか!!!???物怪さん、物怪さん!?」
その呼び声すら耳に入らず、ただボーッと虚空を見つめることしかできなかった。



あの日から、何が面白くて何が良くないのかわかんなくなって、でもそんな自分が嫌で、日本に来たら全てを変えた。
ずっと笑顔で。ネストで名探偵の隣にいれば、この事実を変えられると思って。

まあ、無駄だったけど。
………もう、疲れた。
最愛の人達はもういなくて、自分も心から笑えることなんてなくて…
今日の雪に紛れて、俺は軽い動作で歩道橋の手摺に乗る。
ここから飛び降りたら死ぬだろうな。
ま、いいか。
すっと空中への一歩目を踏み出す。














グシャッ………


12月の空は白濁色に濁っていて、そこから降ってくる雪は自分のもう動くことのない体を優しく包み込んでくれる。
体はもう痛くない。
指先の感覚に靄がかかっている。
思えば、今日の今日までずっと笑ってきたなぁ。
でも、それももうおしまい。

悲鳴を上げる人たちを背景に、俺は目を閉じる。
さようなら、無色の世界。














何がいけなかったのだろうか。
何が、お前をそこまで追い詰めていたんだ?
なあ、答えてくれよ………!!
「瑠衣……」
もう冷たくなってしまった瑠衣の身体に触れる。もう心臓は動いていない。
千里眼が嫌な事実だけ突きつけてくる。
お前は、この街にはめずらしい、雪の日に発見された。
飛び降り自殺だそうだ。
嘘だと思った。
信じたくなかった。
だってお前は、昨日の夜も相変わらず笑ってたじゃないか…
………………………嗚呼、そうか。
「…それが、お前を苦しめたんだな。」
ごめんな、気づいてやれなくて。
今思えば、瑠衣は感情の変化に違和感があった。
違和感を違和感で片付けていた、俺のせいだ。俺は、瑠衣を見殺しにした。
ずっと前から、サインをだしていてくれたのに…!
        . . . .
俺は陽気に笑っていたはずのお前の前で崩れ落ちた。











鷹の方羽は折れた。
だが鷹は、それでもなんとか補ってまた飛ばなければならない。
大きな傷を残して、鷹はまた宙へと舞っていった。

Re: ハンドレッドノート 二次短編集*4 ( No.3 )
日時: 2025/02/03 02:01
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

{燕と家鴨}




うららかな陽光が降り注ぐTOKYO CITYの下町。密着した屋台の間には人々の笑顔が溢れ、活気に満ちている。
ネクタイに黄土色のスーツ、肩掛けのベルトに革ノートと万年筆。そんなベタな格好からは探偵ドラマに出てくるような名探偵を想像させる。
彼の名は天命大地。
今日もこの街の安全を守るため、賑わう商店街に頬を緩めつつ、見回りをしていた。
「まっ、待ってくれやテンメェー…!」
関西弁まじりな彼は、天命大地の高校時代からの付き合いである、霧縦人だった。
そんな彼はひたいに汗を滲ませており、疲れを顔全体に出している。
「…縦人はもう少し体力をつけた方がいいんじゃないか?」
しゃがみ込む縦人を宥めつつもそんな言葉をかけるのは"始まりの記録者"そして現在アグリーダックの記録者、塔翠であった。
そんな2人を微笑ましく見つめつつも、大地は足を進める。
「…ん?」
ふとした違和感に大地は足を止めた。
「どうした大地…おや?」
翠もこの違和感に気付いたようだ。
「…こ、これ、どないしたんや??」
3人が目を向けた方には、明らかに誰かを避けているような隊形をした通行人たちがいたのだ。
その通行人たち皆青い顔をしている。
大地は原因究明のため、近くの者たちに話しかけようとすると、
「ぜッ全員手ェ上げろ!!さもなくば撃つぞ!!」
視線が集中する先には、大きなキャリーケースを抱え、さらに拳銃を持った男が立ち往生していたのだ。
いくら平和な街といえど犯罪は起こる。大地は今すべき最善の手を脳内で導き出し、行動に移そうと後ろを振り返る。
「翠さん、縦ひー「そこまでや!」
「!」
背後からした大きな音と声にまたもや後ろを振り返る。
そこにはいつの間にか拘束された犯人と、犯人を捕まえたらしき男性がいた。
「テメェこんなとこまで追ってきやがって!!ふざけんな!」
「……ふざけているのはそっちでは?」
今度は別の男性が犯人の言葉に割って入る。
「あなたみたいな隠れてものを取る小物がまどかさんと私の優雅なティータイムを邪魔していいとでも??誠一くんはともかく……こればかりは許せません。処します。さようなら。」
やや言い分が気になるが怒っているのは本当のようだ。そこに「誠一くんはともかくってなんや!!」とツッコミが入る。真面目なのかふざけているのか、わからない。
「あぁ!スワロウテイルの皆さん!ご協力感謝します!ありがとうございました!」
走りながら街のよく顔を知る警察官が犯人を受け取り、そう言った。
「いえいえ、そんな!当然の仕事ですよ。でも、よく俺らのことお知りになっているんですねぇ」
「日頃の"まどかさんの"ご活躍のおかげでしょうね。」
「〜💢そこだけ強調すんのやめてもろてええか???ごっつムカつくんやけど…」
「あらあら私の言ったことに反対と?その足りない脳みそでもう一度日頃の行いを考えてみなさい!!」
「うっさいわ!恵美がどうして自堕落人間にならず過ごせてると思っとんのや!!」
「「ムカー…」」
「あ、あの……」
警察官、完全に蚊帳の外である。
「?翠さん?」
ふいに、翠が2人に向かって足を進める。
そのことに気づいたのか、先ほどまで言い合っていた2人は翠の方に視線を向ける。
背の高い人の方が、目を見開いた。
「み、翠さんやないですか〜!!なんでこんなとこに!?」
「貴方は、アグリーダックの…誠一くん、こんな高貴な方とお知り合いなんですか?」
「失礼な!!」
またもや論争が始まるが、翠はこの状況を微笑ましそうにみていた。



…数十分後、誠一がアグリーダックを連れて事務所に帰ってくるのは、また別のお話。

Re: ハンドレッドノート 二次短編集 ( No.4 )
日時: 2025/03/02 20:14
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

{長く長く、短い夢へ。}

⚠️「春にして君に還る」のネタバレあり。




















「・・・寒い。」
ここはTOKYO CITYのある街。
街ゆく人々は皆1月の寒さに追われ、家路を急いでいる。
そんな夕焼けの地平線が光る中で1人、空色に輝く髪を持ったひどく痩せこけている少年が道の端に立ち尽くしていた。口からは白い息を吐いている。
少年の名は司波仁。
彼もまた1人、この街の寒さに震えていた。しかし微塵もここから動く意思はない
とでも言うようにピタリと体は動かない。
(………やっぱり今年は何にもないよな。)
瞼を閉じる。すると去年の楽しそうな様子の司波家がまだはっきりと映し出される。
『仁ー!誕生日おめでとーう!!』
『伸ばすな子供か。』
『うふふ。仁は12歳になってお兄さん気取りかしらー?』
『おいっ母さん!そんなつもりじゃ…』
『クララさん、あまり人を虐めないでやってください』
『おおっ?杖道は真面目だなあ!!クッソ悔しー!いいんだよ今日ぐらいは!ほら飲め!』
『あらあら…全く零くんは…』







「………」
どれだけ何時も誕生日会の開始場所であった宴会場で待っていても、誰も来はしない。みんな、父さんに誘われて来ていたから。
ジョードーも、きっともう俺の誕生日を祝う気はないのだろう。
はあっと雑念を吐き出すように振り払い、冷たく悴んでしまった手を拭いながら、足を進めーーーーーーー
「帰るの?少年。」
突然そんな澄んだ声が背後から飛んできた。
驚いて後ろを振り向けば、そこには若そうな見た目をした、山吹色の長髪を持った青年が立っていた。
「…………どうして止めようとする?」
仁が聞くと、青年は少し考える素振りを見せる。とても胡散臭い。
「んーーー…いや、お友達との約束ならあれかなーと思ってさ。あ、ごめん違った?」
口ぶりからしてこの青年は相当長く前からいたのだろう。
暫くの沈黙の後、仁はゆっくりと口を開く。
「………誕生日だったんだ。いつもは、みんな、父さんも、母さんも、ジョードーも、街のみんなも祝ってくれていたのに。」
(……………あれ、)
急に目頭が熱くなる。ポロポロと溢れる涙は、自分から出ているようだった。
「……う、、、ふぐっ……」
とうとう嗚咽しか出てこなくなってしまった。13歳にもなったのに…と恥ずかしさが湧いてくる。
そんな時、急に視界がゆさゆさと揺れる。どうやら自分は撫でられているようだ。
「え、」
「そうだ少年!僕が祝ってあげよう!」
「え……?」
何を、そう口に出そうとした瞬間視界が今度は空へと舞う。
「ええええええっ!?は、ちょ、どういうこー」
「少年!上を見てご覧!」
「ー……え。」
仁の視界の先には青紫色に彩られた空と、そこに飾り付けられたかのように輝く星たちであった。




暫く青年は仁を抱えたまま空で止まっていた。仁も、この景色に眼を釘付けにされていた。
「…ふふ。よし、少年降りるよ。僕からの誕生日プレゼントは、ここまでだ。」
ふとそう言われて、遠くにある時計台を見てみると針はピッタリと1番上を回っていた。ああ。唯一現実を忘れることのできたこの空間ももう終わりなのかと思うと急に寂しさが湧いてくる。
そんな人の思いを知ってか知らずか青年はこちらに顔を見せずに降りてゆく。
やがて、飛び降りても大丈夫なくらいには地面との距離も近づいていた。
もう抱えなくても大丈夫、そう断りを入れて降りる。
「…今のは?」
やっと聞きたかった言葉が口から出てくる。頭の中はどこかスッキリしていて、何時もより何処か息がし易かった。
「僕の能力だよ。まあ、詳しくは言えないけれどね。」
そのような職業に就いているのだろうか。また疑問が浮かんだが、流石に見ず知らずの相手のプライベートにズカズカ這入る気にもならず、辞めておいた。
「……あの、今日は有難うございました。……楽しかったです。」
素直に感想を述べると、青年は眼を見開く。何かそんなの可笑しい事を言っただろうかと首を傾げると、青年は静かに首を振る。
「…また、誕生日を祝ってくれますか。」
もう一度だけで良い。あの時の美しい風景を、もう一度この人と一緒に見ていたい。
しかし、青年の口から「良いよ」と言われることはなかった。
「…ごめんね少年。でも……君が、少しでも沢山の仲間に出会える事を切に願っているよ。」
後ろを振り向き、青年は歩き出す。
(…“またね”だけでも、ダメなのか…)
長く、ーけれど短く感じた今日の夢はまるで自分の未来を照らすように、寂しく輝いていた。




続き書こうと思っているので追ってくださる方はしばしお待ちを!

Re: ハンドレッドノート 二次短編集(No.5) ( No.5 )
日時: 2025/03/16 01:31
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

{俺のお近付き計画!}



微ホラー?注意です。




私は物怪瑠衣。両親に勧められた叡神高校で、これから過ごしていくそうです。
みんな優しくて勉強部活なんでも熱心。こんな空間に私も居られてとても嬉しく思います。
ただ、まあ。充実とはいえない生活でして。…私には、所謂「女の子のかわいさ」と言うものがないんです。身長も周りの人よりは少し高いですし、でもその割には変なところが痩せています。それだけが、私の唯一の悩みでした。















一年生になってから3ヶ月ほど経ったある日。
…私は恋に落ちました。
アメジスト色に輝く麗しい瞳に、空の色を模したような髪色。無造作に形作られる所作一つ一つがとっても美しくて。何より自分の好きなことに打ち込んでいる彼の姿が一段と格好良くみえてしまいました。
ああ、なんて美しい人なんだろう。
…ですが、やっぱり私のように思った人は少なくないようで。彼の周りにはいつも「女の子としてのかわいさ」を持っている女の子達が居ました。
そんな人たちに負けたくなくて、苦手な家庭科の授業を頑張って、家でもたくさん練習して。彼に渡すのに相応しいものを作り上げようと努力しました。
…………それでも彼は、やっぱりこちらを向いてはくれなくて。

























































でも、諦めなどつきませんでした。
…………「女の子」としてあなたの隣に居られないのなら、私は。






















一人称を「俺」にした。少しだけ声が低くなるようできる限りあるで念をつくした。上品な所作をやめた。口調も荒っぽく感じるものにした。ひたすら鍛えて、喧嘩だってした。
「…だって。オンナノコの俺は、見てくれないんだろ?」
慣れない。自分を、押しつぶすのは。
昔は嫌いだった「女の子らしくない」自分。
…でも、今は感謝してる。
時は数ヶ月後、ネスト本部にて。
「…なんだお前。」
……………………………やっと、こっちを見てくれたね。

Re: ハンドレッドノート 二次短編集 ( No.6 )
日時: 2025/03/27 23:16
名前: 焼き芋 (ID: 4cNSRyfC)

あったかもしれない世界。

辺りは見渡す限りの闇。闇。闇。
そんな一寸先も見えない世界に、月明かりだけが平等に一筋の光として差し込んでいる。
何もかも飲み込んでしまいそうな夜を切り裂くように足を進める者がいた。足音はせず、けれど一つ一つの所作が重い不思議な感覚。
彼は真珠のついたピアスを揺らし、とめどなく足を動かす。





と、まるで目的地に着いたかのように彼の足が動きを止める。
彼の目の前にあったのは「Un bar」と旧洒落ふるじゃれた横文字の名前が描かれたこぢんまりした店だった。
ドアノブを捻り、中の橙色の灯りに目を細める。そして中の物達に目を配った。するとその探るような視線は1人のものへと留まり、再びスッと細められた。




1-ある闇の者たちの御話-

「瑠衣。」
透き通った声が静かなバーに落ちる。女性が向けられれば少なからず意識してしまいそうな媚声。然し向けられた本人は言葉を受け流すように、振り向きもしない。
その手には、最早見慣れてしまった炭酸飲料が注がれたグラスが握られていた。
決して返されない返事に少し眉を下げ、声をかけた彼も瑠衣という名の少年の隣に腰を下ろした。
カウンターチェアがぎい、と音を立てる。瑠衣はやっと顔を隣に向け、そしてゆっくりと口を開いた。
「…何?健三。」
健三、と言う名の青年は瑠衣の質問に答えようとしない。無視ではなく、沈黙だ。
そんな健三の要件をなんとなく察したのか少し長く、高い位置で纏められた艶のある髪を揺らし先程と同じように前を向いた。と言うのも、何かを見ているわけではない。偶然目の前にあった情景をただ単に視界に入れているだけ、そんな面持ちが感じられた。
とは言えいつもの事である、と健三は息を一つ吐き言葉を紡ぎ始めた。
「今日、頭目に不思議なはなしをされましてね。」
「…いつもの事じゃない。あの人が何を考えているのか分からない、って言うのはさ。」
瑠衣も少なからず受け答えする。平坦な口調で。







『健三、こんな噺を知っているかい?』
いつもの通りの任務の受け答えをし、去り際にかけられた一言。
たまに、頭目はそんな突拍子もないことを話し出す時がある。健三は後ろに振り向き直し「どんな噺でしょうか」と小さく首を傾げる。
『否、特に必要性はないんだけれどね。…ある青年達が、青年達の物語を越えて別世界に来てしまう、なんて話さ。』
『…そんな話が、果たして世界には有るのでしょうか。』
静かに応答すると、頭目なるものは口角を上げ「如何だろうね。」と、まるで面白そうな映画を見ている時の様に言った。いつもとは少し異なる頭目の様子に困惑していると、ハッとした様に落ち着きを取り戻しすまないね、と健三に退出を促した。








「…頭目らしい話だね。」
瑠衣が相槌がわりに言葉を発する。然し健三は苦笑いを溢し、頼んだスパイスティーを口に運んだ。
「ええ。まあ、そうなのですがね…」
言い淀む健三に瑠衣は静かに眉を顰める。健三の所作に違和感があったのだろう。然し本人は至ってそのことを口に出そうとはしない。
そんな瑠衣を知ってか知らずか、健三は再び口を開く。
「…いくら頭目の噺でも、この“もしも”があっては困ります。」
「どうして?」
「     …どうして、ですか。」



少しの間が空いた後健三は言った。
「だって、我々ライヘンバッハとネストが協力し合う世界線なんて…こちらに来てはいけないでしょう?」

いつもの笑顔に、瑠衣に小さな悪寒が走った。
夜は更け、闇の獣達が動き出そうとしている。


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