二次創作小説(紙ほか)
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- クロノスの鎖 第一章
- 日時: 2026/01/18 18:34
- 名前: 蒸されて焼かれて、1000年目 (ID: eEFm9oln)
α 偽の名
鼻に入ってくる金属のにおい。この匂いはもう何年嗅いでいるのだろうか。ここは地底国家、ティターン。誰もが絶望とともに生きている国だ。
リストウォッチ:
15:38 ランク:β-H心拍数:68回/分
残りタスク:18個 タスク追加まで:22分
我々β階級の人間は、天空都市の奴隷として働かされている。奴隷が反乱を侵さないように、リストウォッチと、ウォッチャーと呼ばれるα層から送られてきた兵士によって監視されている。リストウォッチによって我々の時間は支配されている。いつから、どのようにしてこの社会になったのかはわからない。それを調べようとした同志は、すぐに見つかりΩ層へと連れていかれた。オメガ層はα層の内部にあり、この同志のように反逆をもくろんだ人間が送られるところだ。誰もこの国の成り立ちを知らないし、話してもいけない。我々は日々送られるタスクをこなすだけの生活を送っている。頭上には今日も偽物だとしか思えない青空が移っている。天空都市はこの青空よりも高い場所で今日も僕らを見下ろしている。
リストウォッチ:
16:08 ランク:β-N心拍数:63回/分
残りタスク:19個 タスク追加まで:1時間52分
通知:8分前「新しいタスクが追加されました」
たった今「ウォッチャーからの呼び出し。監視室までお越しください」
何なのだろう。ウォッチャーに呼ばれることなんて初めてだ。通常彼らは不正を働いたものにしか呼び出しをしないはずだ。
冷徹に満ちたウォッチャーが集まる部屋、監視室。そこはα層特有の感情がない空気に満ちていた。入り口には一人のウォッチャーがいた。きっとこの人が呼び出したのだろう。
「ちょっと場所を移そうか」そう言って二人は監査室を後にした。
路地裏、もう逃げられないような奥まで来た。昼間なのにこんなに暗い場所があるなんて知らなかった。ただ、なぜか視界は暗すぎず、不思議な明るさが灯っていた。
「君は自分の名を知っているのか?」
「はい、β―N1789です。」
「違う。君の名はクロノス・ニューだ。」
理解ができなかった。自分の名前を持っているのはα層の人間のみ。奴隷としてこの世界に存在する人間は偽物の名前しか持っていなかった。
「君はこの国…いや、天空都市ウラノスの心臓部。中央技術コントロール室の総合開発長、クロノス・ガンマの子だ。今はもうこの世にはいないな。」
周りが静かになる。さっきまで聞こえていた物音が脳によって遮断されたような感覚。彼の目にはさっきまではなかった光が灯っていた。
疑問がいくつも頭の中に浮かんでくる。急にそんなことを言われて理解できるはずがない。ただ、これだけは聞きたい
「では、なぜ僕はβ層に贈られたのですか?」
「それは、この国の制御プログラムを書き換えたからだ。」
「それだけでは罪には問われないが、この博士は…いやそんな噂、今はどうでもいい。とにかく、国が自分たちの権力の危機を感じて処分したのだろう。」
知らなかった。知っているはずがなかった。自分がそんな家系に生まれたなんて。でも彼の目は真実を見通しているようだった。もしかして…
「そこでだ、我々に協力してほしい。君はまだ変われるはずだ。」
β 希望の配給
自分は変われることができているのだろうか。あのときにした決断は間違っていなかったのはわかる。カイの言葉がふとした時に頭の中をよぎる。
君はまだ変われるはずだ。申し遅れたが、私は反乱軍アフロディーテの一員ハーデス・カイだ。今はウォッチャーの仕事をこなしながら反乱軍の手ほどきをしている。」
それから僕は反乱軍の一人として行動し始めた。カイの協力を得てリストウォッチの監視機能を夜だけ停止。停止中はβ層の端、今はもう使われていない宿舎で反乱軍とともに情報の整理。その時は自分が今までの自分とは違うように感じてうれしく、また恐怖の感情も持っていた。今までは頭上に見える雲が風によって動いているように見えた。だが、今は雲一つ一つが意思を持って動いているように見える。
リストウォッチ:
9:33 ランク:β-N心拍数:69回/分
残りタスク:16個 タスク追加まで:27分
通知:昨日「1797年度労働際のエントリーが始まりました」
警告「何者かに危害が与えられているかもしれません」
労働際。それはβ層の人間が一年の中で唯一α層に入ることができる日。α層と天空都市の役人がβ層の人間を審査し、階級を動かす。そして、優れていると評価された三人がα層へと転送される。その日が反乱軍にとってはカギとなる。年に一度のチャンス、絶対に失敗させない。
労働際まで一か月
労働際が近づいてきた。周りのみんなは一つでも階級を上げるために必死に働いている。たった三人しかα層には行けないにも関わらず、いつもより顔に疲れが見えず、瞳は希望に満ちている。食事の時もみな祭りの話ばかり。偽の青空もいつもより雲が少なく鮮やかに見えるほどだった。
しかし、アフロディーテのほうは暗い雰囲気になっていた。あと一か月でα層に侵入する準備をしないといけないのだから当然だ。希望は焦りに飲み込まれてしまっている。
「まず、俺がα層からβ層の戻る途中のトイレに抜け穴を作っている。みんなは審査で落ちたらβ層に戻るときにそこから抜け出すのだ。そしたら、穴を抜けた先に俺がいるからそこからはそこで俺が指示を出す。」
「審査で残ったらどうするんですか?」一人が聞く。
「現場で変更点がある場合はα層の審査場の出口、トイレの出入り口にほうきを置いておく。その場合はそのままβ層に戻ってこい。動くものには個別に指示を出す。」
「いいか、今日のところはここで解散だ。くれぐれもウォッチャーたちに気づかれないように。」
考えれば考えるほど不安が増えていく。僕はみんなについていくことしかできないんだ。
「ニュー。ちょっといいか」
カイにつれられ、宿舎の裏に行く。
「お前は変更点があったとしても穴を抜けてこい。穴を抜けた先にお前の父ちゃんの墓がある。お前なら側面に書かれている詩の意味が分かるかもしれない。」
父さんの墓はβ層にもある。β層の人間たちは死んだら情報が印刷され、一枚のポスターのようになる。それが死後の塔に貼られるのだ。ただ、α層にも父の墓はあるそうだ。死後の塔の父の墓にも何かメッセージが書かれていたが、忘れてしまった。
「カイさん。明日の集会休ませてもらっていいですか?」
「なんでだ?別に構わないが…」
「死後の塔の父の墓にもメッセージが書かれていたので見に行こうと思って」
「それはいい情報だ!明日は集会を中止して、俺もそれを見に行こう。」
労働際まであと29日
死後の塔についた。今日は平日なので利用している人はほぼいない。しかしウォッチャーだけはそこに存在している。雲は塔の頂上に集まり、行き先を失っているようす。あたりは雲によって暗くなり、いかにも亡霊が出てきそうだ。中に入ると古い紙のにおい。いったい何人の墓がここにあるのだろう。
「β―C1543の墓はここだな」ウォッチャーが言う。
久しぶりに見る父の墓は、少し黄ばんで見えた。
故人 β―C1543 1793年死去 36タスク終了
カイが目を大きくしてその文字を見た。36タスクなんて3週間もあれば終わる量だ。
伝言 ガイア・シータはとても優れていた。彼女はすごいよ。
ガイア・シータ?聞いたことないぞそんな名前。名前を持っているということは、α層の人間だろう。父がα層にいたころの知り合いと考えると、自分と別の場所に父がいるように感じてどこか悲しかった。
「ニュー、ガイア・シータについての情報を集めよう。彼女が何かを知っているかもしれない」彼女が知っていることはあるのだろうか。
γ-1消えた指揮
労働際まで三週間
死後の塔に行った次の日、カイが姿を消した。ガイア・シータのことも情報は何もなく、完全に調査は行き詰っていた。それから、僕はタスクを日々こなす前と同じ生活を送っていた。
あれから、初めての集会が今日の21時からある。一週間ぶりだ、いつもは三日に一回なのに。集会所は外見こそ変わっていないが、中に入ると埃っぽさが目立つ。
「それでは集会を始めようと思う。軍長がいないため、司会はこのシグマ・テミスが行う」
内容は計画の確認とカイの捜査だった。カイに関しては労働際の準備があるから忙しいのだろうと言っていたが、真相はわからない。労働際までの時間も限られているため、皆の顔に焦りが見える。
リストウォッチ:
14:58 ランク:β-N心拍数:74回/分
残りタスク:23個 タスク追加まで:1時間2分
通知:一か月前「1797年度労働際のエントリーが始まりました」
二分前「ウォッチャーからの呼び出し。監視室までお越しください」
警告「タスクが20個を超えました。労働際までに…」
ウォッチャーからの呼び出し。すぐに監視室へと走る。一人のウォッチャーが監視室の出入り口で待ち構えていた。声を出さずにジェスチャーでついて来いと指示を出す。連れていかれたのは、最初にカイと会話をした路地裏。前のような暗さ、静けさがある。何度かここでカイと話したが、一度も声を出さないのは不自然だ。まさか…
「ニュー、落ち着いて聞いてくれ。」
カイの声。一度安心はしたが、いつもと雰囲気が違うカイに緊張感はまだ消えない。
「お前の父ちゃんは、まだ生きていた。」
静けさの中に自分の心臓の音だけが鳴る。今まで経験したことのない感覚で、それが自分の音なのかわからなかった。否定しようと思っても何を言っていいかわからなかった。
「落ち着け。疑問点は多いだろうが、それは置いておけ。」
ただ、その疑問をこらえることはできなかった。
「あの墓はなぜ作られているのですか?」
「お前の同志がΩ層に連れていかれたといったな。そいつの名はなんだ。」
「β―N1951です。」
「そいつの墓も死後の塔にあった。つまり、Ω層に行った人間は死んだものとみなされるんだ。」
父がまだ生きていると知ったらうれしかった。ただもう会えないと考えると悲しかった。そして、Ω層の闇が見え始めたことに恐ろしさを感じていた。
「Ω層に行くことは不可能だ。このことを今日の集会で皆に伝える。おまえはそれでいいな。」
声を出さずに頭を少し下げる。カイが姿を消していた時にこんなことを調べていたなんて。カイのような行動ができればいいと思うが、自分じゃそんなことできないだろう。
それから、タスクをこなそうとしても集中できなかった。周りの労働際への期待が妙に憎らしくさえも感じた。雲は風が吹いているにも関わらず、反対向きに動いているものもある。行く先も違うのだろう、雨を降らせずに消えていくものもある。
γ-2 遺された式
日が落ちていく。西の空は赤くなっている。それに照らされ、廃墟となった宿舎も燃えているようだった。ドアを開けるとかすかな埃のような香り。長らく掃除がされていないのだろう。カイは集団の中心にいた。
「皆に言っておきたいことがある。革命の引き金となったクロノス博士はΩ層にいることが分かった。」周りがどよめく。
「我々は国のシステムを変えるとともに、国の真実を明かすことも重視している。
そんな中、この国の真実に迫った人物がまだ生きているというのは大きな進展だ。」
労働際まで一週間
いよいよ労働際が近づいてきた。どこもかしこもお祭り騒ぎで、日々の労働の疲れなど忘れている。夜になるとどこからか香ばしい肉のにおいがし、それだけでご飯が進む。こんなふうに日々希望を持って働けたらと毎年のように思う。
ただ、いいことばかりではない。浮かれていることをいいことに、空き巣や殺人などの事件が多発しており、緊張も入り混じる。いつ犯罪にあってもおかしくない状況なんて、この世界ではあまりないはずだ。
「労働際まであと一週間だ。もう一度計画の確認をする。」
カイが労働際前の最後の集会を仕切る。反乱軍も希望と緊張に満ちた表情の人物ばかりだ。前のような埃のにおいはせず、全く新しい状態のようにも思える。
「軍長。クロノスについての情報を一つ見つけました!」ベテランの雰囲気の女性が一枚の紙を差し出す。
θ―γ=ε=タルタロス byθ
この紙を除いた瞬間、カイの顔がこわばった。
