社会問題小説・評論板

Re: アタシ-ネット=0【ネット中毒者】読者30人合計参照1万突破 ( No.233 )
日時: 2009/07/13 20:23
名前: ☆゜。√想空 ◆1i48NEoKCE (ID: OQN7GsL9)

*43*二人のじゅりあ

アタシはその場を去った後、そこらをブラブラ歩いてた。
アイツ、本当に辞表出したかな。
チクってたりしないだろうな。
なんか、心配になってきた。
アタシは白い古着屋で買ったグローブをつけて、近くにあった無人のガソリンスタンドの、18リットルのガソリンをこっそり持ち出した。
チ、重い。
アタシの想いも、重い。
アタシはそこにあった台車に乗せて、芽琉のボロ宮殿に足を運んだ。
コンクリートの角に、芽琉の血がこびりついてる。
適量のガソリンで流しておいた。
七色に光る。あれ、だんだん楽しくなってきた。
どうせアタシ、狂ってるんだもん。いいじゃない。
ガソリンのタンクを持ち上げて、芽琉宮殿に撒いた。
芽琉、きっとアタシに見つからないような地味な人通りの無い場所に住んだんだろう。
周りには、閉店して放置された商店、激安で売られているボロい家や空き地。
そのくせ煉瓦の塀が多い多い。
迷路のような場所。
残念だったな、こんなとこに住んだアンタが犯した、大間違いだ。
アタシは新聞紙にライターで着火した。
そしてアタシはいちもくさんに逃げ出した。
火の音が聞こえる。
それがなぜかアタシには心地よく感じたんだ。
ああ、ホントに狂っちまったんだ。
もう、10キロは走ったのだろうか。気がつくと知らない土地。
怖かった。
知らない人が怖かったの。
でもね、アタシ、誰だろうと許さない。
アタシはバスを見つけて、乗り込んだ。
…懐かしいな、この感覚。
塾へ行く時、こんな風にバスの窓際に座った。
でもアタシ、もうあの頃のアタシじゃないの。
黒髪から金髪に変えた。
メイクだって上手になった。
二重になって、幅も広い。
目が大きくて鼻が高い。
美しいアタシ。
アタシはバスから降りて、足を進めた。
薔薇園のお姫様、ジュリアのところへ。

薔薇のアーチをくぐると、いつものようにジュリアが横たわりながら薔薇に囲まれていた。
彼女は無口。
何も飾らない。でも素敵。
憎くても憎めなかった。
名前が同じでも…Juliaとジュリアじゃ、何もかもが違う。

「エリサ。今日のお茶菓子、タイから取り寄せたものなの。お茶はエリサが好きなフランス製のミルクティーだよ」
「ありがと、ジュリア…」

アタシはジュリアの亜麻色の髪を撫でる。
白い肌に生えてる。
御伽の国のお姫様。
かわいい。羨ましい。
アタシはここに来ても、紅茶とお茶菓子を食べるだけ。
ほとんど、話をしない。
でも、いい。
同じ空間を過ごしているだけでいい。
ここに来ると、ヒステリックすぎて已まない過去を、忘れられる。
アタシはもとからお嬢様だったんだって心から思える。
そう、ここはアタシが狂っていることを忘れさせてくれる。
狂気は、いつから  に芽生えたの。
いつから、  は放火を平気でできる、卑劣な人間になったの。
誰かの声が聞こえる。
聞き覚えるのある、温かい声。
でも、誰の声かなんて覚えてない。
きっと、アタシの本当の名前で呼んでくれてる。
でももう覚えてない。
アタシはもう、群青エリサなんだもん。
元の名前なんて、ない。
空を見上げる。
碧い空は、純白の雲と踊ってる。
アタシとは大違い。
二人のジュリア。それがアタシを安心させる。